【この記事の結論・要約】
- 慰謝料の請求には相手の氏名と住所が必要です。貞操権侵害では、相手の特定に加えて、相手が本当に既婚であることの確認も必要になります。
- 携帯電話番号などの手がかりがあれば、弁護士会照会や職務上請求で氏名・住所を特定できる場合があります。ただし、必ず判明するとは限りません。
- 自力での尾行や、SNSでの特定・公表は、逆にご自身が責任を問われる原因になり得ます。
はじめに
「交際していたのに、相手の自宅を知らない」「名乗っていた名前が本名かどうかも分からない」
独身と偽って交際する相手は、身元につながる情報を意図的に伏せていることが多く、いざ慰謝料を請求しようとした段階で、請求先が分からないという壁に突き当たります。
実際の裁判例には、氏名・年齢・住所・学歴まで偽って交際していた事案もあります。
相手について「知っているつもり」の情報が、そもそも正しいとは限らない。
これが、貞操権侵害の調査の出発点です。
この記事では、相手の本名・住所が分からない場合の調べ方と、その限界を解説します。

請求には氏名と住所が必要(調査の二つの目的)
慰謝料の請求には、交渉の段階でも訴訟の段階でも、相手の氏名と住所が必要です。
内容証明郵便は送付先がなければ送れず、訴訟も訴状を送達できなければ進みません。
電話番号やLINEだけでは、正式な請求はできません。
そして、貞操権侵害の調査には、二つの目的があります。
相手の特定:本名と現住所を確定させることです。名乗っていた名前が通称や偽名である可能性を前提に、客観的な資料で確認します。
既婚の確定:貞操権侵害は、相手が既婚であることが前提です。「妻がいるらしい」という伝聞や状況だけでなく、戸籍上の婚姻の事実を確認できれば、請求の土台が固まります。婚姻の時期が分かれば、交際期間と重なっていたことの裏づけにもなります。
この二つを、手がかりに応じて組み立てていくのが調査の設計です。
手がかり別・特定の方法(弁護士会照会)
弁護士会照会は、弁護士法23条の2に定められた制度です。
弁護士が受任している事件について、所属する弁護士会に申し出て、弁護士会から企業や公的機関に必要な事項の報告を求めます。
個人では利用できず、弁護士会が申出の必要性・相当性を審査したうえで実施されます。
手がかり別に、次のような照会が考えられます。
- 携帯電話番号が分かる場合:携帯電話会社への照会で、契約者の氏名や住所を調べられる場合があります。契約時に本人確認が行われているため、判明すれば信頼性の高い情報になります。ただし、開示に応じる会社と、応じない場合があり、確実ではありません。
- キャリアのメールアドレスが分かる場合:電話番号と同様に、契約者情報の照会が考えられます。ただし、アドレスが変更・解約されると、照会しても回答不能となることがあります。
- LINEでつながっている場合:LINEのIDが分かれば、運営会社への照会が考えられます。トーク画面や表示名だけでは照会が難しいため、IDを確認できるうちに控えておくことが重要です。ただし、運営会社が開示に応じない可能性があります。
- 相手の車のナンバーが分かる場合:登録情報の照会により、所有者・使用者の氏名や住所を調べられる場合があります。
注意すべき点が三つあります。
第一に、照会を受けた側に回答を強制する罰則はなく、拒否されることがあります。
第二に、照会だけを単独で弁護士に依頼することはできず、慰謝料請求事件の依頼が前提になります。
第三に、照会で得た情報は当該事件のためにしか使えません。
住民票・戸籍をたどる(職務上請求)
相手の氏名と、過去のものでも住所が分かっている場合には、弁護士は職務上請求により、受任した事件の遂行に必要な範囲で、住民票や戸籍の附票を取得できます。
戸籍の附票には住所の履歴が記録されているため、引っ越しをしていても現住所を追える可能性があります。
貞操権侵害で特に重要なのは、戸籍によって婚姻の有無と婚姻の時期を確認できることです。
「独身と言っていたが、戸籍上は交際開始の前から婚姻していた」という事実が確認できれば、欺罔の裏づけとして極めて強い資料になります。
実際に、依頼を受けた弁護士がまず戸籍を確認して既婚の事実を確定させ、そのうえで交渉に入る進め方が用いられています。
「怪しいが確定していない」という段階でも、氏名と住所の手がかりがあれば確認を進められる場合があります。
確定を待つ必要はありません。
マッチングアプリの運営会社・その他の手段
マッチングアプリの運営会社への照会:アプリで知り合った場合、運営会社への照会で登録情報を求めることが考えられます。ただし、回答が得られない場合も多く、確実な手段とはいえません。アプリ上のプロフィールやメッセージは、退会されると確認できなくなるため、まずご自身の画面で保存しておくことが先決です。
探偵・興信所:尾行や聞き込みによる調査で住所を特定できる場合があります。ただし費用がかかるため、見込まれる慰謝料額との均衡を考える必要があります。
公示送達:氏名と住民票上の住所は判明しているものの、現実の所在がどうしても分からない場合には、公示送達という手続きを使って訴訟を進められる可能性があります。あくまで最終手段であり、まずは上記の方法での特定を尽くすことになります。
やってはいけない調べ方
特定を急ぐあまり、次のような行動に出ると、かえってご自身が責任を問われかねません。
- 自力での尾行・張り込み:トラブルや法令違反のリスクがあるうえ、相手に警戒されて手がかりを失う原因になります。
- SNSでの特定・公表・呼びかけ:相手のアカウントを晒す、事情を投稿して情報提供を呼びかけるといった行為は、名誉毀損やプライバシー侵害として、逆に相手から損害賠償を請求される原因になり得ます。実際に、被害を受けた側がSNSで公表したことについて、賠償を命じられた例もあります。
- 勤務先への安易な書面送付:住所が分からないからといって勤務先に請求書を送ると、内容や態様によってはプライバシーや名誉の問題を生じさせます。送付先や書面の内容には慎重な検討が必要です。
- 相手のスマートフォンの無断操作:無断でロックを解除して中を見る行為や、無断でのログインは、プライバシー侵害や不正アクセス禁止法違反の問題を生じさせます。
早く動くほど特定しやすい
特定の手がかりは、時間の経過とともに失われます。
電話番号の解約、メールアドレスの変更、アプリの退会、LINEのブロックや削除。
相手が関係を断つ行動に出ると、照会の起点となる情報そのものが使えなくなります。
また、時効との関係でも放置は禁物です。
慰謝料請求権の時効は、損害と加害者を知った時から進行します。
相手の特定に手間取っている間に時間だけが過ぎることのないよう、手がかりが残っているうちに動き始めることが重要です。


よくある質問(FAQ)
- 電話番号しか知りません。請求できますか。
-
その番号を起点に、弁護士会照会で契約者の氏名・住所を調べられる場合があります。
判明すれば正式な請求が可能になります。ただし、照会に応じない場合もあるため、番号のほかに手がかりがないか(LINEのID、勤務先、車のナンバーなど)もあわせて整理しておくと、特定の可能性が上がります。
- 相手が名乗っていた名前が本名かどうか分かりません。
-
名前が偽りでも、電話番号などの客観的な手がかりがあれば、そこから本名にたどり着ける場合があります。
実際に、氏名まで偽って交際していた事案は存在します。
「聞いていた名前」を前提にせず、手元にある客観的な情報を弁護士に伝えてください。 - 弁護士に調査だけを依頼できますか。
-
できません。
弁護士会照会も職務上請求も、受任している事件の遂行に必要な範囲で認められる制度です。
慰謝料請求の依頼とあわせて、その準備として調査を行う形になります。 - 相手が本当に既婚かどうか、確かめる方法はありますか。
-
氏名と住所の手がかりがあれば、弁護士が職務上請求で戸籍をたどり、婚姻の有無を確認できる場合があります。
既婚と確定してから相談するのではなく、疑いのある段階で相談していただくほうが、手がかりが失われる前に確認を進められます。 - SNSで相手を見つけたので、投稿して呼びかけてもよいですか。
-
おすすめしません。
相手の特定につながる投稿や公表は、名誉毀損やプライバシー侵害として、逆にご自身が損害賠償を請求される原因になり得ます。
見つけたアカウントは公表せず、スクリーンショットで保存して弁護士に伝えてください。
まとめ
相手の本名・住所が分からない場合の調べ方について、ポイントを整理します。
- 請求には氏名と住所が必要になる。調査は「相手の特定」と「既婚の確定」の二本立てで設計する。
- 電話番号・メールアドレス・LINEのID・車のナンバーなどの手がかりがあれば、弁護士会照会で特定できる場合がある。ただし回答が得られないこともある。
- 氏名と過去の住所が分かれば、職務上請求で現住所を追い、戸籍で婚姻の有無を確認できる場合がある。
- 自力の尾行やSNSでの公表は、逆に責任を問われる原因になる。手がかりは保存に留め、公表しない。
- 手がかりは時間とともに失われる。残っているうちに動き始める。
当事務所では、貞操権侵害の慰謝料請求について、相手の特定や既婚の確認といった調査の段階からご相談をお受けしています。
手元にある手がかりで特定できる見込みがあるか確認したい方は、お早めにご相談ください。
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