【この記事の結論・要約】
- 店舗が組織的に金銭を要求する類型があり、実際に恐喝事件として摘発されています。個人が仕掛ける美人局とは、規模も手口も異なります。
- 請求された金額に法的な支払義務があるとは限りません。ただし「一切払わなくてよい」とも言い切れず、ご自身の刑事責任とは分けて考える必要があります。
- その場での支払いと書面への署名は避けてください。身の危険がある場合は、ためらわずに110番通報してください。
はじめに
メンズエステや風俗店の利用をめぐって、次のような金銭の要求を受ける事案が相次いでいます。
- 施術中にセラピストの身体に触れたところ、入店時に署名した誓約書を理由に高額な違約金を請求された
- キャストから本番行為を持ちかけられて応じたところ、後から「強要された」と主張され、示談金を要求された
- 利用した覚えのない店を名乗る人物から電話があり、被害を主張して金銭を求められた
- 支払うまで部屋から帰してもらえず、ATMに同行させられた
これらは、いずれも店舗が関与して組織的に行われている可能性がある類型です。
実際に、同様の手口で店の関係者が恐喝の疑いで逮捕された事案が報道されています。
この記事では、手口の全体像と、請求を受けたときにとるべき対応の流れを解説します。
個別の場面ごとの詳しい対応は、それぞれの記事で解説していますので、ご自身の状況に近いものをご覧ください。
なお、マッチングアプリやパパ活を入口とする類型を含む美人局全般については、次の記事で解説しています。

風俗店・メンズエステの美人局とは
「美人局」とは、本来、女性が男性を誘って関係を持ち、そこへ夫や関係者を装った人物が現れて金銭を要求する行為を指す言葉です。
近年問題となっているのは、これを店舗が組織的に行っているとみられる類型です。
報道された事案から、次の特徴が指摘できます。
- 主体が個人ではなく事業者である:店の従業員として稼働している女性が誘い、店の関係者が金銭を要求します。
- 誓約書や利用規約が口実に使われる:入店時に署名させた書面を根拠として、高額な金銭を請求します。
- 被害が反復される:同じ手口が繰り返されている事案も報道されています。
- 利用者が相談しにくい事情を利用している:家族や勤務先に知られたくないという心理が、支払いを迫る材料として用いられます。
なお、2023年7月の刑法改正により、強制わいせつ罪・強制性交等罪は不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に改められました。
この改正により、暴行や脅迫がなくても犯罪が成立し得ることになったため、「不同意わいせつになる」「不同意性交等罪で訴える」という言葉が脅し文句として用いられる事案が報道されています。
もっとも、この法改正によって被害が増加したかどうかを裏づける公的な統計は確認できていません。
本記事では、報道されている事案の内容に即して解説します。
手口の類型
報道や当事務所に寄せられるご相談から、おおむね次の類型に整理できます。
| 類型 | 主な業態 | 典型的な流れ |
|---|---|---|
| 誓約書型 | メンズエステ | 入店時に高額な違約金の定めのある誓約書に署名させ、密着したサービスを提供したうえで、接触した時点で金銭を要求する |
| 本番強要主張型 | デリヘル・ホテヘル等 | キャストが本番行為を持ちかけ、応じた客に対して事後に「強要された」と主張し、金銭を要求する |
| 架空請求型 | 業態を問わない | 実際には利用していない店、または利用した店を装った人物が、被害を主張して金銭を要求する |
| 監禁・同行型 | 業態を問わない | 支払うまで部屋や事務所から帰さず、ATMや消費者金融に同行させる |
いずれの類型でも、その場での即決を迫る点が共通しています。
「今払えば穏便に済ませる」「今日中でなければ警察に通報する」といった形で、検討する時間を与えないのが典型的な進め方です。
冷静に検討する時間があれば支払いに応じないと判断される可能性が高いことを、店側も理解しているためです。
誓約書を理由に違約金を請求された場合の対応は、次の記事で解説しています。

「本番を強要された」と言われ、罰金や示談金を請求された場合は、次の記事をご覧ください。

美人局を行う店に見られる傾向
被害に遭う前の段階で、注意すべき点を挙げます。
ただし、これらの特徴があれば必ず美人局であるというものではありません。
あくまで、報道された事案や相談事例に共通して見られる傾向です。
- 入店時に、内容の説明がないまま書面への署名を求められる
- 書面に、行為の内容に見合わない高額な違約金の定めが置かれている
- 事前に案内されていたサービスの内容と、実際の施術の内容が食い違う
- 料金体系や違約金の定めが、予約の段階で確認できる形で示されていない
- 接触した直後に、待機していたかのように男性スタッフが現れる
- 支払いを急がせ、その場での即決を迫る
書面への署名を求められた際に、内容を確認する時間を求めることは、正当な行為です。
その場で読ませない、質問に答えないという対応がとられた場合は、慎重に判断してください。
請求された金銭に支払義務はあるのか
店側は「罰金」という言葉を使うことが多いのですが、罰金は、刑事裁判で有罪判決を受けた場合に国に納める刑罰です(刑法9条は、罰金を主刑の一つとして定めています)。
私人や事業者が、他人に対して「罰金」を科すことはできません。
店が請求しているのは、誓約書や利用規約に基づく違約金、あるいは損害賠償です。
そして、違約金は損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。
そうである以上、その金額は、現実に生じ得る損害の程度に見合ったものである必要があります。
予定された賠償額が実際の損害と比べて著しく過大である場合、その超過部分は公序良俗に反するものとして無効とされることがあります(民法90条)。
したがって、署名した書面に金額が記載されているというだけで、その全額の支払義務が確定するわけではありません。
一方で、注意が必要な点もあります。
店に対する違約金の問題と、セラピストやキャスト本人に対する責任の問題は別です。
同意なく身体に触れた行為が不法行為(民法709条)にあたる場合、本人に対する慰謝料の支払義務が生じ得ます。
「一切払わなくてよい」と断定することはできません。
店側の行為はどんな犯罪にあたるのか
請求の態様によっては、店側の行為こそが犯罪にあたります。
| 犯罪 | 典型的な行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 恐喝罪(刑法249条) | 「警察に通報する」「会社に連絡する」などと脅して金銭を支払わせる | 10年以下の拘禁刑 |
| 恐喝未遂罪(刑法250条) | 脅して金銭を要求したが、支払われなかった | 同上 |
| 脅迫罪(刑法222条) | 金銭要求を伴わずに害悪を告知する | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 逮捕監禁罪(刑法220条) | 支払うまで部屋や事務所から帰さない。車に乗せて移動させる | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
| 強盗罪(刑法236条) | 反抗できない程度の暴行・脅迫を加えて金銭を奪う | 5年以上の有期拘禁刑 |
重要なのは、「訴える」「バラす」という言葉による脅しであっても犯罪になるという点です。
恐喝罪における脅迫は、身体への危害に限らず、自由や名誉に害を加える旨の告知でも足ります。
報道されている事案でも、金銭を要求した店側が恐喝罪の被疑者として扱われています。
誓約書が存在することは、店側の行為を正当化する根拠にはなっていません。
脅し文句の法的な評価と、その対応については、次の記事で詳しく解説しています。

自分自身が罪に問われる可能性
店側の行為が犯罪にあたり得ることと、ご自身に一切の責任が生じないこととは、別の問題です。
次の場合には、刑事責任が問題となります。
相手の同意がなかったとされる場合
行為の内容に応じて、不同意わいせつ罪(刑法176条)または不同意性交等罪(刑法177条)が問題となります。
2023年7月の刑法改正により、暴行や脅迫がなくても、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態に乗じた場合には、これらの罪が成立し得ることになりました。
「相手から誘ってきた」「拒む素振りがなかった」という事情は、それだけで同意があったことの証明にはなりません。
もっとも、当時の具体的なやり取りは、同意の有無を判断するうえで重要な事情です。
相手が18歳未満であった場合
対価を伴う性交等は、児童買春処罰法により処罰の対象となります。
撮影行為があった場合
相手に無断で撮影していた場合、性的姿態等撮影罪が問題となります。
これらの犯罪の成立要件や、捜査が始まった場合の対応については、次の記事で解説しています。



被害に遭ったときの対処の流れ
請求を受けた際にとるべき対応は、次の順序になります。
1 その場で支払わない、書面に署名しない
一度支払えば、店側は「支払う人物」として認識します。
名目を変えた請求が繰り返される事案が少なくありません。
また、金銭の支払いは、後ろめたい行為があったことを間接的に認めた事情として扱われるおそれがあります。
示談書、誓約書、借用書のいずれについても、その場で署名してはいけません。
「弁護士に相談してから回答します」と伝えてください。
2 身の危険がある場合は110番通報する
帰らせてもらえない、事務所に連れて行かれるという状況は、逮捕監禁罪にあたり得る場面です。
ATMや消費者金融への同行を求められている場合も含め、ためらわずに通報してください。
なお、成人がメンズエステや風俗店を利用すること自体は犯罪ではありません。
成人同士の行為であれば、客が売春防止法によって処罰されることもありません。
「自分も捕まるのではないか」という理由で通報をためらう必要はありません。
3 やり取りと店の情報を記録する
店名、所在地、予約に使った経路、電話番号、SNSのアカウント、名乗った人物の名前を控えてください。
通話は可能な限り録音し、LINEやメールのメッセージは削除せずに保存してください。
「見られたくない」という理由でやり取りを消してしまう方がいますが、これは逆効果です。
予約時のやり取りや請求を受けた際の会話は、ご自身の言い分を裏づける証拠になります。
4 弁護士に相談する
自分で交渉しようとすると、やり取りが録音されている前提で不利な材料を残すことになりかねません。
窓口を弁護士に移すことで、直接の連絡は止まります。
すでに支払ってしまった場合
支払ってしまった後でも、できることがあります。
最優先すべきは、追加の支払いを止めることです。
分割で支払いを続けている場合も、直ちに止めたうえで書面の効力を検討します。
そのうえで、支払った金銭の返還を求められる場合があります。
脅されて行った支払いは、強迫による意思表示として取り消すことができ(民法96条1項)、不当利得の返還(民法703条、704条)や不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として請求することになります。
もっとも、実際に回収できるかどうかは、相手を特定できるか、どのような方法で支払ったかによって大きく変わります。詳しくは次の記事で解説しています。

弁護士に相談するとどうなるか
- 店からの連絡が止まる:弁護士が受任通知を送付すると、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。深夜の電話や執拗な連絡から解放され、落ち着いて対応を検討できる状態になります。
- 支払義務の有無を整理できる:請求の根拠を確認し、法的な根拠のない請求は退けます。責任が生じ得る部分については、適正な内容で解決を図り、清算条項を備えた書面を作成することで以後の請求を封じます。
- 刑事責任のリスクに備えられる:店側やセラピスト・キャストが警察に被害を申告した場合でも、弁護士であれば弁護人として活動することが可能です。保全した証拠に基づいて主張を組み立て、不起訴処分や逮捕の回避を目指します。
- 家族や勤務先への発覚を防ぐ:弁護士は守秘義務を負っています。ご相談の内容が、無断で外部に漏れることはありません。店側に対しても、勤務先や家族への連絡が名誉毀損等として法的措置の対象になることを警告します。
この種の店舗は、警察沙汰・弁護士沙汰を最も嫌います。
狙いは、誰にも相談できず孤立した利用者から手早く金銭を得ることであり、弁護士が介入した時点で、その目論見は崩れます。
よくある質問(FAQ)
- メンズエステは風俗店ではないと聞きましたが、扱いは変わるのでしょうか。
-
メンズエステは、風営法上の性風俗特殊営業ではなく、リラクゼーション業として営業しているのが通常です。
この点で、デリヘル等の性風俗店とは法律上の位置づけが異なります。もっとも、店から金銭を要求された場合に、その請求に支払義務があるかを検討する枠組みは共通しています。
一方で、ご自身の行為について問題となる犯罪は業態によって異なりますので、業態ごとの記事もあわせてご覧ください。 - 誓約書にサインしていても、払わなくてよいのでしょうか。
-
署名していても、請求された金額をそのまま支払う義務があるとは限りません。
違約金は損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、著しく過大な部分は公序良俗に反するものとして無効とされる余地があります(民法90条)。ただし、店に対する違約金の問題と、セラピストやキャスト本人に対する責任の問題は別ですので、「一切払わなくてよい」と断定することもできません。
- 自分から触ってしまったのですが、それでも被害者と言えるのでしょうか。
-
ご自身の行為に責任が生じ得ることと、店側の金銭要求が犯罪にあたることは、別の問題です。
仮にご自身に何らかの責任があったとしても、脅して金銭を支払わせる行為が正当化されるわけではありません。両方の問題を切り分けて検討する必要がありますので、自己判断で支払いに応じる前にご相談ください。
- 警察に相談すると、自分が捕まるのではないでしょうか。
-
成人がメンズエステや風俗店を利用すること自体は犯罪ではなく、それを理由に処罰されることはありません。
身の危険がある場合は、ためらわずに110番通報してください。もっとも、店側が先に虚偽の被害申告をするおそれがある事案や、ご自身に刑事責任が生じ得る事案では、相談の仕方やタイミングについて判断が必要になります。
緊急の場合を除き、まず弁護士に相談することをおすすめします。 - 家族や勤務先に知られずに解決できますか。
-
弁護士は法律上の守秘義務を負っており、ご相談内容を無断で外部に漏らすことはありません。
受任通知を送付すれば、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。
ご家族に知られずに相談・依頼を進めることも可能です。もっとも、身分証を撮影された、勤務先を伝えたといった事情がある場合は、対応を急ぐ必要があります。
- 利用した店が美人局かどうか、どうすれば確かめられますか。
-
外形から確実に判断する方法はありません。
もっとも、書面の内容を確認させない、料金や違約金の定めを事前に示さない、接触の直後に待機していたかのようにスタッフが現れる、支払いを急がせるといった対応は、慎重に判断すべき材料になります。
すでに請求を受けている場合は、店名や請求の根拠を確認したうえで、弁護士にご相談ください。
まとめ
メンズエステ・風俗店の美人局について、ポイントを整理します。
- 店舗が組織的に金銭を要求する類型があり、実際に恐喝事件として摘発されている。誓約書型、本番強要主張型、架空請求型、監禁・同行型に整理できる。
- 店が請求する「罰金」は刑罰ではなく契約上の違約金である。違約金は損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、著しく過大な部分は無効とされる余地がある(民法90条)。
- 一方で、店に対する違約金と、セラピスト・キャスト本人に対する責任は別問題である。行為の内容によっては、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が問題となる。
- 「警察に通報する」「会社に連絡する」と告げて金銭を要求する行為は、恐喝罪等にあたり得る。支払うまで部屋や事務所から帰らせない行為は、逮捕監禁罪の問題となる。
- その場での支払いと書面への署名は避ける。身の危険がある場合は110番通報する。やり取りの記録は削除せず、証拠として保全する。
当事務所では、メンズエステ・風俗店をめぐる金銭要求について、店との交渉から、ご自身に刑事責任が生じ得る場合の弁護活動まで、一貫してお受けしています。
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