【この記事の結論・要約】
- 不起訴には嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予の三つがあり、行為を認めている事案では起訴猶予を目指すことになります。
- 起訴猶予の判断で最も重視されるのは被害者との示談です。初犯であること、身元が安定していること、反省と再発防止の姿勢その他をあわせて判断されます。
- 示談は処分が決まる前に成立させる必要があり、被害者との交渉は弁護人を通じてしかできないのが実情です。
はじめに
痴漢事件で最も避けたいのは、前科がつくことです。
そして、前科を避けるためにまず目指すべきなのが不起訴処分です。
起訴されれば、日本の刑事裁判では大半の事件で有罪となり、罰金であっても前科として記録が残ります。
不起訴を目指すうえで、まず分かれ道になるのが、行為を認めるのか、争うのかです。
認めている事案では起訴猶予を、事実がない、あるいは争う事案では嫌疑なし・嫌疑不十分を目指すことになり、必要な活動もまったく異なります。
この記事では、主に行為を認めている事案で起訴猶予による不起訴を目指す場合に何が必要かを解説します。
身に覚えがない、事実と異なるという方は、次の記事をご覧ください。

不起訴とは何か(三つの種類)
検察官が事件を起訴しないと判断することを不起訴処分といいます。理由は主に三つに分かれます。
- 嫌疑なし:犯罪の疑いが認められない場合です。人違いや事実誤認が明らかになった場合が典型です。
- 嫌疑不十分:犯罪の疑いは残るものの、有罪を立証するだけの証拠が足りない場合です。被害者の供述に矛盾がある、客観的な証拠が乏しいといった事案で問題になります。
- 起訴猶予:証拠等から有罪が立証できる見込みが高いものの、事案の内容、被疑者の反省、被害者との示談、前科の有無などを考慮して、あえて起訴しないという判断です。痴漢事件の不起訴の多くはこれに当たります。
ここで注意が必要なのは、不起訴でも前歴は残るということです。
前科(有罪判決の記録)はつきませんが、捜査を受けた事実は捜査機関の記録に残ります。
日常生活で不利益が生じるものではありませんが、将来同種の事件を起こした場合には、前歴が考慮される可能性もあります。
認めている場合は起訴猶予を目指す
行為を認めている事案で、起訴猶予の判断に影響する事情は、主に次のとおりです。
- 被害者との示談が成立していること:最も重視される事情です。詳細は後述します。
- 前科・前歴がないこと:初犯であれば、再び罪を犯す可能性が低いと評価されやすくなります。逆に、同種の前科がある場合には、示談が成立しても起訴される可能性が残ります。
- 身元と生活基盤が安定していること:定まった住居と仕事があり、家族の監督が期待できることは、再犯のおそれが低いことを裏づけます。
- 反省と再発防止の取り組み:反省文の作成、家族による監督、繰り返している場合には専門的な治療やカウンセリングの開始などです。
- 事案の内容:同じ痴漢でも、迷惑防止条例違反にとどまる事案と、不同意わいせつ罪に当たる事案とでは、処分の重さが大きく異なります。罪名の分かれ目は、次の記事で解説しています。

これらの事情のうち、初犯であり、迷惑防止条例違反にとどまる事案で、被害者との示談が成立している場合には、不起訴となる可能性は相当に高いといえます。
もっとも、処分を決めるのは検察官であり、結果を保証できるものではありません。
前科がある場合や、不同意わいせつ罪に当たる事案では、示談が成立しても起訴されることがあります。
その場合でも、示談は処分を軽くする方向に働きます。
否認している場合は嫌疑不十分を目指す
事実を争う事案では、目指す方向がまったく異なります。
防犯カメラの映像、目撃者の証言、手指の付着物の鑑定、被害者供述の変遷や矛盾など、客観的な証拠に基づいて嫌疑なし・嫌疑不十分を目指すことになります。
重要なのは、認めるか争うかを早い段階で決める必要があることです。
取調べでいったん認める供述をした後に否認へ転じると、供述の変遷として信用性を疑われます。
逆に、争うと決めたなら、示談による解決とは別の道を進むことになります。
判断に迷う場合は、取調べに応じる前に弁護士に相談してください。
示談が最も重視される理由
痴漢は、被害者のいる犯罪です。検察官が処罰の必要性を判断するにあたっては、被害が回復されているか、被害者が処罰を望んでいるかが中心的な事情になります。
示談書には、金額の合意だけでなく、被害者が加害者を許し、刑事処罰を望まない旨の宥恕文言を入れることが重要です。
この一文があるかどうかで、示談書の意味は大きく変わります。
示談金の水準については、次の記事で解説しています。

示談は弁護人を通じてしかできない
示談の重要性を理解したうえで、実際にどう進めるかという問題があります。
痴漢事件の被害者は、加害者と接触することを望まないのが通常です。
捜査機関も、証拠隠滅や被害者への圧力を防ぐため、加害者本人に被害者の連絡先を教えることはありません。
弁護士が就いた場合に限り、捜査機関が被害者の意向を確認し、弁護士限りで連絡先の開示を受けて交渉する、という形で進みます。
したがって、示談による不起訴を目指すのであれば、弁護士に依頼することが事実上の前提になります。
ご本人が被害者を探し出して連絡するような行動は、処罰感情を決定的に強め、身柄拘束の理由にもなりかねません。
絶対に避けてください。
示談の具体的な進め方とタイミングは、次の記事で解説しています。
示談ができない場合はどうするか
被害者が示談に応じない、あるいは到底応じられない金額を求められることもあります。
その場合でも、打つ手がなくなるわけではありません。
反省の姿勢を示す方法として、贖罪寄付(弁護士会などの団体への寄付)や、被害弁償金の供託といった手段があります。
いずれも示談ほどの効果はありませんが、被害回復に向けた努力として、検察官の処分判断で考慮され得ます。
処分が決まるまでが勝負
不起訴を目指す活動には、期限があります。
検察官が処分を決めてしまえば、その後に示談をしても処分は変わりません。
逮捕・勾留されている場合
勾留の期間内に処分が決まります。
逮捕から最長23日間という限られた時間の中で、接見、方針の決定、示談交渉を進めなければなりません。
時間との勝負です。
在宅事件の場合
取調べを経て書類送検され、検察官の取調べの後に処分が決まります。
身柄事件より時間の余裕はありますが、いつ処分が決まるかは本人には分かりません。
「まだ何も言われていないから大丈夫」と放置している間に、処分が決まってしまうことがあります。
警察から呼び出しを受けた段階、あるいは釈放された段階が、示談に着手すべきタイミングです。

再発防止の取り組み
同種の行為を繰り返してしまっている場合、「二度としない」という言葉だけでは、検察官も裁判所も信用しません。
痴漢を繰り返す背景に、性依存の問題が関わっていることがあります。
専門の医療機関やカウンセリングにつながり、治療を開始した事実は、再犯のおそれが低下したことを示す具体的な事情として、処分の判断で考慮され得ます。
ご家族による監督の体制を整えることも同様です。
反省の姿勢は、言葉ではなく行動で示す。これが、繰り返しの事案で処分を分ける要素になります。
よくある質問(FAQ)
- 不起訴になれば前科はつきませんか。
-
つきません。
前科は有罪判決を受けた場合の記録であり、不起訴となれば裁判は開かれず、前科は残りません。
ただし、捜査を受けた事実(前歴)は捜査機関の記録に残り、将来同種の事件を起こした場合に考慮される可能性はあります。 - 初犯で示談ができれば必ず不起訴になりますか。
-
必ずとは言えません。
初犯で、迷惑防止条例違反にとどまる事案であれば、示談の成立により不起訴となる可能性は相当に高いといえますが、処分を決めるのは検察官です。
行為の態様が悪質な場合や、不同意わいせつ罪に当たる事案では、示談が成立しても起訴されることがあります。 - 不起訴になったことは会社に知られますか。
-
不起訴処分が勤務先に通知されることはありません。
会社に知られるのは、逮捕による長期の欠勤や報道といった場合によるものです。
在宅事件のまま不起訴で終われば、知られずに済むことも多くあります。 - 被害者が示談を拒んでいます。もう不起訴は無理ですか。
-
無理と決まったわけではありません。
示談は最も重視される事情ですが、唯一の事情ではありません。
贖罪寄付や供託により被害回復への努力を示すこと、反省文、再発防止の取り組み、家族の監督体制を整えることも、処分の判断で考慮され得ます。また、当初は拒否していた被害者が、弁護士からの丁寧な申し入れにより応じるに至ることもあります。
- 認めるべきか、争うべきか迷っています。
-
取調べに応じる前に弁護士に相談してください。
証拠の状況を踏まえずに供述を始め、後から方針を変えると、供述の変遷として信用性を失います。
認めるにせよ争うにせよ、早い段階で方針を決めることが、結果を左右します。
まとめ
痴漢事件で不起訴を目指す場合のポイントを整理します。
- 不起訴には嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予があり、認めている事案では起訴猶予を目指す。起訴猶予は無罪とは異なり、前歴は残る。
- 起訴猶予で最も重視されるのは被害者との示談。初犯であること、身元の安定、反省と再発防止の取り組みとあわせて判断される。
- 示談には宥恕文言が重要で、被害者との交渉は弁護人を通じてしかできないのが実情。本人による接触は厳禁。
- 示談ができない場合も、贖罪寄付や供託により反省と被害回復への努力を示す方法がある。
- 処分が決まってからでは遅い。呼び出しを受けた段階、釈放された段階が着手のタイミングになる。
当事務所では、痴漢事件について、不起訴に向けた方針の検討から、被害者との示談交渉、取調べへの対応まで一貫してお受けしています。
処分が決まる前の限られた時間を活かすため、お早めにご相談ください。
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