性被害の慰謝料・損害賠償請求|不同意性交・不同意わいせつの被害に遭われた方へ弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 性被害は加害者による不法行為であり、被害者の方は加害者に対して慰謝料(精神的損害の賠償)を請求する正当な権利があります。泣き寝入りする必要はありません。
  2. 慰謝料の相場は、不同意性交で100万〜500万円程度、不同意わいせつで数十万〜100万円程度が一つの目安ですが、事案によって大きく変わります。
  3. 加害者との直接のやり取りは二次被害の危険があるため避け、弁護士に依頼するのが安全です。まずはご自身の安全と心身のケア、そして相談先の確保を最優先にしてください。

はじめに

性被害に遭われた方、そしてそのご家族にとって、これ以上ないほどつらい状況の中で、この記事をお読みになっていることと思います。

性被害は、決してあなたの落ち度ではありません。
そして、被害によって受けた苦痛に対して、加害者に金銭的な賠償(慰謝料)を求めることは、被害者に認められた正当な権利です。

本記事では、不同意性交・不同意わいせつなどの性被害について、加害者に慰謝料・損害賠償を請求する方法を、被害者の方に向けて弁護士が解説します。
慰謝料の相場、請求の流れ、必要な証拠、時効、そして加害者と直接やり取りすることの危険まで、順を追って説明します。

ただし、その前に何より大切なことがあります。お金の話よりも先に、まずはあなたの安全と心身のケアです。
次の章から、その点を含めてお伝えします。

まず大切なこと|安全の確保と相談先

慰謝料請求の話に入る前に、被害に遭われた直後に大切なことをお伝えします。

心身の安全と医療を最優先に

まずは、ご自身の身の安全を確保してください。
そして、心身の状態が心配な場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。
性被害の場合、外傷の治療だけでなく、望まない妊娠や感染症の検査・予防、精神的なケアが必要になることがあります。
早い受診は、健康のためにも、後の証拠(診断書)のためにも大切です。

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター

性被害に遭われた方が、まず相談できる窓口として、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターがあります。
全国共通の短縮ダイヤル「#8891(はやくワンストップ)」に電話すると、最寄りのセンターにつながります。

ワンストップ支援センターでは、産婦人科などの医療的支援、相談・カウンセリング、必要に応じた法的支援や捜査関連の支援などを、ワンストップで受けられます。
誰にも言えずに一人で抱えている場合でも、まずはここに相談することができます。

警察・法テラスなどの相談先

加害者の処罰を考えている場合や、身の危険を感じる場合は、警察への相談も選択肢です。警察には性犯罪被害相談電話「#8103(ハートさん)」があり、各都道府県警には女性警察官に相談できる窓口も設けられています。

また、経済的に余裕がない場合の相談先として、法テラス(日本司法支援センター)があります。
法テラスでは、無料の法律相談や、弁護士費用の立替制度を利用できる場合があります。
費用が心配で相談をためらっている方も、こうした制度を利用できる可能性があります。
※なお、当事務所は法テラスと契約をしておりません。

これらの窓口の連絡先は変更される場合がありますので、ご利用の際は最新の情報をご確認ください。

性被害で加害者に「慰謝料」を請求できる

慰謝料は被害者の正当な権利

性被害は、加害者による不法行為にあたります。
民法は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています(民法709条)
そして、財産以外の損害、すなわち精神的な苦痛に対しても賠償を請求できるとされています(民法710条)
この精神的苦痛に対する賠償が、慰謝料です。

性被害によって受けた深い精神的苦痛に対して、加害者に慰謝料を請求することは、法律で認められた正当な権利です。

慰謝料以外に請求できるもの

加害者に請求できるのは、慰謝料だけではありません。
被害の内容によっては、次のような損害も請求できる場合があります。

  • 治療費・通院交通費:被害による怪我の治療や、精神的な不調のための通院にかかった費用。
  • 休業損害:被害が原因で仕事を休まざるを得なくなった場合の、その間の収入の減少分。
  • 逸失利益:後遺症が残った場合などに、将来得られたはずの利益。

どこまでの損害を請求できるかは、被害の内容によって異なります。

「お金で解決したくない」という気持ちと、賠償請求の意味

性被害に遭われた方の中には、「お金をもらっても被害がなかったことにはならない」「お金の問題ではない」と感じる方も少なくありません。
その気持ちは、とても自然なものです。

慰謝料の請求は、被害をお金で清算するためのものではありません。
それは、被害という不法行為に対して加害者に責任を取らせ、被害からの回復を図るための、被害者に認められた手段の一つです。
請求するかどうか、どう解決するかは、あなた自身が決めてよいことです。

性被害の慰謝料の相場

不同意性交の慰謝料の目安

不同意性交による慰謝料は、一つの目安として、100万円〜500万円程度とされることが多いです。
性犯罪の中でも被害者が受ける苦痛が特に大きい類型であるため、慰謝料も高額になる傾向があります。

不同意わいせつの慰謝料の目安

不同意わいせつによる慰謝料は、一つの目安として、数十万円〜100万円程度とされることが多いです。

慰謝料が高額になりやすいケース

次のような事情がある場合、慰謝料はより高額になる傾向があります。

  • 行為の態様が悪質な場合(凶器を用いた、複数回・長期にわたる、複数人による等)
  • 被害者が若年である場合
  • 被害により妊娠した場合
  • PTSDなど深刻な精神的後遺症が残った場合
  • 加害者が職場の地位などを悪用した場合
  • 加害者が被害後に不誠実な対応をとった場合(被害者を非難する、虚偽の主張をする等)

慰謝料だけでは回復しきれない現実

正直にお伝えすると、民事の慰謝料は、被害者が受けた心の傷のすべてを償えるものではありません。
裁判で認められる金額にも一定の枠があり、「これだけ苦しんだのだから」という思いと、認められる金額とが、必ずしも一致しないこともあります。
特に、日本の裁判では、精神的被害に見合った慰謝料が認定されないことも多いです。

それでも、加害者に責任を取らせ、被害回復への一歩を踏み出すことには、大きな意味があります。
金額の見通しを含め、ご自身の事案でどのような請求ができるかは、弁護士にご相談ください。

※上記の相場はいずれも一般的な目安であり、個別の事案により金額は大きく異なります。

慰謝料を請求する方法と流れ

加害者への慰謝料請求は、一般的に次のような流れで進みます。

ステップ1:示談交渉

まず、加害者(またはその代理人弁護士)との間で、賠償額や支払方法について話し合う示談交渉を行います。
話し合いで合意ができれば、示談書を作成し、加害者が示談金を支払うことで解決します。

ただし、後述するとおり、被害者本人が加害者と直接交渉することには大きな危険があります。
交渉は弁護士に任せるのが安全です。

ステップ2:内容証明郵便による請求

交渉に先立って、または交渉が進まない場合に、内容証明郵便で正式に慰謝料を請求することがあります。
内容証明郵便は、「いつ・誰が・どのような内容の請求をしたか」を記録に残せるため、後の証拠になります。
また、後述する時効との関係でも意味を持ちます。

ステップ3:民事訴訟

加害者が任意の支払いに応じない場合や、金額の折り合いがつかない場合は、民事訴訟(裁判)を提起して請求します。
裁判では、被害の事実と損害を、証拠によって立証する必要があります。

刑事裁判を利用する方法|損害賠償命令制度

加害者が刑事裁判にかけられている場合には、損害賠償命令制度を利用できることがあります。
これは、不同意わいせつ・不同意性交等といった一定の事件について、刑事裁判を担当した裁判所が、有罪判決の後に引き続き損害賠償の審理を行う制度です。
刑事事件とは別に民事訴訟を起こす手間が省け、被害者の負担が軽くなる利点があります。

請求のために必要な証拠

診断書・相談記録・メッセージなど

慰謝料を請求し、特に裁判で認めてもらうためには、被害の事実を裏付ける証拠が重要です。
次のようなものが証拠となりえます。

  • 医師の診断書(怪我や、PTSDなどの精神的不調についてのもの)
  • ワンストップ支援センターや警察などへの相談記録
  • 被害を訴えたLINEやメールなどのメッセージ
  • 被害の前後の状況がわかる記録(位置情報、目撃者の証言など)

立証の難しさと、だからこそ早く動くこと

性被害は、二人だけの状況で起こることが多く、加害者が「同意があった」「そのような行為はしていない」と争ってくることが少なくありません。
そのため、被害の事実を立証することが難しい場合があります。

だからこそ、証拠は早く確保することが大切です。
時間が経つほど、診断書を取れる機会は失われ、メッセージなどの記録も散逸し、記憶も薄れていきます。
被害直後はつらい時期ですが、可能な範囲で記録を残しておくこと、そして早めに専門家に相談することが、後の請求を支えます。

慰謝料請求の時効に注意

慰謝料を請求できる権利には、期限(消滅時効)があります。これは被害者にとって不利に働くため、特に注意が必要です。

原則は3年

不法行為に基づく損害賠償請求権は、原則として、被害者が損害および加害者を知った時から3年間で時効により消滅します(民法724条1号)
また、不法行為の時から20年が経過した場合も同様です(同条2号)。

生命・身体を害する場合の特則

民法には、人の生命または身体を害する不法行為については、この「3年」を「5年」に伸ばす特則があります(民法724条の2)
性被害により怪我やPTSDなどの健康被害が生じた場合に、この特則によって期間が5年になる可能性があります。

もっとも、精神的な損害だけの場合にこの特則が適用されるかどうかについては、必ずしも明確でなく、議論があります。
したがって、「5年あるから大丈夫」と考えるのは危険です。
安全のためには、原則どおり3年を意識して、できるだけ早く動くことが大切です。

時効が迫っている場合の対応

被害から時間が経ってしまっている場合でも、諦める必要はありません。
時効の完成が迫っている場合には、内容証明郵便による請求や民事訴訟の提起など、時効の進行を止める手段があります。
時効が心配な場合は、できるだけ早く弁護士にご相談ください。

【重要】加害者と直接やり取りしてはいけない

慰謝料を請求するにあたって、最も気をつけていただきたいことがあります。
それは、加害者本人と直接やり取りをしないことです。

二次被害・逆に脅されるリスク

加害者と直接連絡を取ると、加害者から威圧されたり、逆に脅されたりして、新たな精神的苦痛(二次被害)を受けるおそれがあります。
また、感情的なやり取りになって話がこじれたり、こちらの発言を加害者側に利用されたりする危険もあります。

加害者側の弁護士から示談を持ちかけられたら

加害者に弁護士がついている場合、その弁護士から示談を持ちかけられることがあります。
このとき、一人で対応してはいけません。

加害者側の弁護士は、あくまで加害者の利益のために動いています。
提示された金額が、被害に見合った適正なものとは限りません。
また、示談に応じると、加害者の刑事処分が軽くなるという関係もあります。
提示を受けたら、応じる前に、必ずご自身の側で弁護士に相談してください。

被害者にも代理人弁護士を

これらの危険を避けるため、被害者の方も、ご自身の代理人として弁護士を立てることをおすすめします。
弁護士が代理人となれば、加害者やその弁護士とのやり取りはすべて弁護士が引き受けるため、あなたが加害者と直接接触する必要はなくなります。

刑事手続との関係

慰謝料の請求(民事)と、加害者の処罰(刑事)は、別の手続きです。
ここでは簡潔に整理します。

慰謝料(民事)と処罰(刑事)は別の手続

慰謝料を請求することと、加害者を刑事的に処罰してもらうことは、別々の手続きです。
慰謝料だけを求めることも、処罰だけを求めることも、その両方を求めることもできます。

被害届・告訴という選択肢

加害者の処罰を求める場合は、警察に被害届を提出したり、刑事告訴を行ったりします。
告訴は、犯罪事実を申告して加害者の処罰を求める意思表示で、捜査のきっかけになります。
なお、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、現在は告訴がなくても起訴できる犯罪です。

示談に応じると刑事処分が軽くなる関係

加害者が刑事手続きの中で被害者に賠償し、被害者が「許す」という意思(宥恕)を示すと、加害者の刑事処分が軽くなる方向に働きます。
つまり、金銭的な解決を優先するか、加害者の厳しい処罰を求めるかは、ときに緊張関係に立ちます。
何を最も望むのかを整理したうえで対応を決めることが大切です。
この点も含めて、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に依頼するメリット

性被害の慰謝料請求を弁護士に依頼することには、次のようなメリットがあります。

  • 加害者と直接やり取りせずに済む:交渉や連絡をすべて弁護士が引き受けるため、加害者と接触する精神的負担から解放されます。
  • 適正な賠償額の見極め:被害に見合った金額を検討し、加害者側の不当に低い提示に応じてしまうことを防ぎます。
  • 証拠の収集・整理:被害を立証するための証拠を、専門的な視点で集め、整理します。
  • 時効の管理:時効で権利を失わないよう、適切な時期に手続きをとります。
  • 刑事手続のサポート:被害届・告訴や、刑事裁判での被害者参加など、刑事面でも支援を受けられます。

費用が心配な場合は、法テラスの費用立替制度を利用できることもあります。
費用面の不安も含めて、まずはご相談ください。

よくある質問(FAQ)

性被害に遭いました。加害者に慰謝料を請求できますか?

できます。

性被害は不法行為にあたり、被害者は加害者に対して、精神的損害の賠償である慰謝料を請求する権利があります(民法709条・710条)。
治療費や、被害により働けなくなった分の休業損害などを請求できる場合もあります。

慰謝料の相場はどのくらいですか?

事案によって大きく異なりますが、一つの目安として、不同意性交で100万〜500万円程度、不同意わいせつで数十万〜100万円程度とされることが多いです。
態様の悪質さや、被害による精神的・身体的影響の大きさなどによって変動します。

加害者と直接話し合って請求してもいいですか?

おすすめできません。

加害者との直接のやり取りは、二次被害を受けたり、逆に脅されたりする危険があります。
ご自身の代理人として弁護士を立て、加害者と直接接触せずに請求を進めるのが安全です。

加害者側の弁護士から示談を持ちかけられました。応じるべきですか?

一人で判断せず、まずご自身の側で弁護士に相談してください。
提示された金額が適正とは限らず、示談に応じると加害者の刑事処分が軽くなる関係もあります。
何を優先したいか(処罰か、金銭的な解決か、その両方か)を整理したうえで判断することが大切です。

慰謝料の請求に期限はありますか?

あります。

原則として、損害および加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条)。
生命や身体を害する場合にはこの期間が伸びる可能性もありますが、適用には議論があり確実ではありません。

時間の経過は被害者に不利に働くため、できるだけ早く弁護士に相談してください。

おわりに

性被害は、あなたの落ち度ではありません。
そして、被害によって受けた苦痛に対して、加害者に責任を取らせ、賠償を求めることは、被害者に認められた正当な権利です。

一方で、被害の証拠の確保や時効には時間の制約があり、加害者との直接のやり取りには危険が伴います。
だからこそ、一人で抱え込まず、まずは公的な支援窓口や弁護士といった、あなたを支える存在につながってほしいと思います。

当事務所では、性被害に遭われた方の慰謝料・損害賠償請求について、加害者との交渉から、証拠の整理、刑事手続のサポートまで対応しています。
加害者と直接やり取りすることなく、あなたの権利を守るお手伝いができます。
つらい中で勇気のいることだと思いますが、お一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

弊所の弁護士へのご相談等はこちらから

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

目次