【この記事の結論・要約】
- 名誉毀損には刑事責任(刑法230条の名誉毀損罪)と民事責任(民法709条の不法行為)の2つの側面があり、必要な手続も判断の枠組みも異なる。
- 成立するためには、公然性、事実の摘示、社会的評価の低下という要件に加え、インターネット上の投稿では同定可能性が問題になる。単なる悪口は名誉毀損ではなく侮辱の問題となる。
- 要件を満たしていても、公共性・公益目的・真実性が認められれば責任を負わない。また、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求では求められる水準が同じではなく、「名誉毀損にはあたるが開示は認められない」という結論もあり得る。
はじめに
インターネット上に自分についての書き込みをされたとき、多くの方が最初に調べるのが「これは名誉毀損にあたるのか」という点です。
もっとも、「名誉毀損」という言葉は日常的に使われる一方で、法律上の意味は限定されています。
腹が立つ書き込みであっても法律上の名誉毀損にあたらないことがあり、逆に、本人が気づいていない投稿が名誉毀損にあたることもあります。
この記事では、名誉毀損がどのような行為を指すのか、成立するために何が必要か、どのような投稿が名誉毀損にあたらないのかを、条文と裁判実務での考え方に沿って解説します。
あわせて、投稿の類型ごとの判断の目安、対象者による違い、被害を受けた場合にとれる手段も取り上げます。
名誉毀損には刑事と民事の2つの側面がある
名誉毀損という言葉は、刑事上の犯罪を指す場合と、民事上の損害賠償の対象となる行為を指す場合があります。
どちらの話をしているかで、必要な要件も、とるべき手続も変わります。
刑法230条が定める名誉毀損罪
刑法230条1項は、名誉毀損罪について次のように定めています。
(名誉毀損)
第二百三十条
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」
条文にある「その事実の有無にかかわらず」という部分が重要です。
書き込まれた内容が真実であっても、名誉毀損罪が成立し得るということを意味しています。
真実であれば当然に許されるわけではありません。
また、刑法232条1項は「この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」と定めており、名誉毀損罪は親告罪です。
被害者が告訴しなければ、検察官は起訴できません。
民法上の不法行為としての名誉権侵害
民事上の名誉毀損は、民法709条の不法行為にあたる行為として扱われます。
人には社会から受ける評価をみだりに低下させられない利益があり、これを名誉権といいます。
民法710条は、財産以外の損害についても賠償の対象となることを定めており、名誉毀損による精神的苦痛に対する慰謝料はこの規定によります。
さらに民法723条は、「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」と定めています。
金銭以外の方法による回復を求める根拠となる条文です。
刑事と民事で判断の枠組みが異なる
刑事と民事は、次の点で違いがあります。
| 刑事(名誉毀損罪) | 民事(名誉権侵害) | |
|---|---|---|
| 根拠 | 刑法230条 | 民法709条・710条・723条 |
| 求める結果 | 加害者の処罰 | 損害賠償、投稿の削除、名誉回復の措置 |
| 事実の摘示 | 必要 | 意見・論評による場合も責任が生じ得る |
| 手続の主体 | 捜査機関(告訴が必要) | 被害者本人(またはその代理人) |
| 期間の制限 | 公訴時効3年、告訴期間6か月 | 損害および加害者を知った時から3年、行為から20年 |
特に押さえておきたいのは、事実の摘示に関する違いです。
刑事では具体的な事実を示したことが必要ですが、民事では、意見や論評の形をとっていても社会的評価を低下させた場合に責任が生じることがあります。
刑事と民事は同時に進めることも可能
刑事告訴と損害賠償請求は、一方を選ばなければならないものではありません。
両方を並行して進めることもできます。
もっとも、刑事手続は加害者を処罰するための手続であり、被害者が金銭的な回復を受けることを目的とするものではありません。
金銭の支払いを求めるのであれば、民事の手続が必要です。
名誉毀損が成立するための要件
名誉毀損が成立するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
ひとつでも欠ければ、どれだけ不快な内容であっても名誉毀損とは認められません。
公然性
公然性とは、摘示された事実を不特定または多数の人が認識し得る状態にあることをいいます。
インターネット上の公開された投稿は、誰でも閲覧できるため、原則として公然性が認められます。
一方、1対1のダイレクトメッセージやメールは、相手が1人にとどまるため、原則として公然性を欠きます。
判断が難しいのは、その中間にあたる場合です。
フォロワーを限定した非公開アカウント、参加者が限られたグループチャット、招待制のコミュニティなどがこれにあたります。
裁判実務では、閲覧できる人数だけでなく、そこから他の人へ情報が広まる可能性(伝播可能性)も考慮されています。
公然性の判断は、以下の記事で裁判例とともに詳しく解説しています。

事実の摘示
事実の摘示とは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実を示すことをいいます。
ここでいう「事実」は、真実であるという意味ではありません。
証拠によって真偽を判断できる性質の事柄を指します。
したがって、実際には存在しない出来事を書いた場合も、事実の摘示にあたります。
たとえば「Aは取引先から金銭を受け取っていた」という投稿は、その出来事があったかどうかを証拠で確かめられるため、事実の摘示にあたります。
これに対して「Aは感じが悪い」という投稿は、書き手の評価にすぎず、真偽を確かめられる性質のものではありません。
この区別は実務上最も争われる部分であり、後の章で詳しく取り上げます。
社会的評価の低下
名誉毀損で保護されるのは、社会から受ける評価です。
本人が傷ついたかどうかではなく、その投稿によって周囲からの評価が下がるかどうかが問われます。
裁判実務では、社会的評価が現実に下がったことまでは必要でなく、下がるおそれのある状態が生じれば足りると考えられています。
投稿の閲覧数が少なかったことを理由に名誉毀損が否定されるわけではありません。
また、投稿の意味内容は、書いた人の意図ではなく、一般の読者が普通の注意と読み方をした場合にどのように受け取るかを基準に判断されています(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決(民集10巻8号1059頁))。
書き手が「そういう意味で書いたのではない」と主張しても、それだけで否定されるものではありません。
同定可能性
同定可能性とは、その投稿が誰について書かれたものかを、第三者が認識できる状態をいいます。
実名が書かれていなくても、勤務先、役職、居住地域、外見の特徴、過去の出来事など、周辺の情報から特定できる場合には、同定可能性が認められることがあります。
逆に、実名が書かれていても、同姓同名が多数いて特定できない場合には問題が生じます。
インターネット上の投稿では、名前を伏せられていたり、ハンドルネームで書かれていたりするなど、この同定可能性が問題になることが少なくありません。
詳しくは以下の記事で解説しています。

故意または過失
民事上の損害賠償を求めるためには、投稿者に故意または過失があることが必要です(民法709条)。
もっとも、名誉毀損にあたる投稿を自分の意思で書き込んだ場合、この要件が問題となることはあまりありません。
実務上争点となるのは、他人の投稿を転載した場合や、内容を確認せずに拡散した場合です。
事実の摘示か意見・論評かの区別
ある投稿が事実の摘示にあたるのか、意見や論評にとどまるのかは、名誉毀損の判断で最も争われる点です。
区別の基準
裁判実務では、その表現が、証拠によって真偽を判断することができる特定の事柄を示しているかどうかを基準に区別されています。
最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決(民集51巻8号3804頁)は、事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは不法行為責任の成否に関する要件が異なるとしたうえで、両者の区別についても、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすべきであるとしました。
判断は表現の一部分だけを取り出して行うのではなく、投稿全体の文脈や、投稿された当時に読み手が持っていた知識や経験も考慮して行われます。
たとえば、次のように分かれます。
| 投稿の例 | 区別 |
|---|---|
| 「Aは会社の金を横領した」 | 事実の摘示 |
| 「Aは顧客に嘘の説明をして契約させた」 | 事実の摘示 |
| 「Aは仕事が雑だと思う」 | 意見・論評 |
| 「Aは人として最低だ」 | 意見・論評 |
注意が必要なのは、形式上は意見の形をとっていても、読んだ人に具体的な出来事があったと受け取らせる場合には、事実の摘示と評価されることがある点です。
前掲の最高裁平成9年9月9日判決は、語の通常の意味だけでは特定の事項を主張しているとは解せない場合であっても、前後の文脈等を考慮し、誇張や強調、比喩的な表現、第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を用いて間接的または婉曲に事項を主張していると理解されるのであれば、その部分は事実を摘示するものとみるのが相当であるとしています。
「Aのような人物が業界にいるのは問題だ」という表現も、その前後に具体的な出来事を示す記載があれば、全体として事実の摘示があったと判断されることがあります。
意見・論評であっても責任を負う場合がある
意見や論評であれば常に責任を負わないわけではありません。
前掲の最高裁平成9年9月9日判決は、意見ないし論評による名誉毀損について、次の要件を満たす場合には不法行為が成立しないとしています。
- その行為が公共の利害に関する事実に係ること
- 目的が専ら公益を図ることにあること
- 意見ないし論評の前提としている事実が、重要な部分について真実であることの証明があること
- 人身攻撃に及ぶなど、意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと
前提事実の証明がない場合でも、それを真実と信じたことに相当の理由があるときは、故意または過失が否定されるとされています。
裏を返せば、前提となる事実が虚偽である場合や、論評の域を超えた侮蔑的な表現である場合には、意見の形をとっていても責任を負う可能性があります。
「らしい」「ではないか」といった表現の扱い
「Aは前科があるらしい」「Aは不正をしているのではないか」というように、断定を避けた表現が使われることがあります。
こうした表現であっても、読んだ人に具体的な事実があったと受け取らせる場合には、事実の摘示にあたると判断されることがあります。
伝聞の形や疑問の形にすれば責任を免れるというものではありません。
同様に、他人の投稿を引用したうえで「こういう話があるようだ」と紹介する行為も、内容によっては事実の摘示と評価される可能性があります。
名誉毀損にあたらない投稿
社会的評価を下げるように見える投稿でも、名誉毀損にあたらない場合があります。
どの理由で成立しないのかによって、別の権利侵害として責任を追及できるかどうかが変わります。
具体的な事実を含まない悪口
「バカ」「気持ち悪い」といった、具体的な事実を伴わない罵倒は、事実の摘示がないため名誉毀損にはあたりません。
ただし、責任を問えないという意味ではありません。
刑法231条は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金若しくは拘留又は科料に処する。」と定めています。
民事上も、名誉感情(自分に対する主観的な評価)が社会通念上許される限度を超えて侵害されたとして、損害賠償が認められることがあります。
意見や感想にとどまる投稿
商品やサービスについての率直な感想、作品への批評などは、意見・論評として扱われ、原則として名誉毀損にはあたりません。
もっとも、前に述べたとおり、前提となる事実が虚偽である場合や、表現が論評の域を超えている場合には責任が生じ得ます。
公共性・公益目的・真実性が認められる場合
刑法230条の2第1項は、次のように定めています。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二
「前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」
公共性、公益目的、真実性の3つが認められれば処罰されないという規定です。
民事上も同様の考え方がとられています。
最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決(民集20巻5号1118頁)は、次のとおり判示しました。
「民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である」
真実であることを証明できなくても、真実と信じたことに相当の理由があれば責任を負わないという点が、実務上重要になります。
なお、同条2項は、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実を公共の利害に関する事実とみなすと定め、3項は、公務員または公選による公務員の候補者に関する事実について定めています。
注意したいのは、この主張立証の負担を誰が負うかという点です。
刑事では投稿した側が真実性を証明する立場に立ちますが、発信者情報開示請求では、請求する側が違法性阻却事由の不存在を示す必要があると考えられています。
開示請求をして投稿者を特定したいと考えている場合、この違いは非常に重要です。
立証責任については、以下の記事で詳しく解説しています。

私生活上の事実の暴露
住所、家族関係、病歴、交際関係など、私生活に関する事実を公開された場合、社会的評価が下がるとはいえないことがあります。
この場合は名誉毀損ではなく、プライバシー侵害として扱われます。
名誉毀損が成立しなくても、プライバシー侵害を理由に削除や損害賠償を求められる場合があります。
反論が可能な場面での投稿(対抗言論)
インターネット上では、書き込まれた本人が同じ場で反論できる場合があります。
このような場面では、法的な救済を求めるまでもなく反論によって評価の回復を図ることができるとして、名誉毀損の成立を否定すべきだという考え方があります。
これを対抗言論の法理といいます。
もっとも、この考え方が実際に適用される場面は限られており、裁判例でも広く認められているわけではありません。
反論できる状態にあったというだけで名誉毀損が否定されると考えるのは適切ではありません。
投稿の類型ごとの判断の目安
ご相談で多い内容について、判断の目安を整理します。
個別の事情によって結論は変わるため、あくまで一般的な傾向としてご覧ください。
| 投稿の内容 | 判断の傾向 |
|---|---|
| 前科・逮捕歴を書かれた | 事実の摘示にあたる。公共性・公益目的・真実性が問題となる |
| 不倫していると書かれた | 事実の摘示にあたる。私生活上の事柄であり公共性は認められにくい |
| 横領・詐欺などを指摘された | 事実の摘示にあたる。名誉毀損が認められやすい類型 |
| 勤務先をブラック企業だと書かれた | 具体的な労働環境の記載があれば事実の摘示となり得る |
| 商品・サービスの品質を批判された | 感想にとどまれば意見・論評。虚偽の出来事を伴えば事実の摘示 |
| 病歴を書かれた | 名誉毀損よりプライバシー侵害の問題となることが多い |
| 借金があると書かれた | 事実の摘示にあたり得る。経済的信用に関わる場合は信用毀損も問題となる |
| 単なる罵倒を書かれた | 名誉毀損ではなく侮辱・名誉感情侵害の問題 |
前科・逮捕歴に関する投稿
前科や逮捕歴を書き込まれた場合、その内容が真実であることが多いため、真実性の点では投稿者に有利に働きます。
争点となるのは公共性と公益目的です。
報道された事件であっても、時間の経過により公表の必要性が失われていく場合があります。
また、書き込みの目的が嫌がらせであれば、公益目的は認められにくくなります。
逮捕報道の記事そのものの削除については、名誉毀損とは別の枠組みでの検討が必要です。
不倫や男女関係に関する投稿
交際関係や不倫を書き込まれた場合、社会的評価を低下させる事実の摘示として扱われるのが通常です。
私生活上の事柄であるため、公共の利害に関する事実とは認められにくく、投稿者が真実性を主張しても責任を免れにくい類型といえます。
また、内容によってはプライバシー侵害としての側面も併せ持ちます。
勤務先の労働環境に関する投稿
退職した従業員が、勤務先について口コミサイトや掲示板に書き込む例は多く見られます。
「残業代が支払われない」「特定の上司が暴言を繰り返している」といった具体的な記載があれば、事実の摘示にあたります。
一方で、労働環境に関する情報には一定の公共性が認められることがあり、投稿者が体験した事実に基づいて書いている場合には、真実性や真実相当性が認められる可能性もあります。
事業者側から削除を求める場合には、この点を踏まえた検討が必要です。
商品やサービスに対する口コミ
利用者としての感想を書いた口コミは、意見・論評として扱われるのが通常です。
問題となるのは、実際にはなかった出来事を書いている場合です。
「異物が入っていた」「無資格の者が施術していた」といった記載は、事実の摘示にあたり、虚偽であれば名誉毀損となり得ます。
事業に関する経済的な信用を対象とする場合には、信用毀損罪(刑法233条)が問題となることもあります。
転載・引用・リポスト
他人の投稿を転載したり、引用して拡散したりする行為についても、責任を問われる可能性があります。
転載した人自身が事実を摘示したものと評価されれば、元の投稿者とは別に責任を負うことになります。
単に賛同を示しただけの行為についてどこまで責任が及ぶかは、事案によって判断が分かれており、確立した基準があるとはいえません。
対象者による判断の違い
誰について書かれたかによっても、判断の枠組みは変わります。
法人
法人についても名誉毀損は成立します。
最高裁昭和39年1月28日第一小法廷判決(民集18巻1号136頁)は、法人の名誉権が侵害され無形の損害が生じた場合でも、その損害の金銭評価が可能である限り民法710条の適用があるとしました。
法人には精神的苦痛がありませんが、社会的評価が低下したことによる無形の損害について、賠償が認められることがあります。
さらに、売上の減少など具体的な損害が生じている場合には、その賠償を求めることも考えられます。
もっとも、投稿と損害との因果関係を示すことは容易ではありません。
公務員や政治家
公務員や公職の候補者については、刑法230条の2第3項により、公共性や公益目的を問わず、真実であることの証明があれば処罰されないとされています。
公的な立場にある人に対する批判は、表現の自由との関係で広く許容される傾向があります。
ただし、職務と無関係な私生活上の事柄については、この限りではありません。
医師や弁護士などの専門職
専門職に対する投稿は、職業上の信用に直結するため、認められる損害額が比較的高くなる傾向があります。
一方で、業務内容に対する利用者の評価という性質を持つため、意見・論評として扱われる範囲も広くなります。
ハンドルネームで活動している人
ハンドルネームやアカウント名で活動している場合、そのアカウントと現実の本人とが結びつくかどうかが問題になります。
ハンドルネームで現実でも活動しているような場合、現実の本人と同一視できると判断される可能性が高くなります。
また、アカウント名で継続的に活動し、そのアカウント自体に社会的評価が形成されている場合には、本名が知られていなくても同定可能性が認められる余地があります。
配信者やイラストレーターなど、匿名のまま活動している方についても、直ちに諦める必要はありません。
亡くなった人
刑法230条2項は、「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。」と定めています。
真実を摘示した場合は処罰されません。
民事上は、名誉権が本人に専属する権利であるため、遺族が故人の名誉毀損を理由に損害賠償を求めることは原則としてできません。
ただし、遺族自身の故人に対する敬愛の情が侵害されたとして、遺族固有の権利侵害を主張できる場合があります。
インターネット上の投稿で特に問題になる点
インターネット上の名誉毀損には、口頭での発言や紙媒体にはない特有の問題があります。
削除・開示・損害賠償で求められる水準は同じではない
同じ投稿であっても、どの手続をとるかによって求められる水準が異なります。
発信者情報開示請求について、情報流通プラットフォーム対処法5条1項は、権利が侵害されたことが明らかであることと、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることを要件としています。
このうち「明らか」という要件については、権利侵害の事実があるだけでなく、違法性阻却事由が存在しないことまで請求する側が示す必要があると考えられています。
本来は投稿した側が主張すべき事情を、請求する側が先回りして否定しなければならないわけです。
その結果、損害賠償請求であれば認められる可能性がある事案でも、開示請求の段階では認められないという結論があり得ます。
「名誉毀損にあたるはずなのに開示されなかった」という事態は、この構造から生じます。
もっとも、裁判例では、「権利侵害された者が権利回復を図ることができないような解釈運用がされるべきでないことが前提となっている」として、判断基準を緩くしている傾向にあります。

ログの保存期間による時間的な制約
投稿者を特定するためには、通信記録(ログ)が残っている必要があります。
アクセスプロバイダのログ保存期間は一般に3か月から6か月程度です。
保存期間は事業者によって異なります。
保存期間を過ぎると、手続を進めても投稿者にたどり着けません。
損害賠償請求権の消滅時効は加害者を知った時から3年ですが、実際に動ける期間はログの保存期間によって制約されます。
投稿を見つけてから時効までまだ余裕があると考えるのは適切ではありません。
拡散した人やまとめサイトの責任
元の投稿が削除されても、転載されたページが残ることがあります。
まとめサイトなどに転載された場合、転載した側にも責任を問える可能性があります。
ただし、転載先ごとに手続が必要となり、対応の負担は大きくなります。
拡散が進む前に早期に対応することが、結果的に負担を抑えることにつながります。
証拠の保存
投稿は削除されることがあります。
削除された後では、その投稿が存在したことを示すのが難しくなります。
また、投稿が消えてしまうと、投稿者に関する情報(IPアドレス等)も一緒に消えてしまうこともあります。
保存にあたっては、投稿本文だけでなく、URL、投稿日時、アカウント名、投稿者のプロフィール画面も含めて記録してください。
画面の一部だけを切り取った画像では、どのページの投稿か分からず、手続で使えないことがあります。
名誉毀損の被害を受けた場合にとれる手段
被害を受けた場合にとれる手段は、大きく分けて次のとおりです。
目的によって、選ぶべき手続が変わります。
削除請求
投稿を消すことを目的とする手続です。
サイト運営者の削除フォームからの申請、情報流通プラットフォーム対処法に基づく送信防止措置依頼、裁判所への仮処分の申立てという段階があります。
任意の申請で削除されない場合に、裁判手続に進むことになります。
発信者情報開示請求
匿名の投稿者を特定するための手続です。
コンテンツプロバイダから発信者のIPアドレス等の開示を受け、次にアクセスプロバイダから氏名・住所の開示を受けるという二段階の構造をとります。
損害賠償請求
投稿者に金銭の支払いを求める手続です。
慰謝料の金額は、投稿の内容、拡散の程度、継続性、対象者の立場などによって変わります。
一般的な目安としては、個人が被害者の場合は10万円から50万円程度、事業者の場合は50万円から100万円以上となることがあります。
侮辱にとどまる場合は30万円程度が目安です。
投稿者を特定するために要した費用について、損害として賠償を求められる場合があります。
名誉回復の措置
民法723条に基づき、謝罪広告の掲載など、名誉を回復するのに適当な処分を求めることができます。
もっとも、裁判所が命じる例は限られています。
実務では、示談の内容として謝罪文の交付や投稿の削除を約束させる形をとることが多くなります。
刑事告訴
加害者の処罰を求める場合には、警察または検察庁に告訴状を提出します。
名誉毀損罪は親告罪であり、告訴がなければ起訴されません。
また、刑事訴訟法235条により、告訴は犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります。
投稿者が特定できていない段階では、この期間は進行しません。
告訴状が受理されるかどうかは、証拠がどれだけ整っているかに左右されます。
期間の制限
手続ごとに期間の制限があります。
| 手続 | 期間 |
|---|---|
| 損害賠償請求 | 損害および加害者を知った時から3年、行為の時から20年(民法724条) |
| 刑事告訴 | 犯人を知った日から6か月(刑事訴訟法235条) |
| 公訴時効 | 3年 |
| 投稿者の特定 | ログの保存期間(一般に3か月から6か月程度)による制約 |
時効の詳細については、以下の記事で解説しています。

よくある質問(FAQ)
- 書かれた内容が真実でも名誉毀損になりますか。
-
なり得ます。
刑法230条1項は「その事実の有無にかかわらず」と定めており、真実であることは直ちに免責の理由になりません。
ただし、公共の利害に関する事実であり、目的が公益を図ることにあり、かつ真実であることが証明された場合には、責任を負わないとされています。
- 名前を出されていなくても名誉毀損になりますか。
-
周囲の情報からその人のことだと分かる場合には、同定可能性が認められ、名誉毀損が成立し得ます。
勤務先、役職、地域、特徴的な出来事などの記載が手がかりとなります。逆に、誰のことか分からない投稿では成立しません。
- 実際に評価が下がったことを証明する必要がありますか。
-
裁判実務では、社会的評価が下がるおそれのある状態が生じれば足りると考えられており、現実に評価が下がったことまでの証明は求められないのが通常です。
閲覧数が少なかったことも、直ちに名誉毀損を否定する理由にはなりません。 - 会社に対する書き込みでも名誉毀損になりますか。
-
法人に対しても名誉毀損は成立します。
法人の場合は精神的苦痛ではなく、社会的評価の低下による無形の損害として賠償が認められることがあります。
売上の減少など具体的な損害についても請求の対象となり得ますが、投稿との因果関係を示す必要があります。 - 他人の投稿を引用しただけでも責任を負いますか。
-
引用や転載の仕方によっては、引用した人自身が事実を摘示したものと評価され、責任を負う可能性があります。
単に賛同を示しただけの行為についてどこまで責任が及ぶかは、確立した基準があるとはいえず、個別の判断となります。 - 名誉毀損と侮辱のどちらで主張すべきですか。
-
具体的な事実が書かれているかどうかなどで判断します。
実務では、名誉毀損として主張したものの、裁判所には名誉感情の侵害と判断されることもあります。
どちらの構成をとるか、あるいは両方を主張するかは、投稿の文言に即して検討する必要があります。
まとめ
この記事の要点は次のとおりです。
- 名誉毀損には刑事責任と民事責任の2つの側面があり、必要な手続も判断の枠組みも異なる
- 成立には、公然性、事実の摘示、社会的評価の低下が必要であり、インターネット上の投稿では同定可能性も問題となる
- 具体的な事実を含まない罵倒は名誉毀損にはあたらないが、侮辱や名誉感情の侵害として責任を追及できる場合がある
- 公共性、公益目的、真実性が認められる場合には責任を負わない
- 削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求では求められる水準が異なり、削除請求や開示請求では違法性阻却事由の不存在まで示す必要がある
- ログの保存期間により、投稿者を特定できる期間は限られている
当事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の削除、発信者情報開示請求、損害賠償請求、刑事告訴のいずれにも対応しています。
ご自身の受けた投稿が名誉毀損にあたるかどうかの判断を含めて、当事務所にご相談ください。
投稿者の特定には通信記録の保存期間という時間的な制約があります。
お早めにご相談ください。
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