【この記事の結論・要約】
- 「開示請求する」と伝えること自体は、法的な手続をとることの予告であり、原則として違法ではありません。自分の投稿が権利侵害にあたるのであれば、開示請求は正当な手続です。
- 一方で、開示請求をしない代わりに金銭を求めたり、勤務先や家族に知らせると告げたりする要求は、恐喝罪や脅迫罪などにあたる可能性があります。
- 相手方の言うままに金銭を送ったり、言い返したりする前に、やり取りの記録を残し、自分の投稿の評価と相手方の要求の内容を分けて検討することが大切です。
はじめに
SNSで言い争いになった相手や、投稿で批判した相手から、「開示請求する」「特定して訴える」と言われることがあります。
中には、「お金を払えば開示請求はしない」「家族や職場にも知らせる」といった要求が添えられていることもあります。
このような場合、自分の投稿に問題があったのかという点と、相手方の要求が正当なものかという点は、分けて考える必要があります。
この記事では、「開示請求する」と言われた場合に、どのような要求が不当なものになるのか、どう対応すればよいのかを解説します。
「開示請求する」と言われる場面
「開示請求する」と言われる場面には、次のようなものがあります。
- SNSの投稿へのリプライや引用、ダイレクトメッセージ
- 口コミに対する店舗からの返信
- 掲示板での書き込みに対する返信
- 知人や同じコミュニティの相手からの連絡
発信者情報開示請求は、匿名の投稿によって権利を侵害された人が、投稿者の氏名や住所などの開示を求める手続です。
開示請求をされた側にどのような手続が進むのかについては、以下の記事で解説しています。

開示請求すると伝えること自体は違法か
権利の行使を予告することは原則として違法ではない
投稿によって権利を侵害されたと考える人が、発信者情報開示請求や損害賠償請求をすることは、法律で認められた権利の行使です。
その手続をとるつもりであることを相手に伝えることも、原則として違法ではありません。
自分の投稿が相手の名誉やプライバシーを侵害するものであれば、相手方が開示請求をするのは正当な手続です。
「脅された」と感じたとしても、そのことで投稿の責任がなくなるわけではありません。
脅迫罪の要件
脅迫罪について、刑法222条1項は次のように定めています。
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
刑法222条1項
開示請求をするという告知は、法律上の手続を予告するものであり、それだけで脅迫罪にあたると判断されることは考えにくいところです。
もっとも、権利侵害にあたらないことを知りながら、相手を怖がらせる目的で繰り返し告げる場合など、告知の目的や方法によっては問題となる余地があります。
要求が不当になる場合
権利の行使であっても方法によっては違法になる
権利の行使であっても、その方法が行き過ぎれば違法になります。
最高裁昭和30年10月14日判決(刑集9巻11号2173頁)は、債権の取立てについて、次のように述べています。
他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする
最高裁昭和30年10月14日判決(刑集9巻11号2173頁)
この判決は、債務者の身体に危害を加えるような態度を示して金銭を交付させた事案で、債権額にかかわらず、交付させた金銭の全額について恐喝罪の成立を認めました。
投稿による権利侵害を理由に損害賠償を求める場合も、同じように考えられます。
仮に相手方に請求する権利があっても、その方法が社会通念上許される程度を超えれば、違法となる可能性があります。
不当な要求の例
| 要求の内容 | 問題となりうる犯罪など |
|---|---|
| 「開示請求をしない代わりに〇万円払え」と金銭を求める | 恐喝罪(刑法249条) |
| 「払わなければ勤務先や家族に知らせる」と告げる | 脅迫罪(刑法222条)、金銭の要求を伴えば恐喝罪 |
| 住所や顔写真をネットに晒すと告げる、実際に晒す | 脅迫罪、名誉毀損やプライバシー侵害 |
| 謝罪動画の公開や土下座など、義務のないことを求める | 強要罪(刑法223条) |
| 投稿とは関係のない要求をする、昼夜を問わず執拗に連絡する | 要求の内容や方法によって、脅迫罪や強要罪など |
強要罪について、刑法223条1項は、生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせた者を処罰すると定めています。
また、恐喝罪について、刑法249条1項は、人を恐喝して財物を交付させた者を10年以下の拘禁刑に処すると定めています。
いずれも、実際に犯罪が成立するかどうかは、要求の内容、言葉の選び方、やり取りの経緯などを踏まえて判断されます。
表の内容は、問題となりうるものを挙げたものです。
正当な要求との違い
他方で、次のような要求は、それ自体が不当なものとはいえません。
- 投稿の削除を求める
- 謝罪を求める
- 削除や謝罪に応じなければ、開示請求や損害賠償請求をすると伝える
- 損害賠償として金銭の支払いを求め、その金額の根拠を示す
不当かどうかの分かれ目は、求めている内容が投稿による損害の回復と関係しているか、法的な手続以外の害(勤務先への通知、晒しなど)をちらつかせていないか、という点にあります。
示された金額をどう見るか
損害賠償として高い金額を示すこと自体は、直ちに違法になるものではありません。
ただし、その金額が裁判で認められる水準とかけ離れていないかは、応じるかどうかを判断するうえで重要です。
法務省民事局が令和8年4月に公表した「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」によれば、調査対象の裁判例で認められた慰謝料の額は、平均値47.0万円、中央値30.0万円でした。
投稿の内容や回数によって金額は変わりますが、根拠を示さないまま、これを大きく超える金額をすぐに支払うよう迫られている場合は、慎重に検討してください。
慰謝料の相場については、以下の記事で解説しています。

自分の投稿に問題がある場合
相手方の要求が不当なものであっても、自分の投稿が権利侵害にあたるかどうかは別の問題です。
相手の社会的な評価を下げる具体的な事実を書いた、侮辱的な言葉を繰り返した、私生活上の事実を明かしたといった投稿であれば、相手方は正当に開示請求や損害賠償請求をすることができます。
この場合、相手方の要求の不当な部分には応じないとしても、投稿そのものへの対応は必要です。
投稿が権利侵害にあたると考えられる場合は、削除や謝罪を検討することになります。
削除によって掲載が続くことによる損害の拡大は止まりますが、過去の掲載についての責任はなくなりません。
どのような投稿が名誉毀損にあたるかについては、以下の記事で解説しています。

相手方と直接示談する場合の危険
「お金を払えば開示請求はしない」と言われ、手続が進む前に解決したいと考えて、相手方の求めに応じようとする方もいます。
しかし、相手方が誰か分からないまま金銭を送ることには、次のような危険があります。
- 支払った後に、さらに金銭を求められる
- 支払った後も、開示請求や刑事告訴をされる
- 口頭やメッセージだけの約束で、後で合意の内容を証明できない
- 相手方が本当に投稿の対象となった本人かどうかも確認できない
示談をする場合は、相手方の身元を確認したうえで、対象となる投稿、支払う金額、開示請求や刑事告訴をしないこと、他に請求をしないこと(清算条項)などを書面で取り決める必要があります。
示談書に入れるべき事項については、以下の記事で解説しています。

なお、脅されて金銭を支払う約束をした場合には、強迫による意思表示として取り消すことができる場合があります(民法96条1項)。
やってはいけない対応
| 対応 | 問題点 |
|---|---|
| 言い返す、相手を非難する投稿をする | 新たな投稿が、別の名誉毀損や侮辱として問題になる |
| 相手の個人情報を調べて晒す | プライバシー侵害などとして、自分が責任を問われる |
| 求められるまま金銭を送る | さらに要求されるおそれがあり、合意の内容も残らない |
| 相手が誰か分からないまま住所や勤務先を伝える | 不当な要求に使われるおそれがある |
| 「謝罪文」に安易に署名する | 書かれた内容を認めたことになり、後の請求で使われる |
相手方が不当な要求をしていると感じたときほど、感情的にやり取りを続けることは避けてください。
記録を残す
相手方からの連絡は、後で相談や手続をする際の重要な資料になります。
次の点が分かる形で、スクリーンショットなどで保存してください。
- 相手方のアカウント名とアカウントのURL
- 連絡を受けた日時
- ダイレクトメッセージや投稿の全文
- 金銭の要求がある場合は、金額や振込先、期限
あわせて、相手方とのやり取りのきっかけとなった自分の投稿も、全文と投稿日時を保存しておきます。
自分の投稿の内容は、相手方の要求が正当かどうかを判断するうえでも必要になります。
相談先
相手方から脅迫的な要求を受け、身の危険を感じる場合や、金銭を強く求められている場合は、警察に相談することができます。
緊急でなければ、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署の相談窓口を利用できます。
自分の投稿が権利侵害にあたるかどうか、相手方の要求にどこまで応じるべきかを判断したい場合は、弁護士に相談してください。
投稿の評価と、相手方の要求への対応の両方を検討する必要があります。
実際に手続が始まった場合
相手方が実際に法的な手続をとった場合、段階ごとに次のような書面が届きます。
| 届く書面 | 差出人 |
|---|---|
| 意見照会書 | プロバイダなど |
| 内容証明郵便などの請求書 | 相手方本人または代理人弁護士 |
| 訴状 | 裁判所 |
それぞれの書面が届いた場合の対応については、以下の記事で解説しています。



相手方の要求が犯罪にあたる場合
相手方の要求が恐喝罪や脅迫罪などにあたると考えられる場合は、被害届を出したり、刑事告訴をしたりすることが考えられます。
また、相手方が自分の個人情報を晒したり、自分について虚偽の投稿をしたりした場合は、今度は自分が被害者として、削除や開示請求を求めることもできます。
刑事告訴の方法については、以下の記事で解説しています。

ただし、自分の投稿にも問題がある場合には、相手方への対抗措置をとることで、かえって紛争が大きくなることもあります。
どのような対応をとるかは、全体を見て判断する必要があります。
弁護士に依頼する場合にできること
「開示請求する」と言われ、不当な要求を受けている場合、弁護士に依頼すると、次のような対応が可能です。
- 自分の投稿が権利侵害にあたるか、相手方の要求が正当かどうかの見通しを立てる
- 相手方との連絡の窓口を弁護士にし、本人が直接やり取りしなくて済むようにする
- 不当な要求には応じない旨を伝え、必要に応じて示談の交渉をする
- 相手方の行為が犯罪や権利侵害にあたる場合に、刑事告訴や削除請求などを検討する
相手方の要求に不当な部分がある場合でも、自分の投稿に問題があれば、その部分への対応は必要です。
両方を整理したうえで方針を決めることが、紛争を大きくしないことにつながります。
よくある質問(FAQ)
- 「お金を払えば開示請求はしない」と言われました。払った方がよいですか
-
相手方の身元が分からないまま金銭を送ることは避けてください。
さらに要求されたり、支払った後も手続をとられたりするおそれがあります。示談をする場合は、身元を確認し、書面で条件を取り決める必要があります。
- 「職場に連絡する」と言われました
-
投稿による損害の回復とは関係のない害をちらつかせる告知であり、脅迫罪などが問題となる可能性があります。
連絡の内容を保存し、警察や弁護士に相談してください。 - 相手からも中傷されていました。それでも自分だけが責任を負いますか
-
相手方の投稿が権利侵害にあたれば、相手方も責任を負います。
ただし、相手方の投稿があったからといって、自分の投稿の責任がなくなるわけではありません。
お互いの投稿の内容を踏まえて検討することになります。 - 相手が弁護士を名乗って連絡してきました
-
書面に記載された弁護士名や事務所が実在するかを確認してください。
日本弁護士連合会のウェブサイトの弁護士検索で、登録の有無や所属事務所を確認することができます。 - 謝罪すれば開示請求されずに済みますか
-
謝罪によって相手方が手続をとらないこともありますが、それを約束するものではありません。
謝罪の文言によっては、後の請求で事実を認めたものとして扱われることもあるため、内容を検討したうえで行ってください。 - 開示請求すると言われたまま、何も起きていません
-
相手方が手続をとるかどうかは、外からは分かりません。
自分の投稿に問題がある場合は、手続がとられることを前提に、投稿への対応を検討しておくことが大切です。 - 相手方に言われるまま、支払いを約束してしまいました
-
約束の内容や経緯によって対応が変わります。
脅されて約束した場合は、強迫による意思表示として取り消すことができる場合があります。
まだ支払っていなければ、支払う前に、約束の内容が分かるやり取りを保存したうえで相談してください。
まとめ
- 開示請求すると伝えること自体は、原則として違法ではない
- 自分の投稿が権利侵害にあたるなら、開示請求は正当な手続である
- 開示請求をしない代わりの金銭の要求や、勤務先や家族への通知を告げることは、恐喝罪や脅迫罪などにあたる可能性がある
- 権利の行使であっても、方法が社会通念上許される程度を超えれば違法となる
- 相手が誰か分からないまま金銭を送らず、示談は書面で行う
- 相手方からの連絡と自分の投稿は、どちらも記録を残しておく
「開示請求する」と言われた場合は、自分の投稿への対応と、相手方の要求への対応を分けて考えることが出発点になります。
当事務所では、インターネット上の投稿をめぐって相手方から請求や要求を受けている方からのご相談に対応しています。
相手方への対応に迷っている方は、当事務所にご相談ください。
相手方の要求に応じる前に、お早めにご相談ください。
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