この記事の結論・要約
- 証拠として示すべき事実は、行為があったこと、同一の人物によるものであること、繰り返されていること、連絡を拒んでいたこと、恋愛感情等の目的があることの5つに分けられます。それぞれ必要な資料が異なります。
- 手続によって求められる資料の水準は異なります。警察への相談と、刑事告訴や慰謝料請求とでは、必要なものが変わります。
- 相手の持ち物に位置情報を取得する機器を取り付ける、相手の敷地に立ち入るといった方法で資料を集めると、かえって自分が責任を問われるおそれがあります。
はじめに
しつこい連絡やつきまといについて警察や弁護士に相談する際、最初に確認されるのが、行為の内容を裏付ける資料です。
「証拠を集めましょう」という助言はよく目にしますが、何のための資料なのかが分からないまま集めても、必要なものが揃わないことがあります。
実際、相談した際に「これでは足りない」と言われるのは、量が不足しているからではなく、示すべき事実に対応する資料がないことが原因である場合が少なくありません。
また、資料を集める方法によっては、かえって自分が不利な立場に置かれることもあります。
この記事では、証拠として示すべき事実を整理したうえで、残しておくべきもの、記録の残し方、手続ごとに必要となる資料、および避けるべき集め方について説明します。
証拠が必要になる5つの事実
ストーカー規制法に基づく対応や、その後の手続においては、次の5つの事実がそれぞれ問題になります。
資料を集める前に、どの事実を示すためのものかを意識してください。
行為があったこと
最も基本となる事実です。
連絡が届いたこと、待ち伏せをされたこと、物が届いたことなど、行為そのものの存在を示します。
メッセージや郵便物のように形が残るものは比較的示しやすい一方、待ち伏せやうろつきのように痕跡が残りにくい行為は、意識して記録しなければ後から示すことができません。
同一の人物によるものであること
ストーカー規制法上の「ストーカー行為」は、同一の者に対して行為が繰り返されることを要件としています。
そのため、行為者が同一人物であることを示す必要があります。
相手が名乗っている場合は問題になりませんが、ブロックされた後に別のアカウントや知らない番号から連絡が来ている場合、同一人物によるものであることをどう示すかが問題になります。
この場合、送信元の表示だけでなく、内容に含まれる事情(当人しか知り得ない事柄への言及、文体や言い回しの共通点)もあわせて記録してください。
繰り返されていること
行為が一度限りではなく、継続していることを示す必要があります。
個々の行為の資料が揃っていても、全体の経過が分かる形になっていなければ、繰り返されていることは伝わりません。
後述する時系列表が必要になるのは、この事実を示すためです。
連絡を拒んでいたこと
見落とされやすい事実です。
ストーカー規制法において、電話、文書の送付、電子メールやメッセージの送信といった類型は、無言電話である場合を除き、拒まれたにもかかわらず連続して行われることが要件とされています。
つまり、連絡が何十回届いていても、それを拒む意思を伝えたことが示せなければ、この類型に当たらないと判断される可能性があります。
相手からの連絡だけでなく、拒絶の意思を伝えた自分の返信も、必ず残してください。
まだ明確に伝えていない場合は、記録が残る方法で伝えたうえで、その後の連絡を記録することが考えられます。
恋愛感情等の目的があること
ストーカー規制法が規制する「つきまとい等」は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われるものに限られます。
この目的は行為者の内心の問題ですが、実際には、相手との関係、これまでのやり取りの内容、行為の態様といった外形的な事情から判断されます。
交際していた時期のやり取りや、復縁を求める内容の連絡は、この点を示す資料になります。
関係が良好だった時期のものであっても、削除しないでください。

残しておくべきもの
メッセージやSNSのやり取り
送信元の表示、送信日時、内容が分かる形で保存してください。
画面を撮影する場合、本文だけでなく、相手の表示名やアカウント名、日付が入る範囲を含めてください。
本文のみを拡大して撮影したものは、いつ誰から届いたものかが分からず、資料として使いにくくなります。
電話の着信履歴と通話の録音
着信の日時と回数が分かる履歴を保存してください。
履歴は件数が増えると古いものから消えていくため、定期的に画面を保存する必要があります。
通話の内容については録音が考えられます。
録音に関する注意点は後述します。
郵便物や届いた物
手紙、贈り物、その他届いた物は、封筒や包装を含めて保管してください。
消印や差出人の表示が、送付の日時や相手を示す資料になります。
処分したい場合でも、届いた状態の写真を撮ってから処分してください。
待ち伏せやうろつきの記録
形が残らないため、意識して記録する必要があります。
日時、場所、相手の様子、そのときの自分の行動を、できるだけその日のうちに記録してください。
後からまとめて書いたものより、その都度記録したもののほうが、内容の正確さが伝わりやすくなります。
自宅や勤務先の防犯カメラに記録が残っている可能性がある場合、保存期間が過ぎる前に、管理者に保存を依頼してください。
保存期間は数日から数週間程度であることが多く、時間が経つと上書きされます。
写真と動画
相手が待ち伏せをしている場面などを撮影したものです。
撮影日時の情報が残る形で保存してください。
もっとも、撮影のために相手に近づくことは避けてください。
撮影していることに気付いた相手が、その場で行動に出る可能性があります。安全を優先してください。
医師の診断書
行為によって体調に影響が生じ、医療機関を受診した場合、診断書が資料になることがあります。
主に、慰謝料を請求する場面で、被害の程度を示すものとして用いられます。
警察への相談や警告の申出にあたって必ず必要となるものではありません。
受診する場合は、いつ頃からどのような行為が続いているかを医師に伝えてください。
経緯が記録に残ることに意味があります。
目撃した人の存在
待ち伏せや接触の場面を見ていた人がいる場合、その人の氏名と連絡先を控えておいてください。
同僚、家族、近隣の方などが該当します。
相談した相手がいる場合、相談した日時とその内容も記録しておくと、経緯を示す資料になります。
記録の残し方
時系列表を作る
最も重要な準備です。
警察に相談する場合も、弁護士に相談する場合も、最初に求められます。
次の項目を一覧にしてください。
- 日付と時刻
- 場所(連絡の場合は手段)
- 何があったか
- そのときの自分の対応
- 対応する資料の有無
連絡を拒む意思を伝えた日は、一覧の中で分かるようにしておいてください。
その前後で、行為の評価が変わることがあります。
記憶があいまいな部分は、無理に特定せず「○月中旬頃」といった形で構いません。
不確かなことを断定して記載すると、後に説明が食い違う原因になります。
日付が分かる形で保存する
画面を保存する場合、端末の時計表示が入る範囲を含めてください。
また、保存した画像のファイル名や保存先を整理しておくと、後で探す手間が減ります。
日付ごとのフォルダに分けておく方法が簡便です。
機種変更やアカウントの削除に備える
端末に保存しているだけでは、機種変更、故障、紛失により失われることがあります。
また、相手がアカウントを削除した場合、やり取りの表示が変わったり、消えたりすることがあります。
相手の操作によって失われる前に、画面を保存しておいてください。
保存先は、端末とは別の場所(パソコン、外部記憶装置、印刷したもの)にも残しておくことをお勧めします。
元のデータを消さない
画面を保存した後も、元のやり取りは削除しないでください。
保存した画像は加工が可能であるため、元のデータが残っていることに意味があります。
相手からの連絡を見たくない場合は、通知を切る、フォルダを分けるといった方法で対応してください。
手続によって必要な資料は異なる
どの手続を取るかによって、求められる資料の内容と水準が変わります。
警察への相談
時系列表と、主要な行為に対応する資料があれば、相談は可能です。
すべての行為について資料が揃っている必要はありません。
資料がないことを理由に相談をためらう必要はなく、手元にあるものを整理して持参してください。

警告や禁止命令等の申出
行為がストーカー規制法の類型に当たること、および繰り返されていることを示す資料が必要になります。
連絡が問題となっている事案では、拒絶の意思を伝えた記録が特に重要になります。
前記のとおり、この類型は拒まれたにもかかわらず連続して行われることを要件としているためです。
刑事告訴
犯罪が成立することを示す必要があるため、求められる水準は高くなります。
行為の日時、内容、回数を具体的に特定し、それぞれに対応する資料を示すことになります。
接近禁止の仮処分
裁判所に対し、権利が侵害されていること、および緊急に保全する必要があることを示します。
行為が継続していること、およびそれによって日常生活に支障が生じていることが分かる資料が求められます。
慰謝料請求
行為の存在に加え、それによって精神的な苦痛を受けたことを示す必要があります。
医療機関を受診した場合の診断書や、転居や退職を余儀なくされた場合の資料が、被害の程度を示すものとなります。
やってはいけない証拠の集め方
資料を集める方法によっては、かえって自分が責任を問われることがあります。
次の方法は取らないでください。
相手の住居や敷地に立ち入る
相手の自宅や、その敷地に無断で立ち入る行為は、住居侵入罪に当たる可能性があります。
相手が自分に関する物を保管していることが分かっていたとしても、立ち入って確認することは避けてください。
相手の持ち物にGPS機器等を取り付ける
相手の動きを把握するために、その持ち物や車両にGPS機器や紛失防止タグを取り付ける行為です。
ストーカー規制法は、相手の承諾を得ずに位置情報を取得する行為、およびそのための機器を取り付ける行為を規制の対象としています。
令和7年12月30日からは、いわゆる紛失防止タグを用いた行為も対象に加えられました。
同法の適用には目的の要件があるため、被害の記録を残す目的で行った場合にただちに同法違反となるとは限りません。
もっとも、取り付けの態様によっては住居侵入罪や器物損壊罪、プライバシー侵害等に当たる可能性があります。
相手のスマートフォンやアカウントを無断で確認する
相手の端末を無断で操作したり、相手の識別符号を用いてアカウントにログインしたりする行為です。
他人の識別符号を無断で用いてログインする行為は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に違反する可能性があります。
相手を尾行する
相手の生活状況や勤務先を確認するために、後をつける行為です。
安全の面で危険が大きいことに加え、相手から逆に被害を申告される可能性があります。
特に、相手との間に感情的な対立がある場合、双方が相手を加害者として申告する事態になりかねません。
相手の所在や勤務先を確認する必要がある場合は、後述するように専門家に依頼してください。
録音についての注意点
自分が当事者である通話の録音
自分と相手との通話や会話を録音する場合です。相手の承諾を得ずに行うことが一般的です。
実務上、この方法で録音されたものが証拠として用いられることは少なくありません。
連絡を拒む意思を伝えた事実を示すうえでも有用です。
自分がいない場所での会話の録音
相手の自宅や車内に録音機器を設置するなど、自分が参加していない会話を録音する方法です。
設置のために相手の住居や車両に立ち入れば、それ自体が犯罪に当たる可能性があります。
また、録音された内容が証拠として認められない可能性もあります。この方法は取らないでください。
録音した内容を公開すること
録音した内容を、インターネット上に投稿したり、第三者に広く伝えたりする行為です。
記録として残すことと、公開することは別の問題です。
内容によっては、名誉毀損やプライバシーの侵害として、相手から責任を追及されるおそれがあります。
録音は、警察や弁護士に示すために用いてください。
専門家に依頼する場合
探偵に依頼する場合
相手の所在や勤務先が分からない場合、行為の場面を記録したい場合に、探偵業者への依頼が考えられます。
探偵業を営むには、探偵業の業務の適正化に関する法律に基づく届出が必要です。
依頼する際は、届出の有無、契約の内容、費用の見込みを確認してください。
もっとも、調査によって得られた資料が、直ちに手続上の結論を左右するとは限りません。
費用がかかるため、何のために何を確認するのかを明確にしたうえで依頼するかどうかを判断してください。
弁護士に依頼する場合
弁護士に依頼した場合、手元の資料を整理し、どの事実がどの資料によって示せるのか、何が不足しているのかを確認したうえで対応を進めます。
資料が十分でない段階でも、相談していただいて差し支えありません。
何を残しておくべきかをお伝えすることができますし、不足している部分を補う方法を検討することもできます。
相手の氏名や住所が分からない場合、インターネット上の行為が問題となっている事案では、発信者情報開示請求により相手を特定する手続を検討することになります。

よくある質問(FAQ)
- 資料がまったくない場合はどうすればよいですか。
-
まず、記憶に基づいて時系列表を作成してください。
資料がない場合でも、行為の内容と経過を整理して説明することで、相談を進めることはできます。
そのうえで、今後の行為について記録を残すことになります。なお、既に行われた行為についても、着信履歴や防犯カメラの記録など、まだ残っている可能性のあるものがあります。
相談の際にお伝えください。 - 画面を撮影したものだけで足りますか。
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実務上、画面を撮影したものが資料として用いられることは一般的です。
もっとも、加工が可能であるため、元のやり取りは削除せずに残しておいてください。
また、撮影する際は、本文だけでなく、相手の表示名や日時が入る範囲を含めてください。 - 既に削除してしまったやり取りは復元できますか。
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利用しているサービスや端末の状況によります。
復元できる場合もありますが、確実ではありません。削除してしまったものについては、いつ頃どのような内容であったかを時系列表に記載しておいてください。
残っているものだけでも整理して持参してください。 - 相手の顔が写った写真を撮ってもよいですか。
-
行為の場面を記録するために撮影すること自体が直ちに問題となるものではありません。
もっとも、撮影のために相手に近づくことは避けてください。
撮影に気付いた相手がその場で行動に出る可能性があります。また、撮影したものをインターネット上に投稿することは避けてください。
名誉毀損やプライバシーの侵害として責任を問われるおそれがあります。 - 診断書は必ず必要ですか。
-
必ず必要となるものではありません。
警察への相談や警告の申出にあたって求められるものではなく、主に慰謝料を請求する場面で、被害の程度を示すものとして用いられます。
体調に影響が生じている場合は、医療機関を受診したうえで、経緯を医師に伝えておいてください。 - 記録はいつまで残しておくべきですか。
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行為が止まった後も、一定期間は残しておくことをお勧めします。
しばらく間を置いてから行為が再開する例があり、その場合、過去の経過が分かる記録があることで、対応が進みやすくなります。損害賠償請求を検討する可能性がある場合は、消滅時効の期間も踏まえて保管期間をご検討ください。
まとめ
- 示すべき事実は、行為があったこと、同一の人物によるものであること、繰り返されていること、連絡を拒んでいたこと、恋愛感情等の目的があることの5つに分けられます
- 連絡を拒んでいたことは見落とされやすい事実です。相手からの連絡だけでなく、拒絶の意思を伝えた自分の返信も残してください
- 時系列表の作成が最も重要な準備です。警察でも弁護士でも、最初に求められます
- 画面を保存した後も、元のやり取りは削除しないでください
- 手続によって求められる資料の水準は異なります。警察への相談は、資料が完全に揃っていなくても可能です
- 相手の敷地に立ち入る、持ち物に位置情報を取得する機器を取り付ける、端末を無断で操作するといった方法は取らないでください。かえって自分が責任を問われるおそれがあります
当事務所は、刑事事件および男女間の紛争を取り扱っており、しつこい連絡やつきまといについても、相手方への警告から警察への対応、裁判手続まで、事案に応じてお受けしています。資料が十分に揃っていない段階でのご相談にも対応しています。
行為が継続している事案では、時間の経過とともに記録が失われ、事実関係の立証が困難になることがあります。早期にご相談ください。
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