この記事の結論・要約
- 性的な言動を伴わない行為であっても、待ち伏せや業務外の連絡が繰り返されていれば、ストーカー規制法の類型に当たり得ます。セクハラに当たらないからといって、対応できないわけではありません。
- 令和7年12月30日からは、被害者を雇用する者が、被害者に対する援助を行う努力義務の主体に加えられています。会社に対応を求める根拠となります。
- 会社への相談には、配置転換が自分に及ぶ、相談した事実が相手に伝わるといった面もあります。何をどこまで求めるかを整理したうえで相談してください。
はじめに
同じ職場の同僚や上司から、業務と関係のない連絡が繰り返し届く、出勤時や休憩時間に待ち伏せされる、用もないのに席の近くを通られるといった相談があります。
職場での事案には、他の場面とは異なる難しさがあります。
毎日顔を合わせるため接触を断てないこと、業務上の連絡と私的な連絡が混ざること、強く拒むことが評価や人間関係に影響しかねないことです。
また、「性的な言動がないのでセクハラには当たらない」と考え、相談をあきらめてしまう例もあります。
この記事では、職場で起きる行為がストーカー規制法の対象となる場合、拒絶の意思をどう伝えるか、会社に相談する場合の進め方と注意点、そして警察や弁護士に相談する場合について説明します。
セクハラに当たらなくても対応できる
セクハラとストーカー規制法は別の枠組み
職場での問題は「セクハラ」として語られることが多く、そのためか、性的な言動がなければ何も言えないと考えてしまう方がいます。
しかし、両者は別の枠組みです。
セクハラは、労働者の就業環境が性的な言動により害されることを問題とするもので、事業主に雇用管理上の措置を講ずる義務が課されています。
これに対し、ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる一定の行為を規制するものです。
性的な言動であることは要件ではありません。
性的な言動を伴わない行為
次のような行為は、性的な言動を伴わなくても、ストーカー規制法の類型に当たり得ます。
- 出勤時や退勤時に待ち伏せをされる
- 業務と関係のない連絡が繰り返し届く
- 用もないのに席の近くを通る、行動を見張られる
- 休日の行動や帰宅経路を把握していることを告げられる
- 交際や食事を繰り返し求められる
不快であることと、法律上の規制の対象となることは別の問題ですが、性的な言動がないことをもって対象外となるわけではありません。
両方の枠組みを使える場合がある
性的な言動を含む場合には、セクハラとして会社に対応を求めることと、ストーカー規制法に基づく対応を求めることの両方が考えられます。
いずれか一方を選ばなければならないものではありません。
職場で起きる行為と規制法の類型
待ち伏せ・見張り
ストーカー規制法第2条第1項第1号は、つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがること、住居・勤務先・学校その他通常いる場所の付近での見張り、押し掛け、みだりにうろつくことを規制しています。
条文に「勤務先」が明記されています。
職場やその付近での待ち伏せ、見張りは、この類型に当たり得ます。
もっとも、同じ職場で働いている以上、社内で顔を合わせること自体は避けられません。
業務上の必要がないのに繰り返し現れるかどうかが、判断の分かれ目になります。
業務外の連絡の繰り返し
同項第5号は、無言電話のほか、拒まれたにもかかわらず連続して電話をかけ、文書を送付し、または電子メールの送信等をする行為を規制しています。
社内のチャットやメッセージアプリも、これに含まれ得ます。
この類型では、拒んだ事実を示せるかどうかが要件に関わります。
職場では強く拒みにくいため、後述するように、伝え方と記録の残し方が重要になります。
行動を把握していると告げる行為
同項第2号は、行動を監視していると思わせるような事項を告げ、または知り得る状態に置く行為を規制しています。
休日の行動、帰宅の経路、退勤の時刻などを言い当てる、聞いてもいないのに把握していることを示すといった行為が該当し得ます。
交際や面会の要求
同項第3号は、面会、交際その他の義務のないことを要求する行為を規制しています。
一度断った後も食事や交際を求められる場合は、この類型に当たり得ます。

拒絶の意思をどう伝えるか
職場では拒絶しにくい
相手が上司や先輩である場合、明確に拒むことが評価や人間関係に影響しかねません。
同じ部署であれば、その後も毎日顔を合わせることになります。
そのため、曖昧な返答を続けたり、返信をしないことで伝わることを期待したりする例が多く見られます。
もっとも、前記のとおり、連絡に関する類型は、無言電話である場合を除き、拒まれたにもかかわらず連続して行われることが要件とされています。
拒んだ事実を示せなければ、この類型に当たらないと判断される可能性があります。
伝え方と記録の残し方
伝えるべきは、業務と関係のない連絡を望まないという点です。
理由を詳しく説明したり、相手の言い分に反論したりする必要はありません。
伝える手段は、内容が残るものを選んでください。
口頭で伝えた場合、その内容は残りません。
社内のチャットやメールで伝えたうえで、その画面を保存しておく方法が確実です。
口頭で伝える場合は、その日のうちに、いつ・どこで・どのように伝えたかを記録しておいてください。

業務上の連絡は拒めない
職場特有の問題として、業務上の連絡まで拒むことはできません。
相手が業務上の連絡を装って私的な内容を混ぜてくる場合、拒絶の意思を伝えたかどうかが曖昧になります。
この場合、「業務に関する連絡は必要な範囲で対応するが、それ以外の連絡は望まない」という形で、範囲を区切って伝えることが考えられます。
あわせて、届いた連絡のうちどこからが業務外かが分かるよう、内容を含めて保存してください。
会社に相談する場合
会社には職場環境を整える義務がある
会社は、労働者が働きやすい環境を保つよう配慮すべき義務を負うと解されています。
職場での行為によって就業に支障が生じている場合、会社に対応を求めることができます。
令和7年12月30日からは援助の努力義務の主体に加わった
ストーカー規制法は令和7年に改正され、令和7年12月30日から、被害者を雇用する者が、被害者に対する援助を行う努力義務の主体に加えられています。
これにより、職場での事案について、会社に対応を求める根拠が明確になりました。
あわせて、被害者が就学する学校の長も同様に加えられています。
会社に相談する際に、この改正に触れることも考えられます。
相談先
直属の上司、人事部門、社内のハラスメント相談窓口などが考えられます。
相手が直属の上司である場合、その上位の者や人事部門に相談することになります。
社内の相談窓口が設けられている場合は、そちらを利用してください。
何を求めるかを整理する
相談の際には、会社に何をしてほしいのかを具体的に伝えてください。
- 相手に対して行為をやめるよう注意すること
- 業務上の接触が生じないよう、座席や担当を調整すること
- 私的な連絡を行わないよう指導すること
- 自分の個人情報が相手に伝わらないよう管理すること
「困っている」とだけ伝えると、会社としても何をすべきかが分からず、対応が進まないことがあります。
あわせて、行為の日時と内容を整理した資料を示してください。
会社に相談する際の注意点
配置転換が自分に及ぶ場合がある
会社が接触を避けるための措置を取る場合、異動の対象が被害者側になることがあります。
相手が管理職である場合や、業務上の代替が難しい場合に、こうした結果になりやすい傾向があります。
相談の際には、自分が異動することを望まないのであれば、その旨をあらかじめ伝えておいてください。
相談したことが相手に伝わる
会社が相手に注意や指導を行えば、被害者が相談したことは事実上伝わります。
そのため、相談によって関係が悪化する可能性があります。
相手の言動から強い反発が予想される場合には、会社への相談を先行させるべきか、警察への相談を優先すべきかを検討する必要があります。
会社が動かない場合
相談しても、個人的な問題であるとして対応が得られないことがあります。
この場合、相談した事実と会社の回答を記録に残してください。
その後の対応を検討するうえで意味を持ちます。
あわせて、会社を通さずに、警察への相談や弁護士による対応を検討することになります。
会社の対応を待たなければならないものではありません。
警察に相談する場合
ストーカー規制法に基づく警告や、公安委員会による禁止命令等を求めることができます。
相談は、警察署の生活安全課が窓口となります。
職場での事案では、行為が業務上の必要によるものではないことを示す必要があります。
行為の日時と内容に加え、そのときの業務の状況が分かる記録があると、説明が具体的になります。

なお、相談しても対応が得られないことがあります。
その場合でも、行為の内容によっては他の法律による対応が考えられます。

弁護士に依頼する場合
相手方への警告
弁護士が依頼者の代理人として、相手方に対し、業務外の連絡および接触を中止するよう求める書面を送付します。
職場の事案では、相手方の氏名が分かっている一方、住所が分からないことがあります。
この場合の対応については、ご相談の際にご説明します。
また、書面の内容は、業務上の連絡を妨げるものとならないよう配慮する必要があります。
同じ職場で働いている以上、業務の遂行に支障が生じれば、依頼者の立場にも影響しかねないためです。

関係が続くことを前提に考える
元交際相手の事案等と異なり、職場の事案では接触を完全に断つことが難しい場合があります。
同じ職場に勤め続ける前提がある以上、強い対応を取ることで業務に支障が生じることもあります。
そのため、どこまでの対応を取るかは、その後の勤務への影響を踏まえて判断することになります。
当事務所では、依頼をお受けする前に、この点を含めて検討します。
退職を余儀なくされた場合
行為によって就業が困難となり、退職に至る例があります。
この場合、相手方に対する損害賠償請求のほか、会社の対応について責任を問うことが考えられます。
もっとも、会社に対する請求は労働事件としての検討を要しますので、事案の内容をお伺いしたうえでご説明します。

よくある質問(FAQ)
- セクハラに当たらない場合でも相談できますか。
-
ご相談いただけます。
ストーカー規制法は、性的な言動であることを要件としていません。
待ち伏せ、業務外の連絡の繰り返し、行動を把握していると告げる行為などは、性的な言動を伴わなくても類型に当たり得ます。セクハラに当たらないからといって、対応できないわけではありません。
- 相手が上司の場合はどうすればよいですか。
-
その上位の者や人事部門、社内の相談窓口に相談することになります。
直属の上司に相談しなければならないものではありません。
評価や人事への影響を懸念される場合は、その点も含めて相談の際に伝えてください。会社の対応が得られない場合には、警察への相談や弁護士による対応を検討することになります。
- 会社に相談すると、自分が異動させられませんか。
-
会社が接触を避けるための措置を取る場合、異動の対象が被害者側になることがあります。相手が管理職である場合や、業務上の代替が難しい場合に、こうした結果になりやすい傾向があります。自分が異動することを望まないのであれば、相談の際にその旨をあらかじめ伝えておいてください。
- 業務上の連絡と私的な連絡が混ざっている場合はどうすればよいですか。
-
業務上の連絡まで拒むことはできませんので、「業務に関する連絡は必要な範囲で対応するが、それ以外の連絡は望まない」という形で、範囲を区切って伝えることが考えられます。
あわせて、届いた連絡のうちどこからが業務外かが分かるよう、内容を含めて保存してください。この区別が、後の手続において意味を持ちます。
- 退職した後も連絡が続いている場合はどうなりますか。
-
退職により職場での接触はなくなりますが、連絡が続いている場合、ストーカー規制法の対象となり得ます。
むしろ、業務上の連絡という説明が成り立たなくなるため、私的な連絡であることが明確になります。退職後の連絡についても、日時と内容を記録してください。
- 会社が何もしてくれない場合はどうすればよいですか。
-
相談した事実と会社の回答を記録に残したうえで、警察への相談や弁護士による対応を検討してください。
会社の対応を待たなければならないものではありません。なお、令和7年12月30日からは、被害者を雇用する者が援助の努力義務の主体に加えられていますので、この点を示して改めて相談することも考えられます。
まとめ
- ストーカー規制法は性的な言動であることを要件としていません。セクハラに当たらないからといって、対応できないわけではありません
- 同法の条文には「勤務先」が明記されており、職場やその付近での待ち伏せや見張りは類型に当たり得ます
- 連絡に関する類型は拒んだ事実を要件としているため、範囲を区切って拒絶の意思を伝え、その記録を残してください
- 令和7年12月30日からは、被害者を雇用する者が援助の努力義務の主体に加えられています
- 会社に相談する際は、何をしてほしいのかを具体的に伝えてください。あわせて、自分が異動することを望まないのであれば、その旨も伝えておいてください
- 会社が対応しない場合でも、その対応を待つ必要はありません。警察への相談や弁護士による対応を並行して検討できます
当事務所では、刑事事件および男女間の紛争を取り扱っており、しつこい連絡やつきまといについても、相手方への警告から警察への対応、裁判手続まで、事案に応じてお受けしています。
職場の事案では、その後の勤務への影響を踏まえたうえで、どこまでの対応を取るかを検討します。
行為が継続している事案では、時間の経過とともに記録が失われ、事実関係の立証が困難になることがあります。お早めにご相談ください。
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