【この記事の結論・要約】
- 被害届が出される前の段階でも、示談による解決は可能です。むしろ、この段階は打てる手が最も多く残されている局面であり、ここでの対応がその後を大きく左右します。
- 相手の連絡先を知っていても、ご本人が直接交渉することには固有の危険があります。謝罪のつもりの連絡が「口止め」と受け取られたり、金銭を渡しただけで必要な取り決めを欠いたりしかねません。
- 「訴える」には、慰謝料請求(民事)と被害届・告訴(刑事)の二つの意味があり得ます。どちらの趣旨かを見極めつつ、両方に備えた対応が必要です。
はじめに
飲み会やデートの後、あるいは交際関係の中での性的な行為について、後日、相手から「あれは同意していなかった」「訴える」「警察に行く」と告げられる。
このような連絡を受けた方は、大きな動揺の中で、「すぐに謝りに行くべきか」「お金を払えば済むのか」「無視してよいのか」と迷われます。
結論から言えば、放置も、自己流の説得も、言い値での支払いも、いずれも危険です。
一方で、この段階は、被害届が出された後と比べて、打てる手が最も多く残されている局面でもあります。
この記事では、性的な行為をめぐって「訴える」と言われた段階で、示談によって解決できるのか、どのように進めるべきかを解説します。
なお、そもそも同意があったといえるかどうかという問題については、次の記事で扱っています。


「訴える」には二つの意味がある(民事と刑事の切り分け)
相手の言う「訴える」には、法的には二つの意味があり得ます。
民事の請求(慰謝料請求):性的な行為によって精神的苦痛を受けたとして、損害賠償を求めるものです。裁判所への訴訟提起のほか、弁護士名での請求書や内容証明が届く形で始まることもあります。
刑事の申告(被害届・告訴):警察に被害を申告し、犯罪として捜査・処罰を求めるものです。行為の内容によっては、不同意性交等罪(法定刑は5年以上の有期拘禁刑)や不同意わいせつ罪(同6月以上10年以下の拘禁刑)といった重い罪が問題になります。
相手の発言だけでは、どちらの趣旨なのか、両方なのかは分からないことが多いのが実情です。
「慰謝料を払え。払わなければ警察に行く」という形で、両者が結びついていることもあります。
したがって、対応は最初から民事・刑事の両方を見据えて考える必要があります。
どちらか一方だけを想定した対応は、もう一方への備えを欠くことになります。
被害届が出る前なら、示談で解決できる可能性がある
被害届が提出される前の段階でも、相手との示談は可能です。
そして、この段階での示談には大きな意味があります。
示談とは、謝罪と金銭の支払い(慰謝料)により、当事者間の紛争を解決する合意です。
事件化前の示談では、通常、次の内容を示談書で取り決めます。
- 解決金(慰謝料)の金額と支払方法
- 謝罪の意思の表明
- 相手が刑事処罰を求めない意思(宥恕)の確認
- 被害届や告訴を提出しない旨の確認
- 清算条項(示談書に定めるもののほかに債権債務がないことの相互確認)
- 口外禁止条項・接触禁止条項
ただし、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は親告罪ではないため、示談が成立すれば法律上絶対に刑事事件にならない、というわけではありません。
理論上は、示談後でも捜査や起訴はあり得ます。
もっとも、示談は実務上は大きな意味があります。
性犯罪の捜査・処分では、被害者の意思が重視されます。
被害者との間で示談が成立し、被害者が処罰を望まない意思を示している事案では、被害申告自体がされず、仮に捜査が始まっても不起訴で終わる可能性が高くなります。
当事者間で紛争が解決していることは、刑事・民事の両面で、事態の拡大を防ぐ最も有効な手立てです。
そして、被害届が出される前は、身柄拘束のリスクにさらされる前に、落ち着いて交渉の進め方を考えられる唯一の局面です。
被害届が出て捜査が始まれば、逮捕・勾留の可能性の中で対応を迫られることになります。
だからこそ、この段階での初動が重要になります。
自分で直接交渉することの危険性
交際相手や知人とのトラブルでは、相手の連絡先を知っているため、「自分で謝って解決しよう」と考える方が少なくありません。
しかし、ご本人による直接交渉には、固有の危険があります。
「口止め」と受け取られるおそれ
謝罪や話し合いの申し入れのつもりでも、相手からは「被害届を出させないための圧力」と受け取られることがあります。
その結果、かえって相手の不信感と処罰感情を強め、警察への相談を早めてしまうことがあります。
連絡の頻度や文面によっては、その連絡自体が新たな問題(つきまといや強要の疑い)を生むことすらあります。
やり取りがすべて証拠になる
この段階の電話や対面でのやり取りは、相手によって録音されていることを想定すべきです。
動揺の中での不用意な発言、事実と異なる弁解、感情的な反論は、後に不利な証拠として残る可能性があります。
金銭を渡しただけの「解決したつもり」
相手に求められるまま金銭を渡しても、宥恕や清算条項を含む示談書がなければ、法的には何も解決していません。
後から追加の請求を受けたり、支払ったにもかかわらず被害届を出されたりする可能性があります。
それどころか、書面のないまま支払った事実だけが残ると、「非を認めて金を払った」という事実だけが独り歩きしかねません。
条項の不備
宥恕、清算、口外禁止、被害届の不提出。
これらの条項は、この局面の示談書の核心ですが、過不足なく盛り込むには専門的な知識が必要です。
直接の交渉は、うまくいけば早いように見えて、失敗したときに失うものが大きすぎます。
相手の連絡先を知っていることと、自分で交渉すべきであることは、別の問題です。
不当に高額な要求を受けている場合
「〇〇万円払わなければ警察に行く」という形で、具体的な金額の要求を受けることもあります。
まず、動揺したまま言い値で応じるべきではありません。
性的なトラブルの解決金には、行為の内容、関係性、相手が受けた苦痛の程度に応じた相応の幅があります。
過大な要求にそのまま応じれば、経済的な負担が過度になるだけでなく、支払いの経緯自体が新たな紛争の火種になることもあります。
一方で、金額の適正さに固執しすぎることにもリスクがあります。
交渉が決裂すれば、相手が被害届の提出に進む可能性があるためです。
「適正な金額に抑えること」と「示談を成立させて事態の拡大を防ぐこと」は、緊張関係に立ちます。
どちらをどの程度優先すべきかは、行為の内容や証拠の状況を踏まえた見通しの中で判断する必要があります。
なお、要求の態様が著しく執拗・威迫的である場合など、要求それ自体が別の法的な問題をはらむケースもあります。
ただし、その見極めは慎重に行うべきものであり、ご自身の判断で「脅迫だ」と反論することは、事態を悪化させるだけです。
要求の内容と経緯を記録したうえで、対応は弁護士に相談してください。
弁護士に依頼して進める示談の流れ
弁護士に依頼した場合、おおむね次のように進みます。
事実関係と資料の整理
行為に至る経緯、当日のやり取り、その前後のメッセージの内容を時系列で整理します。
相手とのやり取りの記録は、消さずにすべて保全してください。
同意の成否や適正な解決水準の見通しを立てる土台になります。
方針の決定
民事・刑事の両面を見据えて、示談の目標(金額の水準、盛り込むべき条項)と、交渉が決裂した場合の備えを決めます。
弁護士から相手方への連絡
弁護士が代理人として、相手方に連絡します。
本人からの連絡と異なり、圧力と受け取られるリスクを抑えながら、解決に向けた話し合いの意思を伝えられます。
相手にすでに弁護士が付いている場合は、代理人間の交渉になります。
交渉と示談書の作成
金額と条件を交渉し、宥恕・清算・口外禁止等の条項を備えた示談書を取り交わします。
成立後
示談書の内容に沿って支払いを行い、解決となります。
以後、相手との接触は行わないことが原則です。
本人が前面に出ないことで、感情的な衝突を避け、交渉を条件の話し合いに集中させられることが、弁護士を入れる最大のメリットです。
やってはいけないこと
この局面で、次の対応は事態を悪化させます。
- 無視・放置する:相手は「誠意がない」と受け取り、被害届の提出や弁護士への依頼に繋がります。時間の経過は、この局面では味方になりません。
- 「証拠はあるのか」と挑発する・否認を押し付ける:相手の処罰感情を強めるおそれがあります。同意の有無に争いがある場合でも、その主張は交渉の中で適切な形で行うべきものです。
- 執拗に連絡する・自宅や職場を訪ねる:つきまといや強要と評価されるリスクがあり、それ自体が新たな事件になりかねません。
- SNSで発信する・共通の知人に話す:相手の名誉やプライバシーに関わる発信は、別の紛争を生みます。口外は厳禁です。
- 関係者に口裏合わせを頼む:証拠隠滅と評価され、刑事手続きに進んだ場合に決定的に不利になります。
すでに警察が動いている場合
相手がすでに被害届を提出し、警察から呼び出しの連絡が来ている場合は、本記事の局面とは対応が異なります。
呼び出しを無視せず、出頭前に弁護士に相談して取調べへの対応と示談の方針を整えることが基本になります。
よくある質問(FAQ)
- 示談すれば、警察沙汰にはなりませんか。
-
「絶対にならない」とは言えません。
不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は親告罪ではないため、法律上は示談後も捜査・起訴があり得ます。
もっとも、示談が成立し、相手が処罰を望まない意思を示している事案では、被害申告自体がされず、事件化に至らないか、事件化しても不起訴で終わる可能性が高くなります。実務上の意味が大きい手段です。
- 相手の連絡先を知っています。自分で謝罪して解決してはだめですか。
-
おすすめしません。
謝罪の連絡が「口止めの圧力」と受け取られて事態を悪化させるおそれがあり、やり取りは録音されている前提で考えるべきです。
また、金銭を渡しても、宥恕や清算条項を備えた示談書がなければ解決になりません。連絡先を知っている場合でも、交渉は弁護士を通じて行う方が安全です。
- 「〇〇万円払わなければ警察に行く」と言われています。払うべきですか。
-
言い値で即答すべきではありません。
解決金には行為の内容や経緯に応じた相応の幅があります。
一方で、交渉の決裂が被害届の提出につながるリスクもあるため、金額だけで判断せず、全体の見通しの中で対応を決める必要があります。要求の内容を記録したうえで、応じる前に弁護士に相談してください。
- 同意があったと思っています。それでも示談すべきですか。
-
事案によります。
同意の成否は、当時のやり取りや状況の証拠によって評価が分かれる、難しい問題です。
争えば刑事手続きに進むリスクと隣り合わせになる一方、安易に非を認める形の示談にも慎重であるべき場合があります。証拠の状況を踏まえた見通しを立てたうえで、争うのか、解決を優先するのかを判断すべきですので、方針の決定から弁護士にご相談ください。
- 弁護士から連絡すると、かえって相手を刺激しませんか。
-
多くの場合、逆です。
本人からの連絡は感情的な反発や「圧力」との受け取りを招きやすいのに対し、弁護士からの連絡は、謝罪と解決の意思を冷静かつ真剣な形で伝えるものとして受け止められやすく、相手が安心して交渉に応じる契機になることも少なくありません。
連絡の方法や文面にも、相手の心情への配慮を尽くします。
まとめ
性的な行為をめぐって「訴える」と言われた場合の対応を整理します。
- 「訴える」には民事(慰謝料請求)と刑事(被害届・告訴)の両方があり得る。最初から両にらみで対応を考える。
- 被害届が出る前の段階でも示談は可能で、宥恕・清算・口外禁止等の条項を備えた示談書により、刑事・民事の両面で事態の拡大を防げる可能性がある。ただし「示談すれば絶対に事件化しない」わけではない。
- 連絡先を知っていても、本人による直接交渉は危険が大きい。口止めと受け取られ、やり取りが証拠化され、条項を欠いた「解決したつもり」に終わりかねない。
- 高額な要求には言い値で応じず、かといって金額に固執して決裂させず、全体の見通しの中で判断する。
- 無視・挑発・執拗な連絡・SNS発信・口裏合わせは厳禁。
当事務所では、性的な行為をめぐるトラブルについて、被害届が出される前の段階からの示談交渉をお受けしています。
この段階は、打てる手が最も多く残されている局面です。
相手に連絡する前に、まずお早めにご相談ください。
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