【この記事の結論・要約】
- 削除したデータは捜査機関の解析で復元されることが多く、削除したという事実自体が「証拠隠滅のおそれ」として逮捕・勾留の理由になり得ます。
- 自分の事件の証拠を自分で消しても証拠隠滅罪は成立しません。ただし、罪に問われないことと、不利益がないことは別です。家族が削除を勧めた場合も、通説によればその家族は罪に問われませんが、本人の立場を不利にします。
- すでに消してしまった場合は、復元される前提で正直に説明し、被害者への対応を急ぐことが最善の対応です。
はじめに
盗撮をしてしまった後、あるいは警察から連絡が来た後に、多くの方が真っ先に考えるのが「データを消せば、なかったことにできるのではないか」ということです。
結論から申し上げると、削除したデータは、捜査機関の解析によって復元されることが多く、しかも消したという事実そのものが、あなたの立場を不利にする可能性があります。
データの削除は、労力に見合わないどころか、逮捕や重い処分を招く可能性のある行動です。
この記事では、なぜ削除が危険なのか、自分の証拠を消すことが罪になるのか、そしてすでに消してしまった場合にどうすべきかを解説します。
盗撮がどの罪に当たるのかは、次の記事で整理しています。

削除しても復元されることが多い
スマートフォンやカメラから削除したデータは、画面上は消えても、記録媒体の中に痕跡が残っていることが多くあります。
捜査機関は、デジタルフォレンジックと呼ばれる解析手法によって、削除されたデータを復元します。
警察は科学捜査研究所のほか、専門の解析業者にも委託して大量の端末解析を行っており、削除済みデータの復元は、現在の捜査では一般的な手法です。
さらに、端末本体を消しても、次のような経路からデータや事実が明らかになることがあります。
- クラウドへの自動バックアップ
- パソコンなど他の機器への同期・保存
- 第三者に送信していた場合の送信履歴やメッセージアプリ上のデータ
「初期化したから大丈夫」「機種変更したから残っていない」と考える方もいますが、上記の経路が残っていれば意味がありません。
端末を捨てる、壊すといった行動は、後述するとおり、より強く証拠隠滅を疑わせるだけです。
自分で消しても証拠隠滅罪にはならない(ただし別の不利益がある)
法律の整理として、正確に押さえておくべき点があります。
証拠隠滅罪(刑法104条)は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅した場合に成立する犯罪です。
自分自身の事件の証拠を自分で消す行為は、この罪には当たりません。
したがって、盗撮をした本人が自分のデータを削除しても、それ自体で証拠隠滅罪に問われることはありません。
問題は、罪に問われないことと、不利益がないことはまったく別だという点です。
後述するとおり、削除は逮捕・勾留のリスクを高め、処分を重くする方向に働きます。
「罪にならないなら消しても損はない」という発想は、危険な誤解です。
そして、第三者が関わった場合についても触れておきます。
家族や知人が「消しておいたほうがいい」と勧め、本人がそれに従って削除した場合、勧めた側に証拠隠滅罪の教唆が成立するのかという問題があります。
この点は、本人の行為自体が犯罪にならない以上、それを勧めた第三者も罪には問われないと解するのが通説です(成立を認める見解もあります)。
もっとも、これで安心してよいわけではありません。
第三者が自ら本人の端末を操作してデータを消した場合には、他人の刑事事件の証拠を隠滅した行為として、その人自身に証拠隠滅罪が成立し得ます。
「勧めるだけなら罪にならない」と「代わりに消してあげる」の間には、大きな違いがあります。
そして何より、ご家族が削除を勧めれば、本人はその分だけ不利な立場に追い込まれます。
前記のとおり、削除は逮捕・勾留のリスクを高め、処分を重くする方向に働くからです。
ご家族が最初にすべきことは、削除を勧めることではなく、弁護士に相談することです。
削除がもたらす具体的な不利益
削除が実際に何をもたらすのかを整理します。
逮捕・勾留のリスクが上がる
身柄を拘束するかどうかは、逃亡のおそれと証拠隠滅のおそれの有無で判断されます。
データを消した事実が判明すれば、「この人物は証拠を隠す行動に出る」と評価され、在宅で済んだはずの事件で逮捕・勾留に至ることがあります。
身柄拘束が長引く可能性がある
削除データの復元・解析には時間がかかります。
捜査が終わるまで身柄拘束が続けば、その分、社会生活への影響も大きくなります。
処分が重くなる方向に働く
罪を免れるためにデータを消したという事情は、反省していないことのあらわれとして、検察官の処分判断や裁判官の量刑判断で不利に考慮され得ます。
削除しなかった場合より結果が重くなることもあり得ます。
捜査の範囲が広がる
データが見当たらないとなれば、捜査機関は端末だけでなく、パソコン、クラウド、通信履歴へと調査を広げます。
結果として、より多くの事実が明らかになります。
示談にも影響する
証拠を隠そうとした加害者という事実は、被害者の処罰感情を強めます。
示談交渉の入り口で不利に働くことは避けられません。
復元されたデータから余罪が発覚する
削除が招く結果として、実務上とりわけ大きいのが余罪の発覚です。
端末を解析すれば、削除されたものを含め、保存されていた過去の撮影データが明らかになります。
本人としては「今回の1件」のつもりでも、過去の撮影が多数見つかれば、常習性がある事案、被害者が複数いる事案として扱われ、処分は重くなる傾向があります。
さらに、余罪が判明すれば、示談すべき被害者もその分だけ増えます。
示談は被害者ごとに行うものなので、経済的な負担も一気に大きくなります。

すでに消してしまった場合はどうするか
では、もう消してしまった方はどうすればよいのか。
それは、復元される前提で、正直に説明し、被害者への対応を急ぐことです。
これ以上の削除・初期化・端末の処分をしない
追加の行動は、証拠隠滅の意図をより強く裏づけるだけです。今ある状態で止めてください。
取調べで嘘を重ねない
「消していない」「そんなデータはなかった」という説明は、解析結果と食い違ったときに、あなたの供述全体の信用を失わせます。
消したこと自体より、嘘をついたことのほうが、結果的に重い評価につながります。
消した理由(怖くなった、動転した)を含めて、事実を率直に説明するほうが、反省の姿勢として受け止められます。
出頭前に弁護士に相談する
何をどう説明するか、どの範囲を認めるか、示談をどう進めるか。
削除という不利な事情がある事案こそ、事前の準備の有無が結果を分けます。

被害者対応を急ぐ
削除によって失った信用を回復する最も有効な手段が、被害者への謝罪と示談です。
不利な事情がある事案ほど、示談の成否が処分を分けます。
同じく避けるべき行動
データの削除と同じく、証拠隠滅・逃亡のおそれと評価されやすい行動があります。
- 警察からの呼び出しを無視する、連絡を絶つ
- 引っ越しや旅行など、所在が把握しにくくなる行動をとる
- 被害者に直接接触して、被害届の取下げを求める
- 関係者に口裏合わせを頼む
いずれも、身柄拘束を招く典型的な行動です。
発覚後の行動は、すべて「反省しているか」「証拠を隠す人物か」という目で見られていると考えてください。

よくある質問(FAQ)
- スマホを初期化しました。それでも復元されますか。
-
復元される可能性は十分にあります。
初期化の方法や機種によって結果は異なりますが、記録媒体に痕跡が残ることは珍しくありません。
加えて、クラウドのバックアップ、パソコンへの同期、送信履歴といった別の経路からデータが判明することもあります。
初期化したこと自体が、証拠隠滅を疑わせる事情になる点にも注意が必要です。 - データを消しても罪にならないなら、消したほうが得ではないですか。
-
得にはなりません。
証拠隠滅罪には問われませんが、逮捕・勾留のリスクが上がり、処分が重くなる方向に働き、示談にも悪影響が及びます。
しかも復元される可能性が高く、隠し通せる見込みは乏しいのが実情です。削除は、リスクを増やす行動です。
- 家族に『消しておけ』と言われて消しました。家族は大丈夫ですか。
-
本人に証拠隠滅罪が成立しない以上、それを勧めたご家族も罪には問われないと解するのが通説です(成立を認める見解もあります)。
ただし、ご家族が自ら端末を操作してデータを消した場合は、その方自身に証拠隠滅罪が成立し得ます。また、罪の成否とは別に、削除により本人の立場が不利になることは避けられません。
経緯を含めて、早めに弁護士にご相談ください。 - 消したデータから余罪が出てきました。全部の被害者と示談が必要ですか。
-
示談は被害者ごとに行うものですが、どの範囲の被害者と示談すべきかは、立件されている事実や処分への影響を踏まえて判断します。
すべての余罪について同時に進めることが現実的でない場合もあり、優先順位を含めて弁護士と方針を決めることになります。 - 消したことを取調べで正直に言うべきですか。
-
嘘をつくことは避けるべきです。
もっとも、何をどこまで、どのように説明するかは、事案によって最適解が異なります。
黙秘権もあります。取調べの前に弁護士に相談し、説明の内容を整理してから臨むことをおすすめします。
まとめ
盗撮のデータ削除について、ポイントを整理します。
- 削除したデータは解析により復元されることが多い。クラウドや送信履歴など別の経路からも判明する。
- 自分の事件の証拠を自分で消しても証拠隠滅罪にはならないが、逮捕・勾留のリスクが上がり、処分は重くなる方向に働く。
- 家族が削除を勧めても、通説によればその家族に証拠隠滅罪の教唆は成立しない。ただし家族が自ら消せば別で、いずれにせよ本人の立場は不利になる。家族が最初にすべきは弁護士への相談。
- 復元データから余罪が発覚し、常習性や被害者複数として重く評価され、示談の負担も増える。
- すでに消してしまったら、追加の削除をせず、嘘を重ねず、出頭前に弁護士に相談して被害者対応を急ぐ。
当事務所では、盗撮事件について、取調べでの説明の整理から被害者との示談交渉まで対応しています。
データを消してしまった、消すべきか迷っているという段階でも構いません。行動を起こす前に、お早めにご相談ください。
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