着衣の上からの痴漢は何罪?迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の境界を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 着衣(服)の上からの痴漢は、軽微であれば迷惑防止条例違反、悪質であれば不同意わいせつ罪となり、「服の上から触っただけだから必ず軽い」とは限りません。
  2. 罪名は、触れた部位や接触の強度・執拗さなどを総合して判断されます。2023年の刑法改正以降、着衣の上からでも不同意わいせつ罪で立件される例が増えています。
  3. 不同意わいせつ罪には罰金刑がなく重大ですが、罪名は固定ではありません。弁護人が、迷惑防止条例違反への引き下げを主張できる場合があります。

はじめに

「服の上から触っただけなのに、不同意わいせつ罪だと言われた」 「着衣の上からなら、軽い罪で済むのではないか」

痴漢を疑われた方やそのご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。
一般には「服の上からなら迷惑防止条例違反」と言われることが多いため、なぜ重い不同意わいせつ罪になるのかと驚かれるのです。

結論からいえば、着衣の上からの痴漢であっても、その態様によっては不同意わいせつ罪に問われることがあります。
特に2023年の刑法改正以降、その傾向は強まっています。
一方で、罪名は最初から確定しているわけではなく、弁護活動によって争える余地もあります。

本記事では、着衣の上からの痴漢が迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪のどちらになるのか、その境界はどこにあるのか、そして罪名を争う余地について、弁護士が解説します。

痴漢は何罪になるのか

「痴漢罪」は存在しない

まず前提として、刑法に「痴漢罪」という条文はありません。
痴漢行為は、その態様や悪質性に応じて、各都道府県の迷惑防止条例違反か、刑法の不同意わいせつ罪のいずれかで処罰されます。

迷惑防止条例違反(軽微な痴漢)

比較的軽微とされる痴漢に適用されるのが、各都道府県の迷惑防止条例です。
東京都の場合、法定刑は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金で、常習として行った場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に加重されます。

罰金刑が定められているため、起訴される場合でも、略式手続(書面審理で罰金を納める手続き)で済む可能性があります。

不同意わいせつ罪(悪質な痴漢)

悪質な痴漢に適用されるのが、刑法の不同意わいせつ罪(刑法176条)です。
法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑で、罰金刑がありません

罰金刑がないということは、起訴されれば必ず公開の法廷で正式な裁判が開かれ、有罪となれば執行猶予がつかない限り刑務所に収容されるということです。
迷惑防止条例違反とは、刑罰の重さが大きく異なります。

罪名ごとの違いの詳細は以下の記事で解説しています。

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「着衣の上からなら迷惑防止条例違反」は本当か

一般的な目安としては「着衣の上=条例違反」

実務上、痴漢の罪名については、「着衣の上から触った場合は迷惑防止条例違反、下着の中に手を入れて直接触れた場合は不同意わいせつ罪」という大まかな目安が語られます。

この目安自体は、傾向としては誤りではありません。
実際、衣服の上から臀部に触れるといった行為は、迷惑防止条例違反として扱われることが多いです。

しかし「服の上なら必ず軽い」は誤解

ただし、「着衣の上からなら、絶対に迷惑防止条例違反で済む」と考えるのは誤解です。

着衣の上からの行為であっても、後述するように態様が悪質であれば、不同意わいせつ罪で立件されることがあります。
「服の上から触っただけ」という事実だけで、罪名が軽い方に決まるわけではないのです。

条例は着衣の上からの接触も対象としている

そもそも、迷惑防止条例は、着衣の上からの接触も直接の接触もどちらも規制対象としています。
東京都の条例では、公共の場所または公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、または不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、または直接人の身体に触れる行為を禁止しています。

つまり「着衣の上か直接か」は、条例違反か不同意わいせつ罪かを一義的に決める基準ではなく、あくまで罪名を判断する一要素にすぎないのです。

罪名を分ける判断要素

では、着衣の上からの痴漢が迷惑防止条例違反になるか不同意わいせつ罪になるかは、何によって決まるのでしょうか。
実際には、次のような要素を総合して、その行為が不同意わいせつ罪にいう「わいせつな行為」といえるかが判断されます。

触れた部位

臀部や太ももに触れた場合は迷惑防止条例違反とされる傾向がある一方、胸や陰部といった、より性的な部位に触れた場合は、不同意わいせつ罪と評価されやすくなります。

接触の方法

着衣の上から触れたか、直接肌に触れたかは、重要な要素です。
直接肌に触れる方が、被害者の受ける精神的なショックが大きいと評価され、不同意わいせつ罪に近づきます。

接触の継続性・強度

一瞬触れただけか、長時間にわたって執拗に触り続けたか、軽く触れたか、揉む・撫で回すといった強い接触だったか、という点も判断に影響します。
着衣の上からであっても、執拗に揉み続けるような行為は、不同意わいせつ罪と評価されやすくなります。

暴行・脅迫や拘束の有無

相手の手首をつかむ、身体を押さえつける、言葉で脅すといった行為を伴っていた場合は、不同意わいせつ罪の領域に入りやすくなります。

衣服内に侵入する意図

着衣の上から触りつつ、下着のホックを外そうとしたり、衣服の中に手を入れようとしたりした場合は、単なる接触を超えた悪質性があると評価され、不同意わいせつ罪に近づきます。

【一覧表】着衣の上からの痴漢|罪名の傾向

着衣の上からの痴漢について、罪名の傾向を整理すると、次のようになります。

※あくまで一般的な傾向であり、個別の事案により結論は異なります。

行為の例罪名の傾向
着衣の上から臀部・太ももに一瞬触れる迷惑防止条例違反となる傾向
満員電車で身体を押し付ける迷惑防止条例違反となる傾向
着衣の上から胸や臀部を執拗に揉む・撫で回す不同意わいせつ罪となる可能性
着衣の上から性的な部位を長時間触り続ける不同意わいせつ罪となる可能性
手首をつかむ・押さえつけるなどしながら触る不同意わいせつ罪となる可能性
下着のホックを外す・衣服の中に手を入れようとする不同意わいせつ罪となる可能性

このように、「着衣の上から」という同じ条件でも、態様によって罪名が分かれます。

2023年の刑法改正で何が変わったか

着衣の上からの痴漢を考えるうえで、2023年の刑法改正は避けて通れません。

強制わいせつ罪から不同意わいせつ罪へ

2023年(令和5年)7月13日、改正刑法が施行され、従来の「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」が統合され、「不同意わいせつ罪」になりました。

最大の変更点は、処罰の判断基準の見直しです。
改正前の強制わいせつ罪は、原則として「暴行または脅迫」を用いることが要件とされていました。
そのため、すれ違いざまに触る、不意に触れるといった、暴行・脅迫を伴わない痴漢は、強制わいせつ罪にはあたらず、迷惑防止条例違反にとどまることが少なくありませんでした。

5号「いとまがない」|なぜ満員電車の痴漢が当てはまりやすいか

改正後の不同意わいせつ罪は、暴行・脅迫がなくても、刑法176条1項各号に掲げる事由などにより、相手が「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」にあることに乗じてわいせつな行為をすれば成立します

このうち、痴漢で特に問題になるのが、5号の「同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと」です。
満員電車の中で不意に触れる行為は、被害者が拒絶する間もないうちに行われるため、この「いとまがない」に該当しやすいと考えられます。

着衣の上からでも不同意わいせつ罪で立件される例が増えている

暴行・脅迫要件が外れたことにより、これまで暴行・脅迫がないことを理由に強制わいせつ罪にあたらないとされてきた痴漢についても、不同意わいせつ罪で立件される余地が広がりました。

その結果、従来は迷惑防止条例違反として扱われてきた着衣の上からの痴漢についても、態様によっては不同意わいせつ罪で立件されるケースが出てきています。

罪名が変わると刑罰が一気に重くなる

着衣の上からの痴漢が、迷惑防止条例違反ではなく不同意わいせつ罪として扱われると、刑罰の重さは一変します。
罰金で終わる可能性のあった事案が、罰金刑のない、起訴されれば必ず正式裁判という重い処分の対象になるのです。
この差は非常に大きいといえます。

【重要】罪名は固定ではない|迷惑防止条例違反への引き下げを争える

ここが、着衣の上からの痴漢において特に重要なポイントです。

罪名は検察官が決め、裁判所が判断する

どの罪名で処理するかは、まず捜査機関・検察官が判断し、最終的には裁判所が決定します。
警察が当初「不同意わいせつ罪」として立件したとしても、それで罪名が確定するわけではありません。

弁護人が「わいせつな行為とまではいえない」と主張できる

弁護人は、その行為が不同意わいせつ罪にいう「わいせつな行為」とまではいえないことなどを主張し、意見書を提出するなどして、不同意わいせつ罪ではなく迷惑防止条例違反として扱うよう求めることが考えられます。

改正は処罰範囲を不当に広げるものではない、という主張

罪名を争う際の一つの考え方として、次のような主張があります。
2023年の改正は、暴行・脅迫要件を見直したものですが、何が「わいせつな行為」にあたるかという点まで広げたものではない、という考え方です。

この立場からは、改正前に強制わいせつ罪の「わいせつな行為」にあたらないとされてきた態様について、改正後だからといって解釈を変更し「わいせつな行為」と扱う理由はない、という主張が考えられます。
こうした主張により、着衣の上からの痴漢について、不同意わいせつ罪から迷惑防止条例違反への変更を求める余地があります。

ただし、こうした主張が必ず認められるわけではなく、最終的には個別の事案ごとの判断になります。

罪名が下がれば、見通しも示談の前提も変わる

不同意わいせつ罪から迷惑防止条例違反に罪名が変われば、罰金で終わる可能性が出てくるなど、見通しは大きく変わります。
示談金の相場も罪名によって異なるため、示談交渉の前提も変わってきます。
示談金については別の記事で解説しています。

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罪名そのものを争えるという点は、着衣の上からの痴漢で弁護士に相談する、大きな意義の一つです。

相手が16歳未満の場合の注意

着衣の上からの痴漢で特に注意が必要なのが、相手が16歳未満であった場合です。

相手が16歳未満の場合、原則として、同意の有無や、着衣の上からかどうかにかかわらず、不同意わいせつ罪が成立しえます(刑法176条3項。相手が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長のときに限ります)。

「相手が未成年だとは知らなかった」「服の上から触っただけだ」という事情があっても、罪が成立する可能性があります。
相手の年齢が問題になりうるケースでは、特に慎重な対応が必要なため、早めに弁護士に相談してください。

着衣の上からの痴漢を疑われたら|弁護士に相談すべき理由

着衣の上からの痴漢は、迷惑防止条例違反になるか不同意わいせつ罪になるかによって、結果が大きく変わります。
だからこそ、弁護士に相談する意義が大きいといえます。

弁護士は、行為の態様を踏まえて罪名の見通しを立て、不同意わいせつ罪で立件されている場合には迷惑防止条例違反への引き下げを主張します。
あわせて、被害者との示談交渉、身柄解放に向けた活動、取調べへの対応の助言を行い、不起訴や処分の軽減を目指します。
罪名次第で結果が大きく変わるからこそ、早期の相談が重要です。

よくある質問(FAQ)

服の上から触っただけなら、迷惑防止条例違反で済みますか?

必ずしもそうとは限りません。

着衣の上からの痴漢は迷惑防止条例違反となる傾向がありますが、胸を執拗に揉む、長時間触り続けるなど態様が悪質な場合は、着衣の上からでも不同意わいせつ罪で立件されることがあります。
2023年の刑法改正以降、その傾向は強まっています。

迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪では、どれくらい違うのですか?

刑罰の重さが大きく異なります。迷惑防止条例違反(東京都)は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金で、罰金や略式手続で終わることもあります。

一方、不同意わいせつ罪は6月以上10年以下の拘禁刑で罰金刑がなく、起訴されれば必ず正式な裁判になります。

なぜ着衣の上からでも不同意わいせつ罪になることがあるのですか?

2023年の刑法改正で、暴行・脅迫がなくても、相手が拒絶する間もない状態(いとまがない状態)などに乗じてわいせつな行為をすれば不同意わいせつ罪が成立することになりました。
これにより、着衣の上からでも、執拗で悪質な行為は不同意わいせつ罪と評価されやすくなっています。

不同意わいせつ罪で立件されましたが、迷惑防止条例違反に変えてもらうことはできますか?

可能性はあります。

罪名はまず検察官が判断し、最終的に裁判所が決定します。
弁護人が、その行為は不同意わいせつ罪の「わいせつな行為」とまではいえないことなどを主張し、迷惑防止条例違反への変更を求めることが考えられます。

罰金で終わる可能性が出てくるかどうかに関わる重要な点です。

相手が未成年でした。服の上から触っただけでも罪になりますか?

相手が16歳未満の場合、原則として同意の有無や着衣の上からかどうかにかかわらず、不同意わいせつ罪が成立しえます。

年齢を知らなかったという弁解が通るかは事案によります。
早めに弁護士に相談してください。

着衣の上からの痴漢でも逮捕されますか?

逮捕される可能性があります。

特に不同意わいせつ罪と評価される場合は、重大な犯罪として逮捕・勾留されやすくなります。
迷惑防止条例違反の場合でも逮捕されることはあります。

疑われた場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

着衣の上からの痴漢は、「服の上から触っただけだから軽い」とは限りません。
触れた部位や接触の強度・執拗さによっては、罰金刑のない重い不同意わいせつ罪に問われることがあり、2023年の刑法改正以降、その傾向は強まっています。

しかし、罪名は最初から固定されているわけではなく、弁護人が迷惑防止条例違反への引き下げを主張できる場合があります。
罪名が変われば、刑罰の見通しも示談の前提も大きく変わります。

当事務所では、着衣の上からの痴漢を含め、痴漢事件について、罪名の見通しと引き下げの主張、被害者との示談交渉、身柄解放まで対応しています。
「自分のケースはどちらの罪になるのか」「不同意わいせつ罪と言われたが争えないか」といったご相談からお受けしていますので、お早めにご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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