【この記事の結論・要約】
- 署名した書面が、常にそのまま効力を持つわけではありません。脅されて署名したのであれば、取り消すことができる場合があります。
- 実際には借りていないのに借用書を書かされた場合、そもそも貸し借りが成立しているのかという点を争う余地があります。
- 書面の控えを渡されていなくても、対応は可能です。分割払いを続けている場合は、止めることも検討できます。
はじめに
風俗店やメンズエステで金銭を要求された際、その場で書面への署名を求められることがあります。
- 「これに名前を書けば警察には言わない」と言われ、示談書に署名した
- 「今日は持ち合わせがない」と伝えたところ、借用書を書かされた
- 内容を読む時間を与えられないまま、数枚の書類に署名させられた
- 署名した書面の控えは渡してもらえなかった
こうして書面に署名してしまうと、多くの方が「もう争えない」と考えます。
しかし、署名した書面が、常にそのまま効力を持つわけではありません。
この記事では、書かされた書面の意味と、その効力を争う方法について解説します。

書かされる書面の種類と、それぞれの意味
まず、ご自身が何に署名したのかを整理してください。
名称はさまざまですが、おおむね次のいずれかにあたります。
| 書面 | 記載されがちな内容 | 法的な意味 |
|---|---|---|
| 示談書・合意書 | 行為があったことを認め、○○円を支払う旨 | 支払いの合意。行為があったことを認めた証拠にもなる |
| 誓約書・念書 | 二度としないこと、請求に応じること | 支払いの約束。または行為があったことを認めた証拠 |
| 借用書 | ○○円を借り受け、分割で返済する旨 | 金銭の貸し借りの体裁をとった支払いの約束 |
名称が何であっても、検討する枠組みは同じです。
どのような状況で署名したのか、書かれている内容に合理性があるのかを、順に確認していくことになります。
借用書を書かせることの意味
実際には金銭を借りていないにもかかわらず、借用書の形式をとらせる事案があります。
書面の上では金銭の貸し借りということになりますので、支払いを求める場面で、金銭を要求するに至った経緯を表に出さずに済みます。
恐喝ではなく、貸したお金の返済を求めているにすぎない、という体裁を整えることができるためです。
もっとも、書面の体裁と実際の経緯が食い違う場合、実際の経緯に即して判断されます。
借用書という形式をとっていることが、そのまま貸し借りの成立を意味するわけではありません。
脅されて署名した書面は取り消せる
民法96条1項は、詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができると定めています。
脅されて支払いを約束した場合、その意思表示は強迫によるものとして、取り消すことができます。
「強迫」といえるかの判断
強迫にあたるかどうかは、相手の言動によって畏怖し、その結果として署名したといえるかによって判断されます。
次のような事情が重要になります。
- 複数人に囲まれていた
- 部屋や事務所から帰らせてもらえなかった
- 「警察に通報する」「会社に連絡する」と告げられていた
- 署名するまで帰さないという状況だった
- 深夜であった、長時間にわたっていた
署名の際に暴力を振るわれていなくても、強迫にあたり得ます。
言葉による働きかけであっても、畏怖して署名に至ったのであれば、取消しの対象になります。
取消しの方法
取消しは、相手方に対してその意思を伝えることによって行います。
後日の証拠として残るよう、内容証明郵便を用いるのが確実です。
取り消した場合、その書面に基づく支払義務はなくなります。
すでに支払った金銭については、不当利得として返還を求めることになります(民法703条、704条)。
期間の制限
取消権には期間の制限があります。
民法126条により、追認をすることができる時から5年、または行為の時から20年を経過すると、取り消すことができなくなります。
「追認をすることができる時」とは、脅されている状態から解放され、取り消すことができると知った後を指します。
日常の生活に戻った時点から進行すると考えられますので、署名から時間が経っている場合は、早めにご相談ください。
そもそも合意が成立していないという主張
取消しとは別に、そもそも合意が成立していないという主張が可能な場合があります。
- 内容を読ませてもらえなかった場合:何にどのような金額で合意したのか自体が明らかでなければ、合意の成立を争う余地があります。
- 金額の説明がなかった場合:同様に、合意の内容が特定されていたのかが問題になります。
- 白紙の用紙に署名させられ、後から内容が書き加えられた場合:書面そのものの成立が問題になります。
こうした事情がある場合は、署名した状況をできる限り具体的に記録しておいてください。
どの部屋で、何人に囲まれ、どのくらいの時間、どのような説明を受けたかが、判断の材料になります。
書かれている金額に支払義務があるか
署名の経緯とは別に、書かれている金額そのものの合理性も問題になります。
違約金は、損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。
そうである以上、その金額は、現実に生じ得る損害の程度に見合ったものである必要があります。
予定された賠償額が実際の損害と比べて著しく過大である場合、その超過部分は公序良俗に反するものとして無効とされることがあります(民法90条)。
つまり、署名しているというだけで、書かれた金額の全額を支払う義務が確定するわけではありません。
この点の詳しい検討は、次の記事で解説しています。

書面の控えを渡されていない場合
その場で署名させられ、控えを渡されないまま帰されるという事案があります。
何に署名したのか正確に分からないため、対応のしようがないと考えてしまいがちです。
控えがなくても、できることがあります。
- 記憶している範囲でメモに残してください:書面の名称、記載されていた金額、支払いの期限、相手方の氏名や店名など、思い出せる限り書き出してください。時間が経つほど記憶は薄れます。
- 撮影していれば、その画像を保存してください:一部しか写っていなくても、資料になります。
- 相手方に対し、書面の写しの交付を求めることができます:弁護士が窓口となって求めることも可能です。
- 控えを渡していないこと自体が、相手方の対応の不当性を示す事情になり得ま:通常の取引であれば、双方が同じ内容の書面を保管します。
分割で支払いを続けている場合
借用書を書かされ、毎月の支払いを続けているという方もいます。
書面があるからといって、支払いを続けなければならないとは限りません。
強迫を受けて作成した書面であれば、取り消すことができる場合があります。
ただし、支払いを止めれば、当然ながら店側から連絡が来ます。
窓口を弁護士に移したうえで止めるのが安全です。
受任通知を送付すれば、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。
すでに支払った分についても、返還を求められる場合があります。

署名してしまった後にやってはいけないこと
追加の書面に署名する
「支払いが遅れたので、書き直してほしい」と求められることがあります。
応じれば、その時点で新たに合意したものとして扱われるおそれがあります。
追加の支払いに応じる
支払いを続けるほど、書面の内容を争いにくくなります。
自分で交渉する
やり取りは録音されている前提で考えるべきです。
「あのときは仕方なく書いた」という趣旨の発言をしても、それだけで取消しが認められるわけではなく、かえって不用意な発言が記録に残ります。
やり取りを削除する
署名を求められた際のやり取りは、強迫の有無を判断する重要な材料です。削除しないでください。
弁護士に相談するとどうなるか
- 取消しの意思表示を代理して行います:内容証明郵便により、書面に基づく支払義務がないことを通知します。
- 店からの連絡が止まります:受任通知を送付すると、店側はご本人に直接連絡を取ることができなくなります。分割払いを止めた後の連絡も、すべて弁護士が受けます。
- 支払義務の有無を整理します:署名の経緯と書面の内容の両面から検討し、法的な根拠のない請求は退けます。責任が生じ得る部分については、適正な内容で解決を図ります。
- ご自身の刑事責任にも備えられます:署名した書面に行為を認める内容が含まれている場合、その扱いを含めて検討する必要があります。店側が警察に被害を申告した場合でも、弁護士であれば弁護人として活動することが可能です。
- 守秘義務があります:ご相談の内容が、無断で外部に漏れることはありません。
よくある質問(FAQ)
- 自分でサインした以上、もう争えないのではないでしょうか。
-
署名していても、常にそのまま効力を持つわけではありません。
脅されて署名したのであれば、強迫による意思表示として取り消すことができます(民法96条1項)。
また、内容を読ませてもらえなかった、金額の説明がなかったという場合には、そもそも合意が成立していたのかを争う余地があります。署名した状況を具体的に整理したうえで、ご相談ください。
- 借用書を書きましたが、実際にはお金を借りていません。それでも返済義務がありますか。
-
書面の上では貸し借りの体裁になっていても、実際に金銭の授受がなかったのであれば、貸し借りが成立しているのかという点を争う余地があります。
もっとも、書面に受け取った旨が記載されている場合、その記載と実際の経緯のどちらが事実かという問題になります。書面を作成した経緯を具体的に記録したうえで、ご相談ください。
- 書面の控えをもらっていません。どうすればよいでしょうか。
-
控えがなくても対応は可能です。
まず、記憶している範囲で内容をメモに残してください。
撮影していれば画像を保存してください。
そのうえで、相手方に書面の写しの交付を求めることができます。控えを渡していないこと自体が、相手方の対応の不当性を示す事情にもなり得ます。
- 分割で払い続けていますが、止めてもよいのでしょうか。
-
書面があるからといって、支払いを続けなければならないとは限りません。
ただし、支払いを止めれば店側から連絡が来ますので、窓口を弁護士に移したうえで止めるのが安全です。すでに支払った分についても、返還を求められる場合があります。
- 署名はしましたが、印鑑は押していません。効力に違いはありますか。
-
意思表示は、押印がなくても成立し得ます。
「印鑑を押していないから無効だ」という主張は通りにくいとお考えください。
もっとも、押印がないことは、書面が作成された経緯を検討するうえで考慮される事情のひとつにはなります。いずれにしても、押印の有無だけで結論が決まるものではありません。
まとめ
風俗店・メンズエステで書面に署名してしまった場合について、ポイントを整理します。
- 署名した書面が、常にそのまま効力を持つわけではない。示談書、誓約書、借用書のいずれであっても、検討する枠組みは同じである。
- 脅されて署名したのであれば、強迫による意思表示として取り消すことができる(民法96条1項)。暴力を振るわれていなくても、畏怖して署名に至ったのであれば対象となる。
- 取消権には期間の制限がある(民法126条)。署名から時間が経っている場合は、早めに検討する必要がある。
- 内容を読ませてもらえなかった、白紙に署名させられたという場合は、合意の成立自体を争う余地がある。
- 書面の控えがなくても対応は可能である。分割払いを続けている場合は、窓口を弁護士に移したうえで止めることを検討できる。
当事務所では、風俗店・メンズエステをめぐる金銭要求について、書面の効力の検討から、ご自身に刑事責任が生じ得る場合の弁護活動まで、一貫してお受けしています。
支払いを続けている場合も、お早めにご相談ください。
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