【この記事の結論・要約】
- 自分の口座を売る行為は、令和8年7月10日から、3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科される犯罪になりました。
- 口座を売る目的で開設した場合や、詐欺に使われると知りながら渡した場合は、詐欺罪に問われることもあります。
- 刑事処分のほかにも、口座の凍結や、新たな口座を作りにくくなること、被害者からの損害賠償請求など、影響は長く残ります。
はじめに
「使っていない口座を買い取ります」「キャッシュカードを貸すだけで報酬」。
SNSなどで、こうした募集を目にすることがあります。
お金に困っているときに応じてしまい、後になってから、その口座が特殊詐欺などに使われていたと知ることもあります。
口座を売ったり貸したりする行為は、それ自体が犯罪です。
令和8年には法律が改正され、罰則が大きく引き上げられました。
この記事では、改正後の犯罪収益移転防止法の条文をもとに、口座売買で成立する罪と刑罰、詐欺罪に問われる場合、事件が発覚するきっかけ、刑事処分の見通し、刑事処分以外の影響を整理し、口座を売ってしまった場合にすべきことを説明します。
口座売買とは
対象になるもの
口座売買とは、預金口座の通帳やキャッシュカードなどを、他人に売ったり、譲ったり、貸したりすることをいいます。
規制の対象は、紙の通帳やカードだけではありません。
犯罪収益移転防止法は、次のようなものを対象にしています(同法26条〜31条)。
| 対象 | 具体例 | 条文 |
|---|---|---|
| 預貯金通帳等 | 通帳、キャッシュカード、預金の引出しや振込みに必要な情報(ネットバンキングのID・パスワードなど) | 26条 |
| 高額電子移転可能型前払式支払手段の利用情報 | 一定の電子マネーのアカウント情報 | 27条 |
| 為替取引カード等 | 資金移動業者(送金サービス事業者)の送金用カードや、送金・受取に必要な情報 | 28条 |
| 電子決済手段等取引用情報 | 電子決済手段(ステーブルコインなど)を扱う事業者のアカウント情報 | 29条 |
| 電子決済等利用情報 | 電子決済等代行業者などのサービスの利用に必要な情報 | 30条 |
| 暗号資産交換用情報 | 暗号資産交換業者のアカウントのID・パスワードなど | 31条 |
つまり、銀行口座だけでなく、送金アプリや電子マネー、暗号資産のアカウントを売ったり渡したりすることも、同じように処罰の対象になります。
罪になる行為
預貯金通帳等について罪になる主な行為は、次のとおりです(同法26条)。
- 正当な理由がないのに、有償で預貯金通帳等を譲り渡すこと(売ること)
- 他人になりすまして口座を使う目的があると知りながら、預貯金通帳等を譲り渡したり、渡したり、利用に必要な情報を伝えたりすること(無償でも成立する)
- 他人になりすまして口座を使う目的で、または正当な理由がないのに有償で、預貯金通帳等を譲り受けること(買うこと)
- これらの行為をするよう人を勧誘したり、広告などで誘ったりすること
「売った」場合は、相手の目的を知らなくても、正当な理由なく有償で渡した時点で罪になります。
お金を受け取らずに「貸した」「渡した」場合でも、相手が他人になりすまして口座を使うと知っていれば罪になります。
令和8年改正後の罰則
改正前と改正後の比較
犯罪収益移転防止法は令和8年に改正され、口座の売買などに対する罰則が引き上げられました。
改正は令和8年6月10日に公布され、罰則の引上げは同年7月10日から施行されています。
| 行為 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 口座の売買・譲渡など | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり) | 3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり) |
| 業として行った場合 | 3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり) | 5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金(併科あり) |
改正後の罰則は、犯罪収益移転防止法26条1項・2項(通常の場合)と同条3項(業として行った場合)に定められています。
また、口座の売買などをするよう人を勧誘したり、広告などで誘ったりした者も、通常の場合と同じく3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)に処せられます(同条4項)。
「業として」とは、反復して継続する意思で行うことをいい、複数の口座を何度も売っていたような場合がこれにあたり得ます。
改正前に売った場合
改正法が施行される前(令和8年7月9日まで)に口座を売った場合は、行為の時点の法律が適用されます。
犯罪の後に法律で刑が重くなった場合は、軽い方の刑によるとされているため(刑法6条)、改正前の行為には、改正前の法定刑が適用されることになります。
口座の開設時に身分を偽った場合
口座の開設などの際に、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)を隠す目的で、金融機関の取引時確認に対して偽った場合も、3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)に処せられます(同法25条)。
送金犯罪の新設
同じ改正で、他人から報酬を受けて、自分の口座などを使って送金する、いわゆる「送金バイト」も新たに処罰の対象になりました(同法32条)。
依頼した者と、依頼を受けて送金した者の双方が、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)に処せられます。
詐欺罪に問われる場合
売る目的で口座を開設した場合
はじめから口座を売るつもりで、新しく口座を開設して通帳やキャッシュカードを受け取った場合には、犯罪収益移転防止法違反だけでなく、金融機関に対する詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の拘禁刑)に問われることがあります。
最高裁判所は、第三者に譲渡するつもりであることを隠して銀行で口座を開設し、通帳とキャッシュカードの交付を受けた事件について、次のように述べています。
以上のような事実関係の下においては,銀行支店の行員に対し預金口座の開設等を申し込むこと自体,申し込んだ本人がこれを自分自身で利用する意思であることを表しているというべきであるから,預金通帳及びキャッシュカードを第三者に譲渡する意図であるのにこれを秘して上記申込みを行う行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず,これにより預金通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである。
最高裁判所第三小法廷平成19年7月17日決定・刑集61巻5号521頁
この事件では、銀行の規定で通帳やカードを第三者に譲渡することが禁止されており、行員は、第三者に譲渡する目的だと分かっていれば口座の開設に応じなかったことが認定されています。
詐欺罪には罰金刑がないため、この場合は、起訴されれば拘禁刑が言い渡されることになります。
詐欺に使われると知りながら渡した場合
口座を渡した相手が特殊詐欺のグループで、被害者からだまし取ったお金の振込先に使われると知りながら渡した場合には、詐欺罪の幇助犯や共犯に問われる可能性もあります。
特殊詐欺で役割ごとに成立する罪については、以下の記事で解説しています。

口座売買はどのように発覚するか
口座を売ったことが発覚するきっかけには、主に次のようなものがあります。
- 売った口座が詐欺などに使われ、被害者が警察や金融機関に届け出る
- 金融機関が不自然な入出金に気づき、口座を凍結したうえで、疑わしい取引として届け出る(犯罪収益移転防止法8条)
- 口座を買い取った業者や犯罪グループが摘発され、押収された資料から口座の名義人が特定される
- 売った口座の出し子が逮捕され、捜査が名義人に及ぶ
金融機関による疑わしい取引の届出は、本人に知らされることなく行われます。
口座が突然凍結された、金融機関から問い合わせがあったといった場合は、すでに事件化に向けた動きが始まっている可能性があります。
刑事処分の見通し
検挙の状況
警察庁によれば、令和7年に、預貯金口座や携帯電話の不正な売買など、特殊詐欺を助長する犯罪で5,315件、3,657人が検挙されました。
同じ年の特殊詐欺そのものの検挙人員(2,338人)を上回っています(警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」1)。
逮捕されるか、在宅で進むか
口座売買の事件は、逮捕されずに捜査が進む在宅事件となることもあれば、逮捕される場合もあります。
複数の口座を売っていた場合、詐欺罪が問題になる場合、呼び出しに応じない場合などは、逮捕される可能性が高まります。
起訴された場合の処分
犯罪収益移転防止法違反の法定刑には罰金刑があるため、起訴された場合でも、正式な裁判を開かずに書面の審理で罰金を科す略式命令で終わることもあります。
一方、詐欺罪が成立する場合や、複数の口座を繰り返し売っていた場合などは、公判請求され、拘禁刑が言い渡されることもあります。
罰金刑であっても有罪判決であり、前科がつきます。
不起訴の可能性
口座売買には、特殊詐欺のような直接の被害者がいないため、示談によって不起訴を目指すことは困難です。
それでも、関与の程度や経緯、反省の態度、口座の利用停止に協力したことなどが考慮され、不起訴となる場合もあります。
刑事処分以外の影響
口座の凍結と強制解約
売った口座が犯罪に使われた場合、その口座は凍結されます。
金融機関の規定に違反したとして、その金融機関にある他の口座も含めて取引が停止され、強制的に解約されることがあります。
凍結された口座に残っていたお金は、振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)に基づく手続によって、被害者への分配に充てられることがあります。
新たな口座を作りにくくなる
警察庁の資料では、口座を売ると、他の金融機関でも口座の開設や利用ができなくなる場合があると注意が呼びかけられています(警察庁犯罪収益移転防止対策室の啓発資料)。
給与の受取りや公共料金の引落しに使う口座が作れなければ、日常生活や仕事に大きな支障が生じます。
被害者からの損害賠償請求
売った口座が詐欺の振込先に使われた場合、口座の名義人は、被害者から損害賠償を請求されることがあります。
犯罪を手助けした者も、共同して不法行為をした者とみなされ、損害の賠償責任を負うとされているためです(民法719条2項)。
どこまでの範囲の損害が責任の対象となるかは裁判例によっても争いがあります。
報道では、犯罪グループに口座を販売して書類送検された20歳代の男性が、「末端」でありながら、被害者側から1,000万円を超える被害弁償を求められた例が紹介されています(読売新聞2024年11月4日2)。
数万円の報酬と引き換えに、はるかに大きな責任を負うおそれがあります。
故意による不法行為の損害賠償債務は、自己破産をしても免責されない場合があります(破産法253条1項2号)。

口座を売ってしまったらすべきこと
金融機関に連絡して口座を止める
口座を売ったり貸したりしてしまった場合は、すぐにその金融機関に連絡し、口座の利用を止めてもらうことが重要です。
口座が犯罪に使われることを防ぐことができれば、被害の拡大を防ぐことにもなります。
警察や弁護士に相談する
すでに口座が使われているおそれがある場合や、相手から脅されている場合は、警察に相談してください。
自分の刑事責任や今後の見通しに不安がある場合は、弁護士に相談することで、取調べへの対応や、自首を検討すべきかどうかについて助言を受けることができます。
自首を検討する
罪を犯した人が、捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができます(刑法42条1項)。
自首は、不起訴の判断で考慮される事情にもなり得ます。
自首の方法や時期については、事前に弁護士と相談することをお勧めします。
家族が知った場合
家族が口座を売っていたと分かった場合は、本人を責めるより先に、口座の利用停止と、警察や弁護士への相談を一緒に進めてください。
お金に困って口座を売ったという場合は、借金などの問題の解決も必要になります。
本人が未成年の場合も、口座の売買は犯罪です。
少年の事件は家庭裁判所で扱われ、家庭環境や今後の監督の態勢が処分の判断で考慮されます。

よくある質問(FAQ)
- 使っていない口座を売っただけでも犯罪になりますか。
-
犯罪になります。
正当な理由がないのに有償で通帳やキャッシュカード、ネットバンキングのID・パスワードなどを譲り渡すことは、犯罪収益移転防止法26条2項により、3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)の対象です。
- お金をもらわずに貸しただけでも罪になりますか。
-
相手が他人になりすまして口座を使う目的であると知りながら渡した場合は、無償でも罪になります。
相手の目的を知らなかったかどうかは、渡した経緯や相手とのやり取りなどから判断されます。 - 令和8年7月より前に口座を売った場合も、重い罰則になりますか。
-
施行前の行為には、行為の時点の法律が適用されるため、改正前の法定刑(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、業としての場合は3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金)によることになります。
- 口座を売ると、銀行口座はもう作れなくなりますか。
-
売った口座が犯罪に使われると、その金融機関の口座が強制解約されることがあり、警察庁も、他の金融機関で口座の開設や利用ができなくなる場合があると注意を呼びかけています。
生活や仕事に大きな支障が生じるおそれがあります。 - 口座を売るつもりで開設した場合は、どうなりますか。
-
犯罪収益移転防止法違反に加えて、金融機関に対する詐欺罪(10年以下の拘禁刑)に問われることがあります。
最高裁判所は、第三者に譲渡する意図を隠して口座を開設し、通帳等の交付を受ける行為は詐欺罪にあたるとしています。 - 口座が詐欺に使われたら、被害者に賠償しなければなりませんか。
-
損害賠償を請求されることがあります。
犯罪を手助けした者も共同不法行為者として責任を負うとされており、被害者側から1,000万円を超える弁償を求められた例も報じられています。
まとめ
- 口座売買の対象は、通帳やキャッシュカードだけでなく、ネットバンキングのID・パスワード、送金サービスや電子マネー、暗号資産のアカウント情報にまで及ぶ
- 令和8年7月10日から、口座の売買・譲渡などは3年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)、業として行えば5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金(併科あり)に引き上げられた
- 売る目的で口座を開設すれば金融機関に対する詐欺罪、詐欺に使われると知りながら渡せば詐欺の幇助犯などに問われることがある
- 口座売買は、口座の凍結や金融機関の届出、買い手側の摘発などから発覚し、罰金で終わる場合もあれば、公判請求される場合もある
- 刑事処分のほか、口座の強制解約、新たな口座の開設の困難、被害者からの損害賠償請求といった影響が長く残る
- 口座を売ってしまった場合は、金融機関に連絡して利用を止め、警察や弁護士に相談し、自首を検討することが重要である
当事務所では、口座を売ってしまった方、貸してしまった方からのご相談、警察から連絡を受けた方への対応の助言、自首への同行、取調べへの対応の助言などをお受けしています。
ご本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。
口座売買は、事件化する前に動くことで取れる手段が広がります。
お早めにご相談ください。
刑事弁護の弁護士費用や対応の流れについてはこちらから
当事務所の弁護士へのご相談等はこちらから