【この記事の結論・要約】
- 「払えないから」と無視するのが最悪の選択です。放置すれば訴訟で金額が確定し、法定利率による遅延損害金が加算され続け、将来の収入(就職後の給与など)に対する強制執行のリスクが長期間残ります。
- 支払能力に応じた現実的な着地はあり得ます。減額交渉、分割払いの交渉、今後の請求も見込んだ総額の設計など、交渉の組み立て次第で「今の自分に払える形」に近づけることができます。
- やってはいけないのは、消費者金融などからの借入れで無理に一括払いすることと、提示された金額をそのまま受け入れることです。支払う前に、金額の妥当性と支払い方の両方を必ず検討してください。
はじめに
「トレントの件で示談金を請求されたが、学生でアルバイト代しかない。数十万円なんて払えない」 「無職で貯金もない。払えないなら、もう無視するしかないのか」
トレント(BitTorrent)の著作権侵害で権利者側から提示される示談金は、決して小さな金額ではありません。
収入の少ない学生の方や、無職・低収入の方にとって、「払えない」という現実は、法的な問題である以前に、生活の問題です。
しかし、「払えない」と「対応できない」は別の話です。
支払能力が乏しいことを前提にした交渉の進め方があり、逆に、払えないからと目をつぶることには、将来にわたる大きな代償が伴います。
本記事では、示談金を支払う資力に不安がある方に向けて、放置した場合に何が起きるのか、そして現実的にどのような解決の形があり得るのかを、弁護士が解説します。
なお、示談金の相場や減額交渉の考え方そのものは、別の記事で詳しく解説しています。

払えないまま放置すると何が起きるのか
まず、「払えないから放置する」という選択の先に何があるのかを、時系列で確認しましょう。
請求を無視し続けた場合、権利者側は損害賠償請求訴訟を提起することができます。
訴訟になれば、判決によって支払うべき金額が確定します。
交渉であれば考慮され得た事情も、判決では反映されるとは限らず、認容額に加えて法定利率による遅延損害金や、場合によっては訴訟費用の負担も生じます。
そして、判決が確定すると、権利者側は強制執行の申立てが可能になります。
預貯金や給与の一部が差押えの対象となり得るのです。
ここで重要なのは、「今、財産がない」ことは解決を意味しないという点です。
確定判決によって認められた債権の消滅時効は10年であり、判決時点で無資力でも、債務が消えるわけではありません。
学生であれば就職して給与を得るようになった頃に、無職の方であれば再就職した後に、差押えという形でリスクが現実化し得ます。
社会人としてのスタートを、給与差押えの通知とともに切ることになりかねないのです。
「払えない」問題の本質は、目の前の請求額ではなく、放置によってリスクが将来へ、より悪い条件で先送りされることにあります。
「示談金を払う」以外の道はあるのか
示談は法律上の義務ではありません。
示談とは、訴訟によらずに話し合いで解決するための合意であり、提示された金額を支払わなければならない法的義務が直ちにあるわけではないのです。
では、示談をしなければどうなるか。
その場合に引き受けることになるのは、上述した民事訴訟のリスクと、事案によっては刑事告訴のリスクです。
トレントによる違法アップロードは、著作権法上、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)の対象となり得る行為であり(著作権法119条1項)、示談による解決は、この刑事リスクを抑える意味も持っています。
つまり、選択肢は「言われた額を払う」か「無視する」かの二択ではありません。
①金額と支払方法を交渉した上で示談する、②事案の内容次第では、あえて示談せず訴訟リスクを引き受けるという判断も理論上はあり得ます。
ただし、②の判断は、請求の法的な強さ、想定される認容額、時効やログ保存期間、刑事リスクなどを総合的に評価して初めて成り立つものであり、「払えないから」という理由だけで自己判断するのは極めて危険です。
どちらの道を選ぶにしても、弁護士による事案の評価を経てからにしてください。


支払能力に応じた交渉の現実的な選択肢
その上で、多くの事案で現実的なのは、支払能力を踏まえた条件で示談をまとめる方向です。
具体的には、次の3つの組み立てがあります。
減額交渉
権利者側の当初提示額は、交渉の出発点にすぎません。
侵害の態様(作品数、利用期間、アップロードの規模)に照らした妥当な水準への減額を求める交渉は、この類型の基本です。
その際、支払う側の収入・資力の状況は、権利者側にとっても「回収の現実性」に関わる事情であり、交渉上の考慮要素になり得ます。
訴訟をしても回収が見込めない相手に対しては、現実的な金額での早期解決に合理性が生まれるからです。
資力が乏しいことは、隠すべき弱みであると同時に、誠実に開示すれば交渉材料にもなり得る、両面を持った事情なのです。
この見極めと伝え方こそ、弁護士が介入する意味のある部分です。
分割払いの交渉
一括での支払いが難しい場合、分割払いの合意を目指す交渉があり得ます。
権利者側が分割に応じる場合もあり、月々の支払額を収入に見合った水準に設定できれば、生活を壊さずに解決することができます。
ただし、分割の示談書には通常、支払いを怠った場合に残額を一括で請求できる条項(期限の利益喪失条項)が入ります。
無理な分割条件で合意すると、一度の遅れで一括請求に逆戻りしかねません。
「確実に払い続けられる金額」で合意することが、分割交渉の生命線です。
複数請求を見込んだ総額の設計
トレントを一定期間利用していた場合、複数の作品・複数のメーカーから、時間差で請求が届くことが少なくありません。
支払能力に限りがある方にとって、これは非常に重要な問題です。
目の前の1社に手持ちの資金をすべて使って示談してしまうと、2社目、3社目の請求が届いたときに、もう打つ手がなくなります。
1社ずつ場当たりで対応するのではなく、当時の利用の全体像から今後の請求の可能性を見積もり、総額としていくらまでなら対応できるのかを先に設計する。
資力に不安がある方ほど、この順序を守る必要があります。
【学生の方へ】親に頼るか、自力で解決するか
学生の方からのご相談で必ず問題になるのが、「親に知られたくない」「自力で何とかしたい」という思いです。
18歳以上の学生であれば、あなたは法律上の成人であり、示談の当事者はあなた自身です。
親に法的な支払義務はなく、親に頼るかどうかは、あくまであなたと家族の判断です(未成年の方の場合は法律関係が異なります。)。

その上で、現実的な選択肢は2つです。
1つ目は、アルバイト収入を前提とした分割払いで、自力での解決を目指す道です。
月々の支払可能額から逆算して交渉を組み立てることになりますが、上述した複数請求の見込みまで織り込むと、自力で完結できるかどうかは事案の規模によります。
2つ目は、早い段階で親に事情を話し、資金面の協力を得る道です。
話しにくいのは当然ですが、放置の末に訴状が実家に届く形で知られるのと、自分から説明して協力を求めるのとでは、家族関係へのダメージがまったく違います。
どちらの道が現実的かは、請求の規模と収入次第です。
親に知られずに手続を進める方法や、その限界については、別の記事で詳しく解説します。

【無職・収入がない方へ】資力がない場合の考え方
現在無職で、預貯金もほとんどないという方もいらっしゃいます。
たしかに、強制執行には法律上の限界があり、生活に不可欠な財産まで無制限に差し押さえられるわけではありません。
しかし、ここから「取られるものがないから放置でよい」と結論づけるのは危険です。
第一に、上述したとおり、債務そのものは消えず、遅延損害金とともに残り続けます。
再就職して収入を得た時点で、差押えのリスクは現実のものになります。
第二に、訴訟を放置すれば、金額を争う機会も、分割を交渉する機会も失ったまま、判決だけが確定します。
第三に、無資力を理由に民事での解決を拒み続けることは、権利者側に刑事告訴へ動く動機を与えかねません。
現在収入がないという事情は、上述したとおり、現実的な金額・条件での解決を引き出す交渉材料になり得ます。
資力がないことも踏まえて、どのように対応するか検討する必要があります。
やってはいけない3つのこと
- 消費者金融・カードローンからの借入れで一括払いすること:請求に応じるために高金利の借入れをすると、著作権の問題は消えても、より深刻な多重債務の問題が始まります。分割交渉など、借金をしない解決の道を先に尽くすべきです。提示額を「借金してでも今すぐ払うべき金額」だと思い込む必要はありません。
- 提示額を精査せずに支払うこと:資力に不安がある方ほど、1円の重みが違うはずです。金額の妥当性を検討しないまま、不安から支払いに応じることは避けてください。
- 無視・放置すること:本記事で繰り返し述べたとおり、放置は問題を「将来の、より不利な形」に先送りするだけです。
弁護士費用を払う余裕がない方へ
「示談金すら払えないのに、弁護士費用まで払えるはずがない」と考えて、相談自体を諦めてしまう方がいます。
その気持ちは当然ですが、判断の仕方を一つだけ変えてください。
比べるべきは「弁護士費用がかかるか、かからないか」ではなく、「最終的に出ていくお金の総額」です。
つまり、自分で対応した場合の支払額と、弁護士費用を払ってでも交渉した場合の(示談金+弁護士費用の)総額の比較です。
減額の幅、分割条件の現実性、そして複数請求への一括対応まで含めると、請求の規模が大きい事案や複数請求が見込まれる事案ほど、依頼した方が総額で下回る構造になりやすいといえます。
逆に、請求額や事案の内容によっては、費用をかけて依頼するまでもないケースもあります。
当事務所では、ご相談の段階で事件の方針や費用の見通しをお示しした上で、ご説明しています。
費用が心配な方こそ、まずご相談いただいた上で判断してください。
よくある質問(FAQ)
- 本当にお金がなく、1円も払えません。どうなりますか?
-
放置すれば、訴訟を経て金額が確定し、遅延損害金とともに債務が残り続けます。
確定判決による債権の時効は10年であり、将来収入を得た時点での差押えのリスクがあります。
今払えないことと、対応しないことは別です。資力がない事情を踏まえた減額・分割・支払時期の交渉など、現実的な着地を探る余地がありますので、諦める前にご相談ください。
- 分割払いにしてもらえますか?
-
権利者側が分割に応じる場合はあります。
ただし、分割の示談書には通常、支払いを怠ると残額を一括請求できる条項が入るため、無理のない金額で合意することが重要です。
月々の支払可能額の設定を含め、交渉の設計は弁護士にご相談ください。 - 学生でアルバイト収入しかありません。それでも示談できますか?
-
できる可能性はあります。
18歳以上であれば示談の当事者はあなた自身であり、収入に見合った分割条件などを交渉していくことになります。
ただし、複数の請求が続く可能性まで考えると、自力で完結できる規模かどうかの見極めが先です。親に相談するかどうかの判断も含めて、早めにご相談ください。
- 無職で財産もありません。差し押さえられるものがなければ、放置してよいですか?
-
お勧めできません。
強制執行に法律上の限界があるのは事実ですが、債務自体は遅延損害金とともに残り、再就職後に差押えのリスクが現実化します。
また、民事での解決を拒み続けることは、刑事告訴のリスクを高めかねません。収入がない事情は、むしろ現実的な条件での解決を引き出す交渉材料になり得ます。
- 借金してでも早く払うべきですか?
-
消費者金融やカードローンなど高金利の借入れによる一括払いは避けるべきです。
著作権の問題が解決しても、多重債務という新しい問題が始まります。
分割払いの交渉など、借金をしない解決の道を先に尽くしてください。 - 弁護士に依頼すると、かえって総額が高くなりませんか?
-
事案によります。
判断基準は「示談金+弁護士費用の総額」が、自分で対応した場合の支払額を下回るかどうかです。
減額幅や複数請求への一括対応まで含めると、規模の大きい事案ほど依頼が総額で有利になりやすい一方、依頼するまでもない事案もあります。当事務所では相談段階で費用の見通しをお伝えしていますので、その上でご判断ください。
まとめ
示談金が払えないという状況は、絶望ではなく、交渉の出発点です。
放置すれば、債務は遅延損害金とともに将来へ持ち越され、就職や再出発のタイミングで最も不利な形で現実化します。
逆に、資力が乏しいという事実を正しく開示し、減額・分割・総額の設計を組み合わせれば、今のあなたに払える形での解決に近づけることができます。
大切なのは順序です。
借金や場当たりの支払いで目の前の1通に対応する前に、事案全体の見通しと、あなたの支払能力に合った着地点を先に設計すること。
それが、資力に不安のある方にとっての最短の解決です。
当事務所では、収入や資力の状況を踏まえた減額・分割交渉、複数請求を見込んだ解決の設計まで一貫して対応しています。
費用の見通しはご相談の段階で明確にお示ししますので、「払えないから相談できない」と諦める前に、お早めにご相談ください。
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