痴漢の示談金はいくら?迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の相場を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 痴漢の示談金は罪名によって大きく変わり、迷惑防止条例違反で10〜50万円程度、不同意わいせつ罪で50〜150万円程度が一つの目安です。
  2. ただし、示談金は「相場どおり払えば成立する」ものではありません。被害者の処罰感情や精神的被害によって金額は大きく変動し、「お金の問題ではない」として示談に応じてもらえないこともあります。
  3. 金額が妥当かどうかの判断や、被害者との交渉を本人が行うのは困難です。弁護士に依頼することで、適正な内容での示談と、不起訴の可能性を高めることができます。

はじめに

痴漢をしてしまった場合、あるいはご家族が痴漢の当事者となった場合、多くの方がまず気にされるのが「示談金はいくらかかるのか」という点です。

示談は、痴漢事件において前科を回避し、身柄拘束を避けるための最も重要な手段です。
しかし、その金額には幅があり、罪名や事案の内容によって大きく変わります。
さらに重要なのは、示談は金額さえ用意すれば必ず成立するというものではない、という点です。

本記事では、痴漢の示談金の相場を罪名別に示したうえで、金額がどのように決まるのか、高額になるのはどのような場合か、法外な金額を請求されたらどうすべきか、そしてなぜ弁護士に依頼すべきなのかを解説します。

そもそも痴漢の「示談金」とは何か

示談金の正体は「慰謝料」

痴漢の示談金が何のお金なのかを理解すると、相場の考え方が見えてきます。

痴漢は、被害者に対する不法行為にあたります(民法709条・710条)。
そのため、被害者は加害者に対して、被った損害の賠償を請求する権利を持ちます。
痴漢の場合、その損害の中心となるのは、被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償、すなわち慰謝料です。

示談金とは、この慰謝料を中心とする損害賠償を、当事者間の話し合いで支払うことで解決するためのお金です。
この「精神的苦痛への賠償」という性質が、後で説明する相場の差を理解する鍵になります。

示談金に含まれるもの

示談金は、慰謝料だけで構成されるとは限りません。
痴漢によって被害者の衣服が破れた、被害をきっかけに通院が必要になったといった事情があれば、その実費(治療費など)も損害として加算されることがあります。

もっとも、痴漢事件の示談金は、慰謝料が大部分を占めるのが一般的です。

示談金を払うと何が得られるか

示談を成立させることには、加害者にとって大きな意味があります。

第一に、刑事手続上の有利な効果です。
被害者が処罰を望まない意思を示してくれれば、不起訴処分となって前科を回避できる可能性が高まります。
身柄を拘束されている場合は早期釈放につながり、仮に起訴された後でも、執行猶予や量刑の軽減につながりやすくなります。

第二に、民事上の解決です。
示談が成立すれば、後から被害者に民事訴訟を起こされて損害賠償を請求されるという事態も防げます。
刑事と民事の両面を一括して解決できるのが、示談の意義です。

痴漢の示談金の相場|罪名で大きく変わる

痴漢の示談金は、その行為がどちらの罪にあたるかによって、相場が大きく異なります。

迷惑防止条例違反の場合

比較的軽微とされる痴漢、たとえば衣服の上から臀部に触れるといった行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反にあたります。

この場合の示談金は、10万円〜50万円程度が一つの目安とされています。
30万円〜50万円程度で成立する例が多いとする見方もあります。
迷惑防止条例違反の法定刑(東京都の場合、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)の上限が、一つの目安として意識されることもあります。

不同意わいせつ罪の場合

下着の中に手を入れて直接触れる、性的な部位を執拗に触るといった悪質な痴漢は、不同意わいせつ罪(刑法176条)にあたります。

この場合の示談金は、50万円〜150万円程度が一つの目安とされています。
被害が特に重い場合には、150万円を超えることもあります。
不同意わいせつ罪は法定刑が6月以上10年以下の拘禁刑と重く、罰金刑がないため、加害者にとって示談の必要性が高いことも、金額に影響します。

なぜ罪名でこれほど差が出るのか

罪名によって示談金が大きく変わる理由は、示談金の中心が慰謝料、すなわち精神的苦痛への賠償だという点にあります。

直接肌に触れる、性的な部位に触れる、長時間にわたって執拗に触り続けるといった行為は、被害者が受ける精神的なショックが格段に大きくなります。
慰謝料はその苦痛の大きさに応じて高くなるため、結果として金額が上がります。

そして、こうした悪質な行為は不同意わいせつ罪に該当しやすいため、罪名と金額が連動するのです。
罪名が金額を決めているというより、行為の悪質さ(=被害者の苦痛の大きさ)が、罪名と金額の両方を同じ方向に動かしている、と理解するのが正確です。

罪名別の示談金の目安

罪名別の傾向を整理すると、次のとおりです。

※あくまで一般的な目安であり、個別の事案により金額は大きく変動します。

罪名示談金の目安典型的な行為の例
迷惑防止条例違反10〜50万円程度衣服の上から臀部・太ももに触れる、身体を押し付ける
不同意わいせつ罪50〜150万円程度(超える場合も)下着の中に手を入れて直接触れる、胸を揉む、執拗に触り続ける

示談金が高額になるケース

同じ罪名でも、次のような事情があると、示談金が相場より高額になる傾向があります。

被害者が重い精神的被害を負った場合

痴漢の被害をきっかけに、被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの深刻な精神的被害を負った場合、慰謝料は高額になりやすくなります。
「電車に乗れなくなった」「外出が怖くなった」など、日常生活に支障が生じているケースでは、その影響の大きさが金額に反映されます。

同一被害者への継続・複数被害者・常習の場合

同じ被害者に対して痴漢を繰り返した場合や、複数の被害者がいる場合、常習的に行っていた場合は、悪質性が高いと評価されます。
複数の被害者がいれば、それぞれと示談する必要があるため、示談金の総額も膨らみます。

被害者の処罰感情が特に強い場合

被害者の怒りや処罰を求める気持ちが強い場合、示談に応じてもらうために、より高い金額を提示せざるを得ないことがあります。

※いずれも傾向であり、具体的な金額は事案により異なります。

【重要】示談は「相場どおり払えば成立する」わけではない

ここが、多くの方が誤解しやすく、かつ最も重要なポイントです。
「相場の金額を用意すれば示談できる」と考えていると、現実とのギャップに直面することがあります。

金額が折り合っても被害者が応じないことがある

示談は、被害者の同意があって初めて成立します。
相手のいる手続きである以上、こちらが相場どおりの金額を提示しても、被害者が「お金の問題ではない」「加害者と関わりたくない」「許せない」と感じれば、示談は成立しません。

特に痴漢のような性的な被害では、被害者の処罰感情が強く、金額の多寡にかかわらず示談を拒まれることも少なくありません。

相場を押し付ける交渉は逆効果になりうる

「相場はこのくらいだから」と金額を押し付けるような交渉は、被害者の感情を逆なでし、かえって示談を遠ざけてしまいます。
痴漢の示談で重要なのは、金額以上に、謝罪の誠意と、被害者の心情に配慮した交渉の進め方です。

それでも示談を目指す価値(不成立時の次善策)

被害者がどうしても示談に応じてくれない場合でも、打つ手がなくなるわけではありません。

被害弁償として一定額の受け取りだけでも求めたり、それも拒まれる場合には、贖罪寄付(反省の証として公的機関等に寄付すること)や供託(被害者が受け取らない賠償金を法務局に預けること)といった方法で、反省と償いの意思を客観的に示すことができます。
これらは、検察官の処分判断において有利な事情として考慮されえます。

示談が成立しなくても、誠意を示す方法は残されているのです。

法外な示談金を請求されたら

被害者側から、相場を大きく超える高額な示談金を請求されることもあります。

過大な請求に安易に応じるべきでない理由

示談金には、罪名や行為態様、被害の程度に応じた適正な範囲があります。
動揺や恐怖から、提示された金額に何も考えずに応じてしまうと、本来支払うべき額を大きく超える負担を負うことになりかねません。

適正額の考え方

適正な示談金は、罪名(迷惑防止条例違反か不同意わいせつ罪か)、行為の態様、被害者が受けた精神的・身体的被害の程度などを総合的に考慮して検討します。
過去の同種事案の傾向も参考になります。

ただし「妥当額」への固執が示談不成立を招くこともある

ここは非常に判断が難しい点です。
加害者側にとって、示談の最大の目的は不起訴処分の獲得であることが多く、その場合、適正額にこだわりすぎて交渉が決裂してしまうと、かえって不起訴のチャンスを逃すことにもなりかねません。

「適正な金額に抑える」ことと「示談を成立させて不起訴を得る」ことは、ときに緊張関係に立ちます。
どちらをどの程度優先すべきかは、事案の見通し(起訴される可能性、求刑の重さなど)を踏まえた判断が必要です。

判断に迷ったら弁護士へ

過大な請求かどうかの見極めも、適正額と示談成立のバランスの判断も、専門的な知識と経験を要します。
請求額に迷ったら、応じる前に弁護士に相談することをおすすめします。

示談書に必ず入れるべき条項

示談は、口約束ではなく示談書という書面にして残します。
痴漢の示談書には、次の条項を盛り込むことが重要です。

宥恕条項(加害者を許す旨)

宥恕条項とは、被害者が加害者を許し、処罰を望まないという意思を明記する条項です
この条項があるかどうかは、不起訴処分を得られるかどうかに直結する、極めて重要な要素です。
単にお金を払うだけでなく、この宥恕を得られるかが示談の成否を分けます。

清算条項(示談以外に請求しない旨)

清算条項とは、示談書で定めた以外には、当事者間に何らの債権債務も存在しないことを確認する条項です。
これがないと、示談後に被害者から追加の金銭を請求されるなど、紛争が蒸し返されるおそれがあります。

接触禁止・口外禁止条項

加害者が今後被害者に接触しないことを約束する接触禁止条項や、示談の内容を第三者に漏らさない口外禁止条項を入れることもあります。

これらの条項を過不足なく備えた示談書を作成するには、専門的な知識が必要です。
当事者だけで作成した示談書は、必要な条項が欠けていて後でトラブルになることがあるため、弁護士に依頼することが安全です。

示談は弁護士に依頼すべき|本人交渉が困難な理由

痴漢の示談は、加害者本人が進めるのが現実的に困難です。
理由は次のとおりです。

被害者が本人・家族との接触を拒む

捜査機関は、加害者本人やその家族に対しては、被害者の連絡先を教えないのが通例です
被害者の安全やプライバシーを守るため、連絡先は弁護人に対してのみ伝えられます。
つまり、弁護士に依頼しなければ、そもそも被害者と連絡を取ること自体が難しいのです。

直接交渉は証拠隠滅を疑われ逮捕・勾留リスクを高める

仮に被害者の連絡先が分かったとしても、加害者本人が直接連絡を取ろうとすると、被害者への威迫や証拠隠滅を疑われ、逮捕・勾留のリスクを高めてしまいます。

適正額の見極めと有利な条項の確保

弁護士は、適正な示談金の見極め、宥恕条項をはじめとする有利な条項の確保、被害者の心情に配慮した交渉を行います。
これにより、示談を成立させつつ、不起訴につながる内容を整えることができます。

早く動くほど有利

示談は、早く動くほど有利になります。
検察官が起訴・不起訴を判断する前に示談を成立させることが理想です。
特に、警察から呼び出しを受けた段階で着手できれば、選択肢が広がります

呼び出しを受けた段階での対応については、別の記事で解説しています。

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よくある質問(FAQ)

痴漢の示談金はいくらくらいですか?

罪名によって大きく変わります。

迷惑防止条例違反にあたる比較的軽微な痴漢で10〜50万円程度、不同意わいせつ罪にあたる悪質な痴漢で50〜150万円程度が一つの目安です。

ただし、被害者の精神的被害や処罰感情によって大きく変動するため、相場どおりに決まるとは限りません。

なぜ罪名によって示談金が変わるのですか?

示談金の中心は、被害者の精神的苦痛に対する慰謝料です。
直接肌に触れる、性的な部位を執拗に触るといった悪質な行為ほど被害者の苦痛が大きく、慰謝料も高額になります。
こうした悪質な行為は不同意わいせつ罪にあたりやすいため、結果として罪名と金額が連動します。

相場どおりの金額を払えば必ず示談できますか?

できるとは限りません。

被害者が「お金の問題ではない」「会いたくない」として示談に応じないこともあります。
示談は金額だけで決まるものではなく、謝罪の誠意や交渉の進め方が重要です。

被害者の心情に配慮した交渉が必要になるため、弁護士に依頼することをおすすめします。

法外な金額を請求されています。払うしかないのでしょうか?

安易に応じる必要はありません。
示談金には罪名や行為態様に応じた適正な範囲があります。

一方で、不起訴を得るために示談を成立させたい場合、適正額に固執しすぎて交渉が決裂するとかえって不利になることもあります。
何を優先すべきかを含め、弁護士に相談して判断することをおすすめします。

示談すれば前科はつきませんか?

示談の成立、特に被害者が許す意思(宥恕)を示してくれれば、不起訴となって前科を回避できる可能性が高まります。
ただし、示談が成立すれば必ず不起訴になるわけではなく、行為の悪質性や前科の有無なども考慮されます。

自分で被害者と示談できますか?

現実には困難です。

捜査機関は、加害者本人やその家族には被害者の連絡先を教えず、弁護人にのみ伝えるのが通例です。
また、本人が直接連絡を取ろうとすると、証拠隠滅を疑われて逮捕・勾留のリスクが高まります。

示談交渉は弁護士に依頼するのが安全です。

まとめ

痴漢の示談金は、迷惑防止条例違反で10〜50万円程度、不同意わいせつ罪で50〜150万円程度が一つの目安ですが、これはあくまで目安にすぎません。
被害者の精神的被害や処罰感情によって金額は大きく変わり、そもそも金額が折り合っても示談に応じてもらえないこともあります。

痴漢の示談で本当に重要なのは、金額そのものよりも、被害者の心情に配慮しながら、不起訴につながる宥恕を得られるかどうかです。
そして、被害者との交渉や適正額の判断を本人が行うのは困難であり、早期に弁護士が介入することが、示談成立と前科回避の可能性を大きく高めます。

当事務所では、痴漢事件の示談交渉について、適正な金額の見極めから、被害者との交渉、不起訴につながる示談書の作成まで対応しています。
示談金の金額や進め方でお悩みの方は、お早めにご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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