【この記事の結論・要約】
- すでに支払ってしまった後でも、返還を求められる場合があります。「払ったから終わり」ではありません。
- ただし、最優先すべきは追加の支払いを止めることです。一度支払った相手には、請求が繰り返される傾向があります。
- 回収の見込みは、支払方法によって大きく変わります。振込であれば口座の凍結という手段があり、現金の手渡しよりも回収の可能性が高くなります。
はじめに
風俗店やメンズエステから金銭を要求され、支払いに応じてしまった後、次のような状況に置かれる方がいます。
- その場で現金を渡した、あるいは近くのATMで引き出して渡した
- 帰宅後に指定された口座へ振り込んだ
- 借用書を書かされ、毎月の分割で支払いを続けている
- 一度支払ったのに、名目を変えた請求が続いている
支払ってしまうと、多くの方が「もう終わりだ」と考えます。
しかし、脅されて支払った金銭については、返還を求められる場合があります。
また、支払い済みであることは、警察に相談する妨げにもなりません。
この記事では、支払ったお金の返還を求める方法と、回収の見込みをどう見極めるかについて解説します。

まず、追加の支払いを止める
返金の話に入る前に、最優先で行うべきことがあります。これ以上支払わないことです。
一度支払いに応じた相手は、店側から「支払う人物」として認識されています。
そのため、放置すれば請求は続きます。
実際の事案では、次のような形で要求が繰り返されます。
- 「セラピストが通院することになったので、治療費を追加で払え」
- 「示談金の残額がある」「今回の分は手付金にすぎない」
- 「弁護士に相談したようだが、それなら金額を上げる」
分割で支払いを続けている場合も同様です。
書面があるからといって、支払いを続けなければならないとは限りません。
支払いを止めたうえで、その書面の効力を争うことができる場合があります。
店側からの連絡については、返信をしないこと自体が有効な対応です。
ただし、完全に着信を拒否するかどうかは状況によります。
相手が勤務先に連絡する素振りを見せている場合など、あえてブロックせずに相手の連絡を証拠として受信し続けるという対応をとることもあります。
この判断は弁護士に委ねる方が良いでしょう。
支払ったお金の返還を求める法的な根拠
脅されて支払った金銭の返還を求める場合、主に次の2つの構成が考えられます。
強迫による取消しと、不当利得の返還
脅されて金銭を支払うという意思表示をした場合、その意思表示は強迫によるものとして取り消すことができます(民法96条1項)。
支払いの前提となった合意が取り消されれば、店側が金銭を受け取っておく法律上の理由はなくなりますので、不当利得としてその返還を求めることになります(民法703条、704条)。
相手が不当利得であることを知りながら受け取っていた場合には、利息を付した返還を求めることもできます。
不法行為に基づく損害賠償
店側の行為が恐喝罪等にあたる場合、それは民事上の不法行為でもあります。
支払わされた金額を損害として、その賠償を求めることになります(民法709条)。
いずれの構成をとる場合でも、「脅されて支払った」といえる事情を示せるかどうかが要になります。
請求を受けた際のやり取り、その場の状況、支払いまでの経緯を、できる限り具体的に整理しておく必要があります。
なお、店側からは「支払いは任意だった」「規約に基づく正当な違約金である」といった反論が想定されます。
また、支払いの前提となった契約の内容によっては、不法原因給付(民法708条)を理由に返還を拒む主張がなされる可能性もあります。
もっとも、脅されて支払った事案でこの主張が通るかは、支払いの経緯や当事者の立場によって判断が分かれる問題です。
個別の事案での見通しは、弁護士にご確認ください。
そもそも請求された金額に支払義務があったのかという点については、次の記事で解説しています。


支払方法によって、回収の見込みは変わる
返還を求める根拠があることと、実際にお金が戻ってくることとは別の問題です。
回収の見込みは、どのように支払ったかによって大きく変わります。
| 支払方法 | 回収の見込み | 手がかりになるもの |
|---|---|---|
| 銀行振込 | 比較的高い | 口座名義、金融機関、振込明細。口座凍結の手続をとれる場合がある |
| 借用書を作成しての分割払い | 中程度 | 書面に記載された氏名・連絡先。相手の特定につながる |
| 電子マネー・送金アプリ | 事案による | 取引履歴、送金先のアカウント情報 |
| ATMで引き出して手渡し | 低い | 引き出し履歴。支払いの事実を示す証拠にはなる |
| その場で現金を手渡し | 低い | 相手を特定できるかが課題となる |
現金を手渡した場合、支払いの事実そのものを立証することが難しく、相手の特定も困難になりがちです。
一方、振込であれば口座名義という手がかりが残ります。
ご自身がどの類型にあたるかによって、次にとるべき手段が変わります。
振込で支払った場合は、口座の凍結を検討する
口座に振り込んで支払った場合、振り込め詐欺救済法(正式名称は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」)による手続を検討できます。
この法律の対象となるのは、詐欺その他の人の財産を害する犯罪行為であって、財産を得る方法として振込みが利用されたものです。
恐喝も人の財産を害する犯罪ですので、この手続の対象となり得ます。
手続の流れは次のとおりです。
- 警察と、振込先の金融機関に連絡する(あるいは、弁護士経由で金融機関に連絡する)
- 金融機関が調査のうえ、その口座を犯罪に利用された疑いのある口座として、取引の停止(口座凍結)の措置をとる
- 預金保険機構のホームページで公告が行われる
- 被害者が金融機関に支払の申請を行い、口座の残高と被害額に応じて、被害回復分配金の支払を受ける
重要なのは、残高が残っているうちに動くことです。
凍結が遅れれば、その口座から資金が引き出され、回収できる原資が失われます。
振込による支払いをしてしまった場合は、できる限り早く連絡してください。
もっとも、実際に凍結されるかどうかは、金融機関と警察の判断によります。
また、回収できる金額は口座の残高に左右されるため、被害額の全額が戻るとは限りません。
この手続だけに頼るのではなく、後述する他の手段とあわせて検討する必要があります。
刑事手続を通じた回収という道筋
民事上の請求とは別に、刑事手続を通じて金銭が戻ってくることがあります。
店側の行為が恐喝罪等にあたる場合、被害届の提出や刑事告訴によって、店側は被疑者として捜査の対象になります。
この段階に至ると、店側の立場は一変します。
刑事責任を軽くするため、あるいは起訴を避けるため、店側から示談の申入れがなされることがあり、その中で支払った金銭が返還されるという展開になる可能性があります。
この方法は、民事の請求よりも実効性が高い場合があります。
相手が任意に応じなければ訴訟を提起するほかない民事の請求と異なり、刑事事件になれば、店側には解決を急ぐ理由が生じるためです。
もっとも、被害届が受理されるか、捜査が進むかは、証拠の整理の程度に左右されます。
また、ご自身にも刑事責任が生じ得る事案では、届出の仕方やタイミングについて慎重な判断が必要です。
この点は後述します。
相手を特定できるかどうかを最初に見極める
返還請求も、被害届の提出も、相手を特定できることが前提です。ここが最初の関門になります。
手がかりとなるのは、次のようなものです。
- 振込先の口座名義と金融機関
- 店舗の名称、所在地、実際に営業しているかどうか
- 予約に使ったウェブサイトやSNSのアカウント
- やり取りに使われた電話番号、LINEのアカウント
- 借用書や示談書に記載された氏名、住所、連絡先
弁護士が受任した場合、弁護士会を通じて金融機関や通信事業者に照会を行い、口座名義人や契約者の情報の開示を求めることができます(弁護士法23条の2に基づく照会)。
もっとも、照会に応じるかどうかは相手方の判断にゆだねられており、必ず開示されるとは限りません。
店舗が実在せず、口座名義も他人名義、連絡先も使い捨てという事案では、相手の特定は困難です。
この見極めを最初に行い、見込みの薄い手続に費用をかけないようにすることが重要です。
費用対効果をどう考えるか
返還請求には、弁護士費用や実費がかかります。
相手を特定できたとしても、相手に支払能力がなければ、判決を得ても回収できません。
そのため、実際の判断では次の点を検討します。
- 支払った金額はいくらか
- 相手を特定できる手がかりがあるか
- 振込であれば、口座に残高が残っている可能性があるか
- 刑事手続を通じた解決が見込めるか
- 費用をかけて回収を目指すことが、金額に見合うか
「取り戻すこと」だけが解決ではありません。
追加の請求が止まり、家族や勤務先に知られないまま日常に戻れることも、重要な解決です。
警察に相談してもよいのか
「自分から風俗店に行き、自分の意思で支払った以上、警察には行けない」
そう考えて相談をためらう方が少なくありません。しかし、この認識は正確ではありません。
まず、成人がメンズエステや風俗店を利用すること自体は、犯罪ではありません。
成人同士の行為であれば、客が売春防止法によって処罰されることもありません。
そして、支払い済みであることは、被害届の提出の妨げにはなりません。
むしろ、現実に金銭を交付してしまった以上、店側の行為は恐喝未遂ではなく恐喝罪の既遂として、より重く評価され得ます。
ただし、次の点には注意が必要です。
- 証拠が整理されていないまま相談すると、当事者間の金銭トラブルとして扱われ、積極的に動いてもらえないことがある
- 店側が先に虚偽の被害申告をするおそれがある事案では、届出の順序が結果を左右することがある
- ご自身の行為について刑事責任が生じ得る事案では、相談の仕方とタイミングの判断が必要になる
そのため、緊急の危険がある場合を除き、まず弁護士に相談して証拠と法的な整理を行ったうえで、必要に応じて弁護士のサポートを受けながら警察に相談する、という順序をおすすめします。

残しておくべき証拠
支払ってしまった後でも、証拠は意味を持ちます。次のものを集めて保存してください。
- 支払いの記録:振込明細、ATMの利用明細、送金アプリの履歴、消費者金融からの借入の記録
- 書面:借用書、示談書、誓約書の写し。手元になければ、記載内容を記憶している範囲でメモに残す
- やり取りの記録:電話番号、LINE、メール、SNSのメッセージ。支払い後の追加請求のやり取りも含む
- 店の情報:店名、所在地、ウェブサイト、予約の経路、担当者や名乗った人物の名前
- 経緯のメモ:利用した日時、何があったか、どのように請求され、どのように支払ったか
とりわけ、支払った後に届いた追加請求のやり取りは重要です。
一度支払わせたうえで繰り返し金銭を要求している事実は、店側の意図を示す有力な材料になります。
「見られたくない」という理由でやり取りを削除してしまう方がいますが、これは避けてください。
記憶は時間とともに薄れますので、できる限り早い段階でメモに残しておいてください。
弁護士に依頼するメリットと解決への流れ
- 追加の請求が止まる:弁護士が受任通知を送付すると、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。分割払いを続けている場合も、以後の支払いを止めたうえで、弁護士が窓口となって対応します。
- 回収の見込みを見極められる:支払方法、相手の特定の可否、金額を踏まえて、返還請求に進むべきか、請求の遮断に重点を置くべきかを判断します。見込みの乏しい手続に費用をかけることを避けられます。
- 返還請求と刑事手続を組み合わせられる:内容証明による請求、口座凍結の手続、被害届の提出や刑事告訴を、事案に応じて使い分けます。刑事手続を通じて店側から返還がなされる形での解決を目指すこともあります。
- ご自身の刑事責任にも備えられる:店側やキャストが警察に被害を申告した場合でも、弁護士であれば弁護人として活動することが可能です。返還請求と刑事弁護の双方を、同じ弁護士が一貫して担当できます。
- 家族や勤務先への発覚を防ぐ:弁護士は守秘義務を負っています。ご相談の内容が、無断で外部に漏れることはありません。店側に対しても、勤務先や家族への連絡が名誉毀損等として法的措置の対象になることを警告し、被害が周囲に広がるリスクを抑えます。
解決までの一般的な流れ
- 法律相談(状況・証拠の確認):支払いに至る経緯、支払方法、金額、相手の情報を確認し、回収の見込みとご自身の刑事責任のリスクを整理します。
- 方針決定:追加請求の遮断を優先するのか、返還請求まで進むのか、刑事手続を用いるのかを決めます。振込による支払いがある場合は、口座凍結の手続を急ぎます。
- 弁護士による対応:受任通知の送付後、店からの連絡はすべて弁護士が対応します。並行して、内容証明による返還請求、警察への被害相談、必要に応じて刑事告訴を行います。
- 解決:店側が返還に応じるか、請求を断念する形で終結します。相手が応じない場合は、訴訟の提起を検討します。
よくある質問(FAQ)
- 一度払ってしまったお金でも、取り返せるのでしょうか。
-
返還を求められる場合があります。
脅されて支払った意思表示は取り消すことができ(民法96条1項)、不当利得の返還(民法703条・704条)や不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として請求することになります。
ただし、実際に回収できるかどうかは、相手を特定できるか、相手に支払能力があるかによって左右されます。まずは支払方法と手元の資料をもとに、見込みを確認することをおすすめします。
- 指定された口座に振り込んでしまいました。口座を凍結してもらえますか。
-
振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結の対象となり得ます。
この法律は、詐欺その他の人の財産を害する犯罪行為で振込みが利用されたものを対象としており、恐喝もこれに含まれ得ます。
警察と振込先の金融機関に連絡(あるいは弁護士経由で金融機関に連絡)することで手続が始まります。ただし、実際に凍結されるかは金融機関と警察の判断によりますし、回収できる金額も口座の残高次第です。
残高が残っているうちに動くことが重要ですので、できる限り早くご相談ください。 - 現金でその場で手渡してしまいました。この場合は諦めるしかありませんか。
-
現金の手渡しは、振込に比べて回収が難しいことは事実です。
ただし、ATMの利用明細や消費者金融からの借入の記録があれば、支払いの事実を示す資料になります。
また、相手を特定できる手がかりがあれば、刑事手続を通じた解決が図れる場合もあります。諦める前に、手元の資料をお持ちいただき、見込みを確認してください。
- 借用書を書かされ、毎月支払いを続けています。支払いを止めてよいのでしょうか。
-
書面があるからといって、支払いを続けなければならないとは限りません。
脅されて作成した書面であれば、その効力を争うことができる場合があります。
もっとも、支払いを止めれば店側から連絡が来ますので、弁護士が窓口となる形をとったうえで止めるのが安全です。書面の内容と作成時の状況をご確認のうえ、ご相談ください。
- 返金を求めたら、店から報復されないでしょうか。
-
弁護士が受任通知を送付すると、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。
勤務先や家族への連絡についても、名誉毀損等として法的措置の対象になることを警告します。
実際には、店側が請求を断念して連絡を絶つ形で終わることが多くあります。もっとも、身分証を撮影された、勤務先を伝えたといった事情がある場合は、対応を急ぐ必要があります。
- 弁護士費用のほうが高くついてしまうことはありませんか。
-
その可能性がある事案では、当事務所から返還請求をお勧めすることはありません。
相手を特定できる見込みや金額を踏まえ、費用に見合うかどうかをご説明したうえで、方針をご相談します。
回収の見込みが乏しい場合には、これ以上の支払いを止め、請求を確実に断つことに重点を置いた対応をご提案します。もっとも、金銭的メリットがない場合でも、弁護士が間に入ることには他にもメリットがございますので、一度ご相談ください。
まとめ
風俗店・メンズエステに支払ってしまった金銭について、ポイントを整理します。
- 支払った後でも、強迫による取消し(民法96条1項)と不当利得の返還(民法703条・704条)、または不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として、返還を求められる場合がある。
- 最優先すべきは、追加の支払いを止めること。一度支払った相手には、名目を変えた請求が繰り返される傾向がある。
- 回収の見込みは支払方法によって変わる。振込であれば、振り込め詐欺救済法による口座凍結を検討できる。残高が残っているうちに動く必要がある。
- 被害届の提出や刑事告訴を通じて、店側から返還がなされる形で解決することがある。支払い済みであることは、届出の妨げにならない。
- 相手を特定できるか、費用に見合うかの見極めを先に行う。回収が難しい場合でも、請求を断ち切ること自体が重要な解決である。
当事務所では、風俗店・メンズエステをめぐる金銭要求について、支払った金銭の返還請求から、ご自身に刑事責任が生じ得る場合の弁護活動まで、一貫してお受けしています。
追加の支払いを止めたうえで、お早めにご相談ください。
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