【この記事の結論・要約】
- 店が請求する「罰金」は刑罰ではなく契約上の違約金です。誓約書にサインしていても、請求された金額をそのまま支払う義務があるとは限りません。
- 「払わなければ警察に通報する」と告げて金銭を要求する行為は、恐喝罪等にあたる可能性があります。実際に、同様の手口で店舗の関係者が摘発された事例が報道されています。
- 一方で、ご自身の行為について責任が生じ得る場合もあります。その場での支払いと書面への署名は避け、まず弁護士に相談してください。
はじめに
「施術中にセラピストから密着したサービスを受け、誘われていると感じて身体に触れてしまった」「施術後に男性スタッフが部屋に入ってきて、『誓約書のとおり違約金を払え』と高額な金銭を要求された」「店を出た後、知らない番号から電話があり、『払わなければ警察に通報する』『会社に連絡する』と迫られている」
メンズエステの利用をめぐって、このような請求を受ける方が少なくありません。
請求を受けた方の多くは、自分に落ち度があると考え、誰にも相談できないまま判断を迫られています。
しかし、こうした請求の中には、当初から金銭を得ることを目的として仕組まれたものが含まれています。
実際に、同様の手口でメンズエステ店の関係者が恐喝の疑いで逮捕されたという事例が複数報道されています。
この記事では、誓約書にサインしていた場合の違約金の支払義務と、請求を受けたときの対処法について解説します。
美人局の手口全般については、次の記事で詳しく解説しています。

メンズエステでの高額請求の手口と「違約金」について
店が請求する「罰金」とは何か
店側は「罰金」という言葉を使うことが多いのですが、罰金は、刑事裁判で有罪判決を受けた場合に国に納める刑罰です(刑法9条は、罰金を主刑の一つとして定めています)。
私人や事業者が、他人に対して「罰金」を科すことはできません。
つまり、店が請求しているものの正体は、誓約書という契約に基づく違約金、または損害賠償です。
「罰金だと言われたから、支払わなければ犯罪になる」という前提は、そもそも成り立ちません。
もっとも、名称が「罰金」であっても「違約金」であっても、契約上の支払義務が生じる場合はあります。
名称の問題と、実際に支払義務があるかどうかは、別に検討する必要があります。
なぜ入店時に誓約書を書かせるのか
報道されている事案に共通するのは、入店時に誓約書へ署名させたうえで、女性従業員が密着したサービスを提供するという流れです。
「セラピストへのタッチ禁止」「違反行為には違約金を請求する」といった条項をあらかじめ承諾させておき、客が身体に触れた時点で責任者が現れ、誓約書を根拠に金銭を要求します。
違約金の額は事案によって幅がありますが、数十万円から100万円程度の定めが置かれていることが多く、その場で全額を支払うよう迫られます。
この手口が成立するのは、次の3つの心理を突いているためです。
- 自分でサインした以上、逃れられないという思い込み
- 自分から触れてしまったという負い目
- 家族や勤務先に知られることへの恐怖
「サインしてしまった」という一点で反論を諦めてしまう方が多いのですが、署名した書面の内容が、常にそのまま効力を持つわけではありません。
なお、メンズエステは、風営法上の性風俗特殊営業ではなく、リラクゼーション業として営業しているのが通常です。
そのため、店側が「本来は許されない行為をしたのだから支払え」と述べたとしても、その当否は、誓約書の条項の効力という観点から改めて検討する必要があります。
実際に摘発された事例
同様の手口は、実際に刑事事件として摘発されています。
都内のメンズエステ店の運営者らが、男性客から「違反金」名目で現金を脅し取ったとして恐喝の疑いで逮捕された事例をはじめ、複数の事件が報道されています。
報道されている事案には、共通する特徴があります。
入店時に高額な違約金を定めた誓約書へ署名させたうえで、女性従業員が密着したサービスを提供し、客が身体に触れた時点で店の関係者が現れて金銭を要求するという流れです。
被害が一件にとどまらず、同種の請求が繰り返し行われていた点も共通しています。
いずれの事案でも、金銭を要求した店側が恐喝罪の被疑者として扱われています。
誓約書が存在することは、店側の行為を正当化する根拠にはなっていません。
誓約書にサインしていても違約金を払う義務はあるのか
違約金は「損害賠償額の予定」と推定される
民法420条3項は、違約金は賠償額の予定と推定すると定めています。
違約金とは、本来であれば「どれだけの損害が生じたか」を立証して請求すべきところを、あらかじめ金額を決めておくものです。
そうである以上、その金額は、現実に生じ得る損害の程度に見合ったものである必要があります。
著しく過大な違約金は、超過部分が無効となり得る
予定された賠償額が、実際に生じる損害と比べて著しく過大である場合、その超過部分は公序良俗に反するものとして無効とされることがあります(民法90条)。
かつての民法420条1項後段には、裁判所は予定賠償額を増減することができないという規定が置かれていました。
しかし、この部分は2020年4月1日施行の改正民法で削除されています。 著しく過大な違約金については減額を認めてきた実務の取扱いに沿った改正です。
したがって、したがって、「誓約書に書いてある金額だから、裁判になってもその全額を支払わなければならない」という理屈は通りません。
請求された金額に説明がつくか
問題は、セラピストの身体に触れた行為によって、店にどれだけの損害が生じたのかという点です。
店側は、次のような説明をすることがあります。
- セラピストが精神的な負担を受け、出勤できなくなった
- 代わりの人員を手配する必要が生じた
- 店の信用が損なわれた
しかし、こうした説明について、具体的な裏づけが示されることはほとんどありません。
金額の根拠を尋ねても「誓約書に書いてあるから」以上の回答が返ってこない場合、その請求の合理性には疑問が残ります。
説明を受けないまま署名させられた場合
署名の経緯そのものを争える場合もあります。
- 薄暗い部屋に通され、文字が読めない状態で署名を求められた
- 細かい文字が並んでおり、目を通す時間が与えられなかった
- 違約金の条項について、一切の説明がなかった
こうした事情は、そもそも違約金について合意が成立していたといえるのかを争う材料になり得ます。
なお、店舗が事業者、利用者が消費者にあたる場合には、消費者契約法による規制(同法9条、10条)が及ぶかどうかも論点となります。
ただし、この類型に同法をどこまで適用できるかについては議論の余地があるため、実際の事案では個別に検討することになります。
店への支払義務とセラピスト本人への責任は別問題
ここが、最も誤解されやすい点です。
「支払義務があるかどうか」という問題には、性質の異なる2つの問題が含まれています。
| 内容 | 検討すべき点 | |
|---|---|---|
| 店に対する違約金 | 誓約書という契約に基づく請求 | 金額の合理性、合意の成立、条項の効力 |
| セラピスト本人に対する損害賠償 | 同意なく身体に触れた行為が不法行為(民法709条)にあたる場合の慰謝料 | 実際に同意がなかったといえるか、慰謝料としての相当額 |
つまり、つまり、店への違約金の支払義務は否定できても、セラピスト本人に対する責任がまったく生じないとは限りません。
一方で、次の点も重要です。
店は、セラピスト個人の慰謝料請求権を、当然に行使できる立場にはありません。
セラピストから債権の譲渡を受けているといった事情がない限り、店が「セラピストの慰謝料」という名目で金銭を請求する法的な根拠は明らかではありません。
また、店が報酬を得る目的で第三者(セラピスト)の権利に関する示談交渉を行っているとすれば、弁護士法72条との関係も問題になり得ます。
実際の解決では、店の言い値を支払うのではなく、責任が生じ得る範囲について、セラピスト本人との間で適正な内容の示談を成立させることが、事態を収める道筋になる場合があります。
支払いを拒んだ場合、自分が罪に問われるのか
不同意わいせつ罪に問われる可能性
2023年7月の刑法改正により、従来の「強制わいせつ罪」は「不同意わいせつ罪」に改められました(刑法176条)。 この改正により、暴行や脅迫がなくても犯罪が成立し得ることになりました。
刑法176条1項は、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせ、あるいはその状態に乗じてわいせつな行為をした場合に、この罪が成立すると定めています。
その原因となる事由として8つの類型が挙げられていますが、メンズエステの事案で問題になりやすいのは次の2つです。
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと(同項5号):相手が拒む間もないまま、不意に身体に触れた場合
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、又は驚愕させること(同項6号):施術を受けに来た客から、突然わいせつな行為をされた場合
法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑で、罰金刑がありません。
起訴されれば、書面のみで終わる略式手続は使えず、公開の法廷での正式裁判となります。

行為の内容によっては不同意性交等罪となる
身体に触れた程度にとどまらず、性交等に至った場合には、不同意性交等罪(刑法177条)が問題となります。
ここでいう「性交等」には、性交のほか、肛門性交、口腔性交、そして膣または肛門に身体の一部(陰茎を除く)や物を挿入する行為が含まれます。
指を用いた行為も含まれるため、身体に触れたにとどまるのか、挿入行為があったのかによって、問われる罪名が変わります。
成立の要件は不同意わいせつ罪と共通しており、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせ、あるいはその状態に乗じて性交等をした場合に成立します。
大きく異なるのは法定刑です。
不同意性交等罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑で、不同意わいせつ罪より格段に重くなっています。
執行猶予は3年以下の拘禁刑が言い渡された場合にしか付けることができないため、酌量減軽等がなければ執行猶予の余地がありません。
店側が「不同意性交等罪で訴える」と告げてくる場合、その言葉が指しているのは、このように重い罪です。
だからこそ、脅し文句として使われやすいともいえます。
もっとも、実際にどの罪が問題になるのかは、行為の内容と当時の状況によって決まります。
相手の言い分をそのまま前提にする必要はありません。

「相手から誘ってきた」ことは同意の証明になるか
「セラピストの方から密着してきた」「拒む素振りがなかった」という事情は、多くの方が「だから同意があったはずだ」と考える点です。
しかし、それだけで同意があったことが証明されるわけではありません。
一方で、当時の具体的なやり取りが、同意の有無を判断するうえで重要な事情であることも確かです。
問題は、施術室という密室での出来事であり、客観的な証拠が乏しいことにあります。
店側が録音を用意している場合もあれば、店側の説明が事実と異なる場合もあります。
この見極めには、法的な判断が必要です。
それでも店の要求に応じることが解決にならない理由
自分に非があるかもしれないと考えると、「払って終わりにしたい」という気持ちが働きます。
しかし、支払いは解決になりません。
- 行為があったことを認めた事情として扱われるおそれがある: 後に事実関係を争う場面で、不利に働く可能性があります。
- 清算条項や宥恕の定めのない支払いは、法的には何も解決していない:支払った後に、改めて被害届を出されることもあり得ます。
- 一度支払えば、名目を変えて要求が続くことがある:「セラピストの通院費」「示談金の残り」といった形で、請求が繰り返される事案があります。

店側の行為はどんな犯罪にあたるのか
請求の態様によっては、店側の行為こそが犯罪にあたります。
| 犯罪 | 典型的な行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 恐喝罪(刑法249条) | 「払わなければ警察に通報する」「会社に連絡する」などと脅して金銭を支払わせる | 10年以下の拘禁刑 |
| 恐喝未遂罪(刑法250条) | 脅して金銭を要求したが、支払われなかった | 同上 |
| 脅迫罪(刑法222条) | 金銭要求を伴わずに害悪を告知する | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 逮捕監禁罪(刑法220条) | 支払うまで部屋や事務所から帰さない、ATMに同行させる | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
| 強盗罪(刑法236条) | 反抗できない程度の暴行・脅迫を加えて金銭を奪う | 5年以上の有期拘禁刑 |
ポイントは、「訴える」「バラす」という言葉による脅しであっても犯罪になるという点です。
恐喝罪における脅迫は、身体への危害に限らず、自由や名誉に害を加える旨の告知でも足ります。
「勤務先に連絡する」と告げて義務のない金銭の支払いを要求する行為は、正当な権利行使の範囲を超えるものとして、恐喝罪(要求段階でも恐喝未遂罪)に該当し得ます。
また、支払うまで部屋から出さない、事務所やATMに同行させるといった対応がとられた場合には、逮捕監禁罪が問題となります。
身の危険を感じる状況であれば、その場で110番通報してください。
絶対にやってはいけないNG行動
その場でお金を支払う
「今すぐ払えば警察には言わない」「手付金だけでも払え」と言われても、支払ってはいけません。
- 「行為を認めた」という既成事実になる:金銭の支払いは、後ろめたい行為があったことを間接的に認めた証拠として利用されるリスクがあります。
- 返還請求が困難:一度支払ってしまった金銭の返還は、法的に不可能ではありませんが、非常に手間がかかります。相手が素性の明らかでない人物である場合、回収自体が困難になることもあります。
示談書・誓約書・借用書にサインする
名称を問わず、その場で示された書面に署名してはいけません。
「セラピストの身体に触れたことを認め、違約金として○○円を支払います」といった文言が含まれていれば、後に争う際、強力な証拠として使われます。
その場では「弁護士に相談してから回答します」と伝えてください。
その場から逃げ出す
不用意にその場を離れることは避けてください。 店側が「客が従業員に性的な行為をして逃げた」という形で被害を申告する口実を与えかねません。
「支払いには応じられない」「後日、弁護士から連絡します」と伝えることを優先してください。
やり取りを削除する
「家族に見られたくない」という理由で、店とのやり取りを消してしまう方がいます。しかし、これは逆効果です。
予約時のやり取り、施術中の経緯、請求を受けた際の会話は、あなたの言い分を裏づけ、相手の恐喝を立証するための有効な証拠となる可能性があります。
絶対に消さないでください。
自分で交渉して解決しようとする
「話せば分かってもらえる」と考えて、自分で店と交渉する方がいます。
しかし、やり取りは録音されている前提で考えるべきです。
動揺の中での不用意な発言や、事実と異なる弁解は、後に不利な材料として残ります。
請求を受けた直後の正しい対処法
支払いを保留し、直接のやり取りを止める
「支払いには応じられません。今後は弁護士を通じて対応します」と伝え、それ以降は応答しないでください。
店側は、深夜の電話や執拗な連絡によって判断力を奪おうとします。
ただし、完全に着信を拒否するかどうかは状況によります。
相手が勤務先に連絡する素振りを見せている場合など、あえてブロックせずに「相手の脅迫的な連絡を証拠として受信し続ける(返信はしない)」という対応をとることもあります。
具体的な場面でどうすべきかは、弁護士にご相談ください。
証拠を保全する
以下の情報を、可能な限り集めて保存してください。
- 店の情報:店名、所在地、予約に使ったサイトやSNSのアカウント、担当者の名前
- 誓約書:写真を撮っていればその画像。手元にない場合は、記憶している内容をメモに残す
- 施術の経緯:入店から退店までの時系列、どのようなサービスがあり、どの時点で何をしたか
- 請求の状況:請求された金額、その根拠として説明された内容、請求してきた人物
- やり取りの記録:電話番号、LINE、メールの履歴。通話は可能な限り録音する
- 支払いの記録:すでに支払った場合は、振込明細、ATMの利用明細、借入の記録
特に、セラピスト側から積極的に密着してきた経緯や、支払うまで帰らせてもらえなかった事実は、後の主張を支える重要な要素になります。
記憶は時間とともに薄れます。
可能な限り早い段階で、メモの形で残しておいてください。
弁護士に相談する
集めた資料をもとに、店に対する支払義務の有無と、ご自身に刑事責任が生じ得るかを整理します。
そのうえで、請求を争うのか、示談による解決を目指すのか、警察に相談するのかといった方針を決めます。
弁護士に依頼するメリットと解決への流れ
店からの連絡・請求が止まる
弁護士が受任通知を送付すると、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。
深夜の電話や執拗な連絡から解放され、落ち着いて対応を検討できる状態になります。
支払義務の有無を法的に整理できる
「誓約書にサインしたから払うしかない」という思い込みを、条文と法的な枠組みに沿って検討し直します。
法的根拠のない請求は退けたうえで、支払義務が生じ得る部分については、適正な金額と内容で解決を図ります。
清算条項や口外禁止の定めを備えた書面を作成することで、以後の請求を封じます。
刑事責任のリスクに備えられる
万が一、店側やセラピストが警察に被害を申告した場合でも、弁護士であれば弁護人として活動することが可能です。
保全した証拠に基づいて主張を組み立て、不起訴処分や逮捕の回避を目指します。
逮捕されてから弁護士を探すのではなく、請求を受けた段階で相談しておくことで、早期に対応することが可能になります。
家族や勤務先への発覚を防ぐ
弁護士は守秘義務を負っています。 ご相談の内容が、無断で外部に漏れることはありません。
また、店側に対しても、「勤務先や家族に連絡すれば、名誉毀損や業務妨害等として法的措置の対象になる」と警告することで、被害が周囲に広がるリスクを抑えることができます。
もっとも、身分証を撮影された、勤務先を伝えてしまったといった事情がある場合には、対応を急ぐ必要があります。
警察に相談すべきか
店側の行為が恐喝等にあたる以上、警察に相談・被害届の提出をすることは正当な対処法の一つです。
特に、店から帰らせてもらえない、ATMへの同行を求められているなど、身体に危害が及ぶおそれがある場合は、ためらわずに110番通報してください。
もっとも、実際には、次のような理由で警察への相談をためらう方が少なくありません。
- メンズエステの利用について警察に話すことに抵抗がある
- 「自分から触れたのだから相手にされないのではないか」と不安になる
- 警察に届け出たことで、かえって家族や勤務先に知られないか心配
この点、成人がメンズエステを利用すること自体は犯罪ではなく、それを理由に警察があなたを処罰することはありません。
ただし、警察に的確に対応してもらうためには、「これは違約金を口実とした恐喝である」ということが分かる証拠を整理したうえで相談することが重要です。
証拠が不十分なまま相談すると、「当事者間の金銭トラブル」として扱われ、積極的に動いてもらえないこともあります。
また、店側が先に虚偽の被害申告をするリスクがある事案や、ご自身にも刑事責任が生じ得る事案では、警察への相談の仕方やタイミング自体が慎重な判断を要します。
そのため、緊急の危険がある場合を除き、まず弁護士に相談して証拠と法的な整理を行ったうえで、必要に応じて弁護士のサポートを受けながら警察に相談する、という順序をおすすめします。
すでにお金を払ってしまった場合
「怖くてその場で払ってしまった」「既に振り込んでしまった」という方も、諦める必要はありません。
第一に、追加の要求には応じないでください。
一度支払った相手は「支払う人物」と認識されており、放置すれば要求は続きます。
第二に、支払ってしまった金銭の返還を請求できる可能性があります。
脅されて行った支払いは、強迫による意思表示として取り消すことができ(民法96条1項)、不当利得の返還(民法703条・704条)や不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として、返還を求めることができます。
振込履歴や脅迫的なやり取りが残っていれば、それが請求の証拠になります。
第三に、支払い済みであることは、被害届の提出の妨げになりません。
むしろ、現実に金銭を交付してしまった以上、相手の行為は恐喝未遂ではなく恐喝罪の既遂として、より重く評価され得ます。
もっとも、相手が回収困難な人物であるケースも多く、返還請求にどこまでコストをかけるべきかは費用対効果の見極めが必要です。
「これ以上の支払いを止める」ことを最優先に、回収の可否を含めた方針を弁護士と一緒に検討しましょう。
解決までの一般的な流れ
弁護士に依頼した場合の、解決までの一般的な流れは以下のとおりです。
- 法律相談(状況・証拠の確認):施術に至る経緯、接触の有無と態様、請求を受けた状況を確認し、店に対する支払義務の有無と、ご自身の刑事責任のリスクを整理します。
- 方針決定:「請求を争う」「受任通知を送って窓口を弁護士に一本化する」「セラピスト本人との示談を目指す」「警察に被害相談や刑事告訴を行う」など、事案に応じた方針を決めます。
- 弁護士による対応:受任通知の送付後は、店からの連絡はすべて弁護士が対応します。法的根拠のない請求であることを指摘し、要求の停止を求めます。
- 解決:多くの事案では、弁護士の介入により店側が請求を断念する形で終結します。請求が続く場合は、警察への被害届提出や刑事告訴に進みます。
この種の店舗は、警察沙汰・弁護士沙汰を最も嫌います。
狙いは「誰にも相談できず孤立した利用者」から手早く金銭を得ることであり、弁護士が介入した時点で、その目論見は崩れるためです。
よくある質問(FAQ)
- 入店時に「セラピストに触ったら違約金を支払う」という誓約書にサインしました。書いてあるとおりの金額を払わなければいけませんか。
-
署名していても、請求された金額をそのまま支払う義務があるとは限りません。
違約金は損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、その金額は現実に生じ得る損害に見合ったものである必要があります。
著しく過大な部分は、公序良俗に反するものとして無効とされる余地があります(民法90条)。ただし、店に対する違約金の問題と、セラピスト本人に対する責任の問題は別ですので、事案ごとに検討が必要です。
- セラピストの方から密着してきたので、誘われていると思って触りました。それでも私の行為は犯罪になるのでしょうか。
-
誘われたと感じたというだけでは、同意があったことの証明にはなりません。
2023年7月の刑法改正により、暴行や脅迫がなくても不同意わいせつ罪が成立し得ることになったため、拒む間もないまま不意に触れた場合などが問題となります。
行為が性交等に至っていた場合には、より法定刑の重い不同意性交等罪が問題となります。
もっとも、当時の具体的なやり取りは、同意の有無を判断するうえで重要な事情です。密室での出来事であり、証拠の評価が難しい類型ですので、自己判断で結論を出さず、弁護士にご相談ください。
- 「払わなければ警察に通報する」と言われています。本当に通報されるのでしょうか。
-
可能性は否定できません。
ただし、通報すると告げて義務のない金銭を要求する行為自体が、恐喝罪にあたり得ます。
実際に、同様の手口でメンズエステ店の関係者が恐喝の疑いで摘発された事例が報道されています。一方で、ご自身の行為について責任が生じ得る場合もあるため、「通報されても問題ない」と単純に考えることはできません。
- 支払うまで部屋から帰してもらえず、ATMまで連れて行かれました。これも犯罪になりますか。
-
支払うまで帰らせない、ATMや消費者金融に同行させるといった行為は、逮捕監禁罪(刑法220条)にあたる可能性があります。
金銭を交付させた点については、恐喝罪が問題となります。同行を求められている最中で身の危険を感じる場合は、その場で110番通報してください。
- 怖くなって、その場で30万円だけ払ってしまいました。もう手遅れでしょうか。
-
手遅れではありません。
強迫を受けて行った意思表示は取り消すことができ(民法96条1項)、不当利得の返還(民法703条・704条)や不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として、返還を求められる可能性があります。
ただし、相手の資力や素性によっては、実際の回収に困難が伴うこともあります。
まずは追加の支払いを止めることを最優先に考えてください。 - 妻や勤務先に知られたくありません。知られないまま解決することはできますか。
-
弁護士は法律上の守秘義務を負っており、ご相談内容を無断で外部に漏らすことはありません。
受任通知を送付すれば、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。ご家族に知られずに相談・依頼を進めることも可能ですので、連絡方法等のご希望があれば遠慮なくお申し付けください。
もっとも、身分証を撮影された、勤務先を伝えたといった事情がある場合は、対応を急ぐ必要があります。
まとめ
メンズエステでの違約金請求について、ポイントを整理します。
- 店が請求する「罰金」は刑罰ではなく契約上の違約金である。誓約書に署名していても、その全額の支払義務が認められるとは限らない。
- 違約金は損害賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、著しく過大な部分は公序良俗に反するものとして無効とされる余地がある(民法90条)。
- 店に対する違約金と、セラピスト本人に対する損害賠償は別問題であり、後者については責任が生じ得る場合がある。
- 行為の内容によっては、不同意わいせつ罪のほか、より法定刑の重い不同意性交等罪が問題となる。
- 「払わなければ警察に通報する」と告げて金銭を要求する行為は恐喝罪等にあたり得る。支払うまで帰らせない、ATMに同行させる行為は逮捕監禁罪の問題となる。
- その場での支払いと書面への署名は避ける。やり取りの記録は削除せず、証拠として保全する。
当事務所では、メンズエステや風俗店をめぐる金銭要求について、店との交渉から、ご自身に刑事責任が生じ得る場合の弁護活動まで、一貫してお受けしています。
支払いを保留したまま、お早めにご相談ください。
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