立ち退きの合意書にサインする前に|借主が確認すべき条項のチェックポイント

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 合意書にサインすると、原則として後から覆せません。金額・条件の交渉がすべて終わり、その内容が漏れなく書面に反映されてからサインしてください。
  2. 特に確認すべきは、立退料の支払時期(明渡しと引換えになっているか)、原状回復義務の免除、敷金の扱い、現実的な退去期限、清算条項です。
  3. 借主に不利な条項(過大な使用損害金、立退料からの控除、通常損耗まで及ぶ原状回復)が紛れていることがあります。署名前の確認が不可欠です。

はじめに

立ち退きの話し合いがまとまりに近づくと、大家や管理会社から「合意書」「協定書」「解約合意書」といった書面が示され、署名を求められます。

ここで知っておくべきことは一つです。
署名した合意書は、原則として後から覆せません
合意書の締結は、立ち退きで最も慎重になるべき局面です。
金額の話がまとまっていても、書面の条項次第で、受け取れるはずのお金が受け取れなくなったり、想定外の負担を負わされたりすることがあります。

この記事では、立ち退きの合意書にサインする前に借主が確認すべき条項を、チェックポイント形式で解説します。
なお、立退料の金額そのものの妥当性や交渉の進め方は、次の記事で扱っています。

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合意書の意味

立ち退きの合意は、口頭でも成立し得ます。
しかし、「言った・言わない」の争いになれば、署名押印のある書面の内容が重要な証拠になります。
逆にいえば、口頭でどれだけ有利な約束を取り付けていても、書面に書かれていなければ、その約束はなかったことにされかねません。

さらに、後述する清算条項が入っていれば、書面に記載された内容以外の請求は、以後一切できなくなります。

したがって、交渉で決めた条件をすべて書面に反映させ、内容を確認し尽くしてからサインすることが重要です。
「とりあえずサインして、細かいことは後で」が最も危険な対応です。

チェック1:立退料の金額と支払時期(最重要)

まず、合意した立退料の金額が正確に記載されているかを確認します。
そのうえで、金額と同じくらい重要なのが支払時期です。

立退料の支払いは建物の明渡しと引換えとするのが一般的です。
「借主が明け渡すのと引換えに支払う」「明渡しを条件として、明渡日から○日以内に支払う」といった形です。
これは、「退去したのに支払われない」という借主側のリスクと、「先に払ったのに退去しない」という貸主側のリスクの両方を防ぐためです。

注意すべきは、支払時期の記載がない、あるいは「別途協議のうえ支払う」「後日支払う」といった曖昧な記載です。
この場合、退去した後に支払いを引き延ばされ、回収に苦労するおそれがあります。
振込先口座と支払期限を明記させてください。

なお、引越しの初期費用(新居の敷金・礼金など)を先に用意できない場合には、立退料の一部を契約時や退去前に前払いしてもらう形を交渉する余地もあります。

金額そのものの妥当性に迷いがある場合は、サインの前に一度立ち止まって検討してください。
金額の考え方は次の記事で解説しています。

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チェック2:原状回復義務の扱い

退去時の原状回復を誰がどこまで負担するかは、金額に直結する条項です。

免除の合意は、明記されて初めて意味を持ちます
交渉の中で「取り壊すのだから、部屋はそのままでいい」と言われることはよくありますが、書面に「借主の原状回復義務を免除する」と記載されていなければ、後から原状回復費用を請求される余地が残ります。
口頭の説明を信じず、条項として書かせてください。
建物を取り壊す予定の立ち退きであれば、原状回復の免除は応じてもらいやすい条件です。

免除の記載がない場合でも、通常の使用による損耗(家具の設置跡、日焼けによる変色など)や経年劣化の回復費用は、本来貸主が負担すべきものです。
合意書の原状回復条項が、こうした通常損耗まで借主負担とする内容になっていないかを確認してください。

事業用物件では、契約書にスケルトン返し(内装をすべて撤去して返す)の特約があることが多く、その費用は高額になります。
立ち退きの合意にあたっては、スケルトン返しの免除や造作の残置を認める条項を入れられるかが、大きな交渉ポイントになります。

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チェック3:敷金の扱い

敷金(保証金)について、次の点を確認します。

  • 全額返還か、控除されるものがあるか。控除があるなら、その項目と金額の算定方法が明記されているか
  • 返還の時期が明記されているか

立ち退きの場面では、原状回復を免除したうえで敷金を全額返還する処理も多く行われています。
逆に、「立退料に敷金の返還分を含む」といった書き方で、実質的な受取額を減らされていないかにも注意してください。
立退料と敷金は別のものとして、それぞれの金額を明確にさせるのが重要です。

チェック4:退去期限と使用損害金

退去期限は現実的か:新居探し、引越し業者の手配、事業用なら移転先の内装工事まで考えると、退去期限には相応の余裕が必要です。短すぎる期限は、それ自体が借主を追い込む条件になります。

期限に遅れた場合の定めはどうなっているか:合意書には通常、退去期限を過ぎて建物を使用した場合の使用損害金(賃料相当額など)の条項が入ります。この条項自体は一般的なものですが、賃料の2倍などの過大な設定になっていないか、そして使用損害金を立退料から差し引く旨の条項がある場合には、期限に遅れると受取額が目減りしていく建付けになっていることを理解したうえで、守れる期限を設定してください。

チェック5:清算条項と解除条項

清算条項は、「本合意書に定めるもののほか、当事者間に何らの債権債務がないことを相互に確認する」という条項です。多くの合意書の末尾に置かれます。

借主にとってこの条項には二つの意味があります。
退去後に原状回復費用などを追加請求されない、という意味がある一方、借主の側からも、書面に書かれていない請求は一切できなくなります
引越費用の補助、エアコンの買取り、退去日の調整。
交渉で話に出た条件は、どれほど些細でも、すべて書面に載せてからサインしてください。

解除条項にも目を通してください。
借主が条項に違反した場合に合意が解除され、立退料を受け取れなくなる建付けになっていることがあります。
どの違反で何が起きるかを把握しておく必要があります。

サインしてしまった後はどうなるか

署名押印した合意書の効力を後から否定することは、原則としてできません。

例外的に、騙されて、あるいは脅されてサインさせられた場合の取消し(詐欺・強迫)や、重要な誤解に基づいてサインした場合の錯誤の主張が問題になり得ますが、いずれも認められるハードルは高く、「相場を知らずに安い金額で合意してしまった」というだけでは、覆すことは困難です。

もっとも、サイン済みの場合でも、弁護士にできることが何もないわけではありません。
支払時期が来ても立退料が支払われない場合の請求、合意内容の解釈に争いが生じた場合の対応など、合意の実行の場面での関与は可能です。
サインしてしまって不安がある場合も、書面を持ってご相談ください。

サイン前に弁護士のチェックを

合意書にサインした後の是正は極めて困難です。
そのため、署名の前に弁護士にチェックを依頼することは非常に重要です。

特に、交渉をご自身で進めてきた場合、書面化の段階で貸主側に有利な条項が加わっていても気づきにくいものです。
提示された合意書と賃貸借契約書をお持ちいただければ、確認すべき点を具体的に指摘できます。

よくある質問(FAQ)

大家から「形式的な書類だから」とサインを急かされています。

急いでサインする必要はありません。

合意書は形式的な書類ではなく、あなたの権利義務を確定させる契約書です。
「内容を確認してから返答します」と伝えて持ち帰り、確認する時間を取ってください。

急かすこと自体、内容を精査されたくない事情がある可能性も考えられます。

「原状回復はしなくていい」と口頭で言われました。信じてよいですか。

書面に「原状回復義務を免除する」と明記させてください。

口頭の約束は、後から「そんなことは言っていない」と争われれば立証が困難です。
清算条項のある合意書にサインすれば、書面にない約束を持ち出すことはできなくなります。

立退料の支払いが「退去後1か月以内」となっています。問題ありますか。

支払期限が明記されている点では最低限の形は満たしていますが、退去が先行するため、不払いのリスクは残ります。
可能であれば明渡しと引換えの支払いに修正を求め、難しい場合でも、期限と振込先の明記、遅延した場合の定めを確認してください。

貸主側の資力に不安がある場合は、より慎重な検討が必要です。

サインした後に、提示額が相場より大幅に低いと知りました。覆せますか。

原則として覆せません。

金額の不満だけでは、詐欺・強迫や錯誤といった例外に当たらないためです。
だからこそ、サインの前に金額の妥当性を確認することが重要です。

なお、まだ明渡し前で、貸主側にも合意書の不履行があるなど特別な事情がある場合には、対応の余地がないか個別に検討しますので、ご相談ください。

まとめ

立ち退きの合意書のチェックポイントを整理します。

  • サインした合意書は原則覆せない。条件をすべて書面に反映させ、確認し尽くしてからサインする。
  • 立退料は金額だけでなく支払時期を確認する。明渡しと引換えの支払いが原則的な形になる。
  • 原状回復の免除は明記させる。口頭の「そのままでいい」は書面になって初めて意味を持つ。
  • 敷金は立退料と区別して全額返還かを確認し、退去期限は現実的に設定する。
  • 清算条項により、書面にない請求は以後できなくなる。解除条項の建付けも確認する。

当事務所では、立ち退きの合意書のサイン前のチェック、条項の修正交渉、サイン後のトラブル対応までお受けしています。
署名を求められている書面がある方は、サインする前に、書面をお持ちのうえお早めにご相談ください。

当事務所の弁護士へのご相談等はこちらから

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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