【この記事の結論・要約】
- 裁判手続きによらない実力での追い出し(鍵の交換、荷物の撤去、締め出しなど)は、借主に家賃の滞納などの落ち度があっても違法です。契約書に「滞納したら鍵を交換できる」といった特約があっても、無効です。
- 違法な追い出し行為をした貸主・管理会社・業者には、慰謝料や処分された家財の賠償を請求でき、行為によっては刑事責任が問われることもあります。
- 被害に遭ったら、証拠を残し、身の安全を確保したうえで、警察・弁護士に相談してください。実力行使に押されて退去する必要はありません。
はじめに
立ち退きの交渉がこじれたときや、家賃の支払いが遅れたことをきっかけに、貸主側の行動がエスカレートすることがあります。
留守中に鍵を替えられて家に入れなくなった。部屋の荷物を勝手に運び出された。「出て行け」という張り紙をされ、深夜まで訪問や電話が続く。
中には、立ち退きの「交渉役」を名乗る業者が現れて、圧力をかけてくることもあります。
こうした実力での追い出しは、理由のいかんを問わず、原則としてすべて違法です。
これらの行為は、借主の側に家賃の滞納があっても適法にはなりません。
被害を受けた借主は、退去するどころか、相手に損害賠償を請求できる立場にあります。
この記事では、違法な追い出し行為(自力救済)の具体例と、被害に遭った借主が取るべき対処手順を解説します。
通常の立ち退き請求への対応(正当事由・立退料の考え方)は、次の記事で解説しています。

実力での追い出しは、どんな理由があっても原則違法(自力救済の禁止)
法律上の手続きによらず、実力で自分の権利を実現しようとすることを「自力救済」といいます。
日本では、自力救済は原則として禁止されています。
判例は、法律に定める手続によったのでは権利の保全が不可能または著しく困難な、緊急やむを得ない特別の事情がある場合に、必要の限度でのみ例外的に許されるとしていますが(最高裁昭和40年12月7日判決)、立ち退きや家賃督促の場面でこの例外が認められることは、まずありません。
貸主が借主を退去させたいなら、交渉で合意するか、裁判で明渡しの判決を得て、強制執行の手続きによるほかありません。
これは、借主が家賃を滞納している場合でも、賃貸借契約が有効に解除された後でも、変わりません。
「滞納しているのだから追い出されて当然」ではないのです。
また、賃貸借契約書に「賃料の支払いを怠ったときは、貸主は鍵を交換できる」「無断で室内に立ち入り、残置物を処分できる」といった条項(自力救済条項)が入っていることがありますが、この種の条項は公序良俗に反して無効とされています。
「契約書に書いてある」という貸主側の言い分は、通りません。
違法となる行為の具体例
以下は違法となる典型的な行為です。
- 無断での鍵の交換・締め出し:留守中に鍵を替える、鍵穴に器具を付けて開けられなくする。
- 無断での室内への立入り:合鍵を使って勝手に部屋に入る。
- 家財・商品の搬出・処分:室内の荷物を運び出す、廃棄する。
- ライフラインの妨害:電気・ガス・水道を止める、設備を使えない状態にする。
- 執拗な督促・圧力:「出て行け」「家賃を払え」という張り紙、深夜・早朝や長時間の訪問・電話、大声での督促、職場への押しかけ。
- 脅迫:「業者を使って追い出す」「家族や勤務先に知らせる」といった文言。
貸主や管理会社が退去のお願いに訪問すること、通知書面を送ること自体は、違法ではありません。
問題になるのは、その態様です。
頻度・時間帯・言動が社会通念上の限度を超えると、平穏に生活する権利の侵害として違法性を帯びます。
「交渉」の名を借りた圧力が続く場合には、記録を取りながら、後述の手順で対応してください。
貸主側が負う責任(裁判例)
違法な追い出し行為をした側は、民事・刑事の両面で責任を負います。
民事責任(損害賠償)
違法な自力救済は不法行為(民法709条)にあたり、貸主だけでなく、実行した管理会社や保証会社、その代表者個人の責任が認められた例もあります。
実際の裁判例を挙げます。
- 家賃の支払いが1か月遅れた借主に対し、無断で鍵を交換し、合計34日間にわたり自宅から締め出した事案で、家賃相当額の損失、簡易宿泊所での宿泊費用、慰謝料等の合計約65万円の賠償が命じられました(大阪簡易裁判所平成21年5月22日判決)。
- 無断で室内に立ち入り、水道の元栓やガス設備に手を加えたうえ鍵を交換した事案で、慰謝料の支払いが命じられています(札幌地裁平成11年12月24日判決)。この判決は、契約書の自力救済条項を無効と判断した例でもあります。
- 管理会社の従業員が室内の家具等を搬出し、鍵を交換して借主を退去させた事案では、貸主と管理会社の双方に賠償責任が認められました(大阪高裁平成23年6月10日判決)。保証会社が鍵を付け替えて占有を排除し、室内の動産を撤去・処分した事案では、会社に加えて代表取締役個人の賠償責任も認められています(東京地裁平成24年9月7日判決)。
- 処分された家財に先祖から受け継いだ仏壇や家具が含まれていた事案では、慰謝料として200万円が認められました(東京地裁平成14年4月22日判決)。
賠償の対象は、処分された家財の時価相当額、部屋を使えなかった期間の損害(宿泊費・家賃相当額)、慰謝料、弁護士費用相当額などです。
刑事責任
行為の態様によっては、無断の立入りが住居侵入罪(刑法130条)、鍵の交換により借主の占有を奪う行為が不動産侵奪罪(刑法235条の2)にあたり得るなど、犯罪が成立する可能性もあります。
被害に遭ったときの対処手順
実際に被害を受けた場合は、以下の手順に従って対処してください。
証拠を残す
すべての対応の基礎となります。
替えられた鍵や取り付けられた器具、張り紙、荷物が搬出された室内の状況を写真・動画で記録してください。
訪問・電話でのやり取りは録音し、日時・相手・内容の時系列メモを付けます。
荷物を処分された場合は、あった家財をできる限りリスト化します(購入記録や過去の室内写真が裏づけになります)。
身の安全を確保し、警察に相談する
締め出しに遭った場合、無理にこじ開けて押し入ることは避けてください。
相手が居直っている、脅しを受けているなど身の危険を感じる場面では、ためらわずに110番通報をしてください。
緊急性がない場合も、警察署への相談として記録を残しておくことに意味があります。
当面の生活拠点を確保する
生活の拠点を確保してください。
宿泊施設に泊まる場合は、その時の記録や宿泊費などの証拠(領収書等)を残しておいてください。
弁護士に相談する
弁護士から相手方(貸主・管理会社・業者)に対し、行為の違法性を指摘して中止を求める警告を発することで、多くの場合、実力行使は止まります。
締め出されて部屋に戻れない場合には、占有を回復するための法的手続き(占有回収の訴えや仮処分)も検討します。
そのうえで、被った損害の賠償を請求します。
立ち退き交渉本体でも、違法行為は借主側の材料になります
貸主側の強引な行為は、正当事由の判断や交渉において、貸主側に不利な事情として働く可能性があります。
違法行為への対応と並行して、立ち退きに応じるか、応じるならどのような条件かの交渉を、弁護士を窓口にして対応することができます。

借主側が注意すべきこと
被害者の立場であっても、次の点には注意してください。
- 滞納があるなら、解消を並行する:相手の行為が違法であることと、ご自身の家賃支払義務は別の問題です。滞納を放置すると、違法な追い出しとは別に、正規の手続きによる契約解除・明渡請求の理由を与えてしまいます。支払える状況なら支払い、受け取りを拒否されるなら供託します。
- 実力で応酬しない:相手の設備を壊す、こちらも実力で押し入るといった対応は、ご自身が責任を問われる原因になります。
- 単独で相手と対峙しない:感情的な衝突は状況を悪化させます。記録を取り、対応は弁護士にまかせてください。
よくある質問(FAQ)
- 家賃を滞納しているのは事実です。それでも追い出しは違法になりますか。
-
違法になります。
滞納があっても、裁判と強制執行によらずに実力で追い出す行為は違法であり、損害賠償の対象になります。
裁判例でも、滞納した借主への締め出しについて賠償が命じられています。ただし、滞納自体は正規の手続きによる解除・明渡しの理由になりますので、支払いや供託による解消を並行してください。
- 契約書に「滞納したら鍵を交換できる」と書かれています。
-
自力救済条項は、公序良俗に反して無効とされています。
契約書に記載があっても、無断の鍵交換が適法になることはありません。 - 帰宅したら鍵が替えられ、中に入れません。今すぐどうすればよいですか。
-
まず、鍵やドアの状況を写真に撮り、管理会社・貸主に連絡した記録(発信履歴・メッセージ)を残してください。
無理にこじ開けることは避け、相手と連絡が取れない、または居直られた場合は、警察に相談してください。
当面の宿泊費の領収書も保管してください(損害として請求できます)。そのうえで、速やかに弁護士にご相談ください。部屋に戻るための手続きと、賠償の請求を進めます。
- 処分された家財は戻ってきますか。
-
すでに廃棄されている場合、現物を取り戻すことは難しく、時価相当額の金銭賠償を求めることになります。
あった家財のリスト、購入時の記録、室内が写った過去の写真などが賠償額の立証に役立ちます。
思い出の品や祭祀に関わる物が失われた事情は、慰謝料の増額要素として考慮された裁判例もあります。 - 管理会社や「立ち退き交渉の代行業者」を名乗る人が来ます。誰に責任を問えますか。
-
実行した管理会社・業者だけでなく、それを依頼した貸主にも責任を問える場合があります。
裁判例には、管理会社と貸主の双方、あるいは会社とその代表者個人の責任を認めたものがあります。なお、弁護士資格のない業者が報酬を得る目的で立ち退き交渉を代行することは、それ自体が弁護士法に抵触し得る行為です。
相手の名刺や書面は保管し、やり取りは記録してください。
まとめ
違法な追い出し行為への対処を整理します。
- 実力での追い出し(鍵交換・荷物の撤去・締め出し・ライフライン妨害)は、滞納があっても、契約解除後でも違法。契約書の自力救済条項も無効。
- 違法行為をした貸主・管理会社・業者には、家財の時価、宿泊費等、慰謝料の賠償を請求できる。刑事責任が問われることもある。
- 被害に遭ったら、証拠を残し、無理な実力対抗をせず、警察・弁護士へ。締め出しからの復帰と賠償請求の手続きがある。
- 滞納がある場合は支払い・供託で解消を並行し、相手に正規の解除理由を与えない。
- 違法行為は、立ち退き交渉本体でも借主側の材料になる。押されて退去する必要はない。
当事務所では、違法な追い出し行為への対応(警告、占有の回復、損害賠償請求)から、その後の立ち退き交渉までお受けしています。
鍵の交換や執拗な訪問などの被害を受けている方は、我慢を重ねる前に、お早めにご相談ください。
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