【この記事の結論・要約】
- 口座売買の事件は、不起訴、略式命令による罰金、公判請求のいずれかで終わります。罰金であっても前科になります。
- 検察統計によれば、令和6年に処分された犯罪収益移転防止法違反の被疑者のうち、半数を超える人が不起訴となっており、その多くは起訴猶予です。
- 口座売買そのものには特定の被害者がいないため、示談以外の事情が処分の判断を左右します。売る目的で口座を開設していた場合は詐欺罪となり、扱いが大きく変わります。
はじめに
口座を売ってしまった後、警察から連絡を受けた方や、すでに取調べを受けている方にとって、まず問題になるのは、前科がつくのか、不起訴になる可能性はあるのかという点です。
口座売買は、令和8年7月の法改正で罰則が引き上げられましたが、すべての事件が起訴されるわけではありません。
一方で、口座売買そのものには詐欺のような特定の被害者がいないため、示談をすれば不起訴になるという単純な構図にはなりません。
この記事では、検察統計の数値をもとに口座売買の事件がどのように処分されているかを示したうえで、不起訴の種類、起訴猶予の判断で考慮される事情、被害者がいない場合の対応、詐欺罪に問われた場合の違い、不起訴になった後に残る影響を説明します。
口座売買で成立する罪や罰則の全体像は、以下の記事で解説しています。

口座売買の事件の処分
処分の3つの種類
警察の捜査が終わると、事件は検察官に送られ、検察官が起訴するかどうかを決めます。
口座売買の事件の終わり方は、大きく分けて次の3つです。
| 処分 | 内容 | 前科 |
|---|---|---|
| 不起訴 | 検察官が起訴しないと決める。刑事裁判は開かれない | つかない |
| 略式命令請求 | 検察官が簡易裁判所に請求し、正式な裁判を開かずに書面の審理で罰金を科す | つく |
| 公判請求 | 公開の法廷で正式な刑事裁判が開かれる。拘禁刑が言い渡されることもある | 有罪判決ならつく |
略式命令は、100万円以下の罰金を科す場合に限られ(刑事訴訟法461条)、検察官が本人に略式手続によることに異議がないかを確かめたうえで請求します(同法461条の2)。
法廷に出る必要はありませんが、有罪の裁判であることに変わりはなく、罰金を納めれば前科がつきます。
犯罪収益移転防止法違反の処分の内訳
法務省の検察統計によれば、令和6年に検察庁が処分した犯罪収益移転防止法違反の被疑者の内訳は、次のとおりです。
| 処分 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 公判請求 | 252人 | 6.6% |
| 略式命令請求 | 1,452人 | 38.0% |
| 起訴猶予 | 1,745人 | 45.6% |
| 嫌疑不十分 | 355人 | 9.3% |
| その他の不起訴 | 20人 | 0.5% |
| 合計 | 3,824人 | 100% |
割合は、起訴と不起訴の合計(3,824人)に対するものです。
他の検察庁への送致や家庭裁判所への送致などは含めていません。
起訴されたのは1,704人(44.6%)、不起訴は2,120人(55.4%)で、半数を超える人が不起訴となっています。
不起訴のうち8割以上は起訴猶予です。
また、起訴された人の85%以上は略式命令請求で、公判請求は252人にとどまります。
この数値には、次の点に注意が必要です。
- 犯罪収益移転防止法違反全体の数値で、口座の売買以外の違反も含まれている
- 令和6年の数値であり、罰則が引き上げられる前(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)の時期のものである
- 口座を売る目的で開設した場合など、詐欺罪として処理された事件は含まれていない
参考までに、同じ年の詐欺罪では、起訴が7,502人、不起訴が7,068人で、起訴された人はすべて公判請求でした。
詐欺罪には罰金刑がないため、略式命令で終わることはありません。
不起訴の種類
嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予
不起訴には、理由によっていくつかの種類があります。
口座売買の事件で主に問題になるのは、次の3つです。
- 嫌疑なし:犯罪の疑いがないことが明らかになった場合
- 嫌疑不十分:犯罪を証明する証拠が足りない場合
- 起訴猶予:犯罪は成立するが、さまざまな事情を考慮して起訴しない場合
起訴猶予は、刑事訴訟法248条に基づく処分です。
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
刑事訴訟法248条
口座を売ったことを認めていて、罪が成立する事件で不起訴になる場合は、起訴猶予となります。
検察統計でも、犯罪収益移転防止法違反の不起訴2,120人のうち1,745人が起訴猶予でした。
嫌疑不十分が問題になる場面
口座を渡した事実があっても、罪の要件を満たすかどうかが争いになる場合があります。
犯罪収益移転防止法26条2項は、口座の通帳やキャッシュカードなど(預貯金通帳等)を渡す行為について、次のように定めています。
相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
犯罪収益移転防止法26条2項
「前項前段の目的」とは、他人になりすまして口座を使う、または第三者に使わせる目的のことです。
この条文から、罪になるのは次の2つの場合に分かれます。
- 相手が他人になりすまして口座を使う目的であると知りながら渡した場合(お金を受け取ったかどうかは問わない)
- 正当な理由がないのに、お金などの対価を受け取って渡した場合(相手の目的を知っていたかどうかは問わない)
たとえば、知人に頼まれて無償でキャッシュカードを貸した場合には、相手がなりすましに使う目的だと知っていたかどうかが問題になります。
知人の言葉を信じて、本人が自分の口座として使うと思っていた事情があれば、罪が成立しない可能性もあります。
こうした場合は、事実関係を整理し、渡した経緯を正確に説明することが重要になります。
一方で、対価を受け取っていた場合は、相手の目的を知らなかったとしても、正当な理由がない限り罪になります。
報酬が約束されていただけで実際には受け取っていない場合の扱いは、事実関係によって判断が分かれる可能性があります。
公訴時効
犯罪が終わってから一定の期間が過ぎると公訴時効が完成し、起訴できなくなります(刑事訴訟法250条2項)。
時効の期間は、その罪の法定刑によって決まります。
| 罪 | 法定刑の上限 | 公訴時効 |
|---|---|---|
| 口座の売買(改正前の行為) | 1年以下の拘禁刑 | 3年 |
| 口座の売買(改正後の行為) | 3年以下の拘禁刑 | 3年 |
| 業として行った場合(改正前の行為) | 3年以下の拘禁刑 | 3年 |
| 業として行った場合(改正後の行為) | 5年以下の拘禁刑 | 5年 |
| 売る目的で口座を開設した場合の詐欺罪 | 10年以下の拘禁刑 | 7年 |
時効は、犯罪行為が終わった時から進行します(同法253条1項)。
ただし、犯人が国外にいる期間は時効が進まないなど、時効が停止する場合もあります(同法255条1項)。
また、売った口座が詐欺に使われ、詐欺の手助けをしたとして詐欺罪の幇助犯などに問われる場合には、詐欺罪を基準に考えることになります。
何年も前に口座を売った場合でも、どの罪に問われ得るかによって結論が変わるため、自己判断は避けるべきです。
起訴猶予の判断で考慮される事情
起訴猶予にするかどうかは、刑事訴訟法248条に挙げられた事情を総合して、検察官が判断します。
口座売買の事件では、次のような事情が考慮されると考えられます。
口座の数と売った回数
売った口座が1つか複数か、何回売ったかは、処分の判断に大きく影響すると考えられます。
複数の金融機関で口座を開設して次々に売っていた場合は、「業として」行ったとして、法定刑の重い26条3項(5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金)が問題になることもあります。
報酬の有無と金額
対価を受け取っていたか、受け取った金額がいくらかも考慮されます。
報酬を得る目的で口座を売ったのか、知人に頼まれて断り切れずに渡したのかなど、口座を渡すに至った経緯も事情の一つになります。
口座を開設した経緯
もともと自分で使っていた口座を売ったのか、売るために新しく口座を開設したのかは、大きな違いになります。
売る目的で口座を開設した場合は、犯罪収益移転防止法違反だけでなく、金融機関に対する詐欺罪が問題になるためです(詳しくは後述します)。
口座が詐欺などに使われたか
売った口座が特殊詐欺の振込先などに使われ、実際に被害が生じている場合は、被害が出ていない場合に比べて、厳しく評価されると考えられます。
被害額が大きい場合や、被害者が多数にのぼる場合も同様です。
発覚の経緯と捜査への対応
口座が凍結された後に警察から呼び出されたのか、それより前に自分から金融機関や警察に申し出たのかも、犯罪後の情況として考慮されます。
捜査機関に発覚する前に自首した場合は、刑を減軽することができるとされています(刑法42条1項)。
呼び出しに応じて事実を説明しているかどうかも、判断に関わります。
前科・前歴と生活状況
前科や前歴があるかどうか、年齢、仕事や家族の状況も考慮されます。
借金の返済に困って口座を売った場合には、債務整理などで借金の問題を解決する見通しを立てることが、同じことを繰り返さない事情として意味を持ちます。
家族が本人を監督する態勢を整えることも同様です。
被害者がいない場合の対応
口座売買そのものには特定の被害者がいない
窃盗や傷害などの事件では、被害者との示談が不起訴の判断で大きな意味を持ちます。
しかし、犯罪収益移転防止法違反は、口座が犯罪に悪用されることを防ぐための規制に違反する罪で、口座を売っただけの段階では、特定の被害者はいません。
そのため、示談によって不起訴を目指すという対応はとれません。
口座が詐欺に使われた場合の被害弁償
売った口座が特殊詐欺の振込先などに使われた場合には、その詐欺の被害者がいます。
この場合、被害者に被害の一部でも弁償することは、犯罪後の情況として考慮される事情になり得ます。
被害者の氏名や連絡先は、通常、本人には知らされません。
被害者と連絡を取るためには、弁護士を通じて、捜査機関に被害者の意向を確認してもらう方法をとることになります。
凍結された口座に残っていたお金が、振り込め詐欺救済法に基づく手続で被害者に分配されることもあります。
被害弁償や示談の進め方については、以下の記事で解説しています。

贖罪寄付
被害弁償の相手がいない場合には、反省の気持ちを示す方法として、贖罪寄付が検討されることがあります。
贖罪寄付とは、犯罪被害者の支援などに充てるために、弁護士会などの団体に寄付をすることです。
贖罪寄付をすれば不起訴になるというものではありませんが、反省の態度を具体的な形で示す事情として、検察官に伝えることができます。
金融機関への連絡と口座の利用停止
口座を売ってしまったことに気づいた時点で、すぐに金融機関に連絡し、口座の利用を止めてもらうことが重要です。
売った口座がそれ以上犯罪に使われることを防げるだけでなく、自分から被害の拡大を防ぐ行動をとったことは、犯罪後の情況として考慮され得ます。
詐欺罪に問われた場合
売る目的で口座を開設した場合
はじめから売るつもりで新しく口座を開設し、通帳やキャッシュカードの交付を受けた場合には、金融機関に対する詐欺罪(刑法246条1項)が成立することがあります。
最高裁判所は、第三者に譲渡する意図を隠して口座の開設を申し込み、通帳とキャッシュカードの交付を受けた行為について、詐欺罪にあたると判断しています(最高裁判所第三小法廷平成19年7月17日決定・刑集61巻5号521頁)。
罰金刑がないことの意味
詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めがありません。
そのため、詐欺罪で起訴されると、略式命令による罰金で終わることはなく、必ず公判請求されて正式な刑事裁判になります。
犯罪収益移転防止法違反だけであれば、起訴されても略式命令による罰金で終わる可能性があります。
これに対して、詐欺罪に問われた場合は、不起訴にならなければ公開の法廷で裁判を受けることになります。
不起訴になるかどうかの重みが、それだけ大きくなります。
不起訴を目指すために弁護士ができること
取調べへの対応の助言
口座を売った経緯、相手とのやり取り、報酬の有無、口座の開設の目的などは、罪が成立するか、どの罪になるかに直結します。
取調べで事実と異なる内容の供述調書が作られると、後から訂正することは容易ではありません。
弁護士は、取調べの前に事実関係を整理し、どのように説明すべきかを助言します。

検察官への意見書の提出
検察官は、警察から送られてきた記録をもとに処分を判断します。
弁護士は、口座を渡した経緯、反省の状況、被害弁償や贖罪寄付の内容、家族による監督や生活の立て直しの見通しなどをまとめ、不起訴が相当であるとする意見書を検察官に提出することができます。
生活の立て直しへの支援
借金の返済のために口座を売った場合には、借金の問題が解決しない限り、同じような誘いに応じてしまうおそれが残ります。
弁護士は、債務整理の見通しを立てることや、家族と協力して監督の態勢を整えることについても助言することができます。
不起訴処分の告知の請求
在宅のまま捜査が進む事件では、処分が決まっても、検察庁から積極的に連絡が来ないことがあります。
検察官は、不起訴の処分をした場合に被疑者から請求があれば、その旨を告げなければならないとされています(刑事訴訟法259条)。
弁護人がついている場合は、処分の結果を弁護人が確認し、必要に応じて不起訴処分告知書の交付を求めることができます。
不起訴になった後に残ること
前歴
不起訴になれば前科はつきません。
ただし、捜査の対象になったという記録(前歴)は、警察や検察庁に残ります。
前歴は、仕事や資格に直接影響するものではありませんが、将来、別の事件を起こした場合には、処分の判断で考慮されることがあります。
口座の凍結と新たな口座の開設
不起訴は、刑事事件として起訴しないという検察官の判断です。
金融機関による口座の凍結や強制解約、新たな口座の開設の拒否は、金融機関がそれぞれの規定に基づいて行うものであるため、不起訴になったからといって、当然に解除されるわけではありません。
被害者からの損害賠償請求
売った口座が詐欺に使われた場合、刑事事件が不起訴で終わっても、詐欺の被害者から民事上の損害賠償を請求されることがあります。
刑事処分と民事上の責任は、別の問題として扱われます。
家族が口座を売っていたと知った場合
家族が口座を売っていたと分かった場合は、まず金融機関に連絡して口座を止めること、そして警察から連絡が来ているかどうかを確認することが必要です。
すでに警察から呼び出しを受けている場合は、出頭する前に弁護士に相談することをお勧めします。
家族が身元を引き受け、生活を監督すると約束することは、起訴猶予の判断でも考慮され得る事情です。
お金に困って口座を売った場合には、借金の問題も含めて、家族で今後の生活を話し合うことが大切です。
特殊詐欺の受け子や出し子として関わった場合の不起訴については、以下の記事で解説しています。

よくある質問(FAQ)
- 口座売買で不起訴になる人はどのくらいいますか。
-
検察統計によれば、令和6年に処分された犯罪収益移転防止法違反の被疑者のうち、不起訴は55.4%で、その大半は起訴猶予でした。
起訴された人の多くは略式命令による罰金で、公判請求は6.6%でした。 - 弁護士に依頼しなくても不起訴になりますか。
-
不起訴にするかどうかは検察官が判断するため、弁護士がいなくても不起訴になることはあります。
ただし、口座を渡した経緯や反省の状況、生活の立て直しの見通しを検察官に伝えるには、意見書の提出などで弁護士が関わる意味があります。
- 口座売買で起訴されると、必ず裁判になりますか。
-
犯罪収益移転防止法違反だけであれば、略式命令による罰金で終わることもあります。
ただし、売る目的で口座を開設して詐欺罪に問われた場合は、罰金刑がないため、起訴されれば正式な裁判になります。
- 何年も前に口座を売った場合、時効はありますか。
-
口座の売買の公訴時効は、改正前の行為で3年、業として行った改正後の行為で5年です。
売る目的で口座を開設した詐欺罪は7年で、国外にいた期間は時効が止まるなど、事情によって結論が変わります。 - 不起訴になれば、銀行口座はまた作れるようになりますか。
-
当然には元に戻りません。
口座の凍結や強制解約、新たな口座の開設の拒否は、金融機関がそれぞれの規定に基づいて行うもので、検察官の不起訴の判断とは別の問題です。
- 不起訴になったかどうかは、どうすれば分かりますか。
-
在宅事件では、処分が決まっても連絡が来ないことがあります。
被疑者が請求すれば、検察官は不起訴にした旨を告げなければならないとされており(刑事訴訟法259条)、不起訴処分告知書の交付を求めることもできます。
まとめ
- 口座売買の事件は、不起訴、略式命令による罰金、公判請求のいずれかで終わり、罰金でも前科になる
- 令和6年の犯罪収益移転防止法違反では、不起訴が55.4%で、その多くは起訴猶予である。起訴された場合の多くは略式命令である
- 無償で渡した場合は、相手がなりすましに使う目的だと知っていたかどうかが罪の成否を分ける
- 起訴猶予の判断では、口座の数、報酬、開設の経緯、詐欺に使われたか、発覚の経緯、生活状況などが考慮される
- 口座売買そのものには特定の被害者がいないため、詐欺被害者への弁償や贖罪寄付、口座の利用停止などが検討される
- 売る目的で口座を開設した場合は詐欺罪となり、起訴されれば必ず正式な裁判になる
- 不起訴になっても、前歴、口座の凍結や開設の拒否、損害賠償請求といった問題は残る
当事務所では、口座を売ってしまった方、貸してしまった方からのご相談、警察から連絡を受けた方への取調べ対応の助言、検察官への意見書の提出、自首への同行などをお受けしています。
ご本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。
処分が決まる前であれば、取れる手段は広がります。
お早めにご相談ください。
刑事弁護の弁護士費用や対応の流れについてはこちらから
当事務所の弁護士へのご相談等はこちらから