削除代行業者への依頼|非弁行為にあたる場合と費用の返還

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 削除代行を業務として行う契約について、弁護士法72条に違反し無効であるとした裁判例があります。削除フォームから依頼するだけの行為も法律事務にあたるとされました。
  2. 同じ裁判例は、支払った代金の返還を認めています。契約が無効である以上、支払った費用を取り戻せる場合があります。
  3. 費用が戻るとしても、失った時間は戻りません。業者に依頼している間に通信記録の保存期間が経過すれば、投稿者を特定できなくなります。

はじめに

インターネット上の書き込みについて調べていると、削除を代行するという業者の広告が表示されます。

成功報酬であること、弁護士より費用が安いことを掲げているものもあります。
費用の面だけを見れば、依頼したくなる内容です。

この記事では、こうした業者への依頼が法律上どう扱われるのか、依頼した場合に何が起こるのか、すでに依頼してしまった場合に何ができるのかを、裁判例に沿って解説します。

弁護士法72条が禁じていること

弁護士法72条は、次のとおり定めています。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、法律事件に関する法律事務を取り扱うことを禁じるものです。
違反した場合、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められています(弁護士法77条3号)。

削除代行が禁止の対象となる理由

東京地裁平成29年2月20日判決(判タ1451号37頁)は、削除代行を内容とする契約について、弁護士法72条本文前段に違反すると判断しました。

この判決は、要件ごとに検討しています。

法律事件にあたること

同判決は、法律事件について次のとおり述べています。

「弁護士法72条本文前段にいう「法律事件」とは,法律上の権利義務に関し争いや疑義があり,又は,新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解される。」

そのうえで、削除を求める行為について、次のとおり判断しました。

「ウェブサイト運営者側の表現の自由と対立しながら,これにより本件各記事が削除され,原告の人格権の侵害状態が除去されるという効果を発生させることになるのであるから,単純かつ画一的に行われるものとはいえず,新たな権利義務関係を発生させるものである。」

削除を求めることは、サイト運営者の表現の自由と対立する場面であり、単純な事務処理ではないという判断です。

削除フォームからの依頼も法律事務にあたる

この事案で業者が行っていたのは、サイトが用意した通報用のフォームに入力し、迷惑を被っている旨の情報を提供して削除を依頼するという行為でした。

業者側は、単に情報を提供して削除を依頼しただけであるから法律事務にあたらないと主張しましたが、同判決はこれを認めませんでした。

「当該フォームに入力して迷惑を被っている旨の情報を提供する行為は,原告の人格権に基づく削除請求権の行使により,ウェブサイトの運営者に対し,削除義務の発生という法律上の効果を発生させ,原告の人格権を保全,明確化する事項の処理といえる。」

フォームに入力するだけであっても、法律事務の取扱いにあたると判断されています。
手続が簡易であることは、理由になりません。

業として行っていること

同判決は、業者が定型の見積書兼申込書、業務委託契約書、秘密保持契約書を用意していたことなどから、法律事務の取扱いを反復的に行っていたと認めています。

報酬を得る目的があること

削除業務の対価として金員を受け取っていたことから、報酬を得る目的も認められました。

成功報酬という形をとっていても、対価として受け取る以上は同じです。

契約は無効になる

同判決は、契約全体が弁護士法72条本文前段により禁止される行為を内容とするものであるとして、民法90条に照らし無効になるとしました。

(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

支払った費用を取り戻せるか

契約が無効であれば、支払った費用は法律上の原因なく業者が得たものになります。

不法原因給付という反論

この場面で、業者側から次の反論がされることがあります。

民法708条は、不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができないと定めています。
依頼者も業者が行う業務の内容を分かって依頼した以上、返還を求められないという主張です。

(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

裁判所の判断

同判決は、この主張を認めませんでした。

契約が弁護士法に違反する以上、支払った代金は不法原因給付にあたるとしながらも、給付した側の不法性が受け取った側のそれに比べて極めて微弱である場合には、民法708条の適用はなく、返還を請求できるとしています。

そのうえで、この事案では返還を認め、支払った代金の返還を命じています。

依頼した側にも問題があったとしても、その程度は業者側と比べて小さいという判断です。
なお、この判決は確定しています。

実際に取り戻せるか

裁判例があるとしても、業者が任意に返還に応じるとは限りません。

応じられない場合には、訴訟を提起することになります。
また、業者が事業を停止していれば、判決を得ても回収できないことがあります。

費用よりも失われるもの

費用も重要ですが、その他にも重要なのは以下の点です。

時間は戻らない

支払った費用は、後から返還を求められる場合があります。

しかし、その間に過ぎた時間は戻りません。
削除されないまま数か月が過ぎれば、被害は続き、拡散も進みます。

投稿者を特定できなくなる

より深刻なのは、投稿者の特定ができなくなることです。

アクセスプロバイダの通信記録の保存期間は一般に3か月から6か月程度で、事業者によって異なります。
裁判手続による特定には3か月から9か月程度かかります。

業者に依頼して数か月を費やせば、その後に弁護士に依頼しても、記録が残っていません。
損害賠償を求めることも、刑事告訴をすることもできなくなります。

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削除によって記録が失われる

業者が削除に成功した場合にも、問題が生じます。

削除されれば、その書き込みの内容を示せなくなります。
後から投稿者に責任を追及しようとしても、対象を特定する資料がありません。

削除と特定のどちらを優先するかは、最初に決めておく必要があります。

裁判手続に進めない

業者は、サイトの運営者が任意に応じない場合に、裁判所に仮処分を申し立てることができません。

任意の申請で削除されなければ、そこで終わります。
前掲の判決の事案でも、業者が削除できないとして依頼を撤回した記事が複数ありました。

弁護士と提携していると説明された場合

誰が処理しているか

弁護士と提携しているという説明を受けることがあります。

前掲の判決の事案でも、業者が行政書士に相談し、その紹介を受けた弁護士が削除を求めるという流れがとられた記事がありました。
依頼者は、業者の指示に従って弁護士の委任状に記入しています。

同判決は、この点について判断するまでもなく契約全体が無効になるとしました。

確認すべき点

  • 契約の相手方が誰か(業者か、弁護士か)
  • 費用を誰に支払うのか
  • 弁護士と直接やり取りできるのか
  • 裁判手続まで行うのか

弁護士に依頼するのであれば、委任契約は弁護士又は弁護士法人との間で結ばれます
業者との間で契約を結び、業者に費用を支払う形であれば、実質は業者への依頼です。

業者に依頼してよい場面

削除に関わる業務がすべて禁じられるわけではありません。

自社のサイトに関する対応

自社が管理するウェブサイトの記載を修正する、公開をやめるといった対応は、他人の法律事件を取り扱うものではありません。

技術的な作業

ウェブサイトの構成を変更する、検索されやすいページを作るといった作業は、法律事務にあたりません。

もっとも、これらは書き込みを消すものではありません。
表示されにくくなったとしても、ページ自体は残ります。

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本人が自分で行う場合

本人が自分で削除を申請することは、何ら問題ありません。

弁護士法72条が禁じているのは、他人の法律事件を報酬を得て取り扱うことです。
自分の問題について自分で対応することは、この規定の対象外です。

ただし、自分で申請する場合にも、削除される前に内容を保存しておく必要があります。

すでに依頼してしまった場合

まず期間を確認する

書き込みが行われてからどれだけ経過しているかを確認してください。

投稿者の特定も求めるのであれば、残された時間が限られています。
費用の返還より、そちらを先に検討すべき場面があります。

資料を整理する

  • 業者との契約書、見積書、申込書
  • 支払った金額と支払日が分かる資料
  • 業者とのメールなどのやり取り
  • 業者が実際に何を行ったかが分かる報告
  • 対象となった書き込みの内容とURL

前掲の判決でも、業者から送られたメールが、業者が何を行ったかを示す資料として用いられています。

契約を終了させる

契約が無効である以上、そのまま費用を支払い続ける理由はありません。

まだ支払っていない分があれば、支払う必要がないと主張できます。
すでに支払った分については、返還を求めることになります。

よくある質問(FAQ)

削除業者に依頼するのは違法ですか。

弁護士法72条が禁じているのは、弁護士でない者が報酬を得て他人の法律事件を取り扱うことです。
処罰の対象となるのは業者の側であり、依頼した人が罰せられるわけではありません。

もっとも、その契約は無効とされ、期待した結果も得られないことになります。

削除フォームから依頼するだけでも問題になりますか。

裁判例は、通報用のフォームに入力して削除を依頼する行為についても、人格権に基づく削除請求権の行使であり、法律事務の取扱いにあたると判断しています。
手続が簡易であることは理由になりません。

支払った費用は戻りますか。

契約が無効である以上、返還を求められます。

業者側から不法原因給付であるとして返還を拒まれることがありますが、裁判例は、給付した側の不法性が業者側と比べて極めて微弱である場合には返還を請求できるとしています。
もっとも、業者が任意に応じるとは限らず、訴訟が必要になることがあります。

弁護士と提携していると言われました。

契約の相手方が誰か、費用を誰に支払うのかをご確認ください。
弁護士に依頼するのであれば、委任契約は弁護士又は弁護士法人との間で結ばれます。

業者と契約を結び、業者に費用を支払う形であれば、実質は業者への依頼です。

業者が削除に成功すれば問題ないのではないですか。

削除されれば、その書き込みの内容を示せなくなります。
後から投稿者に責任を追及しようとしても、対象を特定する資料がありません。

また、任意の申請で削除されない場合、業者は裁判手続に進めないため、そこで対応が止まります。

自分で削除を申請するのは問題ありませんか。

問題ありません。

弁護士法72条が禁じているのは、他人の法律事件を報酬を得て取り扱うことです。
自分の問題について自分で対応することは対象外です。

ただし、削除される前に内容を保存しておく必要があります。

まとめ

この記事の要点は次のとおりです。

  • 削除代行を内容とする契約を弁護士法72条違反として無効とした裁判例がある
  • 削除フォームから依頼するだけの行為も、法律事務の取扱いにあたるとされた
  • 契約が無効である以上、支払った費用の返還を求められる
  • 費用は戻る場合があっても、失った時間は戻らない
  • 通信記録の保存期間が経過すれば、投稿者を特定できなくなる
  • 業者は、任意の申請で削除されない場合に裁判手続へ進めない

削除だけを目的とする場合であっても、後から投稿者に責任を追及する可能性があるのであれば、最初にその点を含めて方針を決める必要があります。

当事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の削除、発信者情報開示請求、損害賠償請求のいずれにも対応しています。
すでに業者に依頼された方も、当事務所にご相談ください。

投稿者の特定には通信記録の保存期間という時間的な制約があります。
お早めにご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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