この記事の結論・要約
- 警察が動けない理由は、ストーカー規制法の要件を満たしていない、行為を裏付ける資料が足りない、相手が特定できていない、相談にとどまり被害届や告訴に至っていないという4つに整理できます。理由によって取るべき対応が異なります。
- 同法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる行為を対象としています。この要件を満たさないと判断された場合、資料を追加しても結論は変わりません。別の法律による対応を検討することになります。
- 弁護士が相手方に対して連絡や接触の中止を求める対応は、警察の判断にかかわらず行うことができます。警察の対応が得られない場合の選択肢の一つとなります。
はじめに
ストーカー被害を警察に相談したものの、「事件性がない」「証拠が足りない」「民事の問題だ」などと言われ、対応が得られなかったという相談は少なくありません。
行為が続いている状況で対応が得られないと、どこに相談すればよいのか分からなくなります。
一方で、何も手立てがないわけではありません。
対応が得られなかった理由によって、取るべき手段は異なります。
この記事では、警察が動けない理由を整理したうえで、それぞれの場合に何ができるのかを説明します。
あわせて、ストーカー規制法以外の法律による対応、および令和7年の改正によって変わった点についても触れます。
警察が動けない4つの理由
対応が得られなかった理由は、次の4つのいずれかであることが多いといえます。
まず、自分の事案がどれに当たるのかを把握してください。
理由によって、その後に取るべき手段が変わります。
ストーカー規制法の要件を満たしていない
見落とされやすいのがこの理由です。
ストーカー規制法が規制する「つきまとい等」は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われるものに限られます。
そのため、金銭をめぐる争いから生じた嫌恨、近隣間の紛争、職場での対立、同性の知人による嫌がらせなどは、行為の内容自体は「つきまとい等」と変わらなくても、同法の対象とならない場合があります。
また、行為の類型ごとに定められた要件を満たしていない場合もあります。
たとえば、電話やメッセージの送信については、無言電話である場合を除き、拒まれたにもかかわらず連続して行われることが要件とされています。
連絡を拒む意思を伝えていなかった場合、この類型には当たらないと判断される可能性があります。
この理由による場合、資料を追加しても結論は変わりません。
別の法律による対応を検討することになります。

行為を裏付ける資料が足りない
行為があったこと、それが繰り返されていることを裏付ける資料が不足している場合です。
口頭での説明だけでは、警察としても事実関係を確認できません。
特に、待ち伏せやうろつきのように痕跡が残りにくい行為は、記録がなければ確認が困難です。
この理由による場合、資料を整えたうえで改めて相談することで、対応が進むことがあります。
相手が特定できていない
相手の氏名や住所が判明していない場合、警告や禁止命令等の措置を取ることができません。
もっとも、相手を特定するための捜査が行われることもあります。
相手を推測できる事情(過去の関係、車のナンバー、防犯カメラの有無など)があれば、伝えてください。
インターネット上の行為が問題となっている場合には、発信者情報開示請求により相手を特定する手続を検討することになります。
相談にとどまり、被害届や告訴に至っていない
相談は、警察に事実を伝え、助言や措置を求めるものです。
これに対し、被害届や告訴は、犯罪の被害を申告する手続であり、位置付けが異なります。
相談の段階では、警察としても事実関係の確認にとどまることがあります。
行為が犯罪に当たると考えられる場合には、被害届や告訴の提出を検討することになります。
「民事不介入」と言われた場合
民事不介入とはどのような考え方か
民事不介入は、私人間の権利義務に関する紛争には警察が介入しないという考え方です。
金銭の貸し借り、契約上の争い、家庭内の問題などについて、警察が一方の当事者のために動くことは想定されていません。
これらは裁判所の手続によって解決すべきものとされているためです。
ストーカー事案は民事の問題にとどまらない
ストーカー規制法は、まさに私人間の関係から生じる行為を規制の対象とする法律です。
したがって、「元交際相手との問題だから民事だ」という理由だけで、同法の対象外となるものではありません。
もっとも、金銭の貸し借りや共有物の返還をめぐる争いが背景にある場合、その部分は民事上の問題です。
この場合、金銭の問題と、連絡や接触が繰り返されている問題とを分けて説明する必要があります。
金銭の請求を名目として連絡が繰り返されている事案では、その精算を弁護士に依頼することで、連絡の理由そのものを解消できることがあります。
資料を整えて再度相談する
資料の不足が理由である場合、次の準備をしたうえで改めて相談してください。
何が足りないかを確認する
対応が得られなかった際に、何があれば検討できるのかを具体的に尋ねてください。
「証拠が足りない」という説明だけでは、何を用意すればよいのかが分かりません。
相談した日時、対応した部署、説明の内容を記録しておくと、改めて相談する際に経緯を説明しやすくなります。
時系列表を作成する
いつ、どこで、どのような行為があったかを一覧にしてください。
行為が繰り返されていることを示すには、個々の行為の記録よりも、全体の経過を一覧で示すほうが伝わります。
口頭で説明すると時期が前後し、回数も曖昧になりがちです。
拒絶の意思を示した記録を用意する
電話やメッセージの送信が問題となっている事案では、連絡を拒む意思を伝えたやり取りが重要になります。
前記のとおり、この類型は、無言電話である場合を除き、拒まれたにもかかわらず連続して行われることが要件とされているためです。
まだ拒絶の意思を明確に伝えていない場合、その記録が残る形で伝えたうえで、その後の連絡を記録することが考えられます。
弁護士が同行して申出を行う方法
弁護士が相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成したうえで申出を行う方法があります。
行為の内容を整理し、それがストーカー規制法のどの類型に当たるのか、どの要件を満たすのかを示して説明することで、検討が進みやすくなることがあります。
もっとも、弁護士が関与したからといって、警察の判断が必ず変わるわけではありません。
措置を取るかどうかは警察および公安委員会が判断します。
相談、被害届、告訴の違い
これらは混同されがちですが、位置付けが異なります。
相談
警察に事実を伝え、助言や措置を求めるものです。
ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令等の申出も、相談を端緒として行われます。
犯罪として立件することを前提とするものではありません。
被害届
犯罪の被害に遭ったことを警察に申告する書面です。
提出により捜査の端緒となりますが、処罰を求める意思表示を含むものではありません。
告訴
犯罪の事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。
被害届よりも重い手続と位置付けられます。
なお、ストーカー行為罪は、告訴がなくても起訴できる犯罪とされています。
告訴が処罰の要件となるわけではありません。
警察の対応に納得できない場合
まずは資料を整えて再度相談する
対応が得られなかった場合、苦情の申出などを検討する前に、まずは資料を整えて改めて相談することをお勧めします。
多くの事案では、最初の相談の時点で事実関係が十分に伝わっていないことが原因です。
時系列表と資料を用意して説明し直すことで、対応が変わることがあります。
警察本部への相談
警察署での対応に疑問がある場合、都道府県警察本部の相談窓口に相談する方法があります。
警察相談専用電話(#9110)は、各都道府県警察本部の相談窓口につながります。
公安委員会に対する苦情の申出
警察職員の職務執行について、都道府県公安委員会に対して苦情を申し出る制度があります。
書面によることとされています。
もっとも、この制度は職務執行の適否について申し出るものであり、個別の事案について措置を求めるものではありません。
行為を止めるための手段としては、他の方法を検討することになります。
ストーカー規制法以外の法律による対応
同法の要件を満たさない場合でも、行為の内容によっては他の法律による対応が考えられます。
迷惑防止条例
各都道府県が定める迷惑防止条例には、つきまといや待ち伏せ、不安を覚えさせるような行為を規制する規定が置かれています。
ストーカー規制法とは異なり、恋愛感情等の目的を要件としていない場合があり、同法の対象とならない事案でも対応できることがあります。
軽犯罪法
他人の進路に立ちふさがる行為や、その身辺に群がって立ち退かない行為などが規制されています。
刑法上の犯罪
行為の内容によっては、脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪、住居侵入罪、器物損壊罪などに当たる可能性があります。
ストーカー規制法の要件を満たさないとして対応が得られなかった場合でも、これらの罪に当たる可能性を示して改めて相談することで、検討が進むことがあります。
民事上の手段
裁判所に対し、相手が近づくことなどを禁止する仮処分を申し立てる方法があります。
ストーカー規制法に基づく制度ではなく、民事保全法に基づく手続です。
また、継続的な接触や嫌がらせによって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できることがあります。
もっとも、認められる金額は事案により幅があり、判決に至る事例自体が多くないため、相場が確立しているとはいえません。
令和7年の改正で変わった点
職権による警告の創設
ストーカー規制法に基づく警告は、従来、被害者からの申出があった場合に行われるものでした。
令和7年12月30日からは、被害者からの申出がない場合でも、警察本部長等の職権により警告を行うことができるようになりました。
これは、被害者が申出をためらう事案においても警察が対応できるようにするための改正です。
相談をためらう理由が相手の反応への不安である場合が少なくないためです。
勤務先や学校を通じた対応
同じく令和7年12月30日からは、被害者を雇用する者および被害者が就学する学校の長が、被害者に対する援助を行う努力義務の主体に加えられています。
勤務先や学校の付近で行為が行われている事案では、これらを通じた対応を求めることが考えられます。
さらに、令和8年3月10日からは、警察本部長等が、ストーカー行為等をするおそれがある者に情報を提供するおそれがある者(探偵業者等)に対し、情報提供を行わないよう求めることができるようになっています。
警察の判断にかかわらず行える弁護士の対応
相手方への警告
弁護士が依頼者の代理人として、相手方に対し、連絡および接触を中止するよう求めます。
相手方の氏名と住所が分かっている場合は内容証明郵便により警告書を送付し、分かっていない場合は電話番号を用いて連絡し、氏名と住所を確認したうえで警告を行う方法があります。
この対応は、ストーカー規制法の要件を満たすかどうかにかかわらず行うことができます。
恋愛感情等の目的が認められないとして警察の対応が得られなかった事案でも、選択肢となります。
弁護士による警告そのものに罰則の裏付けはありません。
もっとも、行為が法的な問題として扱われる段階に至ったことを相手方に認識させることになります。
また、警告を行った事実と内容が記録として残るため、その後に改めて警察へ相談する場合の資料にもなります。
警察への同行と申出の支援
弁護士が警察への相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成したうえで、警告または禁止命令等の申出を行うことができます。
前記のとおり、措置を取るかどうかは警察および公安委員会が判断するものであり、結果を約束できるものではありません。
民事手続
接近禁止の仮処分の申立て、損害賠償請求といった手続を検討します。
いずれの手続によるかは、行為の内容、証拠の状況、相手方の資力等を踏まえて判断します。

よくある質問(FAQ)
- 証拠がなければ警察は動いてくれないのでしょうか。
-
行為があったことを確認できる資料がなければ、措置の検討は難しくなります。
もっとも、完全な証拠が必要というわけではありません。メッセージの画面、着信の履歴、行為があった日時と場所を記録したものなど、手元にあるものを整理して示すことで、検討が進むことがあります。
また、資料が不足しているのではなく、ストーカー規制法の要件を満たさないと判断されている場合もあります。
この場合、資料を追加しても結論は変わらないため、対応が得られなかった理由を確認することが重要です。 - 相手が誰か分からない場合はどうすればよいですか。
-
相手を推測できる事情があれば、警察に伝えてください。
過去の関係、車のナンバー、防犯カメラの有無などが手掛かりになることがあります。インターネット上の行為が問題となっている場合には、発信者情報開示請求により相手を特定する手続を検討することになります。
この手続は弁護士に依頼して行うことができます。 - 別の警察署に相談し直してもよいですか。
-
相談は原則として住所地を管轄する警察署が受け付けます。
管轄の異なる警察署に相談しても、管轄の警察署を案内されることが通常です。対応に疑問がある場合は、同じ警察署で資料を整えて改めて相談するか、都道府県警察本部の相談窓口に相談することを検討してください。
- 被害届を出したのに連絡がないのはなぜですか。
-
被害届の提出は捜査の端緒となるものですが、提出したことをもって直ちに捜査が開始されるとは限りません。
また、捜査の状況が逐一被害者に伝えられるものでもありません。状況を確認したい場合は、担当した部署に問い合わせることができます。
- 「何かあったらまた来てください」と言われた場合、どうすればよいですか。
-
その時点では措置を取る段階にないと判断されたことを意味します。
行為が続いている場合は、その後の行為を記録し、時系列表を作成したうえで改めて相談してください。
相談した事実は記録として残るため、経緯を示す資料になります。あわせて、弁護士による警告など、警察の判断にかかわらず取り得る手段を検討することも考えられます。
- 弁護士に依頼すれば警察は動いてくれますか。
-
弁護士が関与したからといって、警察の判断が必ず変わるわけではありません。
措置を取るかどうかは警察および公安委員会が判断するものです。もっとも、事実関係を整理した書面を作成し、行為がどの類型に当たり、どの要件を満たすのかを示して申出を行うことで、検討が進みやすくなることはあります。
また、弁護士による相手方への警告は、警察の判断にかかわらず行うことができます。
まとめ
- 警察が動けない理由は、ストーカー規制法の要件を満たしていない、資料が足りない、相手が特定できていない、相談にとどまっている、という4つに整理できます
- 同法は恋愛感情等の目的で行われる行為を対象としており、この要件を満たさないと判断された場合、資料を追加しても結論は変わりません
- 資料の不足が理由である場合、時系列表と拒絶の意思を示した記録を用意して改めて相談することで、対応が進むことがあります
- 同法の対象とならない場合でも、迷惑防止条例、軽犯罪法、刑法上の犯罪に当たる可能性があり、民事上の手段も検討できます
- 令和7年12月30日からは、被害者からの申出がない場合でも警察の判断で警告を行うことができるようになりました
- 弁護士が相手方に連絡や接触の中止を求める対応は、警察の判断にかかわらず行うことができます
当事務所は、刑事事件および男女間の紛争を取り扱っており、しつこい連絡やつきまといについても、相手方への警告から警察への対応、裁判手続まで、事案に応じてお受けしています。
警察への相談に同行し、事実関係を整理した書面を作成したうえで申出を行うこともできます。
行為が継続している事案では、時間の経過とともに記録が失われ、事実関係の立証が困難になることがあります。早期にご相談ください。
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