【この記事の結論・要約】
- 貞操権侵害の慰謝料として請求された金額は、相手が「支払ってほしい」と考える希望額にすぎません。悪質性の程度、交際・関係の実態、相場との比較によっては、減額を主張できる余地があります。
- 減額を検討する前に、まず「そもそも責任の成立を争えないか」を確認することが重要です。相手を積極的に欺いたとはいえない、相手が既婚を知り得たといった事情があれば、減額ではなく支払義務自体を否定できる可能性があります。
- 減額交渉では、感情的な対立を避け、事実に即した反論と妥当な金額の提示を書面で行うことが基本です。無理な一括払いの約束や、動揺したままの示談書へのサインは避けるべきです。
はじめに
「貞操権侵害だとして高額な慰謝料を請求されたが、この金額を本当に支払わなければならないのか」 「既婚であることを黙っていた点は事実だが、請求額があまりに高い。少しでも下げられないか」
貞操権侵害を理由とする慰謝料の請求を受けたとき、多くの方が最初に直面するのが、請求された金額の重さです。
しかし、請求書や内容証明に記載された金額は、あくまで請求する側が提示した希望額であり、そのまま支払わなければならない確定した金額ではありません。
本記事では、貞操権侵害の慰謝料を請求された方に向けて、金額を減額できる可能性のあるケースと、減額交渉の進め方を解説します。
なお、請求そのものの成立を争えるケース(そもそも支払義務がない場合)については、別の記事で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

減額を考える前に確認すべきこと|「成立」と「減額」は別の問題
減額の話に入る前に、必ず確認していただきたいことがあります。
それは、「そもそも貞操権侵害が成立するのか」という点です。
貞操権侵害が成立するには、あなたが自らの婚姻について相手を欺いた(独身と誤信させた)こと、その誤信によって相手が性的関係を持つに至ったこと、という関係が必要です。
次のような事情がある場合には、金額を下げる「減額」の問題ではなく、そもそも支払義務があるのかという「成立」の問題として、請求自体を争える可能性があります。
- 二人の関係が、結婚を期待させるような真剣な交際ではなく、遊びの関係・体だけの関係にとどまっていた場合(婚姻への期待に乗じたとはいえないため、そもそも成立しないのが原則です)
- 相手を積極的に独身だと信じ込ませる言動がなく、既婚であることを告げなかったにとどまる場合
- 相手が、あなたが既婚であることを知っていた、または通常であれば気づき得た事情がある場合
- あなたの婚姻の有無と、相手が性的関係を持ったこととの間に、因果関係が乏しい場合
これらに当てはまる可能性がある場合は、減額交渉に進む前に、成立を争う余地がないかを検討すべきです。
特に、結婚を期待させる関係ではなかったといえる場合は、貞操権侵害の成立に対する反論になり得ます。
成立を争う具体的な考え方は、別の記事で解説しています。


本記事は、「成立自体を争うことは難しいが、金額は下げたい」という段階の方に向けた、減額の解説です。
減額の材料になる事情
貞操権侵害の責任は認めざるを得ない場合でも、次のような事情は慰謝料の金額を左右し、減額を主張する材料になり得ます。
請求額が相場を超えている場合
貞操権侵害の慰謝料は、事案により幅がありますが、数十万円から200万円程度の範囲となることが多く、事情によってはこれを上回るとされることもあります。
裁判所が認める金額は、後述する悪質性や交際の実態などを総合して決まるものであり、相手の請求額がこの水準を大きく超えている場合には、その超過部分は交渉の余地があります。
請求書に高額が記載されていても、それは相手の希望額であって、裁判所が同額を認めるとは限りません。
まずは、請求額が事案に照らして妥当な水準かを見極めることが出発点です。
欺罔の悪質性が高くない場合
慰謝料の額は、欺罔(相手を独身と誤信させた行為)の悪質性の程度に大きく左右されます。
たとえば、独身証明書を偽造した、結婚を具体的に約束して信じ込ませた、妊娠した、長期間にわたり周到に独身を装い続けたといった事情がある事案では、悪質性が高いと評価され、金額は高額化する傾向があります。
逆に、既婚であることを明確には告げていなかったにとどまり、相手を積極的に欺くような言動が乏しい事案では、悪質性は相対的に低く評価され得ます。
なお、悪質性が低い事案は、上述したとおり、そもそも「欺いたといえるか」という成立の問題にもつながります。
悪質性の低さは、減額の材料になると同時に、事情によっては成立自体を争う材料にもなり得るという関係にあります。
交際・関係の実態
交際の期間、性的関係の回数や態様も、慰謝料の額に影響します。
関係が短期間・少数回にとどまる場合には、相手が受けた精神的苦痛の程度も、それに応じて評価される傾向があります。
長期間にわたり、相手が結婚を期待するような関係が続いていた事案と比べれば、金額は低く評価され得ます。
結婚の約束・婚約がない場合
相手が結婚を強く期待するに至った事情、とりわけ婚約や結婚の具体的な約束があった事案では、慰謝料は高額化する傾向があります。
逆に、そうした結婚に向けた約束や期待を形成する事情が乏しい場合には、その分、金額は抑えられる方向に働きます。
なお、この点は程度の問題でもあります。
結婚への期待を形成する事情がまったくなく、単なる遊びの関係にとどまっていたといえる場合には、金額の減額にとどまらず、上述したとおり、そもそも貞操権侵害の成立自体を争える可能性があります。
婚姻への期待がどの程度あったかは、減額と成立の双方に関わる要素です。
相手が被った具体的な不利益が乏しい場合
相手が、貞操権侵害によって具体的な不利益(心身への影響など)を被ったといえるか、その程度も金額を左右します。
抽象的な精神的苦痛の主張にとどまり、具体的な不利益の裏づけが乏しい場合には、高額の慰謝料は認められにくくなります。
減額交渉の進め方
減額交渉は、おおむね次の流れで進めます。
第一に、請求内容の精査です。
相手が主張する事実、根拠とする証拠、請求金額を確認し、上述した減額材料がどれだけあるかを整理します。
相手の主張のうち、事実と異なる点や、証拠の裏づけが乏しい点があれば、そこも交渉の材料になります。
第二に、反論と希望額の提示です。
減額の根拠となる事情を示したうえで、こちらが妥当と考える金額を提示します。
感情的な非難ではなく、事実と法的な評価に基づいて主張することが、交渉を前に進めるうえで重要です。
第三に、条件のすり合わせです。
金額だけでなく、支払方法(一括か分割か)、支払時期、示談書の内容についても交渉します。
一括での支払いが難しい場合には、分割払いを提案することもできます。
ただし、分割の示談書には、支払いを怠った場合に残額を一括請求できる条項が入るのが通常ですので、無理のない条件で合意することが大切です。
第四に、示談書の取り交わしです。
合意に至ったら、内容を書面にして残します。
示談書には、その金額の支払いによって本件が解決し、今後互いに債権債務がないことを確認する条項(清算条項)を入れることが一般的です。
この条項の範囲は、後の紛争を防ぐうえで重要ですので、内容をよく確認する必要があります。
やってはいけない減額交渉
減額を目指すうえで、次の対応はかえって不利に働く可能性があります。
第一に、言い値での即答です。
請求額に動揺し、その場で「分かりました」と応じてしまうと、減額の交渉余地を自ら手放すことになります。
金額の妥当性を検討する前に、支払いを約束すべきではありません。
第二に、事実に反する主張です。
金額を下げようとして事実に反する説明をすると、後に相手が持つ客観的な証拠(やり取りの記録など)と矛盾したときに、あなたの主張全体の信用が損なわれ、かえって交渉が不利になります。
減額の主張は、あくまで事実に基づいて行うべきです。
第三に、SNSでの発信や第三者への暴露です。
相手への不満から、交際の経緯や相手の情報をSNSに投稿したり第三者に伝えたりすると、名誉毀損やプライバシー侵害を理由に、今度はあなたが責任を問われるおそれがあります。
減額交渉とは別に、新たな賠償問題を生みかねません。
第四に、無理な一括払いの約束です。
手元にない資金の一括払いを安請け合いすると、支払えなかった場合に、かえって信頼を損ない、法的な立場も悪くなります。
支払える範囲での現実的な条件を提示すべきです。
弁護士に依頼するメリット
貞操権侵害の減額交渉を弁護士に依頼する意味は、次の点にあります。
第一に、「成立」と「減額」の切り分けです。
上述したとおり、事案によっては、減額ではなく成立自体を争える場合があります。
弁護士は、まずこの見極めを行い、争える事案であれば支払義務の否定を、争いにくい事案であれば減額を、それぞれ適切な方針として選択します。
この切り分けが、最終的な負担額を最も大きく左右します。
第二に、相場観に基づく交渉です。
請求額が事案に照らして妥当かを、過去の裁判例の水準を踏まえて評価し、根拠のある減額を主張します。
第三に、直接交渉の回避です。
相手やその代理人との直接のやり取りを代理することで、感情的な対立や、不用意な発言による不利益を避けられます。
第四に、秘匿への配慮です。
ご家族や勤務先に知られたくないという事情に配慮した進め方が可能です。
よくある質問(FAQ)
- 請求された金額は、そのまま支払わなければならないのですか?
-
いいえ。
請求額は相手の希望額であり、裁判所が認める金額とは異なります。
悪質性の程度、交際の実態、相場との比較によって、減額を主張できる余地があります。まずは金額の妥当性を精査したうえで対応すべきです。
- お金がなく、請求額を支払えません。減額だけでなく分割払いはできますか?
-
できる場合があります。
金額そのものの減額交渉と、支払方法(分割払い)の交渉を並行して進めることは可能です。
ただし、分割の示談書には支払いを怠った場合の条項が入るのが通常ですので、確実に支払える無理のない条件で合意することが重要です。 - 一度サインしてしまった示談書の金額を、後から減額できますか?
-
一度成立した示談を覆すことは、容易ではありません。
ただし、示談書の内容を十分に確認できないまま一方的に署名させられた事情や、内容に錯誤があるといえる事情がある場合には、争える余地が残ることもあります。
すでにサインしてしまった場合でも、諦める前に一度ご相談ください。
- 相手が私の既婚を薄々気づいていた場合は、減額されますか?
-
その場合は、減額の問題にとどまらず、そもそも貞操権侵害が成立するのかという問題になります。
相手が既婚を知っていた、または知り得た事情があれば、支払義務自体を否定できる可能性がありますので、減額交渉に入る前に、成立を争う余地がないかを検討すべきです。 - 交渉がまとまらず裁判になったら、金額は増えますか?
-
必ず増えるわけではありません。
裁判所は、悪質性や交際の実態などを総合して金額を判断するため、相手の請求額がそのまま認められるとは限らず、交渉段階での提示額より低くなることもあります。
一方で、訴訟には時間と手間がかかります。
裁判をした場合の見通しも踏まえて、交渉での解決が妥当かを判断することになります。
まとめ
貞操権侵害の慰謝料として請求された金額は、相手の希望額にすぎず、悪質性の程度、交際の実態、相場との比較によって、減額を主張できる余地があります。
ただし、その前に「そもそも成立を争えないか」を確認することが先決です。
成立を争える事案では、減額ではなく支払義務自体を否定できる可能性があるからです。
減額交渉は、事実に即した反論と妥当な金額の提示を、感情的にならずに進めることが基本です。
言い値での即答、事実に反する主張、SNSでの発信、無理な一括払いの約束は、いずれも避けるべきです。
当事務所では、貞操権侵害の請求について、成立を争う余地の見極めから、減額交渉、示談書の確認まで対応しています。
請求された金額に納得できない方、示談書にサインする前の方は、お早めにご相談ください。
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