【この記事の結論・要約】
- 名誉毀損罪の刑事の時効は、公訴時効が犯罪行為終了時から3年、告訴期間が犯人を知った日から6ヶ月であり、両方の期間をクリアする必要があります。
- 民事の損害賠償請求権の消滅時効は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年の二重構造です(民法724条)。
- ネット上の匿名投稿の場合、告訴期間と民事の短期消滅時効は投稿者を特定するまで進行しませんが、プロバイダのログ保存期間(3~6ヶ月)の制約があるため、投稿を発見したら早急に弁護士に相談すべきです。
はじめに
「3年前の投稿を今見つけた。もう訴えられないのか」 「加害者がやっと特定できたが、時効が心配だ」
名誉毀損の時効と一口に言っても、実際には、刑事の「公訴時効」「告訴期間」、民事の「消滅時効」という3つの異なる期間制限があり、それぞれ起算点(数え始めの時点)が違います。
このため、「投稿から3年経ったからすべて手遅れ」とも、「3年以内だから大丈夫」とも、単純には言えません。
本記事では、3つの時効の違いと起算点の考え方、時効の進行を止める方法、そして時効が過ぎたように見える場合でも取り得る手段までを、裁判例と具体例に基づいて解説します。
名誉毀損の時効一覧【早見表】
まず、各時効について一覧表で確認しましょう。
| 区分 | 時効の種類 | 期間 | 起算点 |
|---|---|---|---|
| 刑事 | 公訴時効(名誉毀損罪) | 3年 | 犯罪行為が終わった時(投稿日) |
| 刑事 | 公訴時効(侮辱罪・改正後) | 3年 | 同上 |
| 刑事 | 公訴時効(侮辱罪・改正前) | 1年 | 同上 |
| 刑事 | 告訴期間 | 6ヶ月 | 犯人を知った日 |
| 民事 | 損害賠償請求権(短期) | 3年 | 損害及び加害者を知った時 |
| 民事 | 損害賠償請求権(長期) | 20年 | 不法行為の時 |
以下、それぞれについて詳しく解説します。
前提知識:名誉毀損罪・侮辱罪とは
時効の解説に入る前に、名誉毀損罪と侮辱罪の基本的な違いを押さえておきましょう。
名誉毀損罪(刑法第230条)
名誉毀損罪は、公然と具体的な事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為を罰する犯罪です。
法定刑は「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。
(例)「Aは前科がある」「B社の社長は不倫している」などとSNSに書き込む行為
なお、摘示した事実が真実であるかどうかは問いません。
真実であっても名誉毀損罪は成立し得ます。
侮辱罪(刑法第231条)
侮辱罪は、具体的な事実を摘示せずに、公然と人を侮辱する行為を罰する犯罪です。
(例)「バカ」「無能」「気持ち悪い」といった抽象的な罵倒をSNSに投稿する行為
侮辱罪の法定刑は、令和4年の刑法改正により「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられました(改正前は「拘留又は科料」のみ)。
この引き上げに伴い、公訴時効も1年から3年に伸長されています。
なお、公訴時効が3年になるのは、改正法の施行日(2022年〈令和4年〉7月7日)以後にされた侮辱行為です。
施行日より前の投稿については、改正前の公訴時効(1年)が適用されるため、この時点の投稿の刑事責任を現在から問うことはできません。
親告罪であること
名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも親告罪です(刑法第232条)。
親告罪とは、検察官が起訴するために被害者からの告訴(犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示)が必要な犯罪類型です。
そのため、刑事責任を追及するには、「公訴時効」と「告訴期間」という2つの時間的制約を両方クリアする必要があります。
刑事の時効①:公訴時効
公訴時効は、犯罪行為が終わった時から一定期間が経過すると、検察官が起訴する権限(公訴権)が消滅する制度です。
公訴時効の起算点
公訴時効の起算点は、「犯罪行為が終わった時」です(刑事訴訟法第253条第1項)。
名誉毀損・侮辱の場合、問題となる名誉毀損・侮辱行為が終わった時点(行われた時点)が原則として起算点となります。
重要なのは、被害者がその行為の存在を知った日や、行為者が誰であるかが判明した日ではないという点です。
行為が終わった時点から時効期間のカウントダウンは始まります。
ただし、インターネット上での名誉毀損・侮辱の場合、後述するように、投稿が行われた時点と「犯罪行為が終わった時」が大きくズレる可能性があります。
名誉毀損罪の公訴時効:3年
名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。
刑事訴訟法第250条第2項第6号は、「長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪」の公訴時効を3年と定めています。
したがって、名誉毀損罪の公訴時効は3年です。
侮辱罪の公訴時効:法改正による変更
侮辱罪は、2022年7月7日施行の刑法改正(厳罰化)により、公訴時効が変更されました。
改正後(2022年7月7日以降の行為)
法定刑が引き上げられたことにより、名誉毀損罪と同じ「長期5年未満の拘禁刑」に該当するため、公訴時効は3年です。
改正前(2022年7月6日以前の行為)
改正前の法定刑は「拘留又は科料」でした。刑事訴訟法第250条第2項第7号の「拘留又は科料に当たる罪」に該当するため、公訴時効は1年でした。
刑事の時効②:告訴期間
名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪であるため、被害者による告訴がなければ検察官は起訴できません。
この告訴にも期間制限があります。
告訴期間は「犯人を知った日から6ヶ月」
刑事訴訟法第235条第1項は、親告罪の告訴について「犯人を知った日から6箇月を経過したときは、これをすることができない」と定めています。
公訴時効の起算点が「犯罪行為が終わった時」であるのに対し、告訴期間の起算点は「犯人を知った日」です。
「犯人を知った日」とは
「犯人を知った」とは、犯人の住所、氏名、年齢などの詳細を知る必要はありませんが、犯人が誰であるかを特定し、他の者と区別して指摘し得る程度の認識を要するとされています(最決昭和39年11月10日刑集18巻9号547頁)。
単に「投稿者のハンドルネームやアカウント名を知った」というだけでは、どこの誰であるかが特定できているわけではないため、「犯人を知った」ことにはなりません。
ネット上の匿名投稿と告訴期間
これは、ネット上の匿名による誹謗中傷においてはよく問題となります。
被害者が匿名の投稿を発見しただけでは「犯人を知った」ことにはならず、告訴期間は進行を開始しません。
告訴期間のカウントダウンが始まるのは、発信者情報開示請求を通じて投稿者の氏名・住所などが判明し、加害者を現実に特定できた日からです。
発信者情報開示請求には数ヶ月から1年以上かかることも少なくないため、一見すると告訴が不可能なように思いますが、その心配はいりません。
ケース別|あなたの場合の時効はどうなるか
時効の判定で意味を持つ分かれ目は、「どのサイトに投稿されたか」ではなく、①投稿が削除済みか、今も残っているか、②単発の投稿か、継続的な投稿か、の2点です。この組み合わせで、考え方を整理します。
- 単発の投稿で、すでに削除されている場合:公訴時効は、投稿時(犯罪行為が終わった時)から3年で計算するのが基本です。民事の3年は加害者を知った時から、20年は投稿時から進行します。
- 単発の投稿が、今も残っている場合:裁判例には、投稿が閲覧可能な状態に置かれている間は犯罪(法益の侵害)が継続しているとの考え方を示したものがあり(後記の大阪高裁の裁判例)、この考え方によれば、公訴時効の起算が投稿時より後にずれる可能性があります。ただし、この点の扱いは確立しているとまでは言えないため、投稿時から3年という保守的な前提で動くことをお勧めします。
- 同じ相手による投稿が繰り返されている場合:一連の投稿として、最後の投稿を基準に考える余地があります。個々の投稿ごとに評価される可能性もあるため、投稿の時系列の整理(証拠化)が重要です。
- 加害者がまだ特定できていない場合:民事の3年の時効は進行していませんが、20年の期間と、それより遥かに短い通信記録(ログ)の保存期間は進行しています。時効の前に、特定の可能性が時間切れになるのが実務の現実です。
インターネット上の名誉毀損罪における公訴時効・告訴期間の起算日に関する裁判例
インターネット上の名誉毀損罪においては、興味深い裁判例があります。
この裁判例(大阪高判平成16年 4月22日)では、「刑訴法235条1項にいう「犯人を知った日」とは、犯罪終了後において、告訴権者が犯人が誰であるかを知った日をいい、犯罪の継続中に告訴権者が犯人を知ったとしても、その日をもって告訴期間の起算日とされることはない。」と述べました。
そして、インターネット上の投稿について、「本件記事は、少なくとも平成15年6月末ころまで、サーバーコンピュータから削除されることなく、利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであったもので、被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから、このような類型の名誉毀損罪においては、既遂に達した後も、未だ犯罪は終了せず、継続していると解される。」として、告訴が告訴期間内に適法になされていると判断しました。
この裁判例では、刑訴法235条1項の「犯人を知った日」とは、単に犯人が誰であるかを知った日ではなく、「犯罪終了後において」犯人が誰であるかを知った日のことをいい、「犯罪の継続中」に犯人を知っても、その日が起算日となるわけではないとしています。
そして、インターネット上の投稿による名誉毀損については、「投稿が残っている間は犯罪の継続中」であると判断しています。
ただし、実際の事案の検討の中では、加害者がホームページの管理者に対して記事の削除を申し込んだことにより、加害者に課せられた義務が解消されたとして、加害者が記事の削除の申し入れをした時点で犯罪が終了したと判断しています。
インターネット上の名誉毀損等については、投稿が残っているのかどうかについても注意する必要があります。
刑事の時効③:公訴時効と告訴期間の相互関係
名誉毀損罪・侮辱罪で加害者の刑事責任を追及するためには、公訴時効と告訴期間の両方の期間制限をクリアする必要があります。
- 公訴時効(3年): 投稿された日から進行を開始する、検察官の起訴のタイムリミット。
- 告訴期間(6ヶ月): 発信者情報開示請求などを通じて加害者の身元を特定した日から進行を開始する、被害者の告訴のタイムリミット。
つまり、被害者は、投稿日から3年が経過する前に加害者を特定し、かつ、特定した日から6ヶ月以内に告訴を完了させ、さらに検察官が公訴時効完成前に起訴する、という全ての条件を満たさなければなりません。
【具体例】
- 2025年10月1日に名誉毀損投稿が行われた場合(投稿がすぐ消された場合)
- 公訴時効の完成日は、2028年9月30日です。
- 発信者情報開示請求を経て、2028年3月1日に加害者の氏名・住所が判明した場合
- 告訴期間の起算日は、2028年3月1日です。
- 告訴期間の満了日は、その6ヶ月後である2028年8月31日です。
このケースでは、被害者は2028年8月31日までに告訴を行う必要があり、検察官は2028年9月30日までに起訴する必要があります。
もし加害者の特定に時間がかかり、特定できたのが2028年5月1日だった場合、告訴期間の満了は2028年10月31日となりますが、その前に公訴時効(2028年9月30日)が完成してしまいます。
そのため、この場合は、告訴事項の期間満了前であっても、公訴時効(2028年9月30日)の完成前に告訴をしなければなりません。
このように、2つの期間は独立して進行するため、特に公訴時効が迫っている事案では、迅速な対応が求められます。
※現実としては、プロバイダのログ保存期間の関係で、投稿者の特定はもっと急ぐ必要があります。
民事の時効:損害賠償請求権の消滅時効(民法724条)
ここまでは刑事上の時効について解説しましたが、名誉毀損や侮辱に対しては、民事上の損害賠償請求(慰謝料請求)という手段もあります。
名誉毀損の被害者は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます(民法第709条・第710条)。
しかし、この損害賠償請求権にも消滅時効が定められています。
民事の消滅時効は「3年」と「20年」の二重構造
民法第724条は、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について、次の2つの期間を定めています。
① 短期消滅時効:損害及び加害者を知った時から3年(民法724条1項)
被害者が「損害の発生」と「加害者が誰であるか」の両方を知った時から3年で時効が完成します。
② 長期消滅時効(除斥期間):不法行為の時から20年(民法724条2項)
加害者が不明のままであっても、不法行為(名誉毀損行為)の時から20年が経過すると、損害賠償請求権は消滅します。
この20年の期間は、かつては「除斥期間」(当事者の主張がなくても期間の経過だけで権利が消滅する期間)と解されていましたが、民法改正(2020年4月施行)により、消滅時効であることが条文上明記されました。
これにより、20年の期間についても、後述する完成猶予・更新の制度が適用される余地があります。
このうち、いずれか早く到来した時点で時効が完成します。
民事における「加害者を知った時」の意味
短期消滅時効(3年)の起算点である「加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時と解されています(最判昭和48年11月16日民集27巻10号1374頁)。
また、この判例は、被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者を知った時」にあたると判示しています。
これによれば、ネット上の匿名投稿の場合、発信者情報開示請求によって投稿者が特定された日が起算点となるため、投稿を発見しただけでは3年の時効は進行しません。
ただし、20年の長期消滅時効は加害者の特定とは無関係に、投稿時(不法行為時)から進行する点に注意が必要です。
民事と刑事の時効の起算点の違い
上記の具体例(2025年10月1日に名誉毀損投稿が行われ、すぐ消された場合)について、発信者情報開示請求で2027年6月1日に加害者が特定されたケースを例にすると、起算点の違いは以下の通りです。
| 時効の種類 | 起算点 | 満了日 |
|---|---|---|
| 公訴時効(3年) | 投稿日(2025年10月1日) | 2028年9月30日 |
| 告訴期間(6ヶ月) | 加害者特定日(2027年6月1日) | 2027年11月30日 |
| 民事・短期(3年) | 加害者特定日(2027年6月1日) | 2030年5月31日 |
| 民事・長期(20年) | 投稿日(2025年10月1日) | 2045年9月30日 |
投稿者を特定できた時点にもよりますが、一般的には、刑事の告訴期間(6ヶ月)が最も短いため、刑事告訴を検討している場合は、加害者を特定したらすぐに動く必要があります。
一方、民事の損害賠償請求は加害者特定から3年あるため、刑事よりも時間的余裕があります。
とはいえ、証拠の散逸や記憶の風化を考えれば、早期の対応に越したことはありません。
刑事の時効が過ぎても民事の時効は残る場合がある
ここで重要なのは、刑事の時効が完成しても、民事の損害賠償請求は可能な場合があるという点です。
たとえば、犯罪が終了してから3年が経過して公訴時効が完成し、刑事告訴ができなくなったとしても、加害者を知ってから3年以内であれば、民事上の慰謝料請求は行うことができます。
したがって、「刑事の時効が過ぎてしまったから何もできない」と諦める必要はありません。
刑事告訴が困難な場合でも、民事の損害賠償請求という選択肢が残されているケースはあります。
もっとも、この判断は複雑なため、まずは弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
名誉毀損の慰謝料相場
名誉毀損に基づく損害賠償(慰謝料)の金額は、個別の事情によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 被害者の属性 | 慰謝料の目安 |
|---|---|
| 個人(一般人) | 10万円〜50万円程度 |
| 法人・企業 | 50万円〜100万円程度 |
ただし、以下のような事情がある場合には、慰謝料が増額される傾向があります。
- 投稿内容が悪質で、長期間にわたり閲覧可能な状態であった
- 被害者が精神的な疾患を発症した
- 加害者が繰り返し投稿を行った
- 投稿によって被害者の就職・転職・事業に具体的な支障が生じた
なお、名誉毀損の損害賠償請求においては、加害者を特定するための発信者情報開示請求の費用(弁護士費用等)も、相当因果関係のある損害として一部または全部が認められる場合があります。
時効の進行は止められる|完成猶予と更新
民事の消滅時効は、期限をただ待つしかないものではありません。
民法には、時効の完成を一時的に妨げる「完成猶予」と、期間の進行をゼロに戻す「更新」の制度があります。
名誉毀損の損害賠償請求で実務上重要なのは、次の3つです。
催告による完成猶予(6か月)
内容証明郵便などで加害者に損害賠償を請求する意思を通知(催告)すると、その時から6か月間、時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。
時効の完成が目前に迫っている場合に、訴訟準備の時間を確保する手段として用いられます。
ただし、2つの注意点があります。
第一に、催告による猶予は一度しか使えず、猶予期間中に再度催告をしても、猶予は延長されません(同条2項)。
猶予された6か月の間に、訴訟の提起など次の手を打つ必要があります。
第二に、催告は相手方に到達して初めて効力を生じるため、加害者が特定できていない段階では、そもそも催告のしようがありません。
匿名の投稿では、発信者情報開示による特定が、時効対応のすべての前提になります(もっとも、後述のとおり、特定できていない間は「知った時」から数える3年の時効は進行していません)。
裁判上の請求等による完成猶予・更新
損害賠償請求の訴えを提起すると、その手続が終了するまで時効の完成が猶予され、確定判決によって権利が確定したときは、時効が更新されます(民法147条)。
承認による更新
加害者が損害賠償義務を認めた場合(一部の支払い、支払いの約束など)には、時効は更新され、その時から新たに進行を始めます(民法152条)。
示談交渉の過程での加害者の対応が、時効の進行に影響することがあるのです。
最後に、重要な注意点です。
ここで説明した完成猶予・更新は、民事の消滅時効の制度です。
刑事の公訴時効や告訴期間を、催告などで止めることはできません。
刑事責任の追及を考えている場合には、この後で説明するとおり、期間内に告訴まで到達する段取りを最初から設計しておく必要があります。
時効が過ぎたように見えても、できることはある
「投稿からもう3年以上経っているから、何もできない」と諦めて相談すらしない方が少なくありません。
しかし、次の3つの理由から、その判断は早計です。
投稿の削除は、時効に関係なく請求できる
損害賠償請求権には消滅時効がありますが、名誉権(人格権)に基づいて投稿の削除を求める請求は、これとは性質が異なり、消滅時効の問題を生じないと解されています。
つまり、投稿がインターネット上に残り続けている限り、何年前の投稿であっても、削除を求めていくことができます。
「賠償金を取ること」よりも「今も残っている書き込みを消すこと」が本当の目的である方にとって、時効は障害にならないのです。
刑事の時効が過ぎても、民事の請求は残り得る
公訴時効(3年)や告訴期間(6か月)が経過して刑事責任の追及ができなくなった場合でも、民事の損害賠償請求の時効は別に進行します。
特に、加害者が特定できていなかった場合、「損害及び加害者を知った時」から数える3年の時効は、まだ始まってすらいません。
投稿から3年が過ぎていても、「知った時」からはまだ3年以内のことがある
民事の3年の時効の起算点は、投稿の時ではなく、被害者が損害と加害者を知った時です。
匿名の投稿であれば、発信者情報開示などによって加害者が特定された時点が起算点となるため、投稿から年数が経っていても、特定からまだ間もないのであれば、請求は時効にかかっていません。
まとめると、「時効かどうか」は、投稿からの単純な年数では判定できません。
何を求めるのか(削除か、賠償か、処罰か)、加害者は特定できているのか、によって答えが変わります。
時間が経っている事案こそ、諦める前に、現時点で何が可能かの診断を受けてください。
請求される側から見た時効|時効は自動では効かない
ここまで被害者の視点で解説してきましたが、名誉毀損の損害賠償を「請求された側」にとっても、時効は重要な論点です。その際に知っておくべきなのが、次の2点です。
第一に、民事の消滅時効は、期間が経過すれば自動的に効果が生じるものではなく、時効の利益を受ける側が「時効を援用する」(時効の完成を主張する)ことによって初めて、支払義務を免れます。
古い投稿について請求を受けた場合、時効が完成している可能性の検討は、対応方針の出発点の一つになります。
第二に、時効が完成した後であっても、請求に対して支払いを約束するなど、義務を認める対応をしてしまうと、その後に時効を主張することが認められなくなる場合があります。
請求書面が届いた際に、内容をよく検討しないまま支払いに応じる返答をすることは、時効の観点からも避けるべきです。
過去の投稿について開示請求や損害賠償請求を受けた方の対応は、別の記事で詳しく解説しています。

時効が迫っている場合の対処法
名誉毀損の時効が迫っていると感じたら、以下のステップで早急に対応することが重要です。
ステップ1:証拠を保全する
投稿のスクリーンショット(URL・日時が確認できるもの)を保存します。
投稿が削除されると証拠を確保できなくなるため、最優先で行ってください。
ステップ2:弁護士に相談する
時効の計算や起算点の判断には専門的な法的判断が必要です。
特に、上述の大阪高裁判例のように、投稿が残っている場合には告訴期間の起算点に関して有利な解釈ができる可能性もあります。
まずは弁護士に相談し、具体的な状況に応じた対応方針を決めましょう。
ステップ3:発信者情報開示請求を行う
匿名の投稿者を特定するためには、発信者情報開示請求が必要です。
プロバイダのアクセスログ保存期間は一般的に3〜6ヶ月程度と短いため、投稿を発見したらできるだけ早く手続きに着手する必要があります。
ステップ4:刑事告訴や損害賠償請求を行う
加害者が特定できたら、告訴期間(6ヶ月)内に刑事告訴を行うか、民事の損害賠償請求を行うか(または両方を行うか)を検討します。
よくある質問(FAQ)
- 名誉毀損の時効は何年ですか?
-
刑事の公訴時効は犯罪行為が終わった時から3年です。
民事の損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です。
なお、刑事の告訴期間は犯人を知った日から6ヶ月です。 - ネット上の匿名の誹謗中傷でも時効は進行しますか?
-
公訴時効(3年)は投稿日から進行します。
ただし、投稿が残り続けている場合、投稿が削除された日(もしくは、投稿者が削除を請求した日)から進行します。一方、告訴期間(6ヶ月)は「犯人を知った日」から進行するため、匿名の投稿者が特定されるまでは告訴期間は進行しません。
民事の短期消滅時効(3年)も同様に、加害者を特定するまでは進行しません。 - 侮辱罪の時効は名誉毀損罪と同じですか?
-
2022年7月7日の法改正後に行われた侮辱行為については、公訴時効は名誉毀損罪と同じ3年です。
改正前の行為については公訴時効は1年でした。 - 刑事の時効が過ぎたら、もう何もできませんか?
-
刑事の公訴時効が過ぎても、民事の損害賠償請求(慰謝料請求)は可能な場合があります。
加害者を知ってから3年以内であれば、損害賠償を請求できる可能性があります。 - 名誉毀損の慰謝料の相場はいくらですか?
-
個人が被害者の場合は10万円〜50万円程度、法人の場合は50万円〜100万円程度が一般的な目安です。
ただし、投稿内容の悪質性や被害の程度によって増額される場合があります。 - 投稿が残っている場合、公訴時効や告訴期間はどうなりますか?
-
大阪高裁平成16年4月22日判決は、インターネット上の投稿が削除されずに閲覧可能な状態にある場合、犯罪は終了しておらず継続していると判断しました。
この判例に従えば、投稿が残っている間は公訴時効や告訴期間の起算日は到来しないと解される可能性があります。 - 内容証明を送れば、時効は止まりますか?
-
民事の消滅時効については、内容証明郵便などによる催告により、6か月間、時効の完成が猶予されます。
ただし、この猶予は一度限りで、猶予期間中に訴訟の提起などを行わなければ、時効は完成します。また、刑事の公訴時効・告訴期間は、催告では止まりません。
時効が迫っている場合は、次の一手までの段取りを含めてご相談ください。 - 時効が過ぎていても、投稿の削除はできますか?
-
できる可能性があります。
名誉権に基づく削除の請求は、損害賠償請求権の消滅時効とは性質が異なり、投稿が残っている限り行うことができると解されています。
賠償請求が時効にかかっている場合でも、削除を諦める必要はありません。
おわりに
名誉毀損に対する法的措置には、刑事(公訴時効3年・告訴期間6ヶ月)と民事(消滅時効3年・除斥期間20年)の2つのルートがあり、それぞれ時効の期間と起算点が異なります。
特にインターネット上の匿名の誹謗中傷の場合、発信者情報開示請求による加害者の特定に時間がかかるため、投稿を発見したらできるだけ早く対応を開始することが重要です。
「時効が迫っているかもしれない」「刑事告訴と民事請求のどちらを選ぶべきかわからない」とお悩みの場合は、弁護士に相談して、ご自身の状況に応じた最適な対応方針を検討されることをお勧めします。
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