【この記事の結論・要約】
- 民法723条により、損害賠償とは別に、名誉を回復するのに適当な処分を求められます。謝罪広告や訂正記事の掲載がこれにあたります。
- もっとも、裁判所が命じる例は限られています。金銭賠償では回復できない場合に限られるとされており、賠償で足りると判断されることが多くあります。
- 実務では、示談の内容として謝罪文の交付や投稿の削除を約束させる方法が現実的です。裁判所に命じてもらう場合と比べ、内容を柔軟に決められます。
はじめに
誹謗中傷の被害を受けた方から、「金銭よりも謝罪してほしい」というご要望を受けることがあります。
書き込まれた内容が事実と違うのであれば、そのことを明らかにしてほしい、周囲に誤解されたままなのが耐えられない、というお気持ちは自然なものです。
この記事では、法律上どのような請求ができるのか、裁判所がどのような場合に認めているのか、実務ではどのような方法をとることになるのかを解説します。
金銭以外の解決を求める根拠
民法723条
民法723条は、次のとおり定めています。
(名誉毀き損における原状回復)
第七百二十三条
「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」
損害賠償に代えて求めることも、損害賠償と併せて求めることもできます。
実務では、損害賠償と併せて請求するのが通例です。
何のための制度か
この制度の趣旨について、神戸地裁尼崎支部平成20年11月13日判決は次のとおり述べています。
「民法七二三条が名誉を毀損された被害者の救済処分として、金銭による損害賠償に代えて、又はそれとともに、名誉を回復するのに適当な処分を命じうることを規定している趣旨は、加害者に対して制裁を加えたり、また、加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えるためではなく、金銭による損害賠償のみでは填補されえない、毀損された被害者の名誉を回復することを可能ならしめるためであるから、謝罪広告等の原状回復処分をもって救済するに適するのは被害者の名誉の回復が金銭による損害賠償のみでは填補されえない場合に限られるというべきである。」
ここで重要なのは、加害者に制裁を加えるための制度でも、被害者に納得を与えるための制度でもないとされている点です。
謝らせたいという気持ちがあっても、それ自体が理由にはなりません。
金銭賠償だけでは名誉が回復できないかどうかが問われます。
謝罪の強制は違憲ではない
謝罪を強制することが、憲法19条が保障する思想及び良心の自由に反しないかが争われたことがあります。
最高裁大法廷昭和31年7月4日判決は、次のとおり判示しました。
「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものにあつては、これが強制執行も代替作為として民訴七三三条の手続によることを得るものといわなければならない。」
事実を告げて陳謝の意を表明する程度の内容であれば、強制執行によって実現できるとしたものです。
相手が応じない場合には、裁判所の手続によって掲載させることができます。
求められる内容
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 謝罪広告 | 陳謝の意を表明する文章を掲載させる |
| 訂正記事・取消記事 | 記載した内容が事実と異なることを明らかにさせる |
| 謝罪文の掲載 | ウェブサイトに謝罪の文章を掲載させる |
掲載する媒体、大きさ、文字の大きさ、掲載する期間まで、判決で指定されます。
名誉毀損が行われた場所に掲載させるのが基本
謝罪広告を命じた裁判例を見ると、名誉毀損が行われた媒体での掲載を命じるものが中心です。
東京地裁平成10年9月25日判決は、大蔵官僚に関する写真週刊誌の記事について、その週刊誌への謝罪広告の掲載を命じました。
原告は日刊紙4紙への掲載も求めていましたが、この点は認められませんでした。
「本件記事を掲載したフライデーの新聞広告が右の日刊新聞紙上に掲載されるなどして、フライデーの読者以外の者に、同記事の記載内容の一部が知られるに至ったとしても、その影響は間接的なものにすぎないから、右日刊紙上にまで謝罪広告の掲載を命ずるのは過大な措置といわざるを得ない。」
情報が出た場所で訂正するのが合理的であり、それを超える範囲は過大とされています。
認められる場合は限られる
必要性が特に高い場合に限られる
前掲の東京地裁平成10年9月25日判決は、認める前提として次のとおり述べています。
「謝罪広告については、その性質上、その必要性が特に高い場合に限って命ずるのが相当ではあるが、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告が毀損された名誉は、右の損害賠償のみでは未だ回復されていないものと認めるのが相当であるから、本件はその必要性が特に高い場合に当たるものというべきである。」
この事案では、公務員である原告が職務上知った情報を私的に利用したという内容が報じられており、公正さを求められる立場への影響が大きいと判断されました。
最も多い否定の理由
認められない場合の理由として最も多いのは、金銭賠償で足りるというものです。
東京地裁平成15年7月25日判決は、週刊誌の記事について名誉毀損を認めたうえで、次のとおり判断しました。
「原告らは謝罪広告も請求しているが,以上の金銭賠償に加えて,謝罪広告を掲載しなければ原告らの損害を填補することができないとの事情までは認めることができないので,原告らの謝罪広告の掲載請求は理由がない。」
名誉毀損が認められたからといって、謝罪広告も認められるわけではありません。
判断で考慮される事情
どれだけ広まったか
前掲の神戸地裁尼崎支部平成20年11月13日判決は、月刊誌の記事について、次の事情を挙げて謝罪広告を認めませんでした。
- 掲載誌の実売部数が約4万部にとどまること
- 記事の内容が新聞広告や電車内の吊り広告に表示されていなかったこと
- 記事の標題や執筆者名が表紙に記載されていなかったこと
- 発行から2年以上が経過しているが、その間に原告の活動に大きな支障が生じた事実が認められないこと
名誉毀損にあたるかどうかは、記載の内容から社会的評価が低下するおそれがあるかを判断します。
これに対し、謝罪広告の要否では、実際にどれだけの被害が生じたかが問われることになります。
自分で回復できる立場にあるか
東京地裁平成31年4月19日判決は、芸能事務所とその代表取締役が週刊誌の記事について謝罪広告を求めた事案について、次のとおり判断しました。
「原告会社は大手の芸能事務所であり,原告Aはその代表取締役かつ音事協の常任理事を務める者でもあるから,自ら名誉の回復を図ることが一定程度は可能であることなどを考慮すれば,毀損された原告らの名誉を回復する手段としては,上記認定の金銭賠償をもって足り,それに加えて,謝罪広告の掲載を認める必要性まで認めることはできない。」
この事案では、名誉毀損による損害額として会社に500万円、代表取締役に100万円が認められています。
それでも謝罪広告は認められませんでした。
自ら発信する手段を持っている場合には、それによって回復できるという判断がされることがあります。
名誉毀損の態様
同判決は、記事のうち名誉毀損が成立する表現の中にも部分的には真実であるものがあったこと、取材を受けた側の発言に誤解を招きかねない部分があったことを挙げ、行為が極めて悪質とまではいえないとしています。
悪質さの程度も、判断に影響します。
インターネット上の投稿の場合
ここまで紹介した裁判例は、いずれも雑誌や書籍による名誉毀損の事案です。
インターネット上の投稿について認められた例もあります。
ウェブサイトへの謝罪文の掲載を命じた例
東京地裁平成13年12月25日判決は、書籍の記載が評論家の名誉を毀損したとされた事案について、全国紙への謝罪広告は認めず、被告のウェブサイトへの謝罪文の掲載を命じました。
「本件では、インターネットによる言論が相当程度まで影響していることは明らかであり、原告の名誉を回復するには、金銭賠償だけでは十分ではなく、被告山形及び被告メディアワークスに対してインターネット上の掲示板において別紙謝罪文を掲載させることが必要かつ適切であるところ、これを1か月間掲載させれば原告の名誉は相当程度回復されるものと考えられるから、その期間の限度で、被告主婦の友社を除いて、インターネット上の掲示板における謝罪をも命じることとする。」
この事案では、書籍の記載をきっかけに、インターネット上で言論のやり取りが続いていました。
被害が広がった場所がインターネットであることから、その場での謝罪が必要かつ適切とされています。
他方、全国紙への掲載については、書籍が特殊な分野のもので発行部数も約1万部程度であり、社会一般に広く流布したものではないこと、インターネット上の謝罪でほぼ目的を達することができることから、命じられませんでした。
掲載する場所は、被害が広がった場所に応じて判断されるということです。
削除と併せて命じた例
東京地裁平成24年11月8日判決は、被告が自身のウェブサイトに掲載した文書が研究者である原告の名誉を毀損したとされた事案です。
裁判所は、慰謝料300万円と弁護士費用30万円を認めたうえで、次のとおり判断しました。
「規範委員会において,原告に不正行為があったとはいえないとの裁定がされた後も,本件事実①から④までの摘示及びこれを前提とした意見の表明が続けられており,その内容は,原告の研究者としての立場に深刻な影響を及ぼすおそれがあることに照らせば,名誉を回復する措置として,本件各文書を被告ホームページから削除させる必要及び謝罪広告を掲載させる必要があると認められる。」
注目すべきは、第三者機関の判断が出た後も投稿が続いていたことが理由に挙げられている点です。
投稿が継続していること、専門的な立場への影響が大きいことが考慮されています。
匿名の投稿では使いにくい
上記2件は、いずれも投稿者が誰か分かっており、その人が自分のウェブサイトを持っている事案です。
匿名の投稿者に対して謝罪文の掲載を命じるとしても、掲載させる場所がありません。
掲示板への書き込みであれば、その掲示板に掲載させることが考えられますが、そこまで命じた例は多くありません。
インターネット上の誹謗中傷では、投稿の削除と損害賠償が中心になるのが実情です。
名誉感情の侵害では使えない
「バカ」「クズ」といった、具体的な事実を伴わない書き込みについて謝罪を求めたいというご要望もあります。
この場合、民法723条は使えません。
最高裁昭和45年12月18日第二小法廷判決(民集24巻13号2151頁)は、次のとおり判示しています。
「民法七二三条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価すなわち名誉感情は含まないものと解するのが相当である。」
名誉感情が侵害されたにとどまる場合には、損害賠償を求めることはできますが、民法723条による名誉回復措置などを求めることはできません。

実務では示談の内容として実現する
ここまで述べたとおり、裁判所が謝罪広告を命じる例は限られています。
他方、示談の内容として謝罪を約束させることには、このような制約がありません。
実際に謝罪を実現する方法としては、こちらのほうが現実的です。
示談に入れられる内容
- 謝罪文を作成して交付すること
- 対象となった投稿をすべて削除すること
- 今後同様の投稿をしないこと
- 約束に違反した場合の違約金を定めること
- 示談の内容を第三者に口外しないこと
公開の場での謝罪ではなく、本人に宛てた謝罪文の交付であれば、相手も応じやすくなります。
被害を受けた側にとっても、事案が広く知られることを避けられます。
再発を防ぐ意味がある
金銭の支払いだけで終わらせると、同じことが繰り返される可能性が残ります。
今後同様の投稿をしないことを約束させ、違反した場合の違約金を定めておけば、繰り返しを抑える効果が期待できます。
謝罪を求めることには、気持ちの問題だけでなく、こうした意味もあります。

求めるべきかどうかの判断
かえって知られることになる
公開の場での謝罪広告は、その事案があったことを改めて知らせることにもなります。
もともと知っている人が少なかった場合には、かえって広く知られる結果になりかねません。
この点は、求めるかどうかを決める前に検討する必要があります。
何を回復したいのかを整理する
「謝ってほしい」というお気持ちの中には、いくつかの要素が含まれています。
| 求めていること | 適した方法 |
|---|---|
| 投稿を消したい | 削除請求 |
| 誤解を解きたい | 訂正の掲載、周囲への説明 |
| 繰り返しを止めたい | 示談での約束と違約金 |
| 責任をとらせたい | 損害賠償、刑事告訴 |
| 本人から謝罪を受けたい | 示談での謝罪文の交付 |
何を最も重視するかによって、とるべき手続が変わります。
ご相談の際に、この点を整理していただけると方針を立てやすくなります。
よくある質問(FAQ)
- お金はいらないので謝罪だけしてほしいのですが、可能ですか。
-
民法723条は、損害賠償に代えて名誉を回復するのに適当な処分を求めることができると定めています。
もっとも、裁判所が謝罪広告を命じる例は限られており、金銭賠償で足りると判断されることが多くあります。
実際には、示談の内容として謝罪文の交付を約束させる方法が現実的です。 - 「バカ」と書き込まれました。謝罪を求められますか。
-
民法723条による請求はできません。
最高裁は、同条にいう名誉は社会から受ける客観的な評価を指し、名誉感情は含まないとしています。
具体的な事実を伴わない書き込みは名誉感情の侵害の問題となるため、損害賠償を求めることはできても、同条による謝罪は求められません。示談の内容として謝罪を約束させることは可能です。
- 匿名の投稿でも謝罪広告を求められますか。
-
投稿者を特定すれば請求自体はできますが、掲載させる場所がないという問題があります。
謝罪広告を命じた裁判例は、投稿者が自分のウェブサイトを持っていた事案や、雑誌・書籍による名誉毀損の事案が中心です。匿名の投稿では、削除と損害賠償が中心になります。
- 相手が謝罪を拒んだ場合はどうなりますか。
-
裁判所が謝罪広告の掲載を命じた場合には、強制執行によって実現できます。
最高裁は、事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度の内容であれば、代替執行の手続によることができるとしています。 - 謝罪広告を求めると事案が広く知られてしまいませんか。
-
そのおそれはあります。
もともと知っている人が少なかった場合には、かえって広く知られる結果になりかねません。
本人に宛てた謝罪文の交付であれば、この問題は生じません。何を最も重視するかによって、とるべき方法が変わります。
- 損害賠償と謝罪の両方を求められますか。
-
求められます。
民法723条は、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに命じることができると定めており、実務では併せて請求するのが通例です。
もっとも、損害賠償が認められても謝罪広告は認められないという結論もあります。
まとめ
この記事の要点は次のとおりです。
- 民法723条により、損害賠償とは別に名誉を回復するのに適当な処分を求められる
- この制度は加害者への制裁や被害者の納得のためのものではなく、金銭賠償では回復できない場合に限られる
- 認められない理由として最も多いのは、金銭賠償で足りるというものである
- 掲載する場所は、被害が広がった場所に応じて判断される
- 名誉感情の侵害にとどまる場合には、民法723条は使えない
- 実務では、示談の内容として謝罪文の交付や再発の防止を約束させる方法が現実的である
謝ってほしいというお気持ちの中には、投稿を消したい、誤解を解きたい、繰り返しを止めたいといった要素が含まれています。
何を最も重視するかによって、とるべき手続が変わります。
当事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の削除、発信者情報開示請求、損害賠償請求、示談交渉のいずれにも対応しています。
金銭以外の解決をお考えの方も、当事務所にご相談ください。
投稿者の特定には通信記録の保存期間という時間的な制約があります。
お早めにご相談ください。
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