この記事の結論・要約
- ストーカー規制法は行為者と相手方の性別を問いません。同性間であっても、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情に基づく行為であれば、規制の対象となります。
- 対象になるかどうかの分かれ目は、同性か異性かではなく、恋愛感情等の目的があるかどうかです。近隣間の紛争、金銭をめぐる争い、職場での対立から生じた行為は、同性・異性を問わず対象外となり得ます。
- 同法の対象とならない場合でも、迷惑防止条例や軽犯罪法、刑法上の犯罪に当たる可能性があり、民事上の請求も検討できます。弁護士による警告は、同法の適用の有無にかかわらず行うことができます。
はじめに
同性の知人から執拗に連絡が来る、近隣の住民から嫌がらせを受けている、職場で対立した相手につきまとわれているといった相談があります。
こうした事案では、「恋愛感情がないからストーカー規制法は使えない」「同性同士では対象外だ」と説明され、対応を諦めてしまう例があります。
しかし、この2つは同じ問題ではありません。前者は正しい場合がありますが、後者は誤りです。
また、同法の対象とならない場合であっても、行為の内容によっては他の法律による対応が考えられます。
この記事では、ストーカー規制法の対象となる範囲を整理したうえで、対象とならない場合に検討できる法律について説明します。
同性からのつきまといも規制法の対象になる
条文は性別を問わない
ストーカー規制法第2条第1項は、規制の対象となる「つきまとい等」を、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる行為と定めています。
この条文は、行為者と相手方の性別について何も定めていません。
したがって、同性間の事案であっても、要件を満たせば規制の対象となります。
対象外になるのは目的の要件を欠く場合
同法の対象となるかどうかの分かれ目は、性別ではなく目的の要件にあります。
同性の知人から執拗に連絡が来ている場合でも、その行為が好意の感情に基づくものであれば、同法の対象となり得ます。
逆に、異性からの行為であっても、恋愛感情と無関係な動機によるものであれば、対象外となることがあります。
誤解が生じやすい理由
同性間の事案が対象外だと思われやすいのは、ストーカー行為が男女間の問題として語られることが多いためと考えられます。
もっとも、実際の相談の場面では、目的の要件を満たすかどうかの判断が難しい事案が少なくありません。
行為者の内心は外からは分からないため、相手との関係、これまでのやり取りの内容、行為の態様といった外形的な事情から判断することになります。

規制法の対象にならない事案
次のような事案では、目的の要件を満たさないとして、同法による対応が難しいことがあります。
近隣間の紛争から生じた嫌がらせ
騒音、ごみの出し方、境界や駐車をめぐる争いをきっかけとして、見張り、押し掛け、無言電話、汚物の投棄といった行為に及ぶ事案です。
行為の内容は「つきまとい等」の類型と重なりますが、その動機が生活上の紛争にある場合、恋愛感情等を充足する目的とはいえません。
金銭をめぐる争いが背景にある場合
貸金の返還、立替金の精算、取引上の紛争などをきっかけとする事案です。
正当な権利の行使として行われる請求は、直ちに違法となるものではありません。
もっとも、請求の名目で執拗に連絡が繰り返される場合や、態様が相当な範囲を超える場合には、別の問題が生じ得ます。
職場での対立から生じた行為
業務上の対立、人事評価への不満、配置転換をめぐる経緯などから、退職後も接触が続く事案です。
在職中の行為であれば、勤務先に対する相談や、就業環境の整備を求めることも考えられます。
逆恨みによる行為
注意を受けたこと、訴訟で敗れたこと、要求を断られたことなどをきっかけとする事案です。
ここで注意を要するのは、「何に対する怨恨か」によって結論が変わる点です。
同法は、恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情も、目的として挙げています。
したがって、交際を断られたことへの怨恨に基づく行為は対象となり得ます。
一方、業務上の対立や金銭をめぐる争いへの怨恨に基づく行為は、対象外となり得ます。
迷惑防止条例による対応
ストーカー規制法の対象とならない場合でも、各都道府県が定める迷惑防止条例により対応できることがあります。
条例が規制するつきまとい行為
多くの都道府県の条例には、正当な理由なく、人を不安にさせるようなつきまとい、待ち伏せ、見張り、押し掛けなどを禁止する規定が置かれています。
なお、条例の内容は都道府県により異なります。
以下は東京都の条例を例としたものであり、他の道府県では要件や罰則が異なる場合があります。
ストーカー規制法との違い
最も大きな違いは、条例が恋愛感情等の目的を要件としていない場合があるという点です。
そのため、近隣間の紛争や業務上の対立から生じた行為であっても、条例の要件を満たせば対応の対象となり得ます。
一方で、条例には、ストーカー規制法の警告や禁止命令等に相当する行政上の措置が設けられていない場合があります。
この点で、対応の内容は異なります。
警察に相談する際の伝え方
ストーカー規制法の要件を満たさないとして対応が得られなかった場合でも、条例に当たる可能性を示して改めて相談することで、検討が進むことがあります。
その際には、行為の日時と内容を時系列で整理した資料を持参してください。
その他の法律による対応
軽犯罪法
他人の進路に立ちふさがる行為や、その身辺に群がって立ち退かない行為などが規制されています。
刑法上の犯罪
行為の内容によっては、次の罪に当たる可能性があります。
- 脅迫罪(害を加える旨を告げた場合)
- 名誉毀損罪・侮辱罪(社会的評価を低下させる事実や言辞を公然と示した場合)
- 住居侵入罪(敷地や建物に無断で立ち入った場合)
- 器物損壊罪(物を壊した場合や汚した場合)
- 威力業務妨害罪(業務を妨げた場合)
近隣間の紛争や業務上の対立から生じた事案では、これらの罪に当たるかどうかが実際の対応の分かれ目になります。
民事上の請求
継続的な接触や嫌がらせによって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できることがあります。
もっとも、認められる金額は事案により幅があり、判決に至る事例自体が多くないため、相場が確立しているとはいえません。
回収できる金額に対して弁護士費用が上回る可能性があるため、金銭の請求を主たる目的とするかどうかは慎重に検討する必要があります。
また、裁判所に対し、相手が近づくことなどを禁止する仮処分を申し立てる方法もあります。
ストーカー規制法に基づく制度ではなく、民事保全法に基づく手続です。
警察に相談する場合
「民事不介入」と言われたとき
近隣間の紛争や金銭をめぐる争いが背景にある事案では、民事の問題であるとして対応が得られないことがあります。
もっとも、背景に民事上の紛争があることと、行われている行為が犯罪に当たるかどうかは、別の問題です。
争いの原因が民事であっても、行為の内容が脅迫罪や住居侵入罪に当たるのであれば、対応の対象となり得ます。
相談の際には、争いの経緯と、現に行われている行為とを分けて説明してください。
経緯の説明に終始すると、民事上の紛争として扱われやすくなります。
どの法律に当たるかを示して相談する
ストーカー規制法の要件を満たさない事案では、迷惑防止条例、軽犯罪法、刑法上の犯罪のいずれに当たる可能性があるかを示したうえで相談することで、検討が進みやすくなります。
弁護士が相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成することもできます。

弁護士による対応
規制法の適用がなくても警告はできる
弁護士が依頼者の代理人として、相手方に対し、連絡および接触を中止するよう求める書面を送付する対応は、ストーカー規制法の適用の有無にかかわらず行うことができます。
恋愛感情等の目的が認められないとして警察の対応が得られなかった事案において、選択肢の一つとなります。

関係が続くことを前提に考える必要がある
元交際相手の事案と異なり、近隣住民や職場の関係者については、接触を完全に断つことが難しい場合があります。
同じ地域に住み続ける、同じ職場に勤め続けるという前提がある以上、強い対応を取ることで日常生活に支障が生じることもあります。
そのため、どこまでの対応を取るかは、その後の生活への影響を踏まえて判断することになります。
当事務所では、依頼をお受けする前に、この点を含めて検討します。
背景にある紛争の解決を併せて検討する
金銭をめぐる争いや、境界・騒音といった生活上の紛争が背景にある場合、その問題自体を解決することで、接触の理由がなくなることがあります。
嫌がらせへの対応と、背景にある紛争の解決を分けて考えるのではなく、併せて検討することが有効な場合があります。
証拠の残し方
いずれの対応を取る場合でも、行為の内容を裏付ける資料が前提になります。
特に、近隣間の事案では、見張りやうろつきのように痕跡が残りにくい行為が中心となることが多く、意識して記録しなければ後から示すことができません。
日時、場所、相手の様子、そのときの自分の行動を、できるだけその日のうちに記録してください。
自宅や勤務先の防犯カメラに記録が残っている可能性がある場合は、保存期間が過ぎる前に管理者に保存を依頼してください。

よくある質問(FAQ)
- 同性同士でもストーカー規制法は適用されますか。
-
適用されます。
同法第2条第1項は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる行為を規制の対象としており、行為者と相手方の性別を問うものではありません。
同性間であっても、要件を満たせば警告や禁止命令等の対象となり得ます。 - 恋愛感情がないと警察に言われた場合、どうすればよいですか。
-
ストーカー規制法による対応は難しくなりますが、他の法律による対応が考えられます。
行為の内容に応じて、迷惑防止条例、軽犯罪法、脅迫罪、住居侵入罪、器物損壊罪などに当たる可能性があります。
どの法律に当たる可能性があるかを示したうえで改めて相談することで、検討が進むことがあります。また、弁護士による警告は、同法の適用の有無にかかわらず行うことができます。
- 相手が何を目的としているか分からない場合はどうなりますか。
-
目的は行為者の内心の問題ですが、相手との関係、これまでのやり取りの内容、行為の態様といった外形的な事情から判断されます。
依頼者の側で目的を特定して説明する必要はありません。相手との関係や経緯を含めて、分かる範囲で説明してください。
- 引っ越すしかないのでしょうか。
-
転居は有効な場合がありますが、費用と生活への影響が大きく、また相手が新しい住所を把握すれば解決にならないこともあります。
まずは行為の記録を残し、取り得る法的手段を検討してください。転居を選ばれる場合、住民基本台帳の閲覧等の制限に関する手続についても併せて検討した方が良いでしょう。
- 管理会社や自治会に相談すべきですか。
-
集合住宅や賃貸物件の事案では、管理会社や管理組合への相談が有効な場合があります。
第三者を介することで、当事者同士のやり取りを避けられるためです。もっとも、これらは法的な権限を持つものではなく、相手が応じなければそれ以上の対応はできません。
行為が続く場合は、別の手段を検討することになります。 - 資料がない場合でも相談できますか。
-
ご相談いただけます。
まず、記憶に基づいて行為の内容と経過を時系列で整理してください。
そのうえで、今後の行為について記録を残すことになります。何を残しておくべきかについても、ご相談の際にお伝えします。
まとめ
- ストーカー規制法は行為者と相手方の性別を問いません。同性間の事案であっても、要件を満たせば規制の対象となります
- 対象になるかどうかの分かれ目は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的があるかどうかです
- 近隣間の紛争、金銭をめぐる争い、業務上の対立から生じた行為は、目的の要件を満たさないとして対象外となり得ます
- 迷惑防止条例は恋愛感情等の目的を要件としていない場合があり、同法の対象外の事案でも対応できることがあります。ただし条例の内容は都道府県により異なります
- 「民事不介入」と言われた場合でも、背景に民事上の紛争があることと、行われている行為が犯罪に当たるかどうかは別の問題です
- 近隣や職場の事案では、関係が続くことを前提に、どこまでの対応を取るかを判断する必要があります
当事務所は、刑事事件および男女間の紛争を取り扱っており、しつこい連絡やつきまといについても、相手方への警告から警察への対応、裁判手続まで、事案に応じてお受けしています。
ストーカー規制法の適用が難しい事案についても、他の法律構成による対応を検討します。
行為が継続している事案では、時間の経過とともに記録が失われ、事実関係の立証が困難になることがあります。お早めにご相談ください。
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