【この記事の結論・要約】
- アプリのプロフィールや利用規約は、独身と偽られたことを示す中核の証拠になります。独身限定のアプリかどうかで、請求の見通しも変わります。
- 相手が退会やブロックすると、その後の請求が困難になる場合があります。発覚直後の証拠の保全と、連絡先の確保が重要です。
- 既婚と分かったら直ちに関係を断ってください。相手の配偶者から請求されるリスクへの対策も、同時に必要です。
はじめに
マッチングアプリや婚活サイトは、いまや出会いの主要な手段になりました。
その一方で、既婚者が独身と偽って登録し、真剣に相手を探している利用者と関係を持つ、いわゆる独身偽装のトラブルが増えています。
「未婚」と表示されたプロフィールを信じて交際し、性的関係も持った。ところが相手は既婚者だった。
この場合、貞操権侵害を理由とする慰謝料請求を検討できますが、アプリ経由の事案には、証拠・特定・配偶者リスクの面で固有の注意点があります。
この記事では、アプリ・婚活サイト特有の実務に絞って解説します。成立要件の詳細、証拠の集め方の全般、請求の流れは、それぞれ別の記事で扱っています。

アプリで騙された場合、慰謝料を請求できるか
独身と偽られたために、本来なら応じなかった性的関係を持つに至った場合、貞操権侵害として慰謝料を請求できる可能性があります。
重要なのは、相手が結婚への期待を抱かせ、その期待に乗じたことにあります。
アプリ経由の事案で特徴的なのは、利用していたアプリの性質が、請求の見通しを左右することです。
既婚者の登録が禁止された婚活サイトの事案(東京地裁令和2年3月2日判決)
既婚者の利用が規約で禁止されたサイトに独身として登録し、虚偽の説明で独身と信じ込ませた事案で、慰謝料50万円が認められました。
結婚相手を探す場に独身として登録し、婚姻に対する将来への期待を抱かせていたことなどから、貞操権侵害が認められました。
インターネット上の婚活サイトの事案(東京地裁平成28年6月29日判決)
インターネット上の婚活サイトに独身(未婚)として会員登録していた男性と知り合って多数回にわたって性交を伴う交際をしたことについて、慰謝料等を請求した事案です。
この事案では、婚活サイトの会員に男性が独身者であると誤信させるためにあえて、「独身(未婚)」、「(結婚に対する意思という欄について)良い人がいればしたい」、「(子供が欲しいかという欄について)はい」という記載をしたと認められるとして、貞操権侵害を認めました。
ただし、婚活サイトが悪用される可能性があることについては、婚活サイトの利用規約等でも指摘があり、原告にも相応の責任があるとして、慰謝料の額は40万円とされました。

退会・削除される前に:アプリ固有の証拠の保全
マッチングアプリ等の事案の証拠は、退会等、相手の操作ひとつですぐ消えてしまうという特徴があります。
相手が退会すればプロフィールは見られなくなり、アプリ内のメッセージも確認できなくなることがあります。
LINEに移行した後のやり取りも、送信取消機能で消される可能性があります。
相手が既婚者ではないかと疑いを持ったら、まず以下のような証拠を保存しておいてください。
- プロフィール画面:「未婚」「独身」の表示、独身証明バッジがあればその表示を、スクリーンショットで保存します。相手のニックネーム・写真・自己紹介文も含めて残してください。
- 利用規約の該当部分:既婚者の登録を禁止する条項があるサービスなら、その規約画面も保存します。「独身であることが前提の場だった」ことの裏づけになります。
- アプリ内のメッセージ:LINE移行前のやり取りにこそ、出会いの経緯と初期の説明(独身であること、結婚願望など)が残っています。
- LINE等のやり取り:スクリーンショットに加えて、トーク履歴のバックアップも取っておくと、送信取消や改ざんの疑いへの備えになります。
これらの保存は、相手に請求の意向を悟られる前に済ませてください。
保存する前に問い詰めたりすると、退会・ブロックされる可能性があります。

ニックネームしか知らない:相手の特定
アプリ事案のもう一つの壁が、相手の匿名性です。
ニックネームしか知らない、聞いていた名前が本名かどうか分からない、連絡手段はアプリ内メッセージとLINEだけ。
この状態で退会・ブロックをされると、請求先を特定できなくなるおそれがあります。
正式な慰謝料請求には、相手の氏名と住所が必要です。
関係が続いているうちに、電話番号やLINEのIDなど、特定の起点になる情報を確保しておいてください。
電話番号が分かれば、弁護士会照会によって契約者の氏名・住所を調べられる場合があります。
アプリの運営会社への照会も考えられますが、回答が得られない場合も多く、確実な手段とはいえません。

既婚者であることが発覚したら直ちに性的関係を断つ
既婚と分かった後は、すぐに相手との性的な関係を断ってください。
これは、二つの意味で重要です。
第一に、あなたの請求を守るためです。
発覚後も性的関係を続けると、「既婚でも構わなかったのではないか」と評価され、請求が否定されたり減額されたりする方向に働く可能性があります。
第二に、相手の配偶者からの請求に備えるためです。
相手が既婚者であると発覚した後も性的関係を続けると、既婚と知ったうえでの故意による不貞行為となり、配偶者への損害賠償義務が発生します。
性的関係を断ちつつ、上述した証拠を保全してください。
保存したプロフィールや規約の画面は、あなたが請求する場面と、配偶者からの請求に反論する場面の、両方で重要な証拠になります。

請求の進め方(アプリ事案の留意点)
証拠と連絡先を確保したら、請求に移ります。
マッチングアプリの事案では、以下の点に留意する必要があります。
- 相手は交渉に応じやすい傾向があります:独身偽装をした相手は、配偶者に知られたくないという事情を抱えています。正当な請求に対しては、争わずに応じることも少なくありません。
- ただし、暴露を交渉の道具にしないでください:「払わなければ配偶者に言う」という請求の仕方は、脅迫や強要となる可能性があります。
- SNSやアプリ内での公表は厳禁です:相手のプロフィールを晒す、注意喚起と称して個人情報を投稿するといった行為は、名誉毀損やプライバシー侵害となる可能性があります。証拠は保存に留め、公表しないでください。

よくある質問(FAQ)
- 遊び目的のアプリで出会いました。それでも請求できますか。
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請求のハードルは上がります。
貞操権侵害の成立には結婚への期待が重要となるため、出会いの場の性質や交際の実態から、結婚を見据えた関係だったといえるかが問われます。
婚活目的でない出会いでも、その後のやり取りで結婚を前提とする関係に発展していれば、請求の余地はあります。 - 相手が退会してしまい、連絡が取れません。
-
手元に残っている情報が鍵になります。
電話番号やLINEのIDがあれば、弁護士会照会等によって特定できる可能性があります。
保存済みのプロフィールやメッセージの画面も、そのまま証拠になります。何が残っているかを整理して、弁護士に相談してください。
- 独身証明書を提出するアプリだったのに既婚者でした。
-
独身証明の仕組みがあるサービスでの偽装は、あなたが独身と信じたことに落ち度がないことを強く裏づけます。
証明バッジの表示やサービスの仕組みが分かる画面を保存してください。なお、証明書の提出が任意のサービスもあるため、相手が提出済みだったかどうかも確認しておくとよいでしょう。
- 相手の配偶者から請求が来ました。払わないといけませんか。
-
既婚と知らず、知らなかったことに落ち度もなければ、支払義務は生じません。
独身限定アプリでの出会いと独身表示のプロフィールは、その重要な証拠となります。ただし、既婚者であることが発覚した後も性的関係を続けていた場合、その期間については不貞行為となります。
安易に認めたり支払ったりする前に、弁護士に相談してください。 - アプリの運営会社に通報すれば解決しますか。
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通報により相手のアカウントが停止されることはありますが、それはアプリ内の措置にとどまり、慰謝料の支払いに直結するものではありません。
むしろ、通報によって相手が退会・警戒し、証拠や連絡の手がかりが失われることもあります。通報は、証拠の保全と連絡先の確保を済ませてからにしてください。
まとめ
マッチングアプリ・婚活サイトで既婚者に騙された場合の対応について、ポイントを整理します。
- 独身と偽られて性的関係を持った場合、貞操権侵害の慰謝料を請求できる可能性がある。独身限定・婚活特化のサービスほど、請求は認められやすい方向に働く。
- プロフィール・利用規約・アプリ内メッセージは、相手の操作で消える。請求の意向を悟られる前に保存する。
- 匿名の相手には特定の壁がある。電話番号やLINEのIDなど、特定に繋がる情報を連絡が取れるうちに確保する。
- 既婚と分かったら直ちに関係を断つ。保存した証拠は、請求と、配偶者からの請求への反論の両方に使える。
- 暴露すると脅したりSNSでの公表はしない。
当事務所では、マッチングアプリ・婚活サイトでの独身偽装について、証拠の保全から相手の特定、慰謝料請求、配偶者から請求された場合の対応までお受けしています。
相手が退会してしまう前に、お早めにご相談ください。
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