【この記事の結論・要約】
- 行為の内容によって、問われる罪が変わります。身体に触れた場合と、性交等に至った場合とでは、法定刑に大きな差があります。
- 「相手から誘ってきた」ことは、それだけで同意があったことの証明にはなりません。もっとも、当時のやり取りは判断の重要な材料になります。
- 店からの金銭要求と、ご自身の刑事責任は別の問題です。店に支払っても、刑事責任がなくなるわけではありません。
はじめに
メンズエステの施術中に、セラピストの身体に触れてしまったという方から、次のようなご相談を受けることがあります。
- 密着した施術を受け、誘われていると感じて触れてしまった
- その場では何も言われなかったが、後日、店から連絡が来ている
- 店から金銭を要求されており、警察に通報すると言われている
- 何も起きていないが、後から警察が来るのではないかと不安で眠れない
このような場合に問題となるのが、ご自身が刑事責任を問われるかどうかです。
この記事では、メンズエステという場面に即して、どのような場合に罪に問われるのかを解説します。
なお、店から金銭を要求されている場合の対応については、次の記事で全体像を解説しています。

行為の内容によって、問われる罪が変わる
まず押さえておくべきなのは、何をしたかによって、問われる罪が変わるという点です。
| 行為の内容 | 問題となる罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 身体に触れた | 不同意わいせつ罪(刑法176条) | 6月以上10年以下の拘禁刑 |
| 性交等に至った | 不同意性交等罪(刑法177条) | 5年以上の有期拘禁刑 |
ここでいう「性交等」には、性交のほか、肛門性交、口腔性交、そして膣または肛門に身体の一部(陰茎を除く)や物を挿入する行為が含まれます。
指を用いた行為も、この「性交等」に含まれます。
身体に触れたにとどまるのか、挿入行為があったのかによって、罪名も法定刑も変わります。
不同意性交等罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑です。
執行猶予は3年以下の拘禁刑が言い渡された場合にしか付けることができないため、酌量減軽等がなければ執行猶予の余地がありません。
それぞれの罪の詳しい成立要件は、次の記事で解説しています。


同意がなかったといえるか
2023年7月の刑法改正により、従来の強制わいせつ罪・強制性交等罪は、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に改められました。
この改正により、暴行や脅迫がなくても犯罪が成立し得ることになりました。
相手が同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせ、あるいはその状態に乗じた場合に、これらの罪が成立します。
条文は、そのような状態の原因となる事由として8つの類型を挙げていますが、メンズエステの事案で問題になりやすいのは、次の2つです。
同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと(刑法176条1項5号)
相手が拒む間もないまま、不意に身体に触れたという場合がこれにあたります。
施術中は、相手が身動きの取りにくい姿勢にあることも多く、この点が問題になり得ます。
予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、又は驚愕させること(同項6号)
施術を受けに来た客から、突然わいせつな行為をされたという場合がこれにあたります。
条文が挙げる8つの類型の全体については、既存の記事で解説しています。

「相手から誘ってきた」ことはどう評価されるか
ご相談の中で最も多いのが、この点です。
「密着してきたのは向こうだ」「拒む素振りがまったくなかった」「明らかに誘っていた」
こうした認識があるために、なぜ自分が罪に問われるのか納得できないという方が少なくありません。
誘われたと感じたことだけでは、証明にならない
まず最初に確認する必要があるのは、誘われたと感じたというだけでは、同意があったことの証明にはならないということです。
密着した施術が行われていたとしても、それは店が提供するサービスの一環として行われていたにすぎず、身体に触れることへの同意を意味するものではない、という評価があり得ます。
一方で、当時のやり取りは重要な材料になる
もっとも、当時の具体的なやり取りが判断に影響しないわけではありません。
- 相手が積極的に身体を密着させてきたのか
- 触れた際に、拒む言動があったのか
- 触れた後、施術がそのまま続けられたのか
- 会話の中で、性的な行為を示唆するやり取りがあったのか
- 追加の料金を求められ、応じたという経緯があったのか
こうした事情は、当時の状況を判断するうえで意味を持ちます。
当時のやり取りを、できる限り具体的に記録しておいてください。
問題は、証拠が乏しいこと
この類型の難しさは、施術室という密室での出来事であり、客観的な証拠が乏しいことにあります。
双方の言い分が食い違った場合、それぞれの説明の具体性や一貫性、その他の事情との整合が検討されることになります。
店側が録音を用意している場合もあれば、店側の説明が事実と異なる場合もあります。
「同意があると思っていた」という認識について
「相手も同意していると思っていた」という認識があった場合の扱いは、実際に同意があったかどうかとは別の問題として検討されます。
もっとも、そう思っていたと述べれば足りるというものではありません。
そのように認識したことに理由があるといえるかどうかが問題になります。
この点は事案によって判断が分かれ得るところですので、断定的な見通しを申し上げることはできません。
メンズエステというサービスの性質との関係
メンズエステは、風営法上の性風俗特殊営業ではなく、リラクゼーション業として営業しているのが通常です。
したがって、性的なサービスが提供されることが当然の前提とされている業態ではありません。
この点は、性風俗店の場合とは異なります。
一方で、実際に提供された施術の内容が、店の案内していたものと異なっていたという事情はあり得ます。
そうした事情は、当時の状況を判断する材料のひとつにはなります。
もっとも、そのことから「触れてよい」という結論が導かれるわけではありません。
店の営業実態がどうであれ、セラピスト本人の同意がなければ、罪が成立し得ることに変わりはありません。
逮捕されるのか、前科がつくのか
通報されれば直ちに逮捕される、というものではありません。
捜査が始まるか、身柄が拘束されるかは、証拠の有無によります。
店側やセラピストの言い分だけで結論が決まるわけではありません。
もっとも、次の点には注意が必要です。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪には、罰金刑がありません。
そのため、起訴された場合、書面のみで終わる略式手続を用いることができず、公開の法廷での正式裁判となります。
逆に言えば、不起訴となれば前科はつきません。
そして、この種の事案において不起訴となるかどうかは、被害を申告している相手方との示談が成立しているかどうかに大きく左右されます。
逮捕された場合の手続や、勤務先への影響については、次の記事で解説しています。

店からの金銭要求とは分けて考える
ここが、実務上とりわけ重要な点です。
店から「払えば警察には言わない」と言われ、支払いに応じてしまう方がいます。
しかし、店に支払っても、刑事責任がなくなるわけではありません。
理由は2つあります。
第一に、店とセラピスト本人は別の存在です。
被害を申告する立場にあるのはセラピスト本人であり、店に金銭を支払っても、本人との間で何かが解決するわけではありません。
店は、セラピスト個人の慰謝料請求権を当然に行使できる立場にはありません。
第二に、清算条項や宥恕の定めのない支払いは、法的には何も解決していません。
支払った後に、改めて被害を申告されることもあり得ます。
むしろ、金銭を支払ったこと自体が、行為があったことを認めた事情として扱われるおそれがあります。
本来の解決手段は、セラピスト本人との間で、適正な内容の示談を成立させることです。
宥恕の意思や清算条項を備えた示談書を作成することで、はじめて解決に近づきます。
店から請求されている金銭に支払義務があるかどうかについては、次の記事で解説しています。


すべきこと・してはいけないこと
当時のやり取りを記録する
予約時のメッセージ、施術中の会話、その後の連絡はすべて保存してください。
削除は絶対に避けてください。
ご自身の言い分を裏づける唯一の材料になり得ます。
時系列でメモを作成する
入店から退店まで、何がどの順序で起きたかを、できる限り具体的に書き出してください。
記憶は時間とともに薄れます。
店の要求に応じて支払わない
支払いは解決になりません。
自分でセラピスト本人に連絡を取ろうとしない
直接の接触は、証拠隠滅や口裏合わせを疑われる原因になります。
示談の申入れは、弁護士を通じて行うべきです。
何もせずに待つという選択も、最善とは限りません
被害が申告されてから動くよりも、その前に対応するほうが選択肢は広くなります。
弁護士に相談するとどうなるか
- 見通しを整理できる:行為の内容、当時のやり取り、相手方の対応を確認したうえで、どの罪が問題となり得るのか、捜査が始まる可能性がどの程度あるのかを検討します。
- セラピスト本人との示談を目指せる:被害の申告がなされる前であっても、弁護士を通じて示談を申し入れることは可能です。宥恕の意思や清算条項を備えた示談書を作成することで、その後の刑事手続に大きく影響します。
- 捜査が始まった場合に、弁護人として対応できる:保全した証拠に基づいて主張を組み立て、不起訴処分や逮捕の回避を目指します。
- 店との交渉も同時に行える:法的な根拠のない請求は退けたうえで、責任が生じ得る部分については適正な内容で解決を図ります。
- 守秘義務がある:ご相談の内容が、無断で外部に漏れることはありません。
よくある質問(FAQ)
- セラピストの方から誘ってきたのに、なぜ罪になるのでしょうか。
-
誘われたと感じたというだけでは、同意があったことの証明にはなりません。
密着した施術が行われていたとしても、それが身体に触れることへの同意を意味するとは限らないためです。
もっとも、当時の具体的なやり取りは、状況を判断するうえで重要な材料になります。会話の内容や相手の言動を、できる限り具体的に記録しておいてください。
- 触っただけでも逮捕されるのでしょうか。
-
通報されれば直ちに逮捕されるというものではありません。
捜査が始まるか、身柄が拘束されるかは、証拠の有無等によります。もっとも、不同意わいせつ罪には罰金刑がなく、起訴されれば公開の法廷での正式裁判となります。
軽く考えるべき事案ではありませんので、早い段階で見通しを整理しておくことをおすすめします。 - 店に罰金を払えば、警察沙汰にならずに済みますか。
-
店に支払っても、刑事責任がなくなるわけではありません。
被害を申告する立場にあるのはセラピスト本人であり、店に支払っても本人との間で何かが解決するわけではないためです。
むしろ、支払ったこと自体が行為を認めた事情として扱われるおそれもあります。本来の解決手段は、セラピスト本人との示談です。
- 前科がつくのを避ける方法はありますか。
-
不起訴となれば前科はつきません。
この種の事案で不起訴となるかどうかは、被害を申告している相手方との示談が成立しているかどうかに大きく左右されます。
示談の申入れは、被害が申告される前であっても可能です。ご自身で連絡を取ることは避け、弁護士を通じて行ってください。
- 何もせずに待っていてもよいでしょうか。
-
何も起こらないまま終わる事案もありますが、待つことが最善とは限りません。
被害が申告されてから動く場合、選択肢は限られます。
特に、店から連絡が続いている、セラピスト本人が被害を申告する意向を示しているといった事情がある場合は、早めにご相談ください。
まとめ
メンズエステでセラピストに触れてしまった場合について、ポイントを整理します。
- 行為の内容によって問われる罪が変わる。身体に触れた場合は不同意わいせつ罪(刑法176条)、性交等に至った場合は不同意性交等罪(刑法177条)が問題となる。指を用いた行為は「性交等」に含まれる。
- 2023年7月の刑法改正により、暴行や脅迫がなくても罪が成立し得る。メンズエステの事案では、拒むいとまがなかった場合や、予想と異なる事態に直面させて驚愕させた場合が問題になりやすい。
- 「相手から誘ってきた」ことは、それだけで同意の証明にはならない。もっとも、当時の具体的なやり取りは重要な材料になる。
- 店に金銭を支払っても、刑事責任がなくなるわけではない。本来の解決手段は、セラピスト本人との示談である。
- 不起訴となれば前科はつかない。示談の成否が結論を大きく左右する。
当事務所では、性犯罪に関する刑事弁護を取り扱っています。
店との交渉と、ご自身の刑事責任への対応を、一貫してお受けすることが可能です。
被害の申告がなされる前の段階でも対応できますので、お早めにご相談ください。
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