【この記事の結論・要約】
- 学校から「いじめの加害者」と言われても、それだけで損害賠償責任や重い処分が当然に認められるわけではありません。
- 最初にすべきことは、子どもの話と、学校が把握している具体的な事実を確認し、記録に残すことです。
- 慰謝料の請求、退学・停学などの処分、警察の関与など、状況によって取るべき対応と注意点が異なります。
はじめに
学校から「お子さんがいじめをしていました」と連絡を受けた保護者は、事実関係が十分に分からないまま、学校や相手の保護者への対応を求められることになります。
いじめをめぐる問題は、学校の対応、被害を受けた側からの請求、警察の関与という複数の場面で同時に進むことがあります。
最初の対応を誤ると、事実と異なる内容を認めたことになったり、相手方との対立が深まったりするおそれがあります。
この記事では、子どもがいじめの加害者と言われた場合に、親がまず確認すべきことと避けるべき対応を、法律の規定に沿って解説します。
「いじめ」と言われても法的責任があるとは限らない
いじめ防止対策推進法上の「いじめ」の定義
いじめ防止対策推進法2条1項は、「いじめ」を次のとおり定義しています。
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
この定義では、行為を受けた児童生徒が心身の苦痛を感じているかどうかが基準になっています。
そのため、加害の意図がなかった行為や、一度だけの行為であっても、学校がいじめと認めることがあります。
この定義は、学校が早い段階で問題を把握し、被害を受けた子どもを守るためのものです。
学校がいじめと認めたことによって、そのまま法的な責任の有無が決まるわけではありません。
学校の認定・損害賠償責任・懲戒処分は別々に判断される
いじめをしたとされた子どもとその保護者には、主に次の3つの問題が生じ得ます。
それぞれ、判断する者も判断の基準も異なります。
| 問題 | 判断する者 | 判断の基準 |
|---|---|---|
| 学校によるいじめの認定 | 学校・学校の設置者 | いじめ防止対策推進法2条1項の定義 |
| 損害賠償責任 | 当事者間の交渉で決まらなければ裁判所 | 民法709条などの不法行為の要件(違法性、故意・過失、損害、因果関係) |
| 懲戒処分・出席停止 | 校長・教員、市町村の教育委員会 | 学校教育法、学校教育法施行規則、各学校の規則 |
学校がいじめと認めた行為であっても、裁判では不法行為に当たらないと判断される場合があります。
反対に、学校がいじめと認めていない段階でも、被害を受けた側から損害賠償を請求される場合があります。
いじめの加害者とされた場合に起こり得ること
学校による事実確認と指導
いじめ防止対策推進法は、学校に対し、いじめの事実の有無を確認するための措置を講じ、その結果を学校の設置者に報告することを求めています(同法23条2項)。
いじめがあったと確認された場合、学校は、いじめを受けた児童生徒とその保護者を支援するとともに、いじめをした児童生徒への指導と、その保護者への助言を継続的に行います(同条3項)。
また、学校は必要に応じて、いじめをした児童生徒を、いじめを受けた児童生徒が使う教室以外の場所で学習させるなどの措置を講じます(同条4項)。
いわゆる別室での指導や別室登校は、この規定に基づいて行われるものです。
懲戒処分と出席停止
いじめ防止対策推進法25条は、いじめをした児童生徒への懲戒について次のとおり定めています。
校長及び教員は、当該学校に在籍する児童等がいじめを行っている場合であって教育上必要があると認めるときは、学校教育法第十一条の規定に基づき、適切に、当該児童等に対して懲戒を加えるものとする。
懲戒には、注意や叱責などの事実上の懲戒のほか、退学・停学・訓告という処分としての懲戒があります(学校教育法施行規則26条2項)。
ただし、公立の小学校・中学校などに在学する学齢児童生徒に対しては退学処分を行うことができず(同条3項)、学齢児童生徒に対しては、国立・私立の学校を含めて停学処分を行うことができません(同条4項)。
また、市町村の教育委員会は、いじめをした児童生徒の保護者に対して、出席停止を命じることができます(いじめ防止対策推進法26条、学校教育法35条1項)。
出席停止を命じる場合、教育委員会は、あらかじめ保護者の意見を聴き、理由と期間を記載した文書を交付しなければなりません(学校教育法35条2項)。
重大事態としての調査
いじめによって生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがある場合や、いじめによって相当の期間、学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合、学校の設置者または学校は、事実関係を明らかにするための調査を行います(いじめ防止対策推進法28条1項)。
この調査では、いじめをしたとされる児童生徒も聞き取りの対象となり得ます。
調査の結果、明らかになった事実関係などは、いじめを受けた児童生徒とその保護者に提供されます(同条2項)。
調査報告書の内容は、その後の損害賠償請求で資料として使われる可能性があるため、聞き取りには慎重に対応する必要があります。
被害を受けた側からの謝罪要求・慰謝料請求
いじめが不法行為(民法709条)に当たる場合、被害を受けた側は、慰謝料などの損害賠償を請求できます。
請求は、相手の保護者から直接求められる場合のほか、弁護士から内容証明郵便が届く形で始まる場合もあります。
子どもが自分の行為の責任を理解する能力(責任能力)を備えていない場合、子ども本人は賠償責任を負わず(民法712条)、監督義務者である親が責任を負います(民法714条1項)。
子どもに責任能力がある場合でも、親の監督義務違反と生じた損害との間に相当因果関係が認められるときは、親自身が民法709条に基づいて責任を負うとした判例があります(最高裁判所昭和49年3月22日判決・民集28巻2号347頁)。
警察が関与する場合
暴行、傷害、恐喝、名誉毀損などに当たる行為があった場合、被害を受けた側が警察に相談したり、被害届を提出したりすることがあります。
14歳未満の子どもの行為について、刑法41条は次のとおり定めています。
十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
14歳未満の子どもは刑罰を受けませんが、刑罰法令に触れる行為をした場合には、警察の調査を受けることがあります(少年法6条の2)。
その後、児童相談所での対応を経て、家庭裁判所の審判の対象となる場合もあります(少年法3条)。
14歳以上の子どもの場合は、犯罪の嫌疑があれば捜査の対象となり、少年事件として手続が進みます。
親がまずすべき対応
子どもから誘導せずに話を聞き、記録に残す
最初に、子ども本人から何があったのかを聞きます。
「やったんでしょう」と問い詰めるような聞き方をすると、子どもが事実と異なる内容を認めてしまうおそれがあります。
聞き取った内容は、日時、場所、その場にいた人、やり取りの内容に分けてメモに残します。
LINEやSNSでのやり取りがある場合は、削除せずに画面を保存しておきます。
学校に具体的な事実と認定の根拠の説明を求める
学校から「いじめがあった」と伝えられた場合は、いつ、どこで、誰に対して、どのような行為があったのかを具体的に確認します。
あわせて、学校が誰からの聞き取りやどの資料に基づいてその事実を認めたのかも確認します。
他の児童生徒の個人情報を理由に、学校が詳しい説明を控える場合もあります。
その場合でも、自分の子どもについて学校が認めた事実と、学校が今後とる予定の対応については、説明を求めることができます。
学校とのやり取りを記録に残す
学校との面談では、日時、出席者、学校の説明、こちらの発言を、その日のうちに記録します。
重要な事項は、面談後にメールや書面で学校に確認しておくと、後で説明内容に食い違いが生じたときの資料になります。
事実であれば謝罪と再発防止に取り組む
子どもの行為が事実と確認できた場合は、子どもが自分の行為の意味を理解できるよう話し合い、被害を受けた子どもへの謝罪と再発防止に取り組みます。
いじめ防止対策推進法9条1項も、保護者に対し、子どもがいじめを行わないよう規範意識を養うための指導などを行うよう努めることを求めています。
謝罪の場は、学校の教員などの第三者が同席する形で設けると、話し合いが感情的な対立に発展することを防ぎやすくなります。
謝罪の場で、事実関係の承認や金銭の支払いについて新たな約束を求められた場合は、その場で応じず、内容を確認してから回答します。
避けるべき対応
事実を確認する前に書面に署名する
謝罪文や誓約書には、行為の内容や回数が書き込まれることがあります。
事実と異なる内容を含む書面に署名すると、後の損害賠償請求で、行為を認めた証拠として扱われるおそれがあります。
その場で金銭の支払いを約束する
治療費や慰謝料の支払いを求められた場合、その場で金額に合意すると、後から合意をなかったことにするのは困難です。
請求の根拠と金額が妥当かどうかを確認してから回答します。
子どもに認めるよう強いる、または頭ごなしに否定する
早く問題を収めようとして、子どもに認めるよう強いると、事実と異なる内容が学校の記録や調査報告書に残るおそれがあります。
反対に、事実を確認しないまま全面的に否定すると、学校や相手方との話し合いが進まなくなります。
相手の家庭や子どもに直接抗議する
被害を受けたとする子どもに直接事情を聞いたり、相手の家庭に抗議したりすると、新たなトラブルの原因になります。
相手方との話し合いは、学校を通じて行うか、弁護士を代理人として行います。
SNSで反論する
事実と異なる噂が広がっていても、相手を特定できる形でSNSに反論を投稿すると、名誉毀損やプライバシー侵害の問題が生じるおそれがあります。
反対に、子どもの名前や画像がネット上に投稿された場合は、投稿の削除や投稿者の特定の手続を検討します。
状況別の対応
いじめの加害者とされた場合の対応は、置かれている状況によって異なります。
主な状況と対応のポイントは次のとおりです。
| 状況 | 対応のポイント |
|---|---|
| いじめをしていないのに加害者扱いされている | 子どもの説明と客観的な資料を整理し、学校に認定の根拠の説明と再調査を求める |
| 慰謝料を請求された・内容証明が届いた | 回答期限を確認し、請求の根拠と金額を検討してから回答する |
| 退学・停学・自主退学を勧められた | 処分の根拠と手続を確認し、その場で退学届を出さない |
| 出席停止・別室登校を求められた | 理由と期間の説明を求め、意見を述べる機会を活用する |
| 重大事態調査の聞き取りを受ける | 聞き取りの前に、話す内容と事実関係を整理しておく |
| 警察から連絡があった | 呼出しの目的を確認し、子どもが話す前に弁護士に相談する |
| ネットに名前や動画を投稿された | 投稿を保存したうえで、削除や投稿者の特定を検討する |
| 相手の保護者から直接責められている | 直接のやり取りを控え、学校または代理人を通じた対応に切り替える |
加害者扱いされている場合と、相手の保護者から直接責められている場合の対応については、以下の記事で解説しています。
【カード:いじめをしていないのに加害者扱いされたら(いじめ冤罪)(未公開)】
【カード:相手の保護者から直接責められている・謝罪や転校を求められたら(未公開)】
弁護士に相談・依頼してできること
学校への説明要求と面談への同席
弁護士は、保護者の代理人として、学校に対して認定した事実とその根拠の説明を求めます。
学校との面談に同席したり、子どもの言い分や資料をまとめた意見書を提出したりすることもできます。
被害を受けた側との交渉
謝罪や慰謝料を求められた場合、弁護士が代理人として相手方とやり取りします。
請求の根拠と金額を検討したうえで交渉し、合意に至った場合は、蒸し返しを防ぐ条項を入れた示談書を作成します。
処分の撤回・軽減を求める交渉と法的手続
退学・停学などの処分や出席停止について、事実の誤りや手続上の問題がある場合は、学校や教育委員会に撤回や軽減を求めます。
交渉で解決しない場合は、処分の効力を争う仮処分や訴訟を検討します。
警察への対応とネット上の投稿への対応
警察から連絡があった場合は、子どもが事情を聞かれる前に、話す内容や注意点について助言します。
ネット上に子どもの名前や画像が投稿された場合は、サイト運営者への削除請求や、投稿者を特定するための発信者情報開示請求を行います。
早めに相談すべき場面
次のような場面では、対応を決める前に弁護士に相談することをおすすめします。
- 相手方の弁護士から内容証明郵便が届いた
- 学校から退学・停学・自主退学を告げられた
- 重大事態調査の聞き取りの日程が決まった
- 警察から連絡があった
- 子どもが否定しているのに、学校が根拠を示さずに認定を変えない
よくある質問(FAQ)
- 子どもは「やっていない」と言っていますが、学校がいじめと認定しました。認定に従わなければいけませんか?
-
学校の認定は、いじめ防止対策推進法に基づく学校の判断であり、損害賠償責任の有無を最終的に決めるものではありません。
認定の根拠に疑問がある場合は、学校に具体的な事実と根拠の説明を求め、子どもの説明や資料を示して再調査を求めることができます。 - 小学生の子どもがいじめをしたとされています。慰謝料を払うのは親になりますか?
-
子どもに責任能力がないと判断される場合は、監督義務者である親が賠償責任を負います(民法714条1項)。
子どもに責任能力がある場合でも、親の監督義務違反と損害との間に相当因果関係があれば、親自身が責任を負うことがあります。 - 相手の親から、子どもを連れて自宅に謝罪に来るよう言われました。行くべきでしょうか?
-
事実関係を確認する前に相手の自宅を訪れると、その場で事実の承認や金銭の支払いを求められるおそれがあります。謝罪をする場合でも、学校の教員などの第三者が同席する場を設け、その場では新たな約束をしないことをおすすめします。
- 学校が「誰が何と言ったか」を教えてくれません。説明を求めることはできますか?
-
他の児童生徒の個人情報に関わる部分は、学校が説明を控える場合があります。
ただし、自分の子どもについて学校が認めた事実と、その認定の根拠、今後の対応については説明を求めることができます。
学校が保有する記録について、個人情報保護の制度に基づく開示請求を検討する場合もあります。 - 弁護士に依頼すると、学校や相手方との関係がかえって悪くなりませんか?
-
弁護士が代理人になると、感情的なやり取りを避け、事実と根拠に基づいて話し合いを進めやすくなります。
学校との面談への同席や書面での申入れなど、関係に配慮した方法を選ぶこともできます。
まとめ
- 学校のいじめ認定、損害賠償責任、懲戒処分は、それぞれ別の基準で判断される。
- まず子どもから誘導せずに話を聞き、学校には具体的な事実と認定の根拠の説明を求める。
- 事実を確認する前に、書面への署名や金銭の支払いの約束をしない。
- 公立の小学校・中学校の学齢児童生徒は退学処分の対象とならず、学齢児童生徒には停学処分もできない。
- 14歳未満の子どもは刑罰を受けないが、警察の調査や家庭裁判所の手続の対象となる場合がある。
当事務所では、いじめを受けた側のご相談に加え、いじめをしたとして学校から指導・処分を受けた方や、慰謝料を請求された方のご相談もお受けしています。
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学校の認定や処分、請求への対応は、初期の判断によって後の選択肢が変わることがあるため、お早めにご相談ください。
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