【この記事の結論・要約】
- 証拠は、「成立を立証するもの」「金額を裏づけるもの」「自分に落ち度がなかったことを示すもの」の三つの目的で整理して集めます。
- 相手に請求の意向を悟られる前が、証拠を確保できる最後の機会になりやすいタイミングです。
- 保存の仕方によって証拠の力は変わります。日時や相手が分かる形で残すことが基本です。
はじめに
独身と偽られて交際していた方が慰謝料を請求すると、相手からは以下のような反論が返ってくることがあります。
「独身だと言ったことはない」「結婚の話などしていない」「そもそも関係はなかった」。
相手が素直に認めれば証拠がなくても解決できますが、否認された場合には、証拠によって立証できるかどうかが結論を分けます。
この記事では、貞操権侵害の慰謝料請求を見据えて、何を、いつ、どのように残しておくべきかを解説します。
請求が認められるための要件そのものや、請求の進め方の全体像は、別の記事で扱っています。

証拠は三つの目的で整理する
やみくもに集めるのではなく、「何のための証拠か」を意識すると、過不足なく準備できます。
成立を立証するための証拠:貞操権侵害の成立には、独身と偽られたこと(欺罔)、結婚への期待を抱かされたこと、そのうえで性的関係を持ったことが問われます。相手の否認パターン(「言っていない」「結婚の話はしていない」「関係はなかった」)は、この三点にそれぞれ対応しています。
金額を裏づけるための証拠:交際期間の長さ、結婚話の具体性、偽装の悪質さ、妊娠・中絶などの増額に働く事情は、証拠で裏づけて初めて金額に反映されます。
自分に落ち度がなかったことを示す証拠:独身と信じたことがやむを得なかったという事情は、貞操権侵害の成立を支えると同時に、相手の配偶者から不貞慰謝料を請求された場合の反論の土台にもなります。


独身と偽られたことを示す証拠
欺罔の立証に使える主な証拠です。
- 「独身だ」「結婚していない」と述べたメッセージ(LINE・メール・DM)や、その発言の録音
- 独身者限定のマッチングアプリ・婚活サイトのプロフィール画面(独身・未婚の表示があるもの)
- 婚活パーティや結婚相談所を通じて知り合ったことが分かる資料(参加記録、マッチングの通知など)
- 独身を装う言動の記録(一人暮らしを装った発言、家族の話を避けていたやり取りなど)
アプリのプロフィールは、相手が退会・変更すると確認できなくなります。
表示されているうちにスクリーンショットで残してください。
独身者限定のサービスであれば、利用規約の該当部分もあわせて保存しておくと、独身と表示していたこと自体の意味を裏づけられます。
結婚への期待を示す証拠
貞操権侵害の成立のための重要な点は、結婚への期待を抱かされ、その期待ゆえに関係に応じたことにあります。
- 結婚をほのめかす・約束するやり取り(「結婚しよう」「将来は一緒に」等のメッセージ)
- 両親や友人への紹介に関するやり取り、その際の写真
- 同棲していたことが分かる資料
- 結婚式場の見学のパンフレットや予約記録、婚約指輪の購入・贈与の記録
これらは、成立の立証と増額の裏づけの両方に意味のあるものです。
結婚話が具体的であるほど、裏切られた期待の大きさとして金額に反映されます。

性的関係を示す証拠
相手が「関係はなかった」と否認する場合に備えるものです。
- 性的関係をうかがわせるやり取り(メッセージ・音声)
- 旅行や宿泊の予約票、レシート、クレジットカードの明細
- 二人での旅行・宿泊時の写真
単体では弱い資料でも、複数を時系列で組み合わせることで立証に足りる場合があります。
相手が既婚であることを示す証拠
貞操権侵害の前提となる、相手が既婚であった事実の裏づけです。
- 発覚の経緯の記録(相手の配偶者から届いた連絡、共通の知人からの情報など)
- 相手や家族のSNSで、配偶者や家族の存在がうかがえる投稿
自力で確認できない場合でも、弁護士に依頼すれば、職務上の権限に基づいて住民票や戸籍をたどり、婚姻の有無を確認できる場合があります。
「怪しいが確定していない」という段階でも、相談する意味は十分にあります。
請求前だからこそ集められる証拠
証拠集めで最も重要なのはタイミングです。
相手に請求の意向を悟られると、メッセージの削除、アプリの退会、ブロックといった行動に出ることがあります。
関係が続いている、あるいは連絡が取れる段階が、証拠を確保できる最後の機会になりやすいのです。
過去の発言の記録が残っていない場合には、日常の会話の流れの中で確認し直す方法もあります。
たとえば「前に結婚していないと言っていたけど、本当だよね」といったメッセージへの返信は、欺罔の裏づけになり得ます。
ただし、問い詰めるような聞き方をすると、相手が警戒して証拠を消したり、連絡を絶ったりする原因になります。
不自然にならない範囲に留めるのが重要です。
疑いを持った段階で、まず今あるものを保全し、足りないものを把握する。
この順序で動くために、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
保存の仕方で証拠の力が変わる
同じ内容でも、残し方によって証拠としての力は変わります。
- 日時と相手が分かる形で残す:メッセージは、送受信の日時と相手のアカウント名・プロフィール画像が画面に含まれるように保存します。
- 時系列がわかるように保存する:断片的な切り取りではなく、やり取りの全体の流れが分かるように残します。分割して保存する場合は、前後の会話部分が重なるようにします。
- スクリーンショットに加えてバックアップも:スクリーンショット単体では加工の可能性を指摘されることがあります。トーク履歴のバックアップなど、複数の形で残しておくと補強になります。
- 現物は捨てない:レシート、パンフレット、指輪など、物として残るものはそのまま保管します。
注意なければならない点として、相手のスマートフォンを無断で操作して中を見る行為や、相手のID・パスワードを使って無断でログインする行為は、プライバシーの侵害や不正アクセス禁止法違反となる可能性があります。
ご自身の端末に残っているやり取りの保全を基本にしてください。
証拠が少なくても諦めない
決定的な証拠がなくても、直ちに諦める必要はありません。
複数の間接的な事情を積み上げて事実が認定できないか検討します。
断片的なやり取り、出会いの経緯、交際の実態を示す資料の組み合わせで、立証に足りると判断される場合があります。
また、「これは証拠になるのか」をご自身で判断して処分してしまうのは危険です。
一見関係のない資料が、時系列を裏づける材料になることもあります。
捨てる前に、弁護士に確認してください。
よくある質問(FAQ)
- 独身と言われたのは口頭だけで、記録がありません。請求は無理ですか。
-
無理とは限りません。
独身者限定のアプリのプロフィール、独身を前提としたやり取り、生活状況など、間接的な事情の積み上げで立証できる場合があります。
また、連絡が取れる段階であれば、会話の中で確認し直してその返信を残す方法もあります。 - 録音は証拠になりますか。相手に無断でもよいですか。
-
自分と相手との会話をご自身が録音したものは、相手に告げずに録音した場合でも、民事裁判の証拠として用いることができるのが一般的な取り扱いです。
「独身だ」という発言や、既婚を認めた発言の録音は有力な証拠になり得ます。 - 相手のスマホを見て確かめてもよいですか。
-
おすすめしません。
無断でロックを解除して中を見る行為はプライバシー侵害の問題を生じさせ、IDやパスワードを使って無断でログインする行為は不正アクセス禁止法違反にあたり得ます。
ご自身の端末にあるやり取りの保全と、弁護士を通じた調査を基本にしてください。 - どの段階で弁護士に相談すべきですか。
-
「怪しい」と感じた段階での相談が理想です。
既婚と確定してからではなく、疑いの段階で相談することで、証拠の保全の順序や、相手を警戒させない進め方について助言を受けられます。
確定を待つ間に証拠が失われることが、最も避けたい事態です。
まとめ
貞操権侵害の慰謝料請求に向けた証拠について、ポイントを整理します。
- 証拠は、成立の立証・金額の裏づけ・自分の善意無過失の三つの目的で整理する。同じ証拠が攻めと守りの両方に効く。
- 独身と偽られた証拠、結婚への期待の証拠、性的関係の証拠、相手が既婚である証拠を、それぞれ確保する。
- 相手に悟られる前が確保の最後の機会になりやすい。疑いの段階から保全を始める。
- 日時と相手が分かる形で、時系列の一貫性を保って残す。現物は捨てない。
当事務所では、貞操権侵害の慰謝料請求について、証拠の確保の段階からご相談をお受けしています。
何をどの順序で残すべきか、お手元の資料で立証できるかを確認したい方は、お早めにご相談ください。
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