立ち退き要求は拒否できる?借主の権利と正しい対処法を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 賃貸物件の立ち退きを求められても、借主はすぐに退去する義務はありません。 借地借家法により、貸主からの更新拒絶・解約申入れには「正当事由」が必要です(借地借家法28条)。
  2. ただし、定期借家契約の場合や、賃料滞納など借主側に契約違反がある場合は、保護されない可能性があります。 まずご自身の契約内容を確認してください。
  3. 立ち退き料の交渉や法的対応には専門知識が必要です。 通知を受け取ったら、合意書への署名や口頭での承諾を避け、早い段階で弁護士に相談することが重要です。

【結論】立ち退き要求を受けても、借主はすぐに退去する義務はない

「大家から立ち退きを求められたが、出て行かなければならないのか?」

この疑問に対する回答は、多くの場合「すぐに出て行く義務はない」です。

日本の借地借家法は、賃借人(借主)の居住の安定を強く保護しています。
貸主(大家)が賃貸借契約の更新を拒絶したり、契約期間の途中で解約を申し入れたりするには、「正当事由」が必要です(借地借家法28条)。
正当事由がなければ、立ち退きに応じる法的義務はありません。

ただし、以下の場合は例外です。

  • 定期借家契約(借地借家法38条)の場合は、契約期間の満了により退去する義務があります
  • 賃料の長期滞納や無断転貸など、借主側に契約違反がある場合は、信頼関係の破壊を理由に契約を解除される可能性があります

本稿では、正当事由の判断基準、拒否できるケース・できないケース、立ち退き料の相場、弁護士に相談すべきタイミングまで、順を追って解説します。

確認する必要のある3つの前提条件

立ち退き要求を受けたら、法的な権利を主張する前に、まずご自身の状況を確認してください。
以下の3点によって、対応の方針が大きく変わります。

契約の種類:「普通借家契約」か「定期借家契約」か

これが最も重要な確認事項です。

普通借家契約の場合、契約期間が満了しても、貸主に正当事由がなければ契約は自動的に更新されます(法定更新。借地借家法26条1項)。
この場合、借主は借地借家法の手厚い保護を受けることができます。

一方、定期借家契約(借地借家法38条)の場合、契約の更新はなく、期間満了をもって賃貸借は終了します。
定期借家契約では「正当事由」の制度がそもそも適用されないため、期間満了時には原則として退去する義務があります。

ご自身の賃貸借契約書を確認し、「定期建物賃貸借契約」「契約を更新しない」等の記載がないかを確認してください。

賃料滞納や契約違反の有無

借地借家法の保護は、借主が契約上の義務を誠実に履行していることが前提です。
以下のような事情がある場合、貸主から契約を解除される可能性があります。

  • 賃料の長期滞納(一般に3ヶ月以上が一つの目安とされますが、個別の事情によります)
  • 無断転貸(貸主の承諾なく第三者に又貸しすること)
  • 用法違反(住居用の物件を店舗として使用する等)
  • 近隣への迷惑行為

これらは「信頼関係の破壊」として、正当事由とは別に契約違反等により契約が解除される場合があります。
心当たりがある場合は、弁護士に正直にお伝えください。

通知の形式と時期

貸主からの通知が、法律で定められた要件を満たしているかを確認します。

  • 通知時期:契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に通知がなされているか(借地借家法26条1項)。この期間を過ぎた通知は、法定更新が成立し、その通知自体が無効となる可能性があります
  • 通知方法:法律上、書面である必要はありませんが、口頭のみの通知は後の紛争で「言った・言わない」の問題になりやすいため、書面の有無を確認してください

「借地借家法」の基本

法定更新

普通借家契約では、契約期間が満了しても、貸主から正当事由に基づく更新拒絶がなければ、契約は従前と同一の条件で更新されたものとみなされます(借地借家法26条1項)。
これを「法定更新」といいます。

また、契約期間の途中で貸主が解約を申し入れる場合も、正当事由が必要です(借地借家法27条・28条)。

貸主からの解約・更新拒絶の制限

貸主が更新を拒絶する、あるいは解約を申し入れるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 契約期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新しない旨の通知をすること(借地借家法26条1項)
  2. その通知に「正当事由」があること(借地借家法28条)

借主に不利な特約は無効

借地借家法30条は、借主に不利な特約を無効とする強行規定を設けています。
例えば、「貸主はいつでも理由なく解約できる」「正当事由がなくても退去する」といった特約は、借地借家法の趣旨に反するものとして無効となります。

「正当事由」の判断基準

借地借家法28条は、貸主の更新拒絶・解約申入れが有効となるための「正当事由」について、以下の要素を総合的に考慮して判断すると定めています。

建物の使用を必要とする事情(中心的要素)

正当事由の判断において最も重視されるのが、貸主と借主のそれぞれが建物の使用を必要とする事情の比較です。

貸主側の事情として正当事由を肯定する方向に働くもの:

  • 貸主自身やその親族が他に住む場所がなく、当該物件に居住する必要性が高い
  • 事業上の深刻な経営難から物件の売却が不可欠である
  • 貸主が介護を必要とし、家族を呼び寄せる必要がある

借主側の事情として正当事由を否定する方向に働くもの:

  • 借主が高齢または病気であり、転居が著しく困難である
  • 当該物件で長年事業を営み、顧客基盤が地域に定着している
  • 家族の通学・通勤上の必要性が高い
  • 近隣の医療・福祉サービスへの依存度が高い

賃貸借に関する従前の経過

契約締結から現在までの経緯が考慮されます。
権利金や更新料の授受の有無、契約期間の長さ、借主による賃料支払いが誠実に行われてきたか等が評価されます。

建物の利用状況・現況

建物の物理的な状態が評価されます。
建物の老朽化が著しく、倒壊の危険性がある場合や、現行の耐震基準を満たしておらず大規模修繕・建替えの必要性が高い場合は、正当事由を肯定する重要な要素になります。

立ち退き料(補完要素)

上記の要素を比較した結果、貸主の事情だけでは正当事由が十分でない場合に、その不足分を補う要素として考慮されるのが「立ち退き料」(財産上の給付)の提供です(借地借家法28条)。

立ち退き料は正当事由そのものではなく、あくまで補完要素です。
貸主の事情が弱いほど、補うための立ち退き料は高額になります。
逆に言えば、立ち退き料の提供がない更新拒絶は、他の要素が極めて強い場合を除き、正当事由が認められにくいと言えます。

立ち退き理由別の傾向

立ち退きの理由正当事由の認められやすさ備考
老朽化・倒壊の危険認められやすい(ただし程度による)耐震診断等の客観的な資料が必要。単なる「古い」では不十分
建替え・再開発事案による代替物件の提供や立ち退き料との総合判断
貸主の自己使用事案による他に居住可能な物件があるかがポイント
物件の売却認められにくい売却益を得たいという事情だけでは弱い
単なる賃料値上げ目的認められにくい正当事由とは認められない

立ち退きを拒否できるケース・拒否できないケース

拒否できるケース

  • 貸主の正当事由が不十分な場合:使用の必要性が借主側を上回らず、立ち退き料の提供もない(又は少額にとどまる)場合
  • 法定の通知期間を満たしていない場合:契約期間満了の6ヶ月前を切ってからの通知(借地借家法26条1項違反)
  • 借主に不利な特約に基づく場合:「理由なく退去する」等の特約は無効(借地借家法30条)

拒否できないケース

  • 定期借家契約の期間が満了した場合(借地借家法38条)
  • 借主側に信頼関係を破壊する契約違反がある場合:賃料の長期滞納、無断転貸、用法違反等
  • 貸主の正当事由が十分に認められ、相当な立ち退き料が提供された場合

立ち退き要求を受けた際にやるべきこと

STEP1:書面への署名・口頭での安易な同意を避ける

これが最も重要です。
通知を受け取った直後に、立ち退きに同意する旨の意思表示(口頭・書面を問わず)をすることは絶対に避けてください。

一度有効に合意が成立すると、借地借家法による保護が及ばなくなり、合意内容に従う義務が生じます。
管理会社から合意書への署名を求められた場合でも、「専門家の意見を聞くまで判断できない」として回答を保留してください。

STEP2:契約書・通知書の内容を確認する

  • 賃貸借契約書:普通借家か定期借家かを確認
  • 通知日と退去希望日:法定の通知期間(契約満了の1年前~6ヶ月前)を満たしているか
  • 立ち退きの理由:貸主が主張する正当事由の内容
  • 立ち退き料の有無・金額:提示されている条件

STEP3:自身の状況と不利益を整理する

交渉や法的手続きに備え、以下の事項を整理します。

  • 居住継続の必要性:事業上の理由、家族の通勤・通学、地域の医療・福祉サービスへの依存度
  • 移転に伴う経済的損失:新規物件の契約初期費用(敷金・礼金・仲介手数料等)、引越し費用、家賃の差額

STEP4:弁護士に相談する

立ち退き問題は、借地借家法の解釈適用が問われる専門的な領域です。
通知を受け取ったら、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、貸主の正当事由の有効性、立ち退き料の妥当性、今後の交渉方針について法的な助言を得てください。

やってはいけないNG行動

立ち退き要求を受けた際に、焦りや不安から以下のような行動をとってしまう方がいます。
いずれも不利な結果を招くリスクがあるため、注意してください。

NG1:「出ます」と口頭で言ってしまう

口頭であっても合意は成立し得ます。
立証の問題はあるものの、一度「出ます」と伝えてしまうと、後から争うことが困難なケースもあります。
「検討します」「専門家に相談してから回答します」と伝え、即答を避けてください。

NG2:合意書に内容を理解せず署名する

貸主や管理会社から差し出された書面に安易にサインしないでください。
署名した書面は立ち退きの合意の証拠となり、その内容に拘束されます。

NG3:感情的になり貸主と対立する

怒りを感じるのは当然ですが、感情的な対立は交渉を不利にします。
冷静な対応が重要です。

NG4:賃料の支払いを止める

「出て行けと言われたのだから家賃を払う必要はない」と考えて賃料の支払いを停止してしまうと、賃料滞納を理由に契約を解除される可能性があります。
立ち退きの交渉中であっても、賃料は通常どおり支払い続けてください。

NG5:長期間放置する

通知を受け取っても何も対応せず放置すると、法定の通知期間が経過し、貸主側の手続きが進んでしまう可能性があります。
早めに弁護士に相談することが重要です。

立ち退き料の相場と算定要素

立ち退き料の算定要素

立ち退き料は、立ち退きによって借主が被る損失を填補するものであり、主に以下の要素から構成されます。

  • 移転費用:新規物件の契約初期費用(敷金・礼金・仲介手数料・前払家賃・保証料等)、引越し費用
  • 差額家賃補償:現在の物件と同等の新規物件の家賃差額の一定期間分(1年~数年分)
  • 営業補償(事業用の場合):休業期間の逸失利益、顧客喪失による将来の減収、移転広告費
  • 借家権の価格:その物件を借り続ける権利の財産的価値
  • 慰謝料的要素:移転に伴う精神的負担

立ち退き料の金額水準

立ち退き料には法的に定められた一律の算定式はなく、正当事由の程度に応じて個別に判断されます。

居住用物件では「家賃の6ヶ月分」が一つの基準として言及されることがありますが、これは法的な根拠に乏しく、あくまで交渉の出発点に過ぎません。
正当事由が弱い場合は家賃の数年分に相当する金額が認められるケースもあります。

事業用物件(店舗・オフィス)の場合は、営業補償を含むため居住用より高額になる傾向があります。

問題解決の流れ(交渉→調停→訴訟)

任意交渉

弁護士を代理人として、貸主側と立ち退きの可否や条件(立ち退き料の額、明渡しの時期等)について交渉を行います。
訴訟には双方に時間と費用がかかるため、多くの事案はこの段階での解決を目指します。

民事調停

交渉が不調の場合、民事調停を申し立てることができます。
調停委員会が中立的な立場で話し合いを仲介する手続きです。

訴訟

調停でも合意に至らない場合、最終的には訴訟で解決されます。
通常は貸主側が原告となり、借主を被告として「建物明渡請求訴訟」を提起します。
裁判所が正当事由の有無を判断し、立ち退き料の支払いと引換えに明渡しを命じる場合もあります。

弁護士に相談すべきタイミング

通知を受け取った直後が最善

立ち退き要求への対応は、初動が重要です。
以下のような状況では、できるだけ早く弁護士に相談してください。

  • 貸主や管理会社から立ち退きの通知を受け取った
  • 合意書への署名を求められている
  • 立ち退き料の金額に納得できない
  • 貸主の主張する理由が正当事由に当たるのか判断がつかない
  • 事業用テナントで営業補償の交渉が必要

弁護士に依頼するメリット

  • 正当事由の有効性を法的に評価し、交渉の方針を立てられる
  • 立ち退き料の増額交渉を適切に行える
  • 貸主や管理会社との交渉を代理してもらえるため、精神的な負担が軽減される
  • 合意書の内容を法的にチェックしてもらえる

よくある質問(FAQ)

大家から「3ヶ月以内に出て行ってほしい」と言われました。応じなければなりませんか?

普通借家契約の場合、貸主からの更新拒絶は契約期間満了の1年前から6ヶ月前までに通知する必要があります(借地借家法26条1項)。
また、通知には正当事由が必要です(同法28条)。
通知期間を満たしていない場合や正当事由が不十分な場合は、応じる義務はありません。

「建物が老朽化しているから出て行ってほしい」と言われました。拒否できますか?

建物の老朽化は正当事由の判断要素の一つですが、それだけで立ち退きが認められるとは限りません。

裁判例でも、老朽化の程度(耐震基準を満たさない等)を客観的に示す証拠が不十分な場合や、借主の居住継続の必要性が高い場合には、正当事由が否定されたケースがあります。

立ち退き料の相場はどのくらいですか?

法律で定められた一律の基準はありません。

居住用物件では「家賃の6ヶ月分」が目安として言及されることがありますが、これは法的根拠に基づくものではなく、事案によって大きく異なります。
正当事由が弱い場合は家賃の数年分が認められることもあります。

事業用物件では営業補償を含むためさらに高額になり得ます。

定期借家契約の場合も立ち退きを拒否できますか?

定期借家契約(借地借家法38条)の場合、契約期間の満了により賃貸借は終了するため、原則として退去する義務があります。
ただし、貸主が期間満了の1年前から6ヶ月前までに通知をしなかった場合は、借主はすぐに退去する必要はなく、通知から6ヶ月が経過するまで物件を使用し続けることができます(借地借家法38条4項)。

賃料を滞納している場合、立ち退きを拒否できませんか?

賃料の滞納は、信頼関係の破壊を理由に契約を解除される根拠となり得ます。

一般に3ヶ月以上の滞納がある場合は、正当事由の有無にかかわらず契約を解除される可能性が高くなります。
ただし、1~2ヶ月程度の滞納であれば、直ちに解除が認められないケースもあります。

個別の事情により判断が異なりますので、弁護士にご相談ください。

おわりに

賃貸物件の立ち退きを求められても、借地借家法の保護により、借主はすぐに退去する義務はありません。
正当事由がなければ拒否できますし、立ち退きに応じる場合でも、相当な立ち退き料を求めることができます。

最も重要なのは、安易に合意しないこと早い段階で弁護士に相談することです。
通知を受け取ったら、署名や口頭での承諾を避け、まずは弁護士に相談してください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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