【この記事の結論・要約】
- 「警察に通報する」「会社に連絡する」と告げて金銭を要求する行為は、それ自体が恐喝罪にあたり得ます。仮に店側に何らかの請求権があったとしても同じです。
- 実際に通報や連絡をすることは、店側にとってもリスクの高い行為です。もっとも、絶対に実行されないと断定することはできません。
- 身分証を撮影された、勤務先を伝えてしまったという場合は、対応を急ぐ必要があります。支払いに応じる前に、弁護士にご相談ください。
はじめに
風俗店やメンズエステから金銭を要求される際、次のようなことを言われることがあります。
- 「払わなければ警察に通報する。逮捕されてもいいのか」
- 「明日、会社に電話する。免許証は撮ってある」
- 「奥さんに全部話す。番号は分かっている」
- 「SNSに顔と名前を出す」
このような場面で、多くの方が請求額の当否を考える余裕を失います。
問題は金額ではなく、知られることそのものだからです。
店側は、まさにその点を狙って支払いを迫っています。
しかし、こうした脅し文句を告げて金銭を要求する行為は、それ自体が犯罪にあたり得ます。
この記事では、脅し文句がどのように評価されるのか、そして応じる前に何をすべきかを解説します。

店が使う脅し文句と、その意図
実際に用いられる文言は、おおむね次の類型に整理できます。
| 類型 | 具体的な文言の例 |
|---|---|
| 警察への通報 | 「不同意わいせつで通報する」「前科がつくぞ」 |
| 勤務先への連絡 | 「会社に電話する」「取引先にも知らせる」 |
| 家族への連絡 | 「奥さんに話す」「実家に行く」 |
| ネットへの投稿 | 「SNSに晒す」「顔写真を上げる」 |
| 自宅への訪問 | 「住所は分かっている」「家まで行く」 |
いずれも、その場での即決を迫るために用いられている点が共通しています。
「今払えば黙っている」「今日中でなければ通報する」といった形で、時間的な余裕を与えないのが典型的な進め方です。
冷静に検討する時間を与えれば、支払いに応じないと判断される可能性が高いことを、店側も理解しているためです。
脅し文句を告げて金銭を要求する行為は犯罪になる
恐喝罪(刑法249条)にいう脅迫は、身体への危害を告げるものに限られません。
自由、名誉、財産に害を加える旨を告知することでも足ります。
勤務先や家族に知らせる、ネットに投稿するといった内容も、これにあたり得ます。
問題は、店側が「規約違反があった」「セラピストに被害を与えた」と主張している場合です。
何らかの請求権があるのだから、支払いを求めることは正当な権利行使ではないか、という反論が考えられます。
この点について、最高裁判所は次のように判示しています(最高裁判所第二小法廷昭和30年10月14日判決・刑集9巻11号2173頁)。
「他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする」
この事案は、債権の取立てに際し、債務者が要求に応じなければ身体に危害を加えるような態度を示して6万円を交付させたというものです。
同判決は、この手段について次のように述べています。
「権利行使の手段として社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱した手段であることは論なく、従って、原判決が右の手段によりBをして金六万円を交付せしめた被告人等の行為に対し、被告人AのBに対する債権額のいかんにかかわらず、右金六万円の全額について恐喝罪の成立をみとめたのは正当であつて、所論を採用することはできない」
つまり、債権額がいくらであったかにかかわらず、交付させた金額の全額について恐喝罪が成立するとされています。
これは債権の取立てに関する事案であり、風俗店の事案ではありません。
もっとも、ここで示された判断の枠組みは、店側が請求権を主張して金銭を要求する場面にも当てはまります。
仮に店側に何らかの請求権があったとしても、その金額の範囲内であれば何をしてもよい、ということにはなりません。
手段が度を超えていれば、支払わせた金額の全額について恐喝罪の問題が生じ得ます。
なお、金銭の要求を伴わずに害悪を告知しただけであれば、脅迫罪(刑法222条)が問題となります。
| 犯罪 | 典型的な行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 恐喝罪(刑法249条) | 脅し文句を告げて金銭を支払わせる | 10年以下の拘禁刑 |
| 恐喝未遂罪(刑法250条) | 脅して金銭を要求したが、支払われなかった | 同上 |
| 脅迫罪(刑法222条) | 金銭要求を伴わずに害悪を告知する | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
つまり、支払いに応じなかったからといって、あなたが不利になるわけではありません。
むしろ、要求の段階で恐喝未遂罪が成立し得る状況です。
「警察に通報する」と言われた場合
この言葉が、最も強く支払いを迫る力を持ちます。
「通報されれば終わりだ」と考えて、その場で支払ってしまう方が少なくありません。
まず知っておいていただきたいのは、店側にとって、警察に通報することが必ずしも得策ではないという点です。
風俗店であれば、店内や派遣先での本番行為について店自身が売春防止法上の責任を問われる可能性があります。
メンズエステであれば、提供しているサービスの内容そのものが問題になり得ます。
実際、「通報する」と言いながら通報しないまま連絡が途絶える事案は少なくありません。
もっとも、「絶対に通報されない」と断定することはできません。
店側が先に虚偽の被害申告をするおそれもあります。
そこで重要になるのが、仮に通報された場合に何が起こるのかを正しく理解しておくことです。
通報されれば直ちに逮捕される、というものではありません。
捜査が始まるかどうか、身柄を拘束されるかどうかは、証拠の有無によります。
店側の言い分だけで結論が決まるわけではありません。
だからこそ、当時のやり取りや請求を受けた経緯の記録を残しておくことが重要になります。
一方で、行為の内容によっては、ご自身に刑事責任が生じ得る場合もあります。
不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が問題となる場面がこれにあたります。
この見極めには法的な判断が必要ですので、「通報されても問題ない」と単純に考えることもできません。
請求された金銭に支払義務があるのかという点、およびご自身の刑事責任については、次の記事で解説しています。



「会社に連絡する」「家族に伝える」と言われた場合
読者の方にとって、最も避けたい事態がこれかもしれません。
実際に連絡すれば、店側は民事・刑事の責任を問われる可能性があります。
公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させれば、名誉毀損罪(刑法230条)の問題となります。
同罪は、摘示した事実が真実であっても成立し得るものであり、「本当のことを言っただけだ」という弁解は通りません。
また、私生活上の事柄を第三者に知らせる行為は、プライバシーの侵害として損害賠償の対象にもなります。
さらに、そもそも「連絡する」と告げて金銭を要求している時点で、恐喝罪の問題が生じています。
したがって、店側にとって、実際に連絡することは自らの立場を悪化させる行為です。
この点は、弁護士が介入した際に店側へ警告する内容でもあります。
もっとも、実行される可能性がまったくないとは言えません。
特に、次のような事情がある場合は、対応を急ぐ必要があります。
- 運転免許証や健康保険証を撮影された
- 名刺を渡した、勤務先名を伝えた
- 自宅の住所を知られている
- 家族構成や配偶者の連絡先を話してしまった
こうした場合、店側は「実行できる」という前提で要求を続けます。
時間が経つほど請求が積み上がる傾向がありますので、早い段階で窓口を弁護士に移すことが有効です。
「SNSに晒す」と言われた場合
実際に投稿された場合、その内容によっては名誉毀損やプライバシーの侵害にあたります。
投稿の削除を求めることや、投稿者を特定するための発信者情報の開示を求めることが考えられます。
ただし、これらの手続には一定の時間と費用がかかります。
また、いったん拡散した情報を完全に消すことは困難です。
そのため、投稿されてから対応するのではなく、投稿される前に止めることが重要です。
弁護士が窓口となり、投稿すれば法的措置をとる旨を明確に伝えることで、実行を思いとどまらせることが期待できます。
脅し文句に応じて支払ってはいけない理由
その場をしのぐために支払ってしまう方がいますが、支払いは解決になりません。
一度支払えば、店側は「支払う人物」として認識します。
「セラピストの通院費」「示談金の残額」といった名目で、請求が繰り返される事案が少なくありません。
また、金銭の支払いは、後ろめたい行為があったことを間接的に認めた事情として扱われるおそれがあります。
清算条項や宥恕の定めのない支払いは、法的には何も解決していません。
支払った後に、改めて被害を申告されることもあり得ます。
すでに支払ってしまった場合の対応については、次の記事で解説しています。

脅されたときの対処法
支払いと書面への署名を保留する
「支払いには応じられません。今後は弁護士を通じて対応します」と伝えてください。
その場で示談書や借用書に署名すると、後に争う際、強力な証拠として使われます。
やり取りを記録する
脅し文句そのものが、恐喝罪や脅迫罪を裏づける証拠になります。
通話は可能な限り録音し、LINEやメールのメッセージは削除せずに保存してください。
「見られたくない」という理由で消してしまう方がいますが、これは逆効果です。
相手方と店の情報を控える
店名、所在地、予約に使った経路、電話番号、SNSのアカウント、名乗った人物の名前を記録してください。
相手を特定できるかどうかが、その後の対応を左右します。
自分で交渉しない
やり取りは録音されている前提で考えるべきです。
動揺の中での不用意な発言や、事実と異なる弁解は、後に不利な材料として残る可能性があります。
身の危険がある場合は110番通報する
帰らせてもらえない、事務所やATMに同行を求められているという状況は、逮捕監禁罪(刑法220条)にあたり得る場面です。ためらわずに通報してください。
実際に連絡されてしまった場合
脅しが実行されてしまった場合でも、できることはあります。
勤務先に連絡された場合
店側の行為が名誉毀損やプライバシーの侵害にあたる可能性があり、損害賠償請求や刑事告訴を検討できます。
また、勤務先に対してどのように説明するかという現実的な問題については、事実関係を整理したうえで、弁護士が対応方針を一緒に検討します。
家族に伝えられた場合
同様に、店側の責任を問うことが考えられます。
ご家族への説明についても、事実関係の整理が出発点になります。
ネットに投稿された場合
投稿の削除請求と、発信者情報の開示請求を検討します。
投稿内容を証拠として保存することが最初の作業になりますので、消える前に記録してください。
いずれの場合も、実行されたことによって、店側の行為はより悪質なものとして評価されます。
諦める必要はありません。
弁護士に依頼するメリットと解決への流れ
直接の連絡が止まる
弁護士が受任通知を送付すると、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。
深夜の電話や執拗な連絡から解放されます。
実行を抑止できる
勤務先や家族への連絡、ネットへの投稿が名誉毀損等として法的措置の対象になることを、弁護士から明確に警告します。
店側にとって、弁護士が関与している相手に対して脅しを実行することは、自らの刑事責任を重くする行為にほかなりません。
実際には、この段階で連絡が途絶える事案が多くあります。
支払義務の有無を整理できる
請求の根拠を確認し、法的な根拠のない請求は退けます。
責任が生じ得る部分については、適正な内容で解決を図り、清算条項を備えた書面を作成することで以後の請求を封じます。
刑事責任のリスクにも備えられる
店側が実際に警察に申告した場合でも、弁護士であれば弁護人として活動することが可能です。
保全した証拠に基づいて主張を組み立て、不起訴処分や逮捕の回避を目指します。
守秘義務がある
ご相談の内容が、無断で外部に漏れることはありません。
ご家族に知られない形で相談・依頼を進めることも可能です。
連絡の方法や時間帯についてご希望があれば、お申し付けください。
解決までの一般的な流れ
- 法律相談(状況・証拠の確認):脅し文句の内容、店側が把握しているご自身の情報、請求を受けた経緯を確認し、対応の緊急度を判断します。
- 方針決定:受任通知を送って窓口を弁護士に一本化する、請求を争う、警察に被害相談を行うなど、事案に応じた方針を決めます。
- 弁護士による対応:受任通知の送付後、店からの連絡はすべて弁護士が対応します。あわせて、勤務先や家族への連絡、ネットへの投稿が法的措置の対象となる旨を警告します。
- 解決:多くの事案では、店側が請求を断念して連絡を絶つ形で終結します。請求や嫌がらせが続く場合は、警察への被害届提出や刑事告訴に進みます。
よくある質問(FAQ)
- 本当に会社に連絡されてしまうのでしょうか。
-
実際に連絡すれば、店側は名誉毀損やプライバシーの侵害として責任を問われ得ますし、連絡すると告げて金銭を要求している時点で恐喝罪の問題も生じます。
店側にとってリスクの高い行為であるため、実行されないまま終わる事案が多いのが実情です。もっとも、絶対に実行されないと断定することはできません。
身分証を撮影された、勤務先を伝えたといった事情がある場合は、早めにご相談ください。 - 「警察に通報する」と言われました。通報されたら私は逮捕されるのでしょうか。
-
通報されれば直ちに逮捕されるというものではありません。
捜査が始まるか、身柄が拘束されるかは証拠によります。
店側の言い分だけで結論が決まるわけではありませんので、当時のやり取りの記録を残しておくことが重要です。もっとも、行為の内容によってはご自身に刑事責任が生じ得る場合もありますので、見通しについては弁護士にご確認ください。
- 運転免許証を写真に撮られてしまいました。何かできることはありますか。
-
撮影された画像そのものを取り戻すことは困難ですが、それを用いて勤務先や家族に連絡する、ネットに投稿するといった行為は、名誉毀損やプライバシーの侵害にあたり得ます。
弁護士から、そうした行為が法的措置の対象となることを警告することで、実行を抑止できる場合があります。身元を握られている事案は請求が長引きやすいため、早い段階で窓口を弁護士に移すことをおすすめします。
- 「SNSに晒す」と言われています。投稿を止めることはできますか。
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投稿されれば削除請求や発信者情報の開示請求が考えられますが、時間と費用がかかり、拡散した情報を完全に消すことは困難です。
そのため、投稿される前に止めることが重要になります。弁護士が窓口となり、投稿すれば法的措置をとる旨を明確に伝えることで、実行を思いとどまらせることが期待できます。
- 怖くなって一度だけ支払いました。これで連絡は来なくなるでしょうか。
-
一度支払った相手は「支払う人物」として認識されるため、名目を変えた請求が続く事案が少なくありません。
追加の要求には応じず、窓口を弁護士に移すことをおすすめします。支払ってしまった金銭についても、返還を求められる場合があります。
- 弁護士に依頼することで、かえって店を刺激することにならないでしょうか。
-
実際には逆の結果になることがほとんどです。
この種の店舗は、警察沙汰・弁護士沙汰を最も嫌います。
狙いは、誰にも相談できず孤立した利用者から手早く金銭を得ることであり、弁護士が介入した時点でその目論見は崩れます。むしろ、ご本人が対応を続けるほうが、要求が長引く傾向にあります。
まとめ
風俗店・メンズエステからの脅し文句について、ポイントを整理します。
- 「警察に通報する」「会社に連絡する」と告げて金銭を要求する行為は、それ自体が恐喝罪にあたり得る。金銭要求を伴わない場合は脅迫罪の問題となる。
- 仮に店側に何らかの請求権があったとしても、その行使方法が権利の範囲や社会通念上一般に忍容すべき程度を逸脱すれば、恐喝罪が成立し得る(最高裁昭和30年10月14日判決)。
- 実際に勤務先や家族に連絡すれば、店側は名誉毀損やプライバシーの侵害として責任を問われ得る。店側にとってもリスクの高い行為である。
- もっとも、絶対に実行されないとは断定できない。身分証を撮影された、勤務先を伝えたという場合は対応を急ぐ必要がある。
- 支払いは解決にならない。やり取りの記録は削除せず、脅し文句そのものを証拠として保全する。
当事務所では、風俗店・メンズエステからの金銭要求について、店との交渉から、ご自身に刑事責任が生じ得る場合の弁護活動まで、一貫してお受けしています。
支払いを保留したまま、お早めにご相談ください。
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