【この記事の結論・要約】
- 特殊詐欺で逮捕されると、身柄拘束による長い欠勤・欠席や報道をきっかけに、会社や学校に知られることがあります。前科や逮捕の事実が、警察から勤務先に通知される仕組みはありません。
- 私生活上の犯罪を理由とする懲戒解雇は、会社の社会的評価への影響などから個別に判断されますが、特殊詐欺は悪質性が高いと評価されやすい犯罪です。
- 公務員は拘禁刑以上の刑が確定すれば執行猶予でも失職し、学生は学則による退学・停学の対象になり得るため、勤務先や学校への伝え方は弁護士と相談して決める必要があります。
はじめに
特殊詐欺の受け子や出し子として逮捕されたとき、本人や家族が刑の重さと同じくらい心配するのが、会社や学校に知られるのか、知られたら解雇や退学になるのか、という点です。
この記事では、特殊詐欺で逮捕されたことが会社や学校に知られるきっかけを整理したうえで、私生活上の犯罪を理由とする懲戒解雇についての最高裁判所の考え方、公務員や資格を持つ人への影響、学生の場合の扱いを説明します。
そのうえで、勤務先や学校への伝え方と、してはいけないことをまとめます。
逮捕が会社や学校に知られるきっかけ
前科や逮捕が警察から通知される仕組みはない
まず前提として、逮捕されたことや前科があることを、警察や検察が本人の勤務先に通知する仕組みはありません。
「逮捕されたら必ず会社に連絡がいく」というのは誤解です。
会社や学校に知られるのは、主に次のようなきっかけによるものです。
欠勤・欠席が長く続く
逮捕されると、最長72時間は家族とも面会できず、勾留が決まれば最長20日間身柄を拘束されます。
この間、本人は会社や学校に連絡することができません。
特殊詐欺の事件では、被害者ごとに別の事件が成立するため、再逮捕が繰り返されることがあります。
身柄の拘束が数か月に及べば、欠勤や欠席の理由を説明しないわけにはいかなくなります。

報道
特殊詐欺や闇バイトの事件は、社会的な関心が高く、逮捕が実名で報道されることがあります。
報道されれば、勤務先や学校、取引先にも知られることになります。
なお、20歳未満の少年については、本人を推測できるような報道は禁止されています(少年法61条)。
ただし、18歳・19歳の特定少年が逆送されて起訴された場合は、この禁止が解除されます(少年法68条)。
共犯者や周囲からの情報
同じ職場や学校の人から闇バイトに誘われていた場合や、共犯者が同僚や同級生だった場合には、その人の逮捕や捜査を通じて、関与が周囲に知られることがあります。
捜査のための照会
捜査の過程で、警察が勤務状況などを確認するために勤務先に問い合わせることもあります。
また、未成年の事件では、家庭裁判所の調査の過程で学校に照会が行われることがあります。
会社を解雇されるか
私生活上の犯罪でも懲戒の対象になり得る
特殊詐欺は、仕事とは関係のない私生活の中で行われる犯罪です。
会社は、こうした私生活上の行為を理由に従業員を懲戒できるのでしょうか。
最高裁判所は、会社の社会的評価を維持することは会社の存立や事業の運営にとって不可欠であるとしたうえで、次のように述べています。
会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであつても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない。
最高裁判所第二小法廷昭和49年3月15日判決・民集28巻2号265頁
つまり、私生活上の犯罪であっても、会社の就業規則に定められた懲戒事由にあたれば、懲戒処分の対象になり得ます。
懲戒解雇が有効かどうかの判断基準
ただし、私生活上の犯罪があれば直ちに懲戒解雇が有効になるわけではありません。
同判決は、従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したといえるかどうかについて、次のように判断基準を示しています。
当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。
最高裁判所第二小法廷昭和49年3月15日判決・民集28巻2号265頁
この事件では、従業員が刑事特別法違反で逮捕・起訴され、広く報道されましたが、動機が破廉恥なものではなく、刑も罰金2,000円にとどまり、会社が従業員約3万名の大企業で、本人は工員にすぎなかったことなどから、懲戒解雇は無効とされました。
懲戒解雇が無効とされた例
別の事件では、工員が夜間に他人の住居に入り込んで住居侵入罪で罰金2,500円に処せられ、会社から懲戒解雇されました。
最高裁判所は、その行為が会社の組織や業務とは関係のない私生活の範囲内で行われたこと、刑罰が罰金にとどまったこと、職務上の地位も指導的なものではなかったことなどを挙げて、次のように判断しています。
被上告人の右行為が、上告会社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。
最高裁判所第三小法廷昭和45年7月28日判決・民集24巻7号1220頁
この判決には、行為の破廉恥性や会社の置かれた状況を重く見て、懲戒解雇を有効とすべきだとする反対意見も付されています。
私生活上の犯罪による懲戒解雇は、事情によって判断が分かれる問題だといえます。
特殊詐欺の場合
二つの判決で懲戒解雇が無効とされた事情は、刑罰が罰金にとどまったこと、行為の破廉恥性がさほど強くないと評価されたことなどでした。
これに対して特殊詐欺は、高齢者などをだまして金銭を得る犯罪で、社会的な非難の程度が高く、受け子・出し子として有罪になった人の半数以上が実刑となっています(令和3年版犯罪白書)。
報道されれば、会社の社会的評価への影響も大きくなり得ます。
こうした事情からすると、特殊詐欺で有罪となった場合、懲戒解雇が有効と判断される可能性は、上の二つの事件よりも高いと考えられます。
もっとも、懲戒処分が有効かどうかは、就業規則の定め、本人の職種や地位、報道の有無、会社の規模や事業の内容などによって個別に判断されます。
懲戒が、行為の性質や態様などに照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、懲戒権の濫用として無効になります(労働契約法15条)。
判決が出る前の処分と、長期の欠勤
逮捕された段階では、まだ有罪と決まったわけではありません。
判決の前に懲戒解雇をすることには慎重な判断が求められますが、就業規則によっては、起訴された従業員を休職とする規定(起訴休職)が設けられていることもあります。
また、懲戒解雇とは別に、身柄拘束による長期の欠勤が、普通解雇の理由として問題にされることもあります。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効です(労働契約法16条)。
公務員や資格を持つ人への影響
公務員は執行猶予でも失職する
国家公務員は、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまでの者に該当すると、当然に失職します(国家公務員法38条1号、76条)。
地方公務員も同様です(地方公務員法16条1号、28条4項)。
執行猶予が付いても、猶予の期間が満了するまでは「執行を受けることがなくなるまで」の状態にあるため、失職することになります。
受け子に成立する詐欺罪は法定刑に罰金がないため、有罪となれば必ず拘禁刑となり、公務員の身分を失うことになります。
出し子などに成立する窃盗罪には罰金刑もありますが、特殊詐欺の一部として関与した事件で罰金にとどまることは考えにくいでしょう。
また、有罪判決の確定を待たずに、懲戒免職などの懲戒処分を受けることもあります(国家公務員法82条、地方公務員法29条)。
資格への影響
多くの国家資格や業の許可では、拘禁刑以上の刑に処せられたことが、一定期間、資格の欠格事由や登録の取消事由とされています。
資格によって、欠格となる期間や、執行猶予の場合の扱いは異なります。
資格を持って仕事をしている人は、自分の資格について、有罪判決がどのような影響を与えるかを確認しておく必要があります。
学生の場合
退学や停学の対象になり得る
高校生や大学生が特殊詐欺で逮捕された場合、学則などに基づいて、退学、停学、訓告といった懲戒の対象になり得ます。
公立・私立を問わず、校長は、教育上必要があると認めるときに、学生・生徒に懲戒を加えることができ、退学は、性行不良で改善の見込みがないと認められる者などに対して行うことができるとされています(学校教育法11条、学校教育法施行規則26条)。
私立学校や大学では、それぞれの学則に懲戒の定めがあります。
学校に残れる環境は処分にも影響する
本人が20歳未満であれば、事件は家庭裁判所に送られます。
家庭裁判所は、本人が社会の中で立ち直れる環境があるかどうかを重視して処分を決めます。
学校に通い続けられることは、その環境の一つとして評価されることがあります。
受け子として関与した高校生について、母親と同居して高校に通っているなど保護環境に大きな問題がないことを指摘し、少年院送致を著しく不当とした高等裁判所の決定もあります(東京高裁平成28年6月15日決定・判タ1437号144頁)。

勤務先や学校への伝え方
誰が、いつ連絡するか
本人が身柄を拘束されている間は、家族が勤務先や学校に欠勤・欠席の連絡をすることになります。
無断欠勤が続けば、それ自体が解雇や処分の理由になりかねないため、連絡をしないまま放置することは避けてください。
一方で、逮捕の事実を伝えるかどうか、伝える場合にどこまで伝えるかは、事件の見通しや就業規則の定め、報道の可能性によって判断が分かれます。
家族だけで判断せず、弁護人と相談してから連絡することをお勧めします。
弁護人を通じて、本人の意向を確認することもできます。
事実と異なる説明はしない
「病気で入院している」など、事実と異なる説明をすると、後で逮捕の事実が明らかになった場合に、虚偽の報告をしたこと自体が問題にされ、処分が重くなるおそれがあります。
詳しい事情を伝えられない場合でも、「事情により当面出勤できない」「詳細は改めて説明する」といった形で、事実と矛盾しない範囲で伝えることが考えられます。
退職届にすぐに応じない
会社から退職を勧められたり、退職届を出すよう求められたりすることがあります。
退職は、本人の生活に大きく関わる判断です。
家族が本人に代わって退職届を出すことはできず、本人の意思を確認する必要があります。
判決の見通しや、懲戒解雇と自主退職の違い(退職金の扱いなど)を踏まえて判断するため、応じる前に弁護人と相談してください。
懲戒処分を受けた場合
懲戒解雇などの処分に納得できない場合は、処分の無効を主張して、会社と交渉したり、労働審判や訴訟で争ったりすることが考えられます。
ただし、特殊詐欺で有罪となった場合、先に見たとおり、懲戒処分が有効と判断される可能性は低くありません。
処分を争うかどうかは、刑事事件の結果や就業規則の定めを踏まえて検討する必要があります。
よくある質問(FAQ)
- 特殊詐欺で逮捕されたら、警察から会社に連絡がいきますか。
-
逮捕や前科を警察が勤務先に通知する仕組みはありません。
ただし、身柄拘束による長い欠勤や報道、共犯者との関係などから、会社に知られることがあります。
- 特殊詐欺で有罪になったら、必ず懲戒解雇されますか。
-
必ずではありません。
私生活上の犯罪による懲戒解雇の有効性は、行為の性質や会社の社会的評価への影響、本人の職種や地位などから個別に判断されます。
ただし、特殊詐欺は社会的な非難の程度が高く、懲戒解雇が有効とされる可能性は高いと考えられます。 - 公務員が特殊詐欺で執行猶予付きの判決を受けた場合、仕事はどうなりますか。
-
拘禁刑以上の刑に処せられると、執行猶予が付いても、猶予の期間が満了するまでは欠格事由にあたり、失職します(国家公務員法38条2号・76条、地方公務員法16条2号・28条4項)。
判決の前に懲戒免職となることもあります。 - 高校生の息子が受け子で逮捕されました。退学になりますか。
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学則などに基づいて退学や停学の対象になり得ますが、必ず退学になるわけではありません。
学校に通い続けられることは、家庭裁判所が処分を決めるうえで立ち直りの環境として評価されることもあるため、学校への伝え方は弁護士と相談して決めてください。 - 会社への欠勤の連絡では、逮捕されたことを伝えるべきですか。
-
無断欠勤は避けるべきですが、逮捕の事実をどこまで伝えるかは、事件の見通しや就業規則によって判断が分かれます。
事実と異なる説明は後で問題になるおそれがあるため、弁護人と相談してから連絡してください。 - 会社から退職届を出すよう求められています。応じたほうがよいですか。
-
すぐに応じず、弁護人と相談してください。
懲戒解雇と自主退職では退職金などの扱いが異なることがあり、判決の見通しも踏まえて判断する必要があります。
まとめ
- 逮捕や前科を警察が勤務先に通知する仕組みはないが、身柄拘束による長期の欠勤・欠席、報道、共犯者との関係などから、会社や学校に知られることがある
- 私生活上の犯罪でも、会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合は懲戒の対象になり得る。懲戒解雇が有効かどうかは、行為の性質や会社の事業、本人の地位などから総合的に判断される
- 罰金刑にとどまった私生活上の犯罪について懲戒解雇を無効とした最高裁判決があるが、特殊詐欺は社会的な非難の程度が高く、懲戒解雇が有効とされる可能性は高い
- 公務員は、拘禁刑以上の刑に処せられると、執行猶予が付いても猶予期間の満了までは失職する。多くの資格でも欠格事由になる
- 学生は学則に基づく退学・停学の対象になり得るが、学校に通い続けられる環境は、少年事件の処分でも考慮される
- 勤務先や学校への連絡は放置せず、事実と異なる説明は避け、伝え方や退職の判断は弁護人と相談して決める
当事務所では、特殊詐欺で逮捕された方の接見、取調べへの対応の助言、被害者との示談交渉のほか、勤務先や学校への対応についてのご相談もお受けしています。
ご本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。
勤務先や学校への最初の連絡の仕方が、その後の処分に影響することもあります。
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