【この記事の結論・要約】
- 書き込みの内容から元従業員や在職中の社員だと見当がついても、推測だけで本人に問いただしたり処分したりすることは避けるべきです。誤っていた場合、会社が責任を問われます。
- 労働環境に関する書き込みは、転職を考える人にとって重要な情報として、公共の利害に関する事実と認められやすい類型です。削除や特定を求めるには、内容が事実と異なることを示す必要があります。
- 在職中の社員が投稿者であった場合、懲戒処分を検討することになります。もっとも、処分の重さが行為に見合わなければ無効とされるため、段階を踏んで判断する必要があります。
はじめに
退職した従業員や在職中の社員によって、会社についての否定的な書き込みがされることがあります。
社内の事情を知っている者による書き込みは、外部の人から見て信用されやすく、採用活動や取引に影響します。
他方、書かれた内容の中には、労働環境についての正当な批判が含まれていることもあります。
この記事では、会社として何を根拠に対応できるのか、投稿者をどう特定するのか、在職中の社員であった場合に懲戒処分や解雇をどう考えるべきかを解説します。
書き込まれる場所と内容
| 場所 | 内容の例 |
|---|---|
| 転職口コミサイト | 残業の実態、給与、社内の雰囲気、上司の言動 |
| 電子掲示板 | 経営者や特定の社員への中傷、社内の噂 |
| SNS | 退職の経緯、会社への不満 |
| 地図サービスの口コミ | 商品やサービスへの低い評価 |
| 求人サイトの口コミ欄 | 応募を思いとどまらせる内容 |
転職口コミサイトの場合は、サイトごとに削除や開示の手続に特徴があります。
サイトごとの手続については、以下の記事で解説しています。


推測で動いてはいけない理由
見当がつくことと特定できることは違う
書き込みの内容や時期から、「退職したあの人だろう」と見当がつくことがあります。
しかし、同じ部署にいた人、同じ時期に退職した人、話を聞いた家族や知人など、同じ内容を書ける人は他にもいます。
「あの人だろう」という推測できることと、それを客観的に証明できることは違います。
誤っていた場合の責任
推測にもとづいて本人に書き込みを認めるよう迫ったり、取引先に「元社員が書いた」と説明したりすれば、今度は会社の側がその人の名誉を毀損することになりかねません。
在職中の社員に対して処分をした場合、投稿者でなかったと分かれば、処分は無効とされ、損害賠償を求められることもあります。
本人に問いただすことの危険性
仮に本人であったとしても、問いただすことで書き込みを削除され、別のアカウントで投稿を続けられることがあります。
削除されれば、その書き込みを証拠として示せなくなります。
まず記録を残し、手続によって特定することが先になります。
また、聞き方次第では、それ自体が名誉感情侵害等に該当する可能性もあります。
労働環境についての批判との区別
この類型で最も注意が必要な点です。
公共の利害に関する事実とされやすい
東京高裁令和2年11月11日判決(判タ1481号64頁)は、転職総合サイトに投稿された勤務先に関する口コミについて、次のとおり判断しました。
「転職総合サイトの役割の一つは,転職を考えている者に見込み転職先企業についての種々の情報を提供し,その希望に沿った転職を可能ならしめることにある。本件各記事は,転職先企業の1つである控訴人に,理不尽な社風や,上司に意見が言えない雰囲気や,休日出勤の慣行などがあることを指摘するものであり,これらの事実は,転職を考える際において重要な要素というべき事柄である。これらの事実についての情報を提供することは,実際の事実・経験に即した情報であれば,それが控訴人の悪い評判,不満・批判を内容とするものであっても,転職希望者の転職先選択の参考になるものであるから,本件各記事は公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的でされたものと認めることができる。」
会社にとって不利な内容であっても、実際の経験に即した情報であれば、公共の利害に関する事実とされ、公益目的も認められています。
分かれ目は内容が事実かどうか
公共性と公益目的が認められれば、残るのは内容が真実かどうかです。
同判決は、この点について会社側の陳述書から一応の立証があるとし、投稿者側の回答が抽象的で反論できない内容にとどまることなどから、最終的には開示を認めています。
もっとも、会社として事実と異なることを示せなければ、同じ結論にはなりません。

反論のための資料
| 書き込みの内容 | 反論のための資料 |
|---|---|
| 残業代が支払われない | 賃金台帳、勤怠の記録 |
| 休日出勤が強制されている | 出勤の記録、休日の運用に関する規程 |
| 有給休暇を取らせない | 有給休暇の取得状況の記録 |
| 上司が暴言を吐いている | 社内調査の結果、相談窓口の記録 |
| 違法な営業をしている | 契約書、許認可の記録 |
記録が整っていない会社では、事実と異なることを示すこと自体が難しくなります。
書き込みへの対応とは別に、日頃の記録の管理が結果を左右します。
書き込みが事実だった場合
調べた結果、書き込みの内容に事実が含まれていることもあります。
その場合、削除や特定を求めることは難しくなります。
書き込みへの対応より、社内の労働環境を改めることが先になる場面です。
権利侵害として構成する
| 書き込みの内容 | 主な構成 | 請求する者 |
|---|---|---|
| 会社の営業や労働環境について虚偽を述べる | 法人の名誉毀損、信用毀損 | 会社 |
| 経営者や社員を名指しで中傷する | 名誉毀損、名誉感情の侵害 | 名指しされた本人 |
| 社員の私生活を暴露する | プライバシー侵害 | 暴露された本人 |
| 顧客情報や社内資料を公開する | 秘密保持義務違反、営業秘密の侵害 | 会社 |
誰が請求するか
経営者や社員個人が名指しされている場合、権利を侵害されているのはその本人です。
会社として対応する場合でも、本人が請求する立場にあることを前提に進めることになります。
会社と本人の両方が被害を受けている場合には、それぞれについて検討します。

社内の情報が含まれている場合
顧客の情報、取引の条件、社内の資料などが書き込まれている場合には、誹謗中傷とは別の問題が生じます。
在職中であれば就業規則上の秘密保持義務、退職後であれば退職時の誓約書や秘密保持契約の違反が問題になります。
情報の内容によっては、不正競争防止法上の営業秘密の侵害にあたることもあります。
削除と投稿者の特定
二段階の手続
匿名の書き込みであれば、サイトの運営者から投稿時のIPアドレスなどの開示を受け、そこからアクセスプロバイダに対して契約者の情報の開示を求めます。
アクセスプロバイダの通信記録の保存期間は一般に3か月から6か月程度で、裁判手続による特定には3か月から9か月程度かかります。

会社の回線から投稿されていた場合
開示されたIPアドレスが、会社自身の回線のものであることがあります。
この場合、社内のネットワークの記録から、どの端末から接続されたかを確認できる可能性があります。
もっとも、社内の記録を調べる際には、社員のプライバシーとの関係にも配慮が必要です。
意見照会への回答を読む
開示の手続の中で、投稿者に意見照会が行われます。
元従業員が投稿者であれば、回答の中で在職中の経験を具体的に述べてくることがあります。
その内容に対して、会社として反論できる資料があるかを検討することになります。
在職中の社員だった場合の懲戒処分
投稿者が在職中の社員であると判明した場合、懲戒処分を検討することになります。
就業規則の定めが前提になる
懲戒処分をするには、就業規則に懲戒の種類と、どのような行為が懲戒の対象となるかが定められ、それが社員に周知されている必要があります。
「会社の名誉や信用を傷つける行為」「会社の秘密を漏らす行為」といった定めがあるか、まず確認してください。
定めがなければ、懲戒処分はできません。
処分の重さが行為に見合っているか
労働契約法15条は、次のとおり定めています。
(懲戒)
第十五条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
就業規則に定めがあっても、行為に比べて処分が重すぎれば、無効とされます。
懲戒処分の種類
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告・譴責 | 口頭または書面で注意し、反省を求める |
| 減給 | 賃金を減額する(労働基準法91条による上限がある) |
| 出勤停止 | 一定期間の就労を禁じ、その間の賃金を支払わない |
| 降格 | 役職や資格を引き下げる |
| 諭旨解雇 | 退職を勧告し、応じなければ懲戒解雇とする |
| 懲戒解雇 | 最も重い処分として労働契約を終了させる |
判断で考慮される事情
書き込みを理由とする処分では、次のような事情を踏まえて、どの処分が相当かを判断することになります。
- 書き込みの内容が事実と異なるか、誇張されているか
- 会社の業務や信用に実際にどの程度の影響が生じたか
- 書き込みの回数と期間
- 社内の秘密や顧客の情報が含まれているか
- 特定の社員を攻撃する内容か
- 本人が事実を認めて反省しているか
- 過去の処分歴
1回の書き込みで、内容が会社への不満にとどまる場合には、戒告や譴責から検討します。
虚偽の内容を繰り返し書き込み、実際に取引や採用に影響が生じた場合には、より重い処分が検討の対象になります。
勤務時間外の投稿であること
SNSへの書き込みは、勤務時間外に私的な端末から行われることが一般的です。
私生活上の行為は、本来、懲戒の対象にはなりません。
もっとも、会社の名誉や信用を傷つけ、企業秩序に影響を及ぼす行為であれば、私生活上の行為であっても懲戒の対象となり得ます。
会社名が明らかにされているか、会社の評価にどの程度影響したかが、この点の判断に関わります。
手続を踏む
処分をする前に、本人に弁明の機会を与えることが重要です。
就業規則に懲戒委員会などの手続が定められていれば、それに従う必要があります。
手続を欠いた処分は、内容が相当であっても無効とされるおそれがあります。
ただし、書き込みを認めさせるために長時間の聴取を行う、退職を迫るといった対応は、それ自体が問題になります。
解雇を検討する場合
解雇が無効とされる場合
労働契約法16条は、次のとおり定めています。
(解雇)
第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
懲戒解雇は、労働者にとって最も重い処分です。
書き込みを理由とする場合、他の処分では足りないといえるだけの事情が必要になります。
解雇が無効とされた場合の負担
解雇が無効と判断されれば、労働契約は続いていたことになります。
その間の賃金を支払う必要が生じ、社員を職場に戻すことになります。
書き込みへの対応として解雇を選んだ結果、会社の負担がかえって大きくなることがあります。
法令違反を指摘する内容の場合
書き込みの内容が、会社の法令違反を指摘するものであることがあります。
公益通報者保護法は公益通報をしたことを理由とする解雇を無効としていますが、同法の通報先は事業者、行政機関、報道機関などであり、不特定多数に向けたインターネットへの書き込みは、公益通報には該当しにくいと考えられます。
もっとも、同法の保護の対象外であっても、懲戒処分の相当性を判断する際には、内容が真実か、目的が何かといった事情が考慮される可能性があります。
指摘された内容が事実であれば、処分の前に、まずその法令違反を正すことが求められます。
社員が第三者を中傷した場合の会社の責任
ここまでは会社が被害を受ける場面を扱いましたが、逆に、社員が取引先や顧客を中傷する書き込みをすることもあります。
使用者としての責任
民法715条は、事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。
業務用のアカウントで投稿した場合や、業務に関連する内容を投稿した場合には、会社が被害者から責任を問われる可能性があります。
私的なアカウントで業務と無関係に行われた投稿であれば、事業の執行についてされたものとはいえないと判断されやすくなります。
被害者から連絡を受けた場合
被害を受けたとする人から、「御社の社員が書き込んだ」という連絡を受けることがあります。
この場合も、まず事実を確認することが先になります。
確認できないまま謝罪や支払いに応じると、会社の責任を認めたものと受け取られることがあります。
退職後の社員の場合
懲戒処分はできない
退職によって労働契約は終了しています。
そのため、退職後の書き込みを理由に懲戒処分をすることはできません。
対応は、削除の請求、損害賠償の請求、刑事告訴といった、一般の第三者に対するものと同じになります。
退職金の扱い
退職金規程に、退職後に会社の名誉を傷つけた場合の返還や不支給の定めを置いている会社があります。
もっとも、退職金には賃金の後払いという性格もあるため、定めがあれば当然に返還を求められるわけではありません。
それまでの勤続の功労を失わせるほどの背信的な行為といえるかが問題になります。
刑事告訴を検討する場合
書き込みの内容によっては、名誉毀損罪、信用毀損罪、業務妨害罪が問題になります。
名誉毀損罪は親告罪であり、告訴は犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります。
信用毀損罪と業務妨害罪は親告罪ではないため、この制限を受けません。
元従業員に対して刑事告訴をすると、在職中の労働条件をめぐる紛争が表に出ることがあります。
未払いの残業代など、会社側に弱い部分がないかを先に確認しておくことが重要です。

損害賠償と再発の防止
請求できるもの
法人の社会的評価が低下したことによる無形の損害、投稿者の特定に要した費用などを請求することになります。
採用活動への影響や売上の減少を損害として求めるには、書き込みとの因果関係を示す必要があり、立証は容易ではありません。

示談の内容
- 対象となった書き込みをすべて削除すること
- 今後同様の書き込みをしないこと
- 在職中に知った秘密を漏らさないこと
- 約束に違反した場合の違約金
- 示談の内容を第三者に口外しないこと
退職時の合意書
退職の際に、在職中に知った秘密を漏らさないこと、会社や社員を誹謗中傷しないことを約束する合意書を交わしておく方法があります。
合意書があれば、違反した場合に契約違反として責任を問えます。
もっとも、労働環境についての正当な批判まで一律に禁じる内容は、効力が否定されるおそれがあります。
就業規則の整備
在職中の社員については、就業規則にSNSの利用に関する定めを置いておくことが考えられます。
会社の秘密や顧客の情報を投稿しないこと、会社や他の社員の名誉を傷つける投稿をしないことを定め、懲戒の事由と結びつけておきます。
定めがなければ、後から処分をすることができません。
会社としての発信
口コミへの返信
口コミサイトの中には、会社が返信できる機能を備えたものがあります。
事実と異なる点を落ち着いて説明する返信は、閲覧した人に会社の姿勢を示すことにつながります。
他方、投稿者を推測して名指しする、退職の経緯を明かす、感情的に反論するといった内容は、会社の評価をかえって下げます。
元従業員の退職の経緯や処分の内容を明かすことは、その人のプライバシーの侵害にもなり得ます。
採用の場面での説明
応募者から書き込みについて質問を受けることもあります。
その場合に備えて、現在の労働条件や改善の取組みを説明できるようにしておくことが考えられます。
削除や特定の手続と並行して、会社として示せる情報を整えておく意味があります。
よくある質問(FAQ)
- 書き込んだのは退職したあの人だと思います。直接連絡してもよいですか。
-
お勧めできません。
同じ内容を書ける人は他にもいるため、推測が誤っていれば会社が責任を問われます。
本人であった場合でも、書き込みを削除されて証拠を失うおそれがあります。まず記録を残し、手続によって特定することが先になります。
- 転職口コミサイトの低い評価は削除できますか。
-
労働環境に関する書き込みは、実際の経験に即した情報であれば、公共の利害に関する事実とされ、公益目的も認められやすい類型です。
削除や特定を求めるには、内容が事実と異なることを示す必要があります。
勤怠の記録や賃金台帳などの資料が手がかりになります。 - 在職中の社員が書き込んでいました。解雇できますか。
-
書き込みを理由とする解雇は、他の処分では足りないといえるだけの事情がなければ無効とされるおそれがあります。
就業規則の定めを確認したうえで、内容の真偽、影響の程度、回数、本人の反省などを踏まえて、戒告や譴責から段階的に検討することになります。 - 勤務時間外の投稿でも処分できますか。
-
私生活上の行為は本来、懲戒の対象になりませんが、会社の名誉や信用を傷つけ、企業秩序に影響を及ぼす行為であれば、懲戒の対象となり得ます。
会社名が明らかにされているか、会社の評価にどの程度影響したかが判断に関わります。 - 退職者に退職金の返還を求められますか。
-
退職金規程に定めがあっても、当然に返還を求められるわけではありません。
退職金には賃金の後払いという性格もあるため、それまでの勤続の功労を失わせるほどの背信的な行為といえるかが問題になります。 - 社員個人が名指しで中傷されています。会社として請求できますか。
-
個人が名指しされている場合、権利を侵害されているのはその本人です。
会社として対応する場合でも、本人が請求する立場にあることを前提に進めることになります。
会社と本人の両方が被害を受けている場合には、それぞれについて検討します。
まとめ
この記事の要点は次のとおりです。
- 元従業員だと見当がついても、推測だけで本人に問いただしたり処分したりしない
- 労働環境に関する書き込みは、公共の利害に関する事実とされやすい
- 削除や特定を求めるには、内容が事実と異なることを資料で示す必要がある
- 在職中の社員への懲戒処分は、就業規則の定めと処分の相当性が前提になる
- 解雇が無効とされれば、会社の負担がかえって大きくなる
- 退職後の社員には懲戒処分ができず、一般の第三者と同じ対応になる
社内の人による書き込みは、外部の人による書き込みより対応を誤りやすい類型です。
削除や特定の手続と、社内での処分とを、順序を踏まえて進める必要があります。
当事務所では、インターネット上の書き込みについて、削除、発信者情報開示請求、損害賠償請求のいずれにも対応しています。
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