この記事の結論・要約
- 警告は、さらに反復して当該行為をしてはならない旨を警察が求めるものです。これに対し、禁止命令等は公安委員会が命ずるもので、違反してストーカー行為をした場合には罰則の対象となります。
- 「接近禁止命令」はDV防止法に基づく保護命令の一種であり、ストーカー規制法の制度ではありません。配偶者、元配偶者、生活の本拠を共にする交際相手以外の相手には使えません。
- 禁止命令等が出されても行為が止まらない場合には、違反の申告のほか、接近禁止の仮処分、刑事告訴、損害賠償請求といった手続を検討することになります。
はじめに
ストーカー規制法には、警察による警告と、公安委員会による禁止命令等という2つの措置があります。
制度の概要は警察庁や各都道府県警のページでも説明されていますが、実際に申し出る立場から見ると、どちらを求めるべきか、何を伝えればよいのか、どのくらいの期間がかかるのかといった点は分かりにくいのが実情です。
また、「接近禁止命令」という言葉と混同されることがありますが、これはDV防止法に基づく別の制度です。
この記事では、警告と禁止命令等の違い、申出の手続、発出までの流れ、そして出された後も行為が止まらない場合に取り得る手段について説明します。
警告と禁止命令等の違い
警告
つきまとい等をした者に対し、さらに反復して当該行為をしてはならない旨を警告するものです。
警告に違反しても、それ自体を理由に罰則が科されるものではありません。
もっとも、警察が正式に対応したことが記録として残り、その後の措置につながる意味があります。
令和7年12月30日からは、被害者からの申出がない場合でも、警察本部長等の職権により行うことができるようになりました。
禁止命令等
都道府県公安委員会が、つきまとい等をしてはならないこと等を命ずるものです。
禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合には、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金に処せられます。この点で、警告よりも強い効果を持ちます。
両者の比較
| 警告 | 禁止命令等 | |
|---|---|---|
| 行う機関 | 警察本部長等 | 都道府県公安委員会 |
| 内容 | 反復して行わないよう求める | 行ってはならないことを命ずる |
| 違反した場合 | それ自体に罰則はない | ストーカー行為をすれば罰則 |
| 相手方への手続 | 比較的短期間 | 原則として聴聞を要する |
どちらを求めるべきか
いずれを行うかを判断するのは警察および公安委員会であり、申し出た側が選べるものではありません。
もっとも、行為の内容と危険の程度をどこまで具体的に伝えられるかによって、判断が変わり得ます。
禁止命令等を求める場合には、警告では足りないと考える理由を示すことになります。
一般的には、行為が繰り返されていること、相手方が拒絶を認識していること、身体の安全に関わる言動があることなどが、判断の材料になります。
接近禁止命令との違い
接近禁止命令はDV防止法に基づく制度
「接近禁止命令」という言葉が使われることがありますが、ストーカー規制法にこの名称の制度はありません。
接近禁止命令は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)に基づき、裁判所が発する保護命令の一種です。
相手との関係によって使える制度が変わる
保護命令の申立てができるのは、相手方が配偶者または元配偶者である場合に限られます。
あわせて、生活の本拠を共にする交際相手についても準用されています。
したがって、同居していた元交際相手であれば申立ての余地がありますが、同居していない交際相手、知人、近隣住民、職場の関係者に対しては使えません。
これらの相手方については、ストーカー規制法に基づく禁止命令等、または民事保全法に基づく接近禁止の仮処分を検討することになります。
| 保護命令(接近禁止命令) | 禁止命令等 | 接近禁止の仮処分 | |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | DV防止法 | ストーカー規制法 | 民事保全法 |
| 発する機関 | 裁判所 | 公安委員会 | 裁判所 |
| 相手方の範囲 | 配偶者・元配偶者・生活の本拠を共にする交際相手 | 制限なし | 制限なし |
| 恋愛感情等の目的 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 申立ての費用 | かかる | かからない | かかる |
申出の手続
申出先
警察署に相談したうえで、申出を行います。ストーカー被害の相談は、警察署の生活安全課が窓口となります。
相談の段階から申出に進む流れになりますので、最初の相談の際に、警告または禁止命令等を求める意向があることを伝えてください。

申出書に記載する内容
申出は書面によって行います。主な記載事項は次のとおりです。
- 申出をする者の氏名、住所等
- 相手方の氏名、住所等
- つきまとい等が行われた日時、場所および内容
- 求める措置の内容
様式や具体的な記載方法は、都道府県により運用が異なる場合があります。
相談の際に確認してください。
添付する資料
行為の内容を裏付ける資料を用意してください。
メッセージの画面、着信の履歴、届いた郵便物、待ち伏せをされた日時と場所の記録などです。
連絡が問題となっている事案では、連絡を拒む意思を伝えたやり取りが特に重要になります。
電話やメッセージの送信に関する類型は、無言電話である場合を除き、拒まれたにもかかわらず連続して行われることが要件とされているためです。

弁護士が関与する場合
弁護士が相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成したうえで申出を行うことができます。
行為の内容を時系列で整理し、それが同法のどの類型に当たるのか、どの要件を満たすのかを示すことで、検討が進みやすくなることがあります。
もっとも、措置を取るかどうかを判断するのは警察および公安委員会であり、弁護士が関与したからといって結果が変わるとは限りません。
申出から発出までの流れ
事実関係の確認
申出を受けた警察は、提出された資料をもとに事実関係を確認します。
この過程で、追加の聴取や資料の提出を求められることがあります。
相手方への確認が行われることもあります。
相手方からの聴聞
禁止命令等を行う場合、原則として相手方に意見を述べる機会が与えられます。
ただし、緊急を要する場合には、この手続を経ずに命令を行うことができるとされています。
発出までに要する期間
期間は事案によって異なります。
資料が整っており、事実関係が明確な事案では比較的短期間で進むことがある一方、相手方が争う場合や事実関係の確認に時間を要する場合には長くなります。
あらかじめ期間を約束できる性質のものではありません。
発出された後にどうなるか
相手方への通知
禁止命令等が行われると、相手方に対して通知されます。
その際、被害者が申し出たことは事実上相手方に伝わります。
この点を懸念される方は少なくありません。
もっとも、行為を止めるためには相手方に対する働きかけが必要であり、避けられない面があります。
有効期間
禁止命令等の効力は禁止命令等をした日から起算して一年であり、期間の経過により効力を失います。
期間が経過した後も行為が続くおそれがある場合には、さらに一年延長をすることができます。
期間が近づいた時点で、状況を確認したうえで対応を検討することになります。
違反した場合の罰則
禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合には、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金に処せられます。
なお、禁止命令等を受けていない場合のストーカー行為については、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金とされています。
行為が止まらない場合
禁止命令等が行われても、行為が続くことがあります。
その場合に取り得る手段は次のとおりです。
違反を申告する
違反の事実を警察に申告してください。
命令が出された後の行為についても、日時と内容を記録し続けることが重要です。
命令が出たことで安心して記録を止めてしまう例がありますが、違反を申告する段階で資料がないという事態になりかねません。
接近禁止の仮処分
裁判所に対し、相手方が近づくことなどを禁止する仮処分を申し立てる手続です。
民事保全法に基づくものであり、ストーカー規制法の制度とは別に利用できます。
申立てにあたっては、権利が侵害されていること、および保全の必要があることを示します。
担保を立てることを求められる場合があります。
刑事告訴
犯罪の事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。
ストーカー規制法違反のほか、行為の内容によっては、脅迫罪、名誉毀損罪、住居侵入罪、器物損壊罪などに当たる可能性があります。
なお、ストーカー行為罪は告訴がなくても起訴できる犯罪とされています。
告訴が処罰の要件となるわけではありません。
損害賠償請求
継続的なつきまといや連絡によって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できることがあります。
もっとも、認められる金額は事案により幅があり、判決に至る事例自体が多くないため、相場が確立しているとはいえません。
回収できる金額に対して弁護士費用が上回る可能性があるため、金銭の請求を主たる目的とするかどうかは慎重に検討する必要があります。
令和7年の改正で変わった点
職権による警告
令和7年12月30日からは、被害者からの申出がない場合でも、警察本部長等の職権により警告を行うことができるようになりました。
被害者が申出をためらう事案においても警察が対応できるようにするための改正です。
禁止命令等を行う機関の追加
同じく令和7年12月30日から、行為が行われた時における被害者の住居の所在地を管轄する都道府県公安委員会等が、禁止命令等を行う機関に加えられました。
被害を受けた後に転居した事案では、どの機関が対応するかが問題になり得ます。
この改正により、対応できる範囲が広がっています。
勤務先や学校を通じた対応
同日から、被害者を雇用する者および被害者が就学する学校の長が、被害者に対する援助を行う努力義務の主体に加えられています。
さらに、令和8年3月10日からは、警察本部長等が、ストーカー行為等をするおそれがある者に情報を提供するおそれがある者(探偵業者等)に対し、情報提供を行わないよう求めることができるようになっています。
弁護士に依頼する場合
申出の支援
警察への相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成したうえで、警告または禁止命令等の申出を行います。
前記のとおり、措置を取るかどうかは警察および公安委員会が判断するものであり、結果を約束できるものではありません。
並行してできること
申出とは別に、弁護士が相手方に対し、連絡および接触を中止するよう求める書面を送付することもできます。
この対応は、警察の判断にかかわらず行うことができます。
申出の結果を待つ間の対応としても考えられます。

対応が得られなかった場合
申出をしても、要件を満たさないと判断されて措置に至らないことがあります。
この場合でも、行為の内容によっては他の法律による対応が考えられます。


よくある質問(FAQ)
- 警告と禁止命令のどちらを求めるべきですか。
-
いずれを行うかを判断するのは警察および公安委員会であり、申し出た側が選べるものではありません。
もっとも、行為の内容と危険の程度をどこまで具体的に伝えられるかによって、判断が変わり得ます。
行為が繰り返されていること、相手方が拒絶を認識していること、身体の安全に関わる言動があることなどを、資料とあわせて示してください。 - 申出をしてから出るまでどのくらいかかりますか。
-
事案によって異なります。
資料が整っており事実関係が明確な事案では比較的短期間で進むことがある一方、相手方が争う場合や事実関係の確認に時間を要する場合には長くなります。
あらかじめ期間を約束できる性質のものではありません。申出の結果を待つ間、弁護士から相手方に書面を送付するといった対応を並行して行うことも考えられます。
- 相手に自分が申し出たことが伝わりますか。
-
警告や禁止命令等が行われる場合、相手方に対して通知されるため、事実上伝わることになります。
行為を止めるためには相手方に対する働きかけが必要であり、避けられない面があります。相手方の反応に不安がある場合は、その理由を具体的に伝えてください。
措置の判断にあたって考慮されます。 - 禁止命令が出ても行為が止まらない場合はどうすればよいですか。
-
違反の事実を警察に申告してください。
命令が出された後の行為についても、日時と内容の記録を続けてください。あわせて、接近禁止の仮処分、刑事告訴、損害賠償請求といった手続を検討することになります。
どの手続によるかは、行為の内容、資料の状況、相手方の資力等を踏まえて判断します。 - 元配偶者の場合はどの制度を使うのですか。
-
配偶者または元配偶者である場合、DV防止法に基づく保護命令の申立てが考えられます。
同居していた交際相手についても準用されています。一方、同居していない交際相手、知人、近隣住民、職場の関係者に対しては保護命令を利用できず、ストーカー規制法に基づく禁止命令等、または接近禁止の仮処分を検討することになります。
- 引っ越した場合はどこに申し出るのですか。
-
令和7年12月30日からは、行為が行われた時における被害者の住居の所在地を管轄する都道府県公安委員会等も、禁止命令等を行う機関に加えられています。
被害を受けた後に転居した事案について、対応できる範囲が広がっています。まずは現在の住所地を管轄する警察署にご相談ください。
まとめ
- 警告は反復して行わないよう求めるもので、それ自体に罰則はありません。禁止命令等は公安委員会が命ずるもので、違反してストーカー行為をすれば罰則の対象となります
- 「接近禁止命令」はDV防止法に基づく保護命令の一種であり、配偶者、元配偶者、生活の本拠を共にする交際相手以外の相手には使えません
- いずれの措置を行うかを判断するのは警察および公安委員会であり、申し出た側が選べるものではありません
- 禁止命令等には有効期間があり、期間の経過後も行為が続くおそれがある場合には延長を求めることができます
- 命令が出された後も、行為の記録は続けてください。違反を申告する段階で資料が必要になります
- 行為が止まらない場合には、違反の申告のほか、接近禁止の仮処分、刑事告訴、損害賠償請求を検討することになります
当事務所は、刑事事件および男女間の紛争を取り扱っており、しつこい連絡やつきまといについても、相手方への警告から警察への対応、裁判手続まで、事案に応じてお受けしています。
警察への相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成したうえで申出を行うこともできます。
行為が継続している事案では、時間の経過とともに記録が失われ、事実関係の立証が困難になることがあります。お早めにご相談ください。
ストーカー被害の弁護士費用・対応の流れはこちらから
当事務所の弁護士へのご相談等はこちらから