【この記事の結論・要約】
- 刑事告訴は加害者の処罰を求める手続です。告訴が受理されて処罰されたとしても、被害者に金銭が支払われるわけではなく、投稿が削除されるわけでもありません。
- 名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪であり、告訴は犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります。匿名の投稿では、投稿者が判明した時点からこの期間が進み始めます。
- 法務省が公表した侮辱罪173件の事例では、169件が略式命令によって処理されています。インターネット上の事案では罰金10万円とされたものが最も多くなっています。
はじめに
誹謗中傷の被害を受けた方から、「相手を処罰してほしい」というご要望を受けることがあります。
金銭の回復では気持ちが収まらない、書き込みを止めさせたい、同じことを繰り返させたくないというお考えは自然なものです。
この記事では、刑事告訴によって何が実現するのか、告訴期間という制約をどう考えるべきか、受理されるために何が必要かを解説します。
刑事告訴は何ができる手続きか
手続の説明に入る前に、何ができて、何ができないかを整理します。
| 求めていること | 刑事告訴でできるか(実現するか) |
|---|---|
| 加害者を処罰してほしい | 実現し得る |
| 金銭の賠償を受けたい | 実現しない(民事の手続が必要) |
| 投稿を削除してほしい | 実現しない(削除請求が必要) |
| 書き込みを止めさせたい | 事実上の効果は期待できる |
| 誰が書いたのか知りたい | 被害者に知らされるとは限らない |
金銭は入らない
刑事の手続で科される罰金や科料は、国に納められるものです。
被害者に支払われるわけではありません。
法的に賠償を求めるのであれば、民事の手続が必要になります。
ただし、後述するように示談等により金銭の支払いがなされることはあります。
投稿は削除されない
加害者が処罰されても、書き込みが自動的に消えるわけではありません。
削除を求めるには、サイトの運営者に対する手続が別に必要です。
刑事の手続と並行して進めることになります。
なお、手続きの過程で、投稿者が自主的に投稿を削除する可能性はあります。
示談につながることがある
他方、告訴が受理されれば、加害者の側から示談の申入れがされることがあります。
名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪であり、告訴が取り下げられれば起訴されません。
加害者にとっては、告訴を取り下げてもらうことに大きな意味があります。
結果として、民事の賠償と併せた解決につながる場合があります。
告訴と被害届の違い
| 告訴 | 被害届 | |
|---|---|---|
| 内容 | 犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示 | 被害を受けた事実の申告 |
| 親告罪での扱い | これがなければ起訴できない | 起訴の要件にならない |
| 捜査機関の義務 | 受理した場合、捜査を行い、結果を検察官に送付する | 特に定められていない |
| 結果の通知 | 処分の結果が通知される | 通知されない |
名誉毀損罪や侮辱罪で処罰を求めるのであれば、告訴が必要です。
被害届を出しただけでは、起訴の要件を満たしません。
他方、告訴は受理されるまでの負担が大きくなります。
まず被害届を提出し、捜査の状況を見てから告訴に進むという方法もあります。
成立する犯罪
| 書き込みの内容 | 犯罪 | 親告罪か |
|---|---|---|
| 具体的な事実を示して評価を下げるもの | 名誉毀損罪(刑法230条) | 親告罪 |
| 事実を伴わない罵倒 | 侮辱罪(刑法231条) | 親告罪 |
| 危害を加えることを告げるもの | 脅迫罪(刑法222条) | 親告罪ではない |
| 虚偽の内容で信用を害するもの | 信用毀損罪(刑法233条) | 親告罪ではない |
| 業務を妨げるもの | 業務妨害罪(刑法233条・234条) | 親告罪ではない |
どの罪にあたるかによって、告訴が必要かどうかが変わります。


実際にどの程度の刑になるか
処罰を求めるにあたって、実際にどの程度の刑が科されているかを知っておく意味があります。
法務省が公表した事例集
法務省刑事局は、侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会の資料として、侮辱罪の事例集を公表しています。
2022年(令和4年)7月7日の改正法施行日以降に行われた行為のうち、侮辱罪のみで処断され、2025年(令和7年)6月30日までに裁判が確定した173件が掲載されています。
ただし、あくまでも侮辱罪に関するデータのため、他の犯罪の場合は結果が異なり得ます。
ほとんどが略式命令
| 処理区分 | 件数 |
|---|---|
| 略式命令請求 | 169件 |
| 公判請求 | 4件 |
略式命令は、公開の法廷を開かずに書面で罰金や科料を科す手続です。
公開の法廷で審理されることを期待していると、実際の扱いとの差に戸惑うことがあります。
侮辱罪では、そのほとんどが書面によって処理されているということになります。
科された金額
| 裁判結果 | 件数 |
|---|---|
| 科料9,000円 | 39件 |
| 科料9,900円 | 17件 |
| 罰金1万円 | 1件 |
| 罰金5万円 | 3件 |
| 罰金7万円 | 1件 |
| 罰金10万円 | 103件 |
| 罰金20万円 | 4件 |
| 罰金30万円 | 5件 |
罰金10万円とされたものが103件と、全体の6割近くを占めています。
インターネット上の事案は重くなる傾向
掲載された173件のうち、インターネット上の書き込みによるものは104件です。
| 裁判結果 | ネット上の事案 | 対面などの事案 |
|---|---|---|
| 科料(9,000円・9,900円) | 20件 | 36件 |
| 罰金10万円 | 73件 | 30件 |
| 罰金20万円以上 | 8件 | 1件 |
対面での事案では科料にとどまるものが半数を超えているのに対し、インターネット上の事案では罰金10万円以上が8割近くを占めています。
どのような書き込みが処罰されているか
事例集には、事案の概要も記載されています。
インターネット上の事案では、被害者の氏名や勤務先を挙げたうえで罵倒する言葉を書き込んだものが多くを占めています。
掲示板のスレッド、SNS、検索サイトの口コミ欄など、書き込まれた場所はさまざまです。
1回だけの書き込みで処罰された事例もあれば、複数回にわたる書き込みがまとめて対象とされた事例もあります。
「バカ」「アホ」といった、日常的に使われる程度の言葉であっても、対象が特定されている状況で書き込まれれば、処罰されている事例があります。
ご自身が受けた書き込みについて、処罰の対象になるかどうかの見当をつける材料になります。
これをどう受け止めるか
科される金額は、民事で認められる慰謝料と比べて低い水準です。
ただし、ここで認められる罰金はその金額は国に納められるものであり、被害者には入りません。
金銭的な回復を求めるのであれば、民事の手続によることになります。
他方、前科がつくということは、加害者にとって重い結果です。
そのことが、書き込みを止めさせる効果や、示談に応じさせる効果につながります。
証拠の保存
刑事の手続でも、まず必要になるのは書き込みの記録です。
保存すべき内容
- 書き込みの本文と投稿日時
- 書き込みのURL(スレッドの場合はレス番号も)
- 投稿者のアカウント名とプロフィール画面
- 前後のやり取り
- 自分を指していることが分かる部分
画面の一部だけを切り取った画像では、どのサイトのどの書き込みか分からず、手続で使えないことがあります。
削除される前に保存する
投稿者が自分で削除することがあります。
削除された後では、どのような書き込みがあったのかを示せません。
不快な内容を残しておくことは負担ですが、対応を決める前にまず保存してください。
告訴期間
この分野で最も注意が必要な点です。
犯人を知った日から6か月
刑事訴訟法235条1項は、次のとおり定めています。
「親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。」
名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪であるため、この期間の制限を受けます。
匿名の投稿ではいつから進むか
「犯人を知った日」とされているため、誰が書いたか分からない段階では、この期間は進みません。
発信者情報開示請求によって投稿者が判明した時点から、6か月を数えることになります。
投稿から何年が経過していても、特定できた時点から告訴できるということになります。
ただし、後述する公訴時効には注意が必要です。
開示請求との時間の関係
もっとも、特定そのものに時間の制約があります。
アクセスプロバイダの通信記録の保存期間は一般に3か月から6か月程度で、裁判手続による特定には3か月から9か月程度かかります。
投稿を見つけてから動くまでに時間をかけると、そもそも特定ができません。
刑事告訴を考えている場合でも、まず特定を急ぐ必要があります。

特定できた後も期限がある
特定できた後、6か月という期間は短いものです。
損害賠償の交渉を進めているうちに、告訴期間が過ぎてしまうことがあります。
刑事の手続もとるのであれば、特定できた段階で方針を決める必要があります。
公訴時効
告訴期間とは別に、公訴時効があります。
名誉毀損罪も侮辱罪も、公訴時効は3年です。
侮辱罪は2022年の改正前は1年でしたが、法定刑の引上げに伴って3年になりました。

告訴状に記載すること
特定すべき事項
- 告訴人と被告訴人
- いつ、どのサイトのどの場所に、どのような内容が書き込まれたか
- その書き込みがどの犯罪にあたるか
- 処罰を求める意思
書き込みの内容は、原文をそのまま記載します。
要約すると、どの表現が問題なのかが伝わりません。
添付する資料
- 書き込みの画面を印刷したもの(URLと日時が入っているもの)
- 開示請求によって得られた資料
- 自分を指していることが分かる資料
- 書き込みの内容が事実と異なることを示す資料
- 被害の状況を説明する陳述書
特に重要なのが、自分を指していることが分かる資料です。
本名が書かれていない書き込みでは、なぜ自分のことだといえるのかを説明する必要があります。

複数の書き込みがある場合
同じ人物が繰り返し書き込んでいる場合には、それぞれを特定して記載します。
1件だけを取り上げるより、繰り返されている状況を示すほうが、事案の深刻さが伝わります。
時系列にまとめた一覧を添えることになります。
受理されない場合
受理されにくい理由
名誉毀損罪や侮辱罪は、成立するかどうかの判断が容易ではありません。
侮辱にあたるかどうかは、具体的な事実を摘示(指摘)することなく、公然と人の社会的評価を害する表示や、人に対する侮辱的価値判断を表示するかという評価を伴います。
名誉毀損についても、事実を摘示しているか、当該表現が社会的評価を低下させるか、公共の利害に関する事実であるか、真実であるか等が問題になります。
資料が整理されていない状態で相談に行くと、判断ができないために様子を見るよう促されることがあります。
準備で変わる部分
どの書き込みのどの表現が、どの罪のどの要件にあたるのかを整理したうえで提出すれば、判断がしやすくなります。
投稿者がすでに特定されていれば、捜査の負担も小さくなります。
民事の開示請求を先に行っておくことには、この意味もあります。
相談の窓口
各都道府県の警察には、サイバー犯罪に関する相談窓口があります。
告訴状を提出するのは、加害者の住所地または犯罪地を管轄する警察署です。
どこに提出すべきかが分からない場合には、相談窓口で確認できます。
告訴から処分までの流れ
- 告訴状を提出する
- 受理されれば、捜査が行われる
- 被害者として事情を聴かれる
- 加害者が取調べを受ける
- 捜査の結果が検察官に送られる
- 検察官が起訴するかどうかを決める
- 処分の結果が告訴人に通知される
途中で示談の申入れがされることがある
加害者側の弁護士から、示談の申入れがされることがあります。
告訴を取り下げれば起訴されないため、加害者にとっては大きな意味があります。
応じるかどうか、応じるとしてどのような条件にするかは、こちらが決めることです。
金銭の支払いだけでなく、投稿の削除と再発の防止を条件に含めることを検討してください。
不起訴になった場合
起訴されなかった場合でも、その理由を問い合わせることができます。
また、検察審査会に対して、不起訴の判断が適切かどうかの審査を申し立てることもできます。
事業者が被害を受けた場合
成立する罪を検討する
店舗や会社に対する書き込みでは、名誉毀損罪や侮辱罪のほかに、信用毀損罪や業務妨害罪が問題になることがあります。
刑法233条は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者を処罰すると定めています。
これらは親告罪ではないため、告訴期間の制限を受けません。
どの罪で構成するかによって、期間の制約が変わります。
虚偽であることを示せるか
信用毀損罪では、書き込まれた内容が虚偽であることが必要です。
また、名誉毀損罪は、書き込まれた内容が虚偽である場合の方が成立しやすい犯罪です。
「異物が入っていた」「無資格の者が施術していた」といった内容であれば、記録によって事実と異なることを示せる場合があります。
他方、利用者の感想として書かれた内容については、虚偽といえるかどうかの判断が難しくなります。
誰が告訴するか
会社に対する書き込みであれば会社が、従業員個人に向けられた書き込みであればその本人が、それぞれ告訴することになります。
両方が含まれている場合には、それぞれについて検討する必要があります。
刑事と民事のどちらを選ぶか
| 求めていること | 適した手続 |
|---|---|
| 投稿を消したい | 削除請求 |
| 誰が書いたか知りたい | 発信者情報開示請求 |
| 金銭の賠償を受けたい | 損害賠償請求 |
| 処罰してほしい | 刑事告訴 |
| 繰り返しを止めたい | 示談での約束、刑事告訴 |
並行して進めることもできる
刑事告訴と民事の請求は、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
特定した後に、刑事と民事の両方を進めることができます。
順序を考える
告訴期間が6か月であるため、特定できた後は時間の余裕がありません。
民事の交渉を先に進めて、まとまらなければ告訴するという順序では、期間が足りなくなることがあります。
最初の段階で、どこまでを求めるのかを決めておく必要があります。

よくある質問(FAQ)
- 刑事告訴をすれば賠償を受けられますか。
-
受けられません。
刑事の手続で科される罰金や科料は国に納められるもので、被害者に支払われるわけではありません。
賠償を求めるには、民事の手続が必要です。ただし、告訴が受理されると加害者側から示談の申入れがされることがあり、結果として賠償につながる場合があります。
- 投稿から何年も経っていますが、告訴できますか。
-
告訴期間は犯人を知った日から6か月であるため、誰が書いたか分からない段階では進みません。
投稿者が判明した時点から6か月以内であれば告訴できます。ただし、公訴時効は3年であり、こちらは行為の時から進みます。
また、通信記録の保存期間があるため、そもそも特定ができない可能性があります。 - どの程度の刑になりますか。
-
法務省が公表した侮辱罪173件の事例では、罰金10万円とされたものが103件と最も多く、次いで科料9,000円が39件でした。
169件が略式命令によって処理されており、公開の法廷で審理された事例は4件です。 - 告訴状を受け取ってもらえませんでした。
-
どの書き込みのどの表現が、どの罪のどの要件にあたるのかを整理したうえで提出すれば、判断がしやすくなります。
投稿者がすでに特定されていれば、捜査の負担も小さくなります。資料を整えて改めて提出することを検討してください。
- 被害届と告訴のどちらがよいですか。
-
名誉毀損罪や侮辱罪で処罰を求めるのであれば、告訴が必要です。
被害届を出しただけでは起訴の要件を満たしません。他方、告訴は受理されるまでの負担が大きいため、まず被害届を提出し、捜査の状況を見てから告訴に進むという方法もあります。
- 相手から示談の申入れがありました。応じるべきですか。
-
応じるかどうかは、こちらが決めることです。
告訴を取り下げれば起訴されないため、加害者にとっては大きな意味があります。
応じる場合には、金銭の支払いだけでなく、投稿の削除と今後同様の投稿をしないことを条件に含めることを検討してください。
まとめ
この記事の要点は次のとおりです。
- 刑事告訴は処罰を求める手続であり、賠償も削除も実現しない
- 名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪であり、告訴は犯人を知った日から6か月以内に行う
- 匿名の投稿では、投稿者が判明した時点からこの期間が進み始める
- 侮辱罪の事例173件のうち169件が略式命令によって処理されている
- インターネット上の事案では罰金10万円以上が8割近くを占める
- 告訴が受理されると、加害者側から示談の申入れがされることがある
何を最も求めているかによって、進むべき手続が変わります。
処罰を求めるのか、賠償を求めるのか、投稿を消したいのかを整理したうえで、方針を決めることになります。
当事務所では、刑事弁護とインターネット上の誹謗中傷の双方を取り扱っています。
告訴状の作成から、投稿者の特定、損害賠償の請求まで、当事務所にご相談ください。
投稿者の特定には通信記録の保存期間という制約があり、告訴にも期間の制限があります。
お早めにご相談ください。
インターネットの誹謗中傷等の弁護士費用・対応の流れについてはこちら
当事務所の弁護士へのご相談等はこちらから