SNSのなりすまし被害|削除と犯人の特定を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. なりすまし行為そのものを禁じる規定はありません。名誉毀損、肖像権侵害、プライバシー侵害といった構成で主張することになります。
  2. アイデンティティ権という考え方に言及した裁判例はありますが、その内容や範囲は定まっていません。実務では、従来どおりの構成で主張することをまず検討します。
  3. なりすましアカウントが本人の投稿と受け取られる状態で中傷を行っていれば、名誉毀損として責任を追及できます。自分で公開していた写真が使われている場合には、肖像権侵害の主張が難しくなることがあります。

はじめに

自分の名前や写真を使ったアカウントが作られ、本人になりすました投稿が行われるという被害があります。

他の利用者に対する攻撃的な書き込みが自分の名義で行われれば、周囲からは本人がしたものと受け取られます。
知人から問い合わせを受けて初めて気づくということもあります。

この記事では、なりすましについて何を根拠に責任を追及できるのか、アカウントの削除や犯人の特定ができるのかを、裁判例に沿って解説します。

被害に気づいたときにすること

記録を残す

  • なりすましアカウントのURLとアカウント名
  • プロフィール画面(使われている写真、自己紹介の記載)
  • 行われている投稿の内容と日時
  • 使われている写真を、自分がどこに公開していたか
  • 知人から問い合わせを受けた場合は、そのやり取り

なりすましアカウントは、指摘されると削除されたり、アカウント名や写真を変更されたりします。
気づいた時点で保存してください。

周囲に知らせる

本人でないことを周囲に伝えておくことも重要です。

自分のアカウントで注意を促せば、誤解による被害の広がりを止められます。
取引先や勤務先に関わる場合には、個別に説明が必要になることもあります。

ただし、投稿の内容を引用して知らせると、かえって内容を広めることになります。
どの範囲にどう伝えるかは、状況に応じて判断してください。

運営に報告する

主要なSNSでは、他人になりすます行為が規約で禁じられています。

報告によってアカウントが削除されることがあり、最も早い方法です。
もっとも、削除されると投稿の内容を確認できなくなるため、報告の前に記録を残してください。

なりすまし自体を禁じる規定はない

他人になりすますこと自体を処罰したり、禁じたりする法律はありません。

そのため、責任を追及するには、なりすましによって何が侵害されたのかを示す必要があります。
実際には、次のいずれかの構成をとることになります。

構成使える場面
名誉毀損なりすましアカウントの投稿が、本人の社会的評価を下げる内容である
肖像権侵害本人の顔写真が使われている
著作権侵害本人が撮影した写真やイラストが使われている
プライバシー侵害本人の私生活に関する情報が使われている
氏名の冒用(氏名権侵害)本人の氏名が使われている

どの構成をとれるかは、何が使われているか、どのような投稿がされているかによって変わります。

なりすましの投稿による名誉毀損

最も中心になる構成です。

本人の言動と受け取られるか

なりすましアカウントによる投稿であっても、それが本人の投稿と受け取られる状態であれば、本人の社会的評価が低下します。

大阪地裁平成29年8月30日判決(判タ1445号202頁)は、掲示板で他人の顔写真とアカウント名を使ってなりすまし、他の利用者を罵倒する投稿を行った事案について、名誉権の侵害を認めました。

この事案では、慰謝料60万円、投稿者の特定に要した弁護士費用58万6000円、訴訟の弁護士費用12万円の合計130万6000円が認められています。

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投稿の内容によっては認められない

他方、なりすましがされていても、投稿の内容が社会的評価を下げるものでなければ、名誉毀損は成立しません。

大阪地裁平成28年2月8日判決(平成27年(ワ)第10086号)は、掲示板でのなりすまし投稿について、次のとおり判断しました。

「記載の内容及び本件掲示板の目的,内容等からして,前記投稿の内容のみから,原告の名誉を毀損したとまで認めることは困難である。このことは,本件投稿がなりすましによるものであることによって,このような記載を原告がしたと感じられることにより,原告の名誉が毀損されたとまで認めることはできないというべきである。」

なりすましがされたという事実だけでは足りず、投稿の内容そのものが評価を下げるものである必要があるということです。

写真が使われている場合

自分で公開していた写真かどうか

顔写真が使われていれば肖像権侵害を主張できそうですが、そう単純ではありません。

前掲の大阪地裁平成28年2月8日判決は、なりすましアカウントに使われた顔写真が、本人が5年ほど前にそのサイトに登録した際にアップロードしたものであったことから、次のとおり判断しました。

「原告自らが不特定多数の者が閲覧することを予定されたSNSサイト上に公開したものであるから,これが用いられたことにより,原告のプライバシー権が侵害されたと認めることはできない。」

肖像権についても、自ら公開したものであることを理由に侵害を認めませんでした。

自分で公開していた写真が使われた場合には、この点が争点になります。

肖像権侵害が認められた例

他方、前掲の大阪地裁平成29年8月30日判決は、同じく本人がサイトに登録していた顔写真が使われた事案について、肖像権の侵害を認めています。

判断が分かれているため、写真をどこにどのような形で公開していたか、それがどう使われているかを具体的に検討する必要があります。

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自分が撮影した写真の場合

自分で撮影した写真やイラストが使われていれば、著作権の侵害としても主張できます。

肖像権と違い、公開していたかどうかは問題になりません。
ただし、他人が撮影した写真の場合、著作権の譲渡をされていなければこの構成は使えません。

アイデンティティ権という考え方

なりすまし行為そのものを問題にする考え方として、アイデンティティ権という概念が主張されることがあります。

最初に言及した裁判例

前掲の大阪地裁平成28年2月8日判決は、この考え方について次のとおり述べました。

「なりすまし行為によって本人以外の別人格が構築され,そのような別人格の言動が本人の言動であると他者に受け止められるほどに通用性を持つことにより,なりすまされた者が平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるほどに精神的苦痛を受けたような場合には,名誉やプライバシー権とは別に,「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」という意味でのアイデンティティ権の侵害が問題となりうると解される。」

もっとも、同判決は、どのような場合に許容限度を超えるかについて明確な共通認識が形成されているとは言い難いことなどから、その判断は慎重であるべきだとしています。
そのうえで、この事案では権利の侵害を認めませんでした。

判断の枠組みを示した裁判例

前掲の大阪地裁平成29年8月30日判決は、次のとおり述べています。

「他者から見た人格の同一性に関する利益の内容,外縁は必ずしも明確ではなく,氏名や肖像を冒用されない権利・利益とは異なり,その性質上不法行為法上の利益として十分に強固なものとはいえないから,他者から見た人格の同一性が偽られたからといって直ちに不法行為が成立すると解すべきではなく,なりすましの意図・動機,なりすましの方法・態様,なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して,その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して,当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである。」

同判決は、この事案について、アカウント名やプロフィール画像は利用者が自由に変更でき、氏名のように個人を特定し人格を象徴する度合いは強いとはいえないこと、名誉権と肖像権の侵害については別に保護を受けること、なりすましの直後から本人以外の投稿である可能性が他の利用者に指摘されていたこと、アカウント名と写真が表示されていたのは約1か月余りであったことを挙げ、受忍の限度を超えるとまでは認められないとしました。

実務では従来の構成による

ここまで紹介した裁判例は、いずれもアイデンティティ権の侵害を認めていません。

この考え方をめぐる議論は続いており、どのような場合に侵害が認められるかは定まっていません。
なりすましの被害について対応を進める場合には、名誉毀損、肖像権侵害、プライバシー侵害といった構成によることになります。

もっとも、なりすましの態様によっては、この考え方が意味を持つ場面もあり得ます。
どの構成をとるかは、使われている情報と投稿の内容を見たうえで判断することになります。

誤解される可能性が問われる

なりすましの事案では、閲覧した人が本人の投稿だと受け取るかどうかが問われます。

東京地裁平成31年3月20日判決(平成30年(ワ)第32777号)は、本人を想起させる投稿者名でなりすまし投稿がされた事案について、請求を認めませんでした。

同判決は、投稿の内容が穏当を欠くものであり、知人から問い合わせを受けたことも含めて本人が不快に感じることは首肯できるとしながらも、閲読者が本人の投稿であると認識するとは認められないとして、氏名権やアイデンティティ権の侵害も、社会的評価の低下も認めませんでした。

本人と分かる名前が使われていても、それだけでは足りないということです。
他方、前掲の大阪地裁平成29年8月30日判決では、顔写真と名前をもじったアカウント名の両方が使われていたことが、本人の言動と受け取られる状況を基礎づけています。

何が使われているかによって、結論が変わり得ます。

投稿がない場合

アカウントが作られているものの、投稿や中傷が行われていないという相談もあります。

主張できる内容が限られる

投稿がなければ、名誉毀損は成立しません。

写真が使われていれば肖像権侵害や著作権侵害を主張できますが、自分で公開していた写真であれば、前掲の平成28年判決のような判断がされる可能性があります。
写真も使われていなければ、主張できる内容はさらに限られます。

削除を優先する

この段階では、運営への報告による削除を優先するのが現実的です。

規約でなりすましが禁じられている以上、報告によって削除される可能性があります。
投稿が始まってからでは、被害が広がってしまいます。

犯人を特定する方法

二段階の手続

  1. 運営会社から、投稿時のIPアドレスなどの開示を受ける
  2. そのIPアドレスを管理しているアクセスプロバイダから、契約者の情報の開示を受ける

権利が侵害されたことが明らかであることが要件とされているため、どの構成で主張するかが結果を左右します。

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アカウントが削除された場合

指摘を受けて、なりすましアカウントが削除されることがあります。

アカウントのURL、アカウント名、投稿の内容と日時を保存していれば、手続を進められる場合があります。
何も残っていなければ、対象を特定できず手続に進めることは困難となります。

時間の制約

アクセスプロバイダの通信記録の保存期間は一般に3か月から6か月程度で、事業者によって異なります。

裁判手続による特定には3か月から9か月程度かかるため、被害に気づいてから相談までに時間をかけると間に合わなくなります。

請求できる金額

前掲の大阪地裁平成29年8月30日判決では、次の内訳で130万6000円が認められました。

費目認められた額
慰謝料60万円
投稿者の特定に要した弁護士費用58万6000円
訴訟の弁護士費用12万円

慰謝料の判断にあたっては、投稿の内容や目的に正当性がないこと、被害の回復措置が講じられていないことが考慮された一方、アカウント名と写真が投稿から1か月程度で変更され、被害の拡大が防止されていたことも考慮されています。

特定に要した弁護士費用については、匿名の書き込みの発信者を特定するには通信記録が消去されるまでの短期間に保全処分や訴訟が必要であり、被害者自身で手続を行うことは通常困難であることから、社会通念上相当な範囲で損害と認められています。

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刑事の手続

なりすまし自体は犯罪ではない

他人になりすますこと自体を処罰する規定はありません。

もっとも、なりすましたうえで行われた行為の内容によっては、犯罪が成立します。

行われた行為問題となる犯罪
具体的な事実を示して評価を下げる投稿名誉毀損罪(刑法230条)
事実を伴わない罵倒侮辱罪(刑法231条)
店舗や会社の業務を妨げる行為業務妨害罪(刑法233条・234条)
金銭をだまし取る行為詐欺罪(刑法246条)
他人のIDとパスワードを使ったログイン不正アクセス禁止法違反

アカウントの乗っ取りとの違い

本人のアカウントに不正にログインして使われた場合は、なりすましとは区別されます。

この場合、不正アクセス禁止法違反が問題になります。
まず、パスワードの変更など、アカウントを取り戻すための対応が必要です。

よくある質問(FAQ)

なりすまされただけで訴えられますか。

なりすまし行為そのものを禁じる規定はないため、それだけでは難しくなります。

名誉毀損、肖像権侵害、プライバシー侵害といった構成で主張することになります。
なりすましアカウントの投稿が本人の社会的評価を下げる内容であれば、名誉毀損として責任を追及できます。

アイデンティティ権という権利があると聞きました。

この考え方に言及した裁判例はありますが、その内容や範囲は定まっていません。
裁判例も、氏名や肖像を冒用されない権利と比べて十分に強固なものとはいえないとしています。

実務では、名誉毀損や肖像権侵害といった構成で主張することをまず検討します。

自分で公開していた写真が使われています。

自ら公開していたことを理由に、肖像権やプライバシー権の侵害を認めなかった裁判例があります。
他方、同じく本人が登録していた写真について肖像権侵害を認めた裁判例もあり、判断が分かれています。

どこにどのような形で公開していたか、それがどう使われているかによって結論が変わります。

投稿はされていませんが、アカウントを消したいです。

主要なSNSでは他人になりすます行為が規約で禁じられているため、運営への報告による削除を優先するのが現実的です。
投稿がない段階では、法的に主張できる内容が限られます。

アカウントが消えてしまいました。もう特定できませんか。

アカウントのURL、アカウント名、投稿の内容と日時を保存していれば、手続を進められる場合があります。
何も残っていなければ、対象を特定することが困難となります。

通信記録の保存期間という制約もあるため、早い段階でご相談ください。

自分のアカウントを乗っ取られた場合も同じですか。

別に考える必要があります。

本人のアカウントに不正にログインして使われた場合は、不正アクセス禁止法違反が問題になります。
まずパスワードの変更など、アカウントを取り戻すための対応が必要です。

まとめ

この記事の要点は次のとおりです。

  • なりすまし自体を禁じる規定はなく、何が侵害されたのかを示す必要がある
  • 投稿の内容が本人の社会的評価を下げるものであれば、名誉毀損として責任を追及できる
  • 自分で公開していた写真が使われている場合、肖像権侵害の主張が難しくなることがある
  • アイデンティティ権に言及した裁判例はあるが、侵害が認められる範囲は定まっていない
  • 閲覧した人が本人の投稿だと受け取る状態かどうかが問われる
  • 投稿がない段階では、運営への報告による削除を優先するのが現実的である

なりすましの事案では、何が使われ、どのような投稿がされているかによって、とれる構成が変わります。
構成を誤ると、削除も特定も認められません。

当事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の削除、発信者情報開示請求、損害賠償請求のいずれにも対応しています。
なりすましの被害についても、当事務所にご相談ください。

なりすましアカウントは、指摘されると削除されることがあります。
お早めにご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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