【この記事の結論・要約】
- アダルトビデオは、トレントの開示請求・示談金請求の中で最も件数の多い類型であり、複数のメーカーから連続して請求が届くことが最も起きやすいジャンルです。1社目への対応を決める前に、過去の利用の全体像から今後の請求の見通しを立てることが、最も重要です。
- 示談には、1作品のみを対象とする「個別和解」と、同一メーカーの全作品を対象とする「包括和解」の2つの枠組みがあるとされています。包括和解をしても、その効力は当該メーカーの作品にしか及ばず、別のメーカーからの請求には効きません。この構造を理解しないまま示談をすると、想定外の追加負担が生じます。
- 提示される示談金の額は、権利者側が設定した金額であり、確定した債務ではありません。金額、支払方法、そして示談を行うタイミングは、いずれも交渉と設計の対象です。
はじめに
「プロバイダからの意見照会書に、アダルトビデオのタイトルが書かれていた」 「AVメーカーの代理人という法律事務所から、示談金を求める通知が届いた。1作品でこの金額なのか。他の作品の分も後から来るのか」
トレント(BitTorrent)に関する開示請求のうち、最も件数が多いのがアダルトビデオ(AV)に関するものです。
当事務所へのご相談でも、この類型が大きな割合を占めます。
AVの請求には、他のジャンルにはない特徴があります。
メーカーの数が多く、複数の会社から連続して請求が届きやすいこと。
示談に「個別和解」と「包括和解」という2つの枠組みがあり、その効力の範囲を誤解しやすいこと。
そして、内容が内容だけに、家族に知られたくないという切実な事情が加わることです。
本記事では、AVメーカーからの請求に固有の構造と、対応の設計を解説します。
示談金の相場と裁判所の損害額の算定、減額交渉の材料については、別の記事で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

なぜAV作品の請求がこれほど多いのか
AVに関する開示請求が多い背景には、構造的な理由があります。
第一に、メーカーの数です。
アダルトビデオの制作会社は多数存在し、その多くがトレント経由の違法アップロードに対して権利行使を行う方針をとっているとされています。
利用者から見ると、「どの作品をダウンロードしても、いずれかのメーカーの権利行使の対象になり得る」状態にあります。
第二に、検出と手続の環境です。
監視システムによるIPアドレスの検出が組織的に行われており、また、発信者情報開示命令の手続が利用しやすくなったことも、請求の増加につながっているとされています。
この状況が意味するのは、AVの請求は1通で終わらない可能性が高いということです。
請求の主体と書面の確認
AVメーカーからの請求は、メーカー本体の名義ではなく、メーカーが依頼した代理人の法律事務所の名義で届くことが多いとされています。
開示後の損害賠償の通知はもちろん、意見照会書の段階でも、申立人の代理人として法律事務所名が記載されていることがあります。
見覚えのない法律事務所名の書面が届くと詐欺を疑いたくなりますが、代理人名義での請求自体は通常の形です。
判断がつかない場合は、書面一式を持ってご相談ください。
また、権利者側の代理人の中には、個別の事情にかかわらず一律の基準額(1作品の和解と全作品の和解でそれぞれ定額)を提示する運用をとる事務所もあるとされています。
一律の提示だからといって、その金額が裁判所の認める損害額と一致するわけではありません(この点は別の記事で詳しく解説しています。)。

示談の構造|個別和解と包括和解
AVの示談を考える上で、最初に理解すべき枠組みがこれです。
実務上、示談には次の2つの形があるとされています。
| 枠組み | 対象の範囲 | 効力が及ぶ範囲 |
|---|---|---|
| 個別和解 | 請求を受けた1作品のみ | その1作品のみ。同じメーカーの別作品について、後から請求される可能性が残る |
| 包括和解 | そのメーカーの全作品 | そのメーカーの作品全体。ただし、別のメーカーからの請求には効力が及ばない |
ここで重要なのは、効力の範囲の二重の限界です。
第一に、個別和解は1作品限りです。
同じメーカーの別の作品をダウンロードしていた場合、その作品について後から追加の請求を受ける可能性が残ります。
第二に、包括和解であっても、効力はそのメーカーの作品までです。
「包括」という言葉から「これですべて終わる」と誤解されがちですが、別のメーカーからの請求は、まったく別の話として届きます。
つまり、「どの範囲の示談を、いくらで行うか」は、あなたの過去の利用の全体像(どのメーカーの、どの作品を、どれだけ利用したか)と照らし合わせて初めて、合理的に判断できるのです。
目の前の1通だけを見て決められる問題ではありません。
複数メーカーからの請求を前提に設計する
1章で述べたとおり、AVは複数のメーカーから連続して請求が届くことが最も起きやすいジャンルです。
トレントの利用が一定期間に及んでいた方は、複数請求を前提に対応を設計する必要があります。
最も避けるべき失敗は、1社目の請求に手持ちの資金を使い切ることです。
2社目、3社目の請求が届いた時点で交渉の余地を失い、最悪の場合、対応不能に陥ります。
設計の手順は次のとおりです。
- 過去の利用の全体像を整理する(利用期間、ダウンロードした作品とメーカーの範囲、利用の頻度)
- 今後の請求の可能性を見積もる(利用規模が大きいほど、複数請求の可能性は高くなります)
- 全体で対応可能な総額の枠を設定する
- その枠の中で、1社ごとの示談の範囲(個別か包括か)と金額の交渉方針を決める
支払能力に限りがある場合の考え方(減額・分割・総額の設計)は、別の記事で詳しく解説しています。

示談のタイミングの考え方
複数請求の可能性があるとき、「今すぐ示談すべきか、様子を見るべきか」という問題が生じます。
それぞれの考え方を整理します。
早期に示談する場合の利点は、確定の早さです。
対象範囲について民事訴訟や刑事告訴のリスクを早期に遮断でき、精神的な負担からも解放されます。
一方で、その後に別のメーカーからの請求が届いた場合、先行した示談の金額が全体の資金計画を圧迫することがあります。
時間をかけて見極める場合の考え方は、追加の請求がどこまで届くのかをある程度見極めてから、全体を踏まえた示談を行うというものです。
一方で、見極めの期間中も権利者側の手続は進み得るのであり、対応を放置してよいという意味ではありません。
交渉の窓口を維持しながらタイミングを設計することと、単なる放置とは、まったく別のものです。
どちらの進め方が適するかは、利用の規模、判明している請求の数、資金の状況、精神的な負担の許容度によって異なります。
定型的な正解はなく、事案ごとの設計が必要な局面ですので、方針を決める前にご相談ください。
家族・職場に知られたくない方へ
AVの請求で、金額と並んで、あるいはそれ以上に切実なのが、この問題です。
弁護士が窓口となることで権利者側からの連絡を遮断できること、訴訟前の示談で完結させることの意味、それでも防ぎきれない場面(プロバイダからの追加の照会など)とその備えについては、専用の記事で詳しく解説しています。
ご家族に知られたくない方や勤務先への影響が不安な方は、それぞれ以下の記事をご覧ください。


複数請求が起きやすいAVのケースでは、「同じ形の封筒がまた届く」可能性への備えが、秘匿の観点でも特に重要になります。
弁護士に依頼するメリット
- 全体設計:過去の利用の整理から今後の請求の見積もりまで行い、個別か包括か、いくらまでか、いつ示談するかを、場当たりでなく設計します。
- 示談範囲・金額の交渉:一律の提示額に対しても、実際の関与期間や利用規模に基づく交渉を行います(交渉材料の詳細は別の記事をご参照ください。※示談リライト記事へリンク)。
- 複数請求への一貫対応:2社目以降の請求にも、当初の設計に沿って一貫した方針で対応します。
- 秘匿への配慮:連絡窓口の一本化と連絡方法の調整により、ご家族・職場に知られにくい形で進行します。
よくある質問(FAQ)
- 見覚えのない法律事務所から通知が届きました。本物ですか?
-
AVメーカーからの請求は、代理人の法律事務所名義で届くことが多いとされており、法律事務所名義であること自体は不自然ではありません。
判断がつかない場合は、書面一式を持ってご相談ください。
- 包括和解をすれば、もう請求は来ないのですか?
-
そのメーカーからの請求は解決しますが、包括和解の効力は当該メーカーの作品までであり、別のメーカーからの請求には及びません。
複数のメーカーの作品を利用していた場合、包括和解の後でも、別のメーカーから新たな請求が届く可能性があります。 - 個別和解と包括和解、どちらを選ぶべきですか?
-
そのメーカーの作品をどれだけ利用していたかによります。
請求を受けた1作品しか利用していないのであれば個別和解で足りる一方、同じメーカーの複数作品を利用していた場合には、個別和解では追加請求の可能性が残ります。
利用の全体像を整理した上で、金額と範囲を比較して判断すべきですので、ご相談ください。 - 「示談金ビジネス」という言葉を見ました。払う必要はあるのですか?
-
大量の開示請求への不信感からそのような言葉が使われていますが、著作権侵害があった場合に権利者が損害賠償を求めること自体は、正当な権利行使です。
問題は、請求どおりの金額を支払う義務があるかどうかであり、これは別の話です。
提示額は権利者側の設定額であって、実際の関与期間や利用規模に基づく交渉の余地があります。
「払わない」でも「言い値で払う」でもなく、金額の妥当性を精査した上で対応することをお勧めします。 - 複数のメーカーから届いています。まとめて対応できますか?
-
できます。
むしろ、複数の請求を個別バラバラに対応することこそ避けるべきです。
全体の利用状況と資金の枠を踏まえて、各社との示談の範囲・金額・順序を一体で設計することで、総額を管理した解決が可能になります。 - 家族に知られずに解決できますか?
-
弁護士が窓口となることで、権利者側からの連絡が自宅に届く状態は解消でき、訴訟前の示談で完結させれば発覚の主要な場面を避けられます。
ただし、プロバイダからの追加の照会など、完全には防ぎきれない場面もあります。詳しくは、家族に知られたくない方向けの記事をご覧ください。 - 提示された金額を支払う資力がありません。
-
減額交渉、分割払いの交渉、複数請求を見込んだ総額の設計など、支払能力に応じた解決の組み立てがあります。
詳しくは、支払いが難しい場合の対応を解説した記事をご覧ください。
まとめ
AVメーカーからの請求への対応は、次の3点に集約されます。
第一に、複数のメーカーから連続して請求が届き得ることを前提に、1社目の対応を決める前に全体を設計すること。
第二に、個別和解と包括和解の効力の範囲(1作品まで/そのメーカーまで)を正確に理解し、自分の利用の全体像と照らして示談の範囲を選ぶこと。
第三に、提示額は権利者側の設定額であり、金額・支払方法・タイミングのすべてが交渉と設計の対象であることです。
当事務所では、AVメーカーからの開示請求・示談金請求について、利用状況の整理と全体設計、示談範囲と金額の交渉、複数請求への一貫対応、ご家族に知られない進行への配慮まで、一貫して対応しています。
1社目の対応を決める前に、まずはご相談ください。
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