【この記事の結論・要約】
- 闇バイトに応募して個人情報を送ってしまっても、犯罪を実行していなければ、まだ引き返すことができます。
- 脅迫されている場合、あなたは脅迫の被害者として警察に相談でき、警察は相談者や家族を保護するとしています。
- 脅されて犯罪を実行しても罪を免れるのは難しく、すでに関与してしまった場合は、弁護士に相談して自首や出頭を検討することが重要です。
はじめに
「高額バイトに応募したら、身分証や家族の情報、自宅の中を撮影した動画まで送らされた」「やめたいと伝えたら、『家に行くぞ』『家族がどうなっても知らない』と脅されている」。
SNSなどで募集される、いわゆる闇バイトに応募した人から、こうした状況が語られています。
個人情報を握られて脅されると、警察に相談すれば自分が逮捕されるのではないか、家族に危害が加えられるのではないかと考え、誰にも相談できないまま指示に従ってしまうことがあります。
しかし、犯罪を実行すれば、脅されていたとしても重い刑事責任を負うことになります。
この記事では、闇バイトで個人情報を集められる手口、応募しただけで罪になるのか、脅迫されている場合の対応、脅されて実行した場合の責任、すでに関与してしまった場合の対応を、法律の観点から整理します。
闇バイトで個人情報を集められる手口
募集から個人情報の提出まで
闇バイトの募集は、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS、インターネットの掲示板、一般の求人サイトなどで行われます。
「荷物を運ぶだけ」「書類を回収するだけ」「高額即日払い」といった言葉で、仕事の内容をはっきり示さずに応募者を集めます。
応募すると、TelegramやSignalなど、一定時間でメッセージが消える秘匿性の高いアプリに誘導されます。
そこで「採用面接」「本人確認」と称して、次のような情報の提出を求められます。
- 運転免許証やマイナンバーカードの画像、身分証を顔の横に持った自撮り写真
- 実家の住所、家族構成、家族の勤務先や通う学校
- 自宅の玄関や部屋の中、最寄り駅から自宅までの道のりを撮影した動画
個人情報が脅迫の材料になる
こうした情報は、本人確認のためではなく、応募者が逃げられないようにするための材料として集められます。
住所や家族の情報、自宅の様子を把握されることで、応募者は「生活のすべてを知られている」という恐怖を感じることになります。
個人情報を送った後に、仕事の内容が特殊詐欺の受け子や強盗の実行役であることを明かされ、断ろうとすると、送った画像や動画とともに「家は分かっている」「家族に危害を加える」「学校や勤務先にばらす」といったメッセージが届きます。
こうして、応募者は脅されて犯罪に加担させられていきます。
誘われるきっかけ
報道によれば、警察が保護した闇バイトの応募者などについて、応募の経緯で最も多かったのは「知人の紹介」(30.7%)で、X(旧Twitter)が23.2%、その他のSNSが21.9%でした(時事通信2026年1月6日1)。
SNSだけでなく、先輩や友人など身近な人からの誘いがきっかけになることもあります。
海外での仕事を持ちかけられる場合
「海外で楽に稼げる」などと勧誘され、渡航した先で特殊詐欺のかけ子などをさせられる例もあります。
警察庁によれば、渡航後に別の国へ密入国させられ、監視されながら特殊詐欺の電話をかけさせられた例や、帰国を申し出ると脅された例があったとされています(日本経済新聞2025年2月20日2)。
海外では、日本の警察がすぐに保護することはできません。
旅券を取り上げられて帰国できなくなるおそれもあります。
海外での仕事を持ちかけられた場合は、渡航する前に、家族や警察に相談してください。
応募しただけで罪になるか
応募しただけでは原則として罪にならない
闇バイトに応募し、身分証などの個人情報を送っただけの段階では、原則として犯罪にはなりません。
犯罪が成立するのは、詐欺や強盗などの実行に着手した段階からであり、準備の段階を処罰するのは、法律に特別の規定がある場合に限られるからです。
つまり、応募して個人情報を送ってしまったとしても、犯罪を実行していなければ、まだ引き返すことができます。
準備の段階でも罪になる場合
ただし、強盗については、実行の前の準備の段階でも、強盗予備罪(刑法237条、2年以下の拘禁刑)が成立することがあります。
強盗に使う道具を用意する、下見をするといった行為をすれば、実行しなくても罪に問われる可能性があります。
また、指示に従って自分の預貯金口座や携帯電話を売り渡したり貸したりすれば、それ自体が犯罪収益移転防止法違反などの罪になります。
犯罪の相談に加わった後で抜ける場合
仕事の内容を知らされたうえで、犯行の打合せに加わり、実行することを約束した場合には、その時点で他の共犯者との共謀が成立していると評価されるおそれがあります。
共謀が成立した後に他の共犯者が犯罪を実行すれば、自分が現場に行かなくても、共同正犯として責任を問われる可能性があります。
このような場合に責任を免れるには、犯行の実行前に、共犯関係から離脱したと評価される必要があります。
一般に、離脱の意思を明確に示すだけでなく、自分が関与したことによる影響を取り除くことが求められると考えられています。
犯行グループに離脱を伝えることは危険を伴うため、まずは警察に相談することが重要です。
脅迫されている場合の対応
あなたは脅迫の被害者
「家族に危害を加える」などと告げて人を脅すことは、脅迫罪(刑法222条、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)にあたります。
脅して義務のないことを行わせようとすることは、強要罪(刑法223条、3年以下の拘禁刑)にあたり得ます。
つまり、犯行グループから脅されている場合、あなたは犯罪の被害者でもあります。
自分が闇バイトに応募したことを理由に、警察に相談できないと考える必要はありません。
警察への相談と保護
脅迫を受けている場合は、警察に相談してください。
緊急の場合は110番、緊急でない場合は警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談できます。
政府は、闇バイトに応募してしまったり、犯行グループから脅されたりしても、犯罪に手を染める前に警察へ相談するよう呼びかけ、警察は確実に保護を行い、相談者やその家族を必ず守るとしています(政府広報オンライン)。
警察庁は令和6年10月、闇バイトの応募者などから相談を受けた場合に、本人や家族の一時避難や周辺のパトロールの強化などの保護措置を適切に行うよう都道府県警察に通達しました。
報道によれば、令和7年11月末までに全国で544件の保護措置が行われ、警察庁は、保護した後に危害を加えられた事例は把握していないとしています(時事通信2026年1月6日)。
してはいけないこと
- 指示に従って犯罪を実行すること:「一度だけやれば解放する」と言われても、一度実行すれば共犯者となり、さらに脅迫の材料にされるおそれがある
- 犯行グループとのやり取りのメッセージや、送られてきた脅迫の画像を削除すること:脅迫の証拠になり、自分が脅されていた事情を示す資料にもなる
- SNSで助けを求めること:別の犯罪グループや詐欺師に狙われるおそれがある
- 一人で、あるいは家族だけで解決しようとすること
相手との連絡をどのように断つかについても、警察に相談したうえで、指示に従って対応してください。
身の安全の確保
自宅の住所や様子を知られてしまった場合は、警察と相談しながら、一時的に家族や親族の家に身を寄せるなど、身の安全を確保することも考えてください。
家族にも事情を伝え、不審な訪問や連絡があった場合はすぐに警察に知らせるよう話しておくことが大切です。
送ってしまった個人情報への対応
送ってしまった身分証の画像などが、他人名義の口座の開設や携帯電話の契約などに悪用されるおそれもあります。
身に覚えのない契約の通知が届いた場合は、その金融機関や携帯電話会社に連絡するとともに、警察にも相談してください。
身分証の再発行や番号の変更が必要かどうかは、身分証の種類によって異なります。
警察に相談する際に、どの情報を送ってしまったかを具体的に伝えておくと、対応を検討しやすくなります。
お金に困っている場合の相談先
闇バイトに応募したきっかけが、借金や生活費の不足にある場合は、その問題を解決しなければ、再び危険な誘いに乗ってしまうおそれがあります。
生活に困っている場合は、市区町村の生活困窮者の相談窓口に相談することができます。
借金の問題は、弁護士に相談すれば、債務整理などの解決方法を検討することができます。
脅されて実行したら罪を免れるか
脅されていた事情は原則として罪の成立を妨げない
脅されて仕方なく犯罪を実行した場合でも、原則として罪は成立します。
刑法には、自己や他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は罰しないとする緊急避難の規定があります(刑法37条1項)。
しかし、緊急避難が認められるには、危難が差し迫っていること、他に危難を避ける方法がなかったこと、生じた害が避けようとした害を超えないことなどが必要です。
メッセージや電話による脅迫の場合、警察に相談するなど他に危難を避ける方法があったと評価されやすいため、緊急避難が認められることは考えにくいでしょう。
量刑で考慮される余地
脅されていた事情は、犯行に至る経緯として、量刑の判断で考慮される余地があります。
ただし、それだけで刑が大きく軽くなるとは限りません。
闇バイトで強盗に加わった実行役には、懲役16年や無期懲役の判決が言い渡された例もあります。


すでに実行してしまった場合
自首と出頭
すでに受け子や出し子、見張りなどとして犯罪に関与してしまった場合でも、逮捕される前に行動することで、その後の見通しが変わることがあります。
罪を犯した人が、捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができます(刑法42条1項)。
すでに捜査機関が犯人を特定している場合は、法律上の自首にはあたりませんが、自ら出頭したことは、逃亡や証拠隠滅のおそれが小さいことを示す事情として、身柄拘束や量刑の判断で考慮される可能性があります。
弁護士への相談と同行
自首や出頭の前に弁護士に相談すれば、関与した事件の内容や脅されていた経緯を整理し、警察に提出する書面を準備することができます。
弁護士が警察署に同行し、身柄を拘束しないよう求めることもできます。
弁護士には守秘義務があり、相談した内容が本人の同意なく警察に伝えられることはありません。
警察に行くことに不安がある場合は、まず弁護士に相談してください。

家族が気づいた場合
異変のサイン
次のような様子が見られる場合は、闇バイトに関わっている可能性があります。
- 急に高額な物を持つようになった、または急にお金に困っている様子がある
- スマートフォンを隠すように使い、見慣れないアプリで頻繁に連絡を取っている
- 家に知らない人が来たり、不審な電話がかかってきたりしていないかを気にしている
- 突然「しばらく家に帰らない」「引っ越したい」と言い出す
本人との話し方
問い詰めたり責めたりすると、本人はかえって話せなくなることがあります。
本人は「話したら家族に危害が加えられる」と思い込まされている可能性もあります。
「何かあるなら、一緒に警察や弁護士に相談しよう」と、安心して話せる場所があることを伝えてください。
本人がすでに逮捕されてしまった場合の対応は、以下の記事で解説しています。

本人が未成年の場合
本人が未成年の場合は、保護者が一緒に警察に相談してください。
すでに犯罪に関与してしまっている場合でも、20歳未満の少年の事件は家庭裁判所に送られ、本人の立ち直りを重視した手続で処分が決まります。

よくある質問(FAQ)
- 闇バイトに応募して身分証を送ってしまいました。もう罪になっていますか。
-
応募して個人情報を送っただけでは、原則として罪にはなりません。
ただし、犯罪を実行したり、強盗の準備をしたり、口座や携帯電話を売り渡したりすれば罪になるため、指示には従わず、警察に相談してください。
- 「家族に危害を加える」と脅されています。どうすればよいですか。
-
すぐに警察に相談してください。
緊急の場合は110番、そうでない場合は警察相談専用電話(#9110)で相談でき、警察は相談者や家族の保護を行うとしています。
脅迫のメッセージは削除せずに残しておいてください。 - 警察に相談したら、自分が逮捕されませんか。
-
犯罪を実行していなければ、応募しただけで逮捕されることは原則としてありません。
すでに関与してしまった場合でも、自ら相談・出頭したことは有利な事情として考慮される可能性があるため、不安があればまず弁護士に相談してください。
- 脅されて仕方なくやった場合でも罪になりますか。
-
原則として罪になります。
緊急避難が認められるには、他に危難を避ける方法がなかったことなどが必要で、警察に相談できた状況では認められにくいと考えられます。
脅されていた事情は、量刑で考慮される余地にとどまります。 - 犯行の打合せに加わってしまいましたが、まだ実行していません。今から抜けられますか。
-
実行前に共犯関係から離脱すれば、責任を免れる余地があります。
ただし、共謀が成立した後は、離脱の意思を示すだけでは足りないとされることもあり、犯行グループへの連絡は危険を伴うため、すぐに警察や弁護士に相談してください。
- 弁護士に相談したら、警察に通報されますか。
-
弁護士には守秘義務があり、相談内容が本人の同意なく警察に伝えられることはありません。
自首や出頭をするかどうかも含めて、弁護士と相談しながら決めることができます。
まとめ
- 闇バイトでは、採用面接や本人確認と称して身分証や家族の情報、自宅の動画などを送らせ、それを材料に脅して犯罪に加担させる手口が使われている
- 応募して個人情報を送っただけでは原則として罪にならないが、強盗の準備や口座・携帯電話の売り渡しは罪になり得る。犯行の打合せに加わった後は、離脱しなければ責任を問われるおそれがある
- 脅迫は相手の犯罪であり、応募者は被害者として警察に相談できる。警察は相談者や家族を保護するとしており、保護措置は令和7年11月末までに544件行われた
- 脅されて犯罪を実行しても、緊急避難が認められることは考えにくく、原則として罪は成立する
- すでに関与してしまった場合は、弁護士に相談したうえで、自首や出頭を検討することが重要である
当事務所では、闇バイトに応募してしまった方や、すでに関与してしまった方からのご相談、自首や出頭への同行、逮捕された方の接見などをお受けしています。
弁護士には守秘義務があります。
ご本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。
犯罪を実行する前であれば、まだ引き返すことができます。
脅されている場合は、まず警察に相談してください。
そのうえで、法的な対応に不安がある場合は、お早めにご相談ください。
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