肖像権とは?侵害の判断基準・慰謝料の相場・対処法を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 肖像権とは、自分の容貌や姿態をみだりに撮影されず、撮影された写真等をみだりに公表されない権利である。法律に明文規定はないが、憲法13条(幸福追求権)を根拠として判例により確立された権利である。
  2. 肖像権侵害の判断は、最高裁が示した6つの要素(被撮影者の社会的地位、活動内容、撮影の場所・目的・態様・必要性)を総合考慮し、社会生活上の受忍限度を超えるかどうかで決まる。
  3. 肖像権侵害の慰謝料は一般的に10万円~50万円程度だが、悪質なケースでは100万円以上になることもある。侵害された場合は、証拠を保全し、削除要請・発信者情報開示請求・損害賠償請求といった法的手段を検討すべきである。

肖像権とは——「みだりに撮影・公表されない権利」

肖像権とは、自分の容貌(顔)や姿態(体の姿)をみだりに撮影されず、撮影された写真等をみだりに公表されない権利です。

肖像権は、大きく2つの内容を含みます。
1つは、自分の容貌や姿態をみだりに撮影されない権利(撮影拒否権)。
もう1つは、撮影された写真等をみだりに公表されない権利(公表拒絶権)です。

肖像権については、民法や刑法に明文の規定はありません。
しかし、日本国憲法13条が保障する幸福追求権を根拠として、判例により発展してきた権利です。

憲法13条:「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

肖像権は一般人・著名人を問わず、すべての人に認められる権利です。「有名人だけの権利」ではありません。

肖像権の法的根拠——3つの最高裁判例で理解する

肖像権は、最高裁判例を通じて発展してきました。
以下では、3つの重要な最高裁判例を紹介します。

最判昭和44年12月24日(京都府学連事件)——肖像権が初めて認められた判決

最高裁が肖像権を初めて認めた判決です。デモ行進の参加者を警察官が無断で撮影した行為が争われました。

最高裁は、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」と判示しました。
この判決では、「これを肖像権と称するかどうかは別として」と述べており、肖像権という概念自体が確立されたとまでは言えませんが、「承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」が憲法13条を根拠とする法的に保護される自由であることが認められました。

最判平成17年11月10日——肖像権侵害の判断基準(6つの要素等)

肖像権侵害の判断基準を明確に示した判決です(民集59巻9号2428頁)。
刑事事件の被告人の法廷での姿を写真週刊誌の記者が無断で撮影・公表した行為が争われました。

最高裁は、前掲最判昭和44年判決を引用して「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」としたうえで、撮影が不法行為に該当するかどうかは、以下の6つの要素を総合考慮して、人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかで判断すべきとしました。

  1. 被撮影者の社会的地位
  2. 撮影された被撮影者の活動内容
  3. 撮影の場所
  4. 撮影の目的
  5. 撮影の態様
  6. 撮影の必要性

この6要素は、その後の下級審裁判例でも広く用いられている判断基準です。

また、同判決はイラスト画についても言及し、「自己の容ぼう等を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有する」と判示しています。
ただし、イラストには作者の主観や技術が反映されるため、写真とは異なる考慮が必要としました。

最判平成24年2月2日(ピンク・レディー事件)——パブリシティ権の判断基準

パブリシティ権の判断基準を明確にした判決です(民集66巻2号89頁)。
女性歌手グループの写真を雑誌が無断掲載した事案です。

最高裁は、肖像等が有する顧客吸引力を「専ら」利用する目的で無断使用する行為がパブリシティ権侵害に当たるとし、その具体例として3つの類型を示しました。

  1. 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
  2. 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品に付す場合
  3. 肖像等を商品の広告として使用する場合

肖像権と混同されやすい3つの権利——プライバシー権・パブリシティ権・著作権との違い

肖像権は、他の権利と混同されやすい権利です。以下の表で整理します。

権利保護の対象権利の性質権利者法律上の明文規定
肖像権(人格権的側面)容貌・姿態を撮影・公表されない利益人格権すべての人なし(判例)
パブリシティ権肖像等の顧客吸引力(財産的価値)財産権主に著名人なし(判例)
プライバシー権私生活上の情報全般人格権すべての人なし(判例)
著作権創作的な表現(著作物)財産権+人格権著作物の創作者あり(著作権法)

これらの違いを具体的な場面で見ると、分かりやすくなります。

例えば、他人の写真をSNSに無断で投稿した場合、肖像権の侵害になりますが、同時にプライバシー権の侵害にもなりうる可能性があります。

一方、「Aさんがラブホテルに出入りしていた」という文章だけを投稿した場合は、「肖像」を撮影・公表したわけではないため肖像権侵害にはなりませんが、プライバシー権の侵害には該当しうる可能性があります。

また、有名人の写真を無断で商品パッケージに使用した場合は、肖像権侵害であると同時にパブリシティ権の侵害にも該当しうる可能性があります。

著作権は「撮影した人(写真の著作者)」の権利であり、「撮影された人(被写体)」の権利ではないという点で、肖像権とは保護の主体が異なります。

肖像権侵害になるケース・ならないケース——具体例で判断

肖像権侵害の判断は、前述の6要素を総合考慮して行われます。ここでは具体例に当てはめて検討します。

侵害が認められやすいケース

他人の顔がはっきりと写った写真を、本人の承諾なくSNSに投稿する行為は、肖像権侵害が認められる可能性が高いです。
SNSは不特定多数が閲覧できるため拡散性が高く、受忍限度を超えると判断されやすくなります。

盗撮(電車内、更衣室、店舗内等での無断撮影)は、撮影の態様が悪質であり、被撮影者がプライバシーを期待する場所での撮影であるため、肖像権侵害が認められる可能性が極めて高いです。
なお、盗撮行為は肖像権侵害にとどまらず、各都道府県の迷惑防止条例違反等の刑事罰の対象にもなりえます。

他人の写真を無断で出会い系サイトやマッチングアプリのプロフィールに使用する行為は、撮影の目的が被撮影者の承諾した範囲を大きく逸脱しており、人格的利益の侵害が著しいと判断されやすいです。
東京地裁平成17年12月16日判決(判時1932号103頁)は、出会い系サイトの広告として写真を無断掲載した行為について慰謝料100万円の損害賠償を認めています。

他人になりすまし、その人の顔写真をプロフィール画像に使用する行為も、肖像権侵害として認められる可能性が高いです(大阪地裁平成29年8月30日判決参照)。

侵害が認められにくいケース

公共の場での群衆写真で、個人の顔が小さく映っているだけで特定できない場合は、肖像権侵害が認められにくいと考えられます。
ただし、画像の拡大や解像度の向上により個人が特定できる場合は、侵害が認められる可能性があります。

報道目的で、公共の利害に関する人物(政治家・刑事事件の被疑者等)を撮影する行為は、「撮影の目的」と「撮影の必要性」の要素が肖像権の制約を正当化する方向に働くため、原則として違法ではないと判断されやすいです。

本人の承諾がある場合、およびモザイク・ぼかし処理により個人が特定できない状態で公表する場合も、肖像権侵害は認められにくいです。

判断が分かれるケース——イラスト・似顔絵の場合

実在の人物を描いたイラストや似顔絵が肖像権侵害になるかは、一律には決まりません。

最判平成17年11月10日は、「イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり、公表された場合も、これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない」と述べています。
つまり、写真とは異なり、イラストの場合は表現の自由との調整がより慎重に行われるということです。

もっとも、誰が見ても特定の実在人物であると分かるほど写実的なイラストを、その人物を侮辱する文脈で公表した場合には、肖像権侵害が認められる可能性があります。

SNS別の肖像権トラブルと注意点

SNSの普及に伴い、肖像権に関するトラブルは年々増加しています。プラットフォーム別に特に注意すべきポイントを整理します。

Instagram——ストーリー・リール投稿と肖像権

Instagramのストーリーやリールは気軽に投稿できるため、友人や第三者が映った写真・動画を深く考えずに投稿してしまうケースがあります。
ストーリーは24時間で消えますが、その間に第三者がスクリーンショットを保存して他のサイトに転載する可能性があり、一度投稿すれば拡散のリスクがあります。

TikTok——街中撮影と通行人の映り込み

TikTokでは街中での撮影動画が多く投稿されますが、通行人の顔が明確に映り込んでいる場合は肖像権侵害のリスクがあります。
特に、通行人の容貌に焦点を当てた撮影や、通行人を嘲笑する目的の撮影は、受忍限度を超える可能性が高いです。

YouTube——「撮影」と「公開」は別の行為

YouTubeで注意すべきは、撮影の承諾と公開の承諾は別の行為であるという点です。
撮影時に「いいですよ」と言われたとしても、その映像をYouTubeに公開することについてまで承諾が及んでいるとは限りません。
特に、撮影時に想定されていなかった文脈(批判動画の素材として使用する等)での公開は、承諾の範囲を超えると判断される可能性があります。

X(旧Twitter)——リポストによる拡散と責任

他人の肖像権を侵害する投稿をリポスト(リツイート)した場合、リポストした者自身が肖像権侵害の責任を問われる可能性があります。
「自分が撮影・投稿したわけではない」という抗弁は、リポストにより拡散に加担したという評価を覆すものではありません。

BeReal——前後カメラ同時撮影と「意図しない映り込み」のリスク

BeRealは、1日1回ランダムなタイミングで通知が届き、2分以内に前後カメラで同時撮影して投稿するSNSです。
加工やフィルターが使えない「ありのままの日常」の共有をコンセプトとしており、Z世代を中心に利用が広がっています。

肖像権の観点から特に注意すべきは、前後カメラの同時撮影という仕組みです。
自撮り(前面カメラ)のつもりでも、背面カメラが同時に撮影するため、周囲にいる同僚・友人・通行人の容貌が本人の承諾なく撮影・投稿されてしまうリスクがあります。

また、BeRealの投稿は原則として友人限定の公開ですが、閲覧者がスクリーンショットを保存して他のSNSに転載するケースが相次いでおり、「友人限定だから大丈夫」という前提は成り立ちません。
2025年から2026年にかけて、BeReal投稿から企業の社内情報や第三者の個人情報が流出する事案が多数報道されています。
2分以内の投稿を促す設計が、背景の確認を怠らせる要因となっています。

友人限定の設定であっても、映り込んだ人の肖像権侵害が成立する可能性はあります。
撮影前に周囲に他人が映り込んでいないかを確認し、映り込みがある場合は投稿を控えるべきです。

肖像権侵害の慰謝料の相場

肖像権侵害が認められた場合、被害者は不法行為(民法709条)に基づき、精神的損害の賠償(慰謝料、民法710条)を請求できます。

一般的な相場

肖像権侵害(人格権侵害)の慰謝料は、一般的に10万円~50万円程度が中心的な価格帯です。

ただし、以下のような悪質なケースでは100万円以上になることもあります。

  • 出会い系サイトやアダルトサイトへの広告写真無断掲載(東京地裁平成17年12月16日判決:慰謝料100万円)
  • なりすまし行為に伴う写真無断使用+誹謗中傷(大阪地裁平成29年8月30日判決:慰謝料60万円+発信者情報開示費用58万6,000円+弁護士費用12万円=合計130万6,000円)
  • リベンジポルノなど、性的な写真・動画の無断公表

パブリシティ権侵害の場合の注意点

パブリシティ権は財産権としての性質を持つため、侵害された場合に請求できるのは原則として財産的損害の賠償であり、慰謝料(精神的損害の賠償)の請求は認められないのが通常です。

例えば、著名人の写真を無断で商品の広告に使用した場合、請求できるのは「本来支払われるべきだった広告出演料相当額」等の財産的損害であり、精神的苦痛に対する慰謝料ではありません。

肖像権を侵害された場合の対処法

証拠の保全

肖像権侵害を発見したら、まず証拠を保全します。
スクリーンショット(URL、投稿日時、投稿者のアカウント名が分かる形)を撮影し、可能であればウェブページ全体の保存も行ってください。
投稿が削除される前に証拠を確保することが最も重要です。

投稿者・サイト管理者への削除要請

SNSの運営者やサイト管理者に対して削除を要請します。
多くのSNSでは、利用規約に基づく通報機能が設けられています。
また、投稿者が実名アカウントであるなど特定できる場合は、投稿者に直接削除を要請することも考えられます。

裁判所への仮処分申立て

任意の削除要請に応じない場合は、裁判所に投稿削除の仮処分を申し立てます。
仮処分が認められれば、裁判所の決定に基づいてSNS運営者やサイト管理者に削除を命じることができます。

発信者情報開示請求

投稿者が匿名の場合、損害賠償請求をするために投稿者の特定が必要です。
プロバイダ責任制限法(情報流通プラットフォーム対処法)に基づく発信者情報開示請求により、投稿者のIPアドレス、さらにアクセスプロバイダから契約者の氏名・住所を取得する手続きが可能です。

IPアドレスの保存期間(おおむね3~6ヶ月)の制約があるため、早期に弁護士に相談することが重要です。

損害賠償請求

投稿者が特定できたら、不法行為(民法709条)に基づき、慰謝料等の損害賠償を請求します。
示談交渉→訴訟の順に進めるのが一般的です。

刑事告訴の可否

肖像権侵害自体について、これを直接処罰する刑事罰の規定はありません。
ただし、盗撮行為が迷惑防止条例違反に該当する場合や、性的姿態等撮影罪(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)に該当する場合、肖像の無断公表がリベンジポルノ被害防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)に該当する場合には、刑事告訴が可能です。

肖像権を侵害しないために——撮影・投稿前のチェックポイント

肖像権侵害を防ぐためには、撮影・投稿の前に以下の点を確認してください。

写真・動画に写っている人全員から、撮影と公開の両方について承諾を得ているか確認してください。
撮影の承諾と公開の承諾は別の行為です。
「撮影してもいいよ」と言われたからといって、SNSに投稿してよいことにはなりません。

個人が特定できる映り込みがないかも確認が必要です。
背景に写った通行人の顔がはっきりと映っている場合は、モザイクやぼかし処理を施してから投稿してください。

写真の公開範囲は適切かについても検討してください。
友人間の限定公開と全世界への公開では、受忍限度の判断が異なります。

他人のSNSから写真を転載していないかも確認してください。
元の投稿者が自ら公開した写真であっても、本人が公開した範囲を超えて転載すれば肖像権侵害となりうる可能性があります。

よくある質問(FAQ)

一般人でも肖像権はありますか?

はい、肖像権はすべての人に認められる権利です。
有名人や著名人に限られるものではありません。

なお、著名人に特有の権利として、肖像等の顧客吸引力(財産的価値)を保護する「パブリシティ権」がありますが、これは肖像権の一側面であり、一般人の肖像権とは別の概念です。

自分で公開した写真を他人に転載された場合、肖像権侵害になりますか?

本人が自らSNS等に公開した写真であっても、本人が公開した範囲や目的を超えて転載された場合には、肖像権侵害が認められる可能性があります。
例えば、限定公開の設定で投稿していた写真を第三者が保存し、別のサイトに公開した場合は肖像権侵害に該当しうると考えられます。

街中で撮った動画に通行人が映り込んでしまいました。肖像権侵害ですか?

通行人の映り込みが小さく、個人を特定できない程度であれば、肖像権侵害は認められにくいと考えられます。
しかし、通行人の容貌がはっきりと映っており個人が特定できる場合は、肖像権侵害が認められる可能性があります。
気になる場合は、モザイクやぼかし処理を施してから公開するのが安全です。

イラストや似顔絵で実在の人物を描いた場合、肖像権侵害になりますか?

イラストや似顔絵であっても、肖像権侵害が認められる可能性はあります。

最判平成17年11月10日は、イラスト画についても「みだりに公表されない人格的利益」を認めています。
ただし、イラストは作者の主観や技術が反映されるため、写真と同じ基準では判断されず、表現の自由との調整がより慎重に行われます。

肖像権侵害で相手を刑事告訴できますか?

肖像権侵害自体を直接処罰する刑事罰の規定はありません。

したがって、肖像権侵害のみを理由とする刑事告訴は困難です。ただし、盗撮行為が迷惑防止条例違反に該当する場合や、性的姿態等撮影罪に該当する場合、性的な写真・動画の無断公表がリベンジポルノ被害防止法に該当する場合には、これらの法律を根拠として刑事告訴を行うことが可能です。

おわりに

肖像権は、法律に明文規定がないにもかかわらず、判例によって確立された重要な権利です。
SNSの普及により、誰もが写真や動画を簡単に投稿できるようになった現代では、意図せず他人の肖像権を侵害してしまうリスクも高まっています。

肖像権侵害の判断は、最高裁が示した6つの要素を総合考慮して行われるため、個別の事案ごとに結論が異なります。
「自分のケースが肖像権侵害に該当するか」「どのような法的手段を取るべきか」については、弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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