【この記事の結論・要約】
- 詐欺は、検察官が処理した人のうち半数以上が起訴されており、特殊詐欺の受け子・出し子が不起訴になるのは簡単ではありません。
- 不起訴になり得るのは、主に犯罪を証明する証拠が足りない場合(嫌疑不十分)と、関与の程度や被害弁償の状況などを踏まえて起訴が見送られる場合(起訴猶予)です。
- どちらを目指すかによって、取調べへの対応や弁護活動の内容が大きく変わります。
はじめに
特殊詐欺の受け子や出し子として逮捕された人やその家族にとって、最も望ましい結果は不起訴です。
不起訴になれば、裁判を受けることはなく、前科もつきません。
一方で、特殊詐欺は組織的に行われる悪質な犯罪と評価されやすく、不起訴になるのは容易ではありません。
この記事では、不起訴とは何かを説明したうえで、統計から見た詐欺の起訴・不起訴の状況、特殊詐欺で不起訴になり得る場合とそのための対応、不起訴になった後に残る問題を整理します。
不起訴とは
起訴と不起訴
警察から事件の送致を受けた検察官は、捜査を終えた段階で、被疑者を起訴するかどうかを決めます。
起訴されれば刑事裁判が始まり、有罪となれば前科がつきます。
これに対して不起訴となれば、裁判は開かれず、刑罰を受けることも前科がつくこともありません。
不起訴の種類
不起訴には、主に次のような種類があります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 嫌疑なし | 被疑者が犯人でないことが明らかな場合や、犯罪にあたらないことが明らかな場合 |
| 嫌疑不十分 | 犯罪の疑いはあるものの、起訴して有罪を立証するだけの証拠が足りない場合 |
| 起訴猶予 | 犯罪の証拠は十分にあるが、さまざまな事情を考慮して、起訴する必要がないと判断される場合 |
このほか、親告罪で告訴が取り消された場合や、時効が完成した場合などにも不起訴となります。
特殊詐欺の受け子・出し子で問題になるのは、主に嫌疑不十分と起訴猶予です。
処分保留で釈放される場合
勾留の期限までに起訴するかどうかが決まらない場合、「処分保留」として釈放されることがあります。
処分保留は不起訴ではなく、その後も在宅のまま捜査が続き、後日、起訴か不起訴かが決まります。
起訴・不起訴が決まる時期
逮捕・勾留されている事件では、検察官は、勾留の期限までに起訴するかどうかを決めます。
勾留は原則10日間で、延長されれば最長20日間です(刑事訴訟法208条)。
再逮捕が繰り返される場合は、事件ごとにこの期限が設けられます。
身柄を拘束されずに捜査が進む在宅事件では、こうした期限がないため、処分が決まるまで数か月以上かかることもあります。
特殊詐欺で不起訴になる割合
詐欺全体の起訴・不起訴の内訳
令和7年版犯罪白書1によれば、令和6年に検察官が処理した詐欺の被疑者のうち、起訴は7,826人(51.4%)、起訴猶予は3,795人(24.9%)、嫌疑不十分は3,311人(21.8%)、その他の不起訴は287人(1.9%)でした。
この数字は特殊詐欺に限ったものではなく、詐欺全体のものです。
ただ、詐欺では、処理された人の半数以上が起訴されていることが分かります。
同じ年の不同意わいせつ(起訴33.7%)や暴行(起訴27.6%)と比べると、起訴される割合は高いといえます(令和7年版犯罪白書)。
特殊詐欺が起訴されやすい理由
特殊詐欺は、組織的に役割を分担して繰り返し行われ、高齢者などを狙って多額の被害が生じやすい犯罪です。
受け子や出し子は末端の役割であっても、犯行の成功に欠かせない役割を担ったと評価されます。
こうした事情から、特殊詐欺では、詐欺全体と比べても起訴を見送る判断がされにくいと考えられます。
それでも、証拠の状況や関与の程度、被害の回復などによっては、不起訴となる場合があります。
証拠が足りずに不起訴になる場合(嫌疑不十分)
詐欺の故意が立証できない場合
受け子が「荷物の中身が詐欺の被害金だとは知らなかった」と主張し、それを否定できるだけの証拠がない場合には、詐欺の故意が立証できず、嫌疑不十分となる可能性があります。
ただし、最高裁判所は、名宛人になりすまして荷物を受け取り、すぐに回収役に渡していたといった客観的な事情から、詐欺の可能性を認識していたことを推認しています。
こうした事情がある場合、故意を否定するのは容易ではありません。

関与が証拠で裏づけられない場合
ある事件に本人が関わったことを示す証拠が足りない場合も、その事件は嫌疑不十分となり得ます。
たとえば、現金を手渡しで受け取る手口では、被害者の記憶や共犯者の供述に頼る部分が大きく、防犯カメラの映像などで本人と特定できなければ、立証が難しくなることがあります。
特殊詐欺では、関与が疑われる事件が複数あっても、そのすべてが証拠によって裏づけられるとは限りません。
嫌疑不十分を目指す場合の注意点
故意や関与を争う場合、本人の説明が一貫しているかどうかが重要になります。
最初は事実を認めていたのに後から否定したり、説明が変わったりすれば、説明の信用性が疑われることになります。
また、本人が否定していても、押収されたスマートフォンの中のやり取りや、共犯者の供述によって、故意や関与が裏づけられることもあります。
本人の記憶だけで判断せず、どのような証拠が存在し得るかを踏まえて、弁護人と方針を検討することが大切です。
取調べでの供述が結果を左右する
嫌疑不十分となるかどうかは、取調べでの本人の供述に大きく左右されます。
捜査段階で「詐欺かもしれないと思った」と供述していれば、それが故意を認める証拠になり得ます。
被疑者には、自分の意思に反して供述しない権利(黙秘権)が保障されています(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。
黙秘を続けることで、検察官が他の証拠だけで立証できるかを判断することになり、嫌疑不十分となる余地が生まれることもあります。
ただし、黙秘には、反省していないと受け取られたり、身柄拘束が長引いたりする不利益もあります。
黙秘するか、事実を認めて起訴猶予を目指すかは、証拠の状況を踏まえて、弁護人と相談して決めるべき問題です。
起訴を見送られる場合(起訴猶予)
起訴猶予の考え方
刑事訴訟法は、検察官が起訴しないことができる場合について、次のように定めています。
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
刑事訴訟法248条
検察官は、犯罪が成立する場合でも、これらの事情を総合的に考慮して、起訴する必要がないと判断すれば、起訴を見送ることができます。
特殊詐欺で考慮される事情
特殊詐欺の受け子・出し子について、起訴猶予の判断で考慮されると考えられる主な事情は次のとおりです。
- 関与した件数と被害額(1件にとどまるか、被害額が小さいか)
- 未遂にとどまったか(だまされたふり作戦で受け取りの時点で逮捕された場合など)
- 被害が回復されているか(被害弁償や示談、被害金の返還)
- 関与の程度(勧誘された経緯、報酬の有無や額、犯行グループとの関わりの深さ)
- 前科・前歴の有無と年齢
- 反省の態度と、今後の監督の態勢(家族による監督、仕事や学校の環境)
これらの事情が重なって初めて、起訴猶予が検討されると考えるべきです。
1つの事情だけで起訴猶予になるわけではありません。
被害金が戻っている場合
だまされたふり作戦によって受け取りの場で逮捕された場合や、受け子が受け取った直後に逮捕されて現金が押収され、被害者に返還された場合には、被害者に実際の損害が生じていないか、損害が回復されています。
こうした事情は、未遂にとどまったことや被害の回復として、起訴猶予の判断で考慮される余地があります。
もっとも、特殊詐欺では、被害が回復されていても、犯行の組織性や悪質性を重視して起訴されることもあります。
捜査への協力
組織的な犯罪では、指示役や上位の者の特定につながる事実を供述し、捜査に協力することが、反省の態度を示す事情として考慮される可能性があります。
ただし、自分が関与した事件について供述することは、自分の責任を認めることにもなるため、協力の範囲や方法は弁護人と相談して決める必要があります。
被害弁償と示談
起訴猶予を目指すうえで、最も重要な事情の一つが被害の回復です。
被害者に謝罪し、被害額を弁償して示談が成立し、被害者が処罰を望まない意思を示していれば、起訴猶予の判断に大きく影響します。
特殊詐欺の示談は、弁護人が検察官を通じて被害者の意向を確認したうえで行います。
報酬を受け取っていない受け子・出し子であっても、被害者に対しては被害全額について責任を負います。

複数の事件の一部だけが不起訴になる場合
特殊詐欺では、被害者ごとに別の事件が成立し、再逮捕や追送致によって複数の事件が検察官に送られることがあります。
起訴するかどうかは、事件ごとに判断されます。
そのため、ある事件は起訴され、別の事件は証拠が足りないとして嫌疑不十分になることもあります。
起訴される事件の数が減れば、量刑の見通しも変わります。
特殊詐欺の受け子・出し子では、認定される事件の数が実刑か執行猶予かを大きく左右するからです。


起訴された場合の見通し
起訴には、公開の法廷で裁判を受ける公判請求と、書面の審理だけで罰金などを科す略式命令の請求があります。
略式命令は、100万円以下の罰金または科料を科す場合に限られます(刑事訴訟法461条)。
受け子に成立する詐欺罪には罰金刑の定めがないため、起訴されれば公判請求となり、法廷で裁判を受けることになります。
出し子に成立する窃盗罪には罰金刑もありますが、特殊詐欺の一部として関与した事件で、略式命令による罰金で終わることは考えにくいでしょう。
起訴された場合は、執行猶予が付くかどうかが次の焦点になります。
認定される事件の数や被害弁償の状況が、その判断を大きく左右します。
少年の場合
本人が20歳未満の少年の場合、成人とは手続が異なります。
少年の事件では、検察官は、犯罪の嫌疑があると考えるときは、事件を家庭裁判所に送らなければなりません(少年法42条1項)。
つまり、少年の事件では、検察官の判断による起訴猶予で手続が終わることはありません。
家庭裁判所が、審判不開始や不処分、保護観察、少年院送致などの処分を決めることになります。

不起訴になった後に残るもの
前科はつかないが、前歴は残る
不起訴になれば前科はつきません。
ただし、捜査の対象になったという記録(前歴)は捜査機関に残ります。
前歴は、再び事件を起こした場合に、処分の判断で考慮される可能性があります。
民事の賠償責任
不起訴になっても、被害者に対する民事上の賠償責任がなくなるわけではありません。
示談が成立していない被害者からは、民事訴訟で損害賠償を請求される可能性があります。
再び捜査される可能性
不起訴の処分には、確定した判決のような効力(同じ事件で再び裁かれない効力)はありません。
新たな証拠が見つかった場合などには、捜査が再開され、起訴されることもあります。
また、被害者などが不起訴の処分に不服がある場合は、検察審査会に審査を申し立てることができます。
検察審査会が起訴すべきだと議決すれば、事件が改めて検討されることになります。
不起訴になったことの確認
不起訴になったかどうかは、検察官から必ず通知されるわけではありません。
被疑者が請求すれば、検察官は不起訴の処分をしたことを告げなければならないとされています(刑事訴訟法259条)。
勤務先などに説明する必要がある場合は、弁護人を通じて不起訴処分告知書の交付を求めることもできます。
不起訴を目指すために弁護士ができること
証拠の状況を見極め、方針を決める
弁護人は、本人との面会を重ねて事件の内容を把握し、検察官がどの事件についてどのような証拠を持っているかを見極めます。
そのうえで、故意や関与を争って嫌疑不十分を目指すのか、事実を認めて起訴猶予を目指すのか、方針を本人と一緒に決めます。
取調べへの対応の助言
方針が決まれば、それに沿って取調べにどう臨むかを助言します。
逮捕直後の取調べで作成された供述調書は、後から覆すことが難しいため、できるだけ早い段階で弁護人が面会することが重要です。
家族による監督の態勢を整える
起訴猶予の判断では、本人が社会に戻った後に再び犯罪に関わらないと期待できるかどうかも考慮されます。
家族が身元引受人となり、本人と同居して生活を見守ること、犯行グループとの連絡を断つためにスマートフォンの使い方を見直すこと、仕事や学校に戻れる環境を整えることなどを、具体的な形で検察官に示すことが重要です。
被害弁償・示談と意見書の提出
起訴猶予を目指す場合は、被害者との示談交渉を進めるとともに、本人の反省、家族による監督の態勢、仕事や学校の環境などを示す資料を集め、起訴すべきでない理由をまとめた意見書を検察官に提出します。
身柄を拘束されている事件では、検察官は勾留の期限(最長20日間)までに起訴するかどうかを決めなければ、被疑者を釈放しなければなりません。
そのため、限られた時間の中でこれらの活動を進める必要があります。
よくある質問(FAQ)
- 受け子として逮捕されました。不起訴になる可能性はありますか。
-
可能性はありますが、簡単ではありません。
令和6年に処理された詐欺の被疑者のうち、起訴は51.4%で、起訴猶予は24.9%、嫌疑不十分は21.8%でした。
特殊詐欺では、関与の程度や件数、被害の回復などの事情が重ならなければ、起訴猶予は難しいと考えられます。 - 嫌疑不十分と起訴猶予はどう違いますか。
-
嫌疑不十分は、有罪を立証するだけの証拠が足りないために起訴されないものです。
起訴猶予は、犯罪の証拠は十分にあるものの、本人の事情や被害の回復などを考慮して起訴が見送られるものです。 - 示談が成立すれば不起訴になりますか。
-
示談は起訴猶予の判断で重視される事情ですが、それだけで必ず不起訴になるわけではありません。
特殊詐欺では、関与した件数や被害額、前科・前歴、反省の態度なども含めて総合的に判断されます。 - 黙秘すれば不起訴になりますか。
-
黙秘によって、検察官が他の証拠だけで立証できるかを判断することになり、嫌疑不十分となる余地が生まれることはあります。
ただし、身柄拘束が長引くなどの不利益もあるため、証拠の状況を踏まえて弁護人と相談して決める必要があります。 - 不起訴になれば前科はつきませんか。
-
不起訴になれば前科はつきません。
ただし、捜査の対象になった記録(前歴)は捜査機関に残り、被害者への民事上の賠償責任もなくなりません。
- 未成年でも不起訴になりますか。
-
少年の事件は、犯罪の嫌疑があれば家庭裁判所に送られるため、検察官の起訴猶予で終わることはありません。
家庭裁判所が、不処分や保護観察、少年院送致などの処分を決めます。
まとめ
- 不起訴には主に嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予があり、不起訴になれば前科はつかない
- 令和6年に処理された詐欺の被疑者のうち起訴は51.4%で、他の犯罪と比べて起訴される割合が高く、特殊詐欺はさらに起訴を見送る判断がされにくいと考えられる
- 嫌疑不十分は、故意や関与を立証するだけの証拠が足りない場合であり、取調べでの供述が結果を大きく左右する
- 起訴猶予は、件数、未遂かどうか、被害の回復、関与の程度、前科・前歴、年齢、監督の態勢などを総合して判断される
- 複数の事件のうち一部だけが不起訴になることもあり、起訴される事件の数は量刑の見通しに直結する
- 少年の事件は起訴猶予で終わらず、家庭裁判所に送られる
- 不起訴になっても前歴と民事の賠償責任は残り、新たな証拠があれば再び捜査される可能性もある
当事務所では、特殊詐欺で逮捕された方の接見、取調べへの対応の助言、被害者との示談交渉、不起訴を求める意見書の提出など、起訴・不起訴の判断までの対応をお受けしています。
ご本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。
身柄を拘束されている事件では、起訴か不起訴かの判断までの時間は限られています。
お早めにご相談ください。
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