【この記事の結論・要約】
- ダブル不倫では、不倫をした2人の配偶者がどちらも被害者となり、それぞれが慰謝料を請求できます。双方の請求を同じ裁判で判断した裁判例もあります。ただし、2つの請求は請求する人も請求される人も異なるため、法律上の相殺はできません。夫婦が家計を同じくしている場合、支払う慰謝料と受け取る慰謝料が同じ家庭の中で行き来する結果になることがあります。
- 不倫相手から慰謝料を受け取っても、不倫相手から自分の配偶者に負担を求められること(求償)があります。不倫をした2人の間の負担の割合について、不倫をした配偶者の負担を6割や7割とした裁判例があります。また、夫婦の間で慰謝料を免除しても、不倫相手の責任は当然には消えないとした最高裁判決があり、誰と誰の間で何を取り決めるかによって結果が変わります。
- 双方の夫婦が離婚するかどうか、相手の配偶者が不倫を知っているかどうかによって、取るべき対応は異なります。4人全員で和解する方法もありますが、向かない場合もあるため、状況を整理してから方針を決める必要があります。
はじめに
不倫をした2人がどちらも既婚者である場合を、一般に「ダブル不倫」(W不倫)と呼びます。
ダブル不倫では、被害を受けた配偶者が2人いるため、慰謝料を請求する人と請求される人の関係が、通常の不倫よりも複雑になります。
配偶者の不倫相手に慰謝料を請求したところ、今度は相手の配偶者から自分の配偶者が請求された、という形で紛争が広がることもあります。
反対に、不倫をした側にとっては、自分の配偶者に知られないまま解決できるのか、不倫相手との関係はどうなるのかが問題になります。
本稿では、ダブル不倫で誰が誰に慰謝料を請求できるか、慰謝料は相殺できるか、求償の問題、双方の夫婦が離婚するかどうかによる対応の違い、4者間和解で取り決める内容を、最高裁判決と民法の条文をもとに解説します。
あわせて、ダブル不倫で慰謝料を請求された場合の注意点も取り上げます。
ダブル不倫で慰謝料を請求できる人・請求される人
被害者が2人、加害者も2人いる
説明のため、次の4人を例にします。
- Aさん:不倫をした夫
- Bさん:Aさんの妻
- Cさん:Aさんの不倫相手(既婚の女性)
- Dさん:Cさんの夫
性別が逆の場合も、考え方は同じです。
AさんとCさんの不倫によって、Bさんは自分の婚姻生活を、Dさんも自分の婚姻生活を害されたことになります。
そのため、BさんとDさんの2人が、それぞれ慰謝料を請求できる立場にあります。
| 請求する人 | 請求できる相手 |
|---|---|
| Bさん(Aさんの妻) | Aさん(自分の夫)、Cさん(夫の不倫相手) |
| Dさん(Cさんの夫) | Cさん(自分の妻)、Aさん(妻の不倫相手) |
夫婦が婚姻を続ける場合は、自分の配偶者には請求せず、配偶者の不倫相手にだけ請求することが考えられます。
そのため、本稿では主に、BさんがCさんに、DさんがAさんに請求する場面を取り上げます。
不倫の慰謝料を請求する場合の全体の流れについては、以下の記事で解説しています。

不倫をした2人は、連帯して責任を負う
不倫は、配偶者の婚姻共同生活の平和を害する不法行為です(民法709条)。
不倫をした2人は、共同して不法行為をしたものとして、連帯して責任を負います。
民法719条1項は、次のように定めています。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
Bさんから見ると、夫のAさんと不倫相手のCさんの両方に請求でき、どちらに請求するか、どちらにいくら請求するかを選ぶことができます。
ただし、2人から合わせて受け取れる金額は、損害全体の額が上限です。
たとえば、慰謝料が全体で100万円と評価される場合に、Cさんから100万円を受け取れば、さらにAさんから受け取ることはできません。
不倫相手には、原則として離婚慰謝料は請求できない
BさんがAさんと離婚する場合でも、Cさんに請求できるのは、原則として不倫そのものによる慰謝料です。
最高裁平成31年2月19日判決(平成29年(受)第1456号・民集73巻2号187頁)は、不倫相手が、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどの特段の事情がない限り、不倫相手に離婚に伴う慰謝料を請求することはできないと判断しています。
離婚に伴う慰謝料は、夫婦の間で請求するものになります。
相手が既婚者だと知らなかった場合
不倫相手が慰謝料を支払う責任を負うのは、相手が既婚者であることを知っていた場合か、注意すれば知ることができた場合です。
ダブル不倫では、自分が既婚者であることはわかっていても、相手が既婚者であることは知らなかったという場面もあり得ます。
たとえば、DさんがAさんに請求する場合に問題になるのは、AさんがCさんを既婚者と知っていたかどうかです。
相手が既婚者だと知らなかった場合の責任については、以下の記事で解説しています。

ダブル不倫の慰謝料は相殺できるか
法律上の相殺はできない
お互いに慰謝料を請求できるのだから、相殺すればよいと考える方もいます。
しかし、法律上の相殺は、2人が互いに同じ種類の債務を負っている場合にできるものです。
民法505条1項は、次のように定めています。
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
ダブル不倫で生じる2つの請求は、「BさんからCさんへの請求」と「DさんからAさんへの請求」であり、請求する人も請求される人も異なります。
BさんとDさんの間にも、AさんとCさんの間にも、互いに支払う関係があるわけではないため、相殺の要件を満たしません。
夫婦の財産は別々でも、家計が同じなら同じ家庭の中でお金が行き来する
民法は、夫婦の一方が婚姻前から持っている財産と、婚姻中に自分の名義で得た財産を、その人の財産(特有財産)としています(民法762条1項)。
そのため、法律上は、Aさんが支払う慰謝料はAさんの財産から出ていき、Bさんが受け取る慰謝料はBさんの財産になります。
もっとも、AさんとBさんが離婚せずに家計を同じくしている場合、AさんからDさんへの支払と、CさんからBさんへの支払は、実際には同じ家庭のお金の出入りになります。
CさんとDさんの家庭についても同じです。
双方の金額が近ければ、手間と費用をかけて請求し合っても、それぞれの家計はほとんど変わらない結果になります。
相殺に近い解決は、合意によって行う
法律上の相殺ができなくても、4人全員が合意すれば、互いに請求しないことや、金額の差額だけを支払うことを取り決めることができます。
このような合意を、一般に「4者間和解」と呼びます。
4者間和解で取り決める内容は、後の章で取り上げます。
ダブル不倫の慰謝料の金額
金額は、通常の不倫と同じ事情から判断される
不倫相手も既婚者であることは、慰謝料の金額を決める事情として法律に定められたものではありません。
金額は、通常の不倫と同じく、不倫の期間や回数、婚姻期間、不倫の前の夫婦関係、不倫によって夫婦が離婚や別居に至ったかどうか、交際の経緯などの事情を総合して判断されます。
慰謝料の金額を左右する事情と、減額の交渉については、以下の記事で解説しています。

双方の慰謝料をまとめて判断した裁判例
ダブル不倫では、双方の配偶者がそれぞれ訴訟を起こし、同じ裁判所で一緒に審理されることがあります。
東京地裁平成24年12月14日判決(平成23年(ワ)第33692号・平成24年(ワ)第4312号)は、既婚の男女が約9年間にわたって不倫を続けた事案です。
女性の夫が男性に500万円を、男性の妻が女性に300万円を請求しました。
女性は、男性の夫婦の婚姻関係は破綻していると信じていたと主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
そのうえで、どちらが交際を主導したかについて、次のように述べています。
したがって,被告Y1と被告Y2が不貞行為に及び,その期間が長期に及んでいることについては,双方にその責任があるものというべきであって,いずれか一方により多くの責任があるものとはいえない。
ここでいう「被告Y1」は男性、「被告Y2」は女性を指します。
裁判所は、双方の夫婦がいずれも婚姻を続けていることや、不倫の期間が長いこと、不倫が発覚した後の経過などを考慮し、2人の配偶者にそれぞれ250万円の慰謝料を認めました。
東京地裁平成25年11月29日判決(平成24年(ワ)第18303号ほか)も、既婚の男女の約11か月間の不倫について、双方の配偶者の請求をあわせて判断した事案です。
女性の夫が男性に300万円を、男性の妻が女性に慰謝料400万円と弁護士費用40万円を請求し、裁判所は、2人の配偶者にそれぞれ150万円の慰謝料を認めました。
男性の妻には、これに加えて弁護士費用15万円が認められています。
この2件は、いずれも双方の夫婦が婚姻を続けていた事案であり、結果として双方の慰謝料は同じ額になっています。
もっとも、東京地裁平成25年11月29日判決は、それぞれの夫婦の婚姻期間や、不倫をした側の対応などを夫婦ごとに検討したうえで金額を決めています。
一方の夫婦だけが別居や離婚に至った場合など、2組の夫婦の事情が異なれば、金額に差が出る可能性があります。
金額に差がある場合、4者間和解で互いに請求しないことにすると、本来受け取れる金額が大きい側が不利になることがあります。
どちらが交際に積極的だったかの扱い
慰謝料を請求された側からは、不倫に積極的だったのは相手のほうだという主張がされることがあります。
この点について、東京地裁平成25年11月29日判決は、次のように述べて、金額を決める事情として考慮しませんでした。
なお、被告Cと被告Bのどちらが主導的、積極的に不貞に及び、これを継続したかについては、証拠上いずれとも決し難い上、そのような事情はあくまで共同不法行為者相互間の内部問題にすぎず、不法行為の被害者に対しては、当該不法行為と相当因果関係のある損害全部につき、賠償責任を免れることはできないのであるから、特に慰謝料額に影響する事情としては考慮しないものとする(原告Dについても同様である。)。
ここでいう「被告C」は男性、「被告B」は女性、「原告D」は男性の妻を指します。
一方、東京高裁昭和60年11月20日判決(昭和59年(ネ)第3003号・判例時報1174号73頁)は、夫が経営する会社の従業員と妻が不倫をした事案で、夫が従業員に慰謝料を請求したものです。
裁判所は、次のように述べて、第一審が認めた500万円を200万円に減額しました。
(中略)合意による貞操侵害の類型においては、自己の地位や相手方の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて相手方の意思決定を拘束したような場合でない限り、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものとみるべきである。
この判決は、妻が雇用主の妻として従業員より優越した立場にあったことも考慮しています。
このように、交際の経緯や、不倫をした配偶者と不倫相手の責任の重さをどう扱うかについては、裁判例によって判断が分かれています。
ダブル不倫で問題になる求償
求償とは
不倫をした2人は連帯して責任を負うため、被害を受けた配偶者は、どちらに対しても慰謝料の全額を請求できます。
もっとも、不倫をした2人の間では、それぞれの責任の割合に応じた負担部分があり、一方が自分の負担部分を超えて支払った場合には、超えた部分をもう一方に請求できます。
これを求償といいます。
たとえば、CさんがBさんに慰謝料を支払った場合、Cさんは、自分の負担部分を超えて支払った分について、不倫をしたもう一人であるAさんに支払を求めることができます。
後で紹介する2件の裁判例は、いずれも、被害を受けた配偶者の損害(慰謝料)の全体の額に、それぞれの責任の割合を掛けて負担部分を計算しています。
なお、2件の裁判例はいずれも改正前の民法が適用された事案であり、自分の負担部分を超えて支払ったことを求償の条件としています。
令和2年施行の改正民法442条1項は、連帯債務者について、負担部分を超えるかどうかにかかわらず求償できると定めましたが、不倫のような共同不法行為による責任にこの規定が適用されるかについては議論があります。
求償の負担部分を判断した裁判例
東京地裁令和3年1月12日判決(令和元年(ワ)第22231号)は、既婚者同士の不倫の事案です。
妻は、不倫が発覚した後、自分の夫に慰謝料200万円を支払いました。
夫は不倫相手の男性も訴え、男性は夫に解決金160万円を支払う和解をしました。
その後、妻が、男性に対して求償を求めたのが本件です。
裁判所は、交際の始まりや、その後の交際の継続について、どちらか一方に重く帰責することはできないとしつつ、交際の後半では妻のほうが積極的だったことを一定程度考慮しました。
そのうえで、次のように述べています。
以上に加え,訴外Aに対して配偶者としての義務を負うのは原告であることも考慮すると,本件不貞行為に係る責任割合は,原告6に対して被告4と認めるのが相当である。
ここでいう「訴外A」は夫、「原告」は妻、「被告」は不倫相手の男性を指します。
裁判所は、夫の慰謝料を360万円と算定し、妻の負担部分をその10分の6の216万円としました。
妻が夫に支払ったのは200万円で、負担部分の216万円を超えていないため、妻の求償は認められませんでした。
東京地裁令和3年2月25日判決(令和2年(レ)第14号)は、妻のいる男性と独身の女性の不倫の事案です。
女性は男性の妻に和解金50万円を、男性は自分の妻に慰謝料80万円を支払っていました。
女性が、男性に対して求償を求めたところ、裁判所は次のように判断しました。
前記認定事実によれば,控訴人は,平成29年7月頃,被控訴人に対し,結婚したい旨のLINEメッセージを送信するなどして,積極的に被控訴人との不貞関係を発展させたことが認められ,これによれば控訴人の妻に対して負う損害賠償債務の割合は,控訴人がその過半を負うべきものといわざるを得ない。他方,被控訴人は,控訴人が婚姻していることを知りながら,また,婚姻関係が破たんしている等の控訴人の言について確たる根拠を伴うものであるか否か確認することなくこれを信じ,不貞行為に及んだことが認められるのであるから,控訴人とその妻との間の婚姻共同生活の平和の侵害に対する被控訴人の寄与の程度も軽視すべきではない。その他諸般の事情を考慮すると,控訴人と被控訴人が控訴人の妻に対して負う損害賠償債務の負担割合としては,控訴人7割,被控訴人3割とするのが相当である。
ここでいう「控訴人」は男性、「被控訴人」は女性を指します。
裁判所は、2人が男性の妻に対して負う損害賠償債務を、2人が支払った合計130万円とし、女性の負担部分をその3割の39万円としたうえで、女性が支払った50万円のうち、これを超える11万円について求償を認めました。
この2件は、いずれも不倫をした配偶者の負担部分を不倫相手より大きくしています。
令和3年1月12日判決は、被害を受けた夫に対して配偶者としての義務を負うのが妻であることを、理由の一つとして明示しました。
また、2件とも、どちらが交際に積極的だったかという交際の経緯を、責任の割合を決める事情として考慮しています。
先に紹介した東京地裁平成25年11月29日判決が、どちらが主導的、積極的だったかを「共同不法行為者相互間の内部問題」と位置づけたことと合わせてみると、交際の経緯は、被害者に支払う金額を決める場面だけでなく、不倫をした2人の間の求償の場面でも問題になる事情といえます。
ダブル不倫では、責任の割合は、被害を受けた配偶者ごとに考えることになります。
Bさんに対する責任ではAさんが、Dさんに対する責任ではCさんが、それぞれ配偶者の立場にあります。
家計が同じなら、受け取った慰謝料の一部が出ていく
AさんとBさんが離婚せずに家計を同じくしている場合、Cさんからの求償に応じてAさんが支払うお金は、実際にはBさんの家庭から出ていくことになります。
Bさんにとっては、Cさんから受け取った慰謝料の一部が、Aさんを通じてCさんに戻る結果になります。
そのため、Cさんに請求する際には、Cさんが求償をしないと約束すること(求償権の放棄)を条件に、金額を調整する方法が考えられます。
反対に、Cさんの側からは、求償権を放棄する代わりに、慰謝料の減額を求めることがあります。
配偶者を許しても、不倫相手の責任は当然には消えない
Bさんが夫のAさんを許し、Aさんには慰謝料を請求しないと約束した場合、Cさんの責任はどうなるかが問題になります。
最高裁平成6年11月24日判決(平成4年(オ)第1814号・判例時報1514号82頁)は、妻が、夫との離婚調停で「名目の如何を問わず互いに金銭その他一切の請求をしない」と合意した後に、夫の不倫相手に慰謝料を請求した事案です。
最高裁は、次のように述べて、この合意による免除の効力は不倫相手には及ばないと判断しました。
(中略)被上告人に対する関係では、後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべきであり、本件調停による債務の免除は、被上告人に対してその債務を免除する意思を含むものではないから、被上告人に対する関係では何らの効力を有しないものというべきである。
ここでいう「被上告人」は、不倫相手を指します。
最高裁は、妻が調停成立から4か月を経過しない間に不倫相手を訴えていたことなどから、妻には不倫相手の債務まで免除する意思はなかったと判断しました。
この判決は改正前の民法を前提としたものですが、現行の民法でも、連帯して債務を負う者の1人に生じた免除などの事由は、原則として他の者に効力を生じないと定められています(民法441条)。
ダブル不倫では、この点が求償にも関係します。
BさんがAさんの責任だけを免除しても、Cさんの責任は残り、CさんがBさんに支払った後に、Aさんに求償することも考えられます。
現行の民法には、連帯して債務を負う者の1人が免除を受けた場合でも、他の者はその人に求償できるとする規定があります(民法445条)。
ただし、不倫のような共同不法行為による責任に、これらの規定がどこまで適用されるかについては議論があります。
誰と誰の間で、何を免除し、何を放棄するのかを明確にしておかないと、一部の人の間だけで合意しても、紛争が終わらないことがあります。
状況別に見るダブル不倫の対応
双方の夫婦が離婚せず、双方の配偶者が不倫を知っている場合
双方の夫婦が婚姻を続ける場合、BさんがCさんに、DさんがAさんに請求すると、2つの家庭の間でお金が行き来することになります。
双方の金額が近ければ、4者間和解で互いに請求しないことを取り決める方法が考えられます。
金額に差がある場合は、差額の支払を取り決めることもあります。
ただし、BさんとDさんの請求は別々の権利であり、どちらも、相手方の請求とは関係なく自分の請求を行うことができます。
また、慰謝料を家計とは別の財産、たとえば婚姻前からの預金から支払う場合には、家計の中でお金が行き来するだけとはいえません。
相手の配偶者が不倫を知らない場合
Bさんだけが不倫を知っていて、Dさんは知らない場合、BさんがCさんに請求すると、その過程でDさんが不倫を知る可能性があります。
Dさんが不倫を知れば、DさんからAさんに慰謝料が請求され、AさんとBさんの家計から支払うことになるおそれがあります。
また、CさんからAさんへの求償も考えられるため、Bさんの手元に残る金額は、受け取った金額より少なくなることがあります。
Bさんとしては、Cさんに請求するかどうか、請求する場合に求償権の放棄を求めるかどうかを、これらの点を踏まえて判断する必要があります。
一方、Cさんの立場からは、Dさんに知られずに解決できるかが関心事になります。
もっとも、BさんとCさんの間で合意しても、Dさんが持つ慰謝料の請求権には影響しません。
Dさんが後に不倫を知った場合には、DさんからAさんへの請求が生じ得ることを前提に考える必要があります。
時効との関係でも違いがあります。
Bさんの請求権は、Bさんが不倫と不倫相手を知った時から時効期間が進みますが(民法724条1号)、Dさんがまだ不倫を知らない場合、この3年の時効期間は進み始めていません。
一方の夫婦だけが離婚する場合
AさんとBさんが離婚し、CさんとDさんが婚姻を続ける場合、AさんとBさんの家計は別々になります。
Bさんが受け取った慰謝料は、DさんからAさんへの請求や、CさんからAさんへの求償によって減ることはないため、Cさんに請求することに経済的な意味があります。
一方、Aさんは、離婚に伴ってBさんから慰謝料を請求されるとともに、Dさんからも請求される立場になります。
Aさんが慰謝料を支払った後にCさんに求償すれば、その支払はCさんとDさんの家計から出ていくことになります。
このように、一方の夫婦だけが離婚する場合は、互いに請求しないという4者間和解はなじみにくく、それぞれの請求と求償を個別に整理することになります。
双方の夫婦が離婚する場合
双方の夫婦が離婚する場合は、それぞれの夫婦の離婚の話合いの中で、慰謝料が問題になります。
不倫相手に請求できるのが、原則として不倫そのものによる慰謝料に限られる点(最高裁平成31年2月19日判決)は、この場合も同じです。
家計が別々になるため、4人で互いに請求しないことを取り決める必要性は低くなりますが、不倫をした2人の間の求償の問題は残ります。
4者間和解で取り決める内容
4人全員を当事者にする理由
4者間和解は、不倫をした2人と、それぞれの配偶者の4人全員が当事者となり、慰謝料と求償の問題をまとめて解決する合意です。
BさんとCさんの2人だけで合意しても、DさんからAさんへの請求や、CさんからAさんへの求償は、合意の外に残ります。
最高裁平成6年11月24日判決のとおり、一部の人の間でした免除は、その意思が及ばない人との関係では効力を持たないため、紛争を終わらせるには、4人全員が合意に加わる必要があります。
先に紹介した東京地裁令和3年1月12日判決の事案では、妻が夫に慰謝料を支払い、不倫相手の男性も夫と和解して解決金を支払った後に、妻から男性への求償が問題になりました。
さらに、男性の妻も、妻を相手に慰謝料を請求する訴訟を起こしています。
一部の人の間で個別に解決を重ねると、このように、後から求償や別の請求が続くことがあります。
取り決める主な内容
4者間和解では、主に次の内容を取り決めます。
- 不倫関係を解消し、今後連絡や接触をしないこと
- 慰謝料(解決金)を支払うかどうか、支払う場合の金額と支払方法
- 不倫をした2人の間の求償権を放棄すること
- 不倫について第三者に口外しないこと
- 約束に違反した場合の違約金
- 4人の間に、この件について合意書に定めたもののほかに債権債務がないことを確認すること(清算条項)
求償権の放棄は、合意書に明記しておく必要があります。
先に紹介した東京地裁令和3年2月25日判決では、男性が、女性は和解の際に求償権を放棄したと主張しましたが、裁判所は次のように述べて、この主張を退けています。
控訴人は,本件和解の成立に際し,被控訴人が本件和解金支払債務に関する求償権を放棄したと主張するが,本件和解に係る和解調書(甲1)にその旨の記載はなく,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はないから,控訴人の主張は採用できない。
ここでいう「控訴人」は男性、「被控訴人」は女性を指します。
求償権を放棄することを前提に金額を決めた場合でも、その旨が書面に残っていなければ、後から求償を求められるおそれがあります。
示談書(合意書)の記載事項については、以下の記事で解説しています。

違約金を定める場合の注意点については、以下の記事で解説しています。

4者間和解が向かない場合
4者間和解は、双方の夫婦が婚姻を続け、慰謝料の金額にも大きな差がない場合に適した方法です。
次のような場合は、4者間和解が向かないことがあります。
- 一方または双方の夫婦が離婚する場合
- 双方の慰謝料の金額に大きな差がある場合
- 相手の配偶者が不倫を知らず、知らせたくない場合
- 一方の配偶者が、相手方の請求とは関係なく、自分の請求を行いたいと考えている場合
4者間和解には4人全員の合意が必要なため、相手の配偶者が不倫を知らない場合には、そもそも成立させることができません。
双方の配偶者が不倫を知っていても、全員が応じなければ成立しません。
先に紹介した東京地裁平成25年11月29日判決の事案では、男性の代理人弁護士から、男性と女性の双方が慰謝料を支払わない形で解決できるのであれば、男性の妻の請求を放棄する書面を作成する、という提案がされていました。
しかし、この形での解決には至らず、双方の配偶者がそれぞれ訴訟を起こしています。
ダブル不倫で慰謝料を請求された場合
請求の前提となる事実を確認する
慰謝料を請求する書面が届いたら、まず、請求の前提となる事実が正しいかを確認します。
肉体関係があったか、相手が既婚者であることを知っていたか、不倫が始まる前に相手の夫婦の婚姻関係が破綻していなかったか、時効が完成していないかといった点です。
どのような関係が不貞行為に当たるかについては、以下の記事で解説しています。

内容証明郵便が届いた場合の対応については、以下の記事で解説しています。

自分の配偶者に知られずに解決できるか
ダブル不倫で請求を受けた側にとっては、自分の配偶者に知られずに解決できるかが大きな問題になります。
弁護士に依頼すれば、相手方からの連絡を弁護士宛てにするよう求めることができ、自宅に書面が届くことを避けられる場合があります。
ただし、相手方が裁判を起こした場合には、訴状が自宅に届く可能性があり、配偶者に知られずに進めることが難しくなる場面もあります。
また、配偶者に知られずに相手方と合意できても、自分の配偶者が後に不倫を知れば、自分の配偶者から不倫相手への請求が生じ得ます。
その場合、不倫相手から自分に求償されることも考えられるため、合意の内容はこの点も踏まえて検討する必要があります。
不倫相手と口裏を合わせない
請求を受けると、不倫相手と連絡を取り、説明を合わせようと考えることがあります。
しかし、不倫をした2人の間では、求償や負担部分をめぐって利害が対立する場面があります。
また、請求を受けた後も不倫相手と連絡を取り続けると、関係が続いていると受け取られ、交渉で不利に扱われるおそれがあります。
相手の配偶者に直接連絡をとり、感情的なやり取りになることも避けるべきです。
減額や求償権の放棄を交渉する
請求された金額が妥当かどうかは、不倫の期間や回数、相手の夫婦が離婚したかどうかなどの事情から判断します。
ダブル不倫の場合は、求償権を放棄する代わりに減額を求める方法や、相手の配偶者も含めた4者間和解を提案する方法も考えられます。
慰謝料を請求された場合の対応全体については、以下の記事で解説しています。

請求された慰謝料を支払えない場合については、以下の記事で解説しています。

ダブル不倫でしてはいけない対応
不倫をされた側が、不倫相手の勤務先に不倫を知らせたり、SNSに書き込んだりすると、名誉毀損罪(刑法230条)に当たる可能性があり、損害賠償を請求される立場になることもあります。
また、「慰謝料を払わなければ配偶者に知らせる」と告げて支払を求めることは、要求の内容や方法によっては恐喝罪(刑法249条)に当たる可能性があります。
ダブル不倫では、相手の配偶者に不倫を知らせるかどうかが交渉の中で問題になる場面があるため、特に注意が必要です。
なお、東京地裁平成25年11月29日判決は、女性の夫が、男性が指導していた空手道場の師範に不倫の事実を伝えたことについて、プライバシーの侵害には当たらないと判断しました。
ただし、これは、男性が道場の指導者でありながら受講生である女性と不倫をしたこと、不倫が発覚した後も誠実さに欠ける対応をしていたこと、女性の夫が道場に通う子どもの保護者でもあったことなどを考慮した判断です。
第三者に不倫を伝えることが一般に許されるわけではありません。
不倫をめぐって犯罪になる行為については、以下の記事で解説しています。

ダブル不倫の慰謝料請求の時効
不倫の慰謝料を請求する権利は、損害と加害者を知った時から3年、不倫の時から20年で、時効によって消滅します(民法724条)。
ダブル不倫では、BさんとDさんが不倫を知った時期が異なれば、時効期間が進み始める時期も異なります。
4者間の話合いが長引いている間に、自分の請求権の時効期間だけが進むこともあるため、注意が必要です。
不倫の慰謝料の時効については、以下の記事で解説しています。

よくある質問(FAQ)
- 不倫相手の配偶者に、慰謝料を請求できますか?
-
不倫相手の配偶者は不倫をしておらず、むしろ被害を受けた立場にあるため、慰謝料を請求することはできません。
請求できるのは、不倫をした自分の配偶者と、その不倫相手です。 - お互いの夫婦が離婚しない場合、慰謝料を請求する意味はありますか?
-
家計を同じくしている場合、相手の配偶者から自分の配偶者に請求されたり、不倫相手から自分の配偶者に求償されたりすると、受け取った慰謝料の多くが家計から出ていく可能性があります。
ただし、相手の配偶者が請求しない場合や、金額に差がある場合などは、請求する意味があるため、事情を整理して判断する必要があります。
- 不倫相手の配偶者に知られずに、不倫相手に慰謝料を請求できますか?
-
不倫相手本人に宛てて請求し、交渉することは可能です。
ただし、交渉や裁判の過程で相手の配偶者が不倫を知る可能性はあり、その場合には、相手の配偶者から自分の配偶者に慰謝料が請求され得ることを前提に考える必要があります。
- 4者間和解をした後に、改めて慰謝料を請求されることはありますか?
-
4人全員が当事者となり、清算条項を定めていれば、合意の対象となった不倫について改めて請求することは原則としてできません。
ただし、合意の後に接触禁止に違反した場合などは、違約金や新たな慰謝料を請求される可能性があります。
- 不倫に積極的だったのは相手なのに、相手の配偶者と同じ額を払わなければならないのですか?
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どちらが交際を主導したかを金額で考慮しなかった裁判例と、不倫をした配偶者の責任を主たるものとみて不倫相手の金額を減らした裁判例があり、判断は分かれています。
一方、不倫をした2人の間の求償では、交際の経緯を考慮して負担の割合を決めた裁判例があるため、金額と求償をあわせて検討する必要があります。 - 配偶者と不倫相手の両方から、慰謝料を受け取ることはできますか?
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両方に請求すること自体はできますが、2人から受け取れる金額の合計は、損害全体の額が上限です。
一方から十分な額を受け取った場合、もう一方に重ねて請求することはできません。 - 単身赴任中にダブル不倫をされた場合も、慰謝料を請求できますか?
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単身赴任は夫婦関係の悪化とは関係のない理由による別居であり、婚姻関係の破綻を示す事情にはなりません。
そのため、通常のダブル不倫と同じく、慰謝料を請求することができます。
まとめ
- ダブル不倫では、不倫をした2人の配偶者がそれぞれ被害者となり、不倫をした2人は連帯して責任を負う(民法719条1項)。
- 2つの請求は請求する人も請求される人も異なるため、法律上の相殺はできず(民法505条1項)、相殺に近い解決は4人全員の合意によって行う。
- 双方の請求をまとめて判断した裁判例には、双方の夫婦が婚姻を続けていた事案で、2人の配偶者に同じ額の慰謝料を認めたものがある。どちらが交際を主導したかの扱いは、裁判例によって分かれている。
- 夫婦が家計を同じくしている場合、受け取った慰謝料が、相手方からの請求や求償によって同じ家庭から出ていくことがある。
- 求償の負担部分を判断した裁判例には、不倫をした配偶者の負担を6割または7割としたものがあり、交際の経緯も考慮されている。
- 夫婦の間で慰謝料を免除しても、不倫相手の責任は当然には消えない(最高裁平成6年11月24日判決)。
- 双方の夫婦が離婚するかどうか、相手の配偶者が不倫を知っているかどうかによって、取るべき対応は異なる。
- 4者間和解では、求償権の放棄や清算条項など、紛争を終わらせるための条項を4人全員で取り決め、書面に明記する必要がある。
当事務所では、不倫の慰謝料を請求したい方からのご相談と、慰謝料を請求された方からのご相談の両方をお受けしています。
ダブル不倫は、4人の間で請求と求償が絡み合うため、一部の人の間だけで合意しても紛争が終わらないことがあります。
配偶者のダブル不倫がわかった場合や、不倫相手の配偶者から慰謝料を請求された場合は、当事務所にご相談ください。
相手方と合意する前に、お早めにご相談ください。
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