養育費の不払いはどうなる?法定養育費・先取特権による差押えを弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 養育費の不払いは、子どもとの生活を支える同居親にとって深刻な問題ですが、放置せずに対応すれば、給与や預貯金の差押えによって回収できる可能性があります。
  2. 2026年4月施行の改正民法により、公正証書がなくても差押えができる「先取特権」(子1人月額8万円まで)と、取り決めがなくても請求できる「法定養育費」(子1人月額2万円)という2つの新制度が導入されました。
  3. もっとも、先取特権で直接差し押さえられるのは月8万円までであるなどの限界もあります。確実な回収のためには、離婚時に強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことと、弁護士への早期相談が有効です。

はじめに

「離婚のときに約束したのに、養育費が振り込まれなくなった」 「そもそも取り決めをしないまま離婚してしまい、一円も受け取れていない」

養育費の不払いは、ひとり親世帯を長年苦しめてきた問題です。
実際に、養育費の取り決めをしていても継続的に支払われているケースは多くないとされ、その背景には「取り決めがない」「公正証書を作っていないので差押えができない」といった制度上のハードルがありました。

しかし、2026年(令和8年)4月1日に施行された改正民法によって、養育費の回収をめぐる仕組みは大きく変わりました。
取り決めがなくても一定額を請求できる「法定養育費」と、債務名義(公正証書など)がなくても差押えができる「先取特権」が新たに導入されたのです。

本記事では、養育費が支払われないときに何が起こり、どのような手段で回収できるのかを、2026年施行の改正法を踏まえて弁護士が解説します。
これから離婚する方、すでに不払いに悩んでいる方、そして養育費を請求されている方のいずれにとっても重要な内容です。

養育費が支払われないとどうなる?まず知っておきたい基礎

養育費は「子どものための権利」

養育費は、子どもを監護していない親(別居親)が、子どもの監護・養育に必要な費用を分担するものです(民法766条)。
これは親の都合で免除されるものではなく、子どもが健全に育つための費用であり、その根拠は親が子に対して負う扶養義務にあります。

2026年施行の改正民法では、親の責務として、父母は親権や婚姻関係の有無にかかわらず、子がその親と同程度の生活を維持できるよう扶養しなければならないこと(生活保持義務)が明確化されました(民法817条の12)。
自分の生活を切り詰めてでも子どもに同水準の生活をさせる責任がある、という考え方が条文上はっきりと示されたことになります。

この明文化により、今後は養育費の不払いに対する裁判所の姿勢が、これまで以上に厳しくなることが予想されます。

支払いが止まると何が起こるか

養育費の支払いが止まると、まず未払い分(延滞分)が積み重なっていきます。養育費は毎月発生する債権であるため、放置すればするほど未回収額は膨らみます。

一方で、注意しておきたいのは、過去の未払い分をさかのぼって請求することには一定の制約があるという点です。
だからこそ、不払いが始まったら早期に動くことが、回収できる金額を左右します。

「取り決めの形式」で取れる手段が変わる

養育費の不払いに対してどのような手段を取れるかは、離婚時に養育費をどのような形で取り決めたかによって大きく変わります。
ここで「債務名義」という言葉を押さえておきましょう。

債務名義とは、強制執行(差押え)を行うために必要となる、公的に支払義務を証明する文書のことです。
具体的には、次のようなものが債務名義にあたります。

  • 強制執行認諾文言付きの公正証書(離婚時に公証役場で作成したもの)
  • 家庭裁判所の調停調書・審判書
  • 裁判の確定判決

従来は、これらの債務名義がなければ、相手の財産を差し押さえることができませんでした。
つまり、口約束や、当事者だけで作成した私的な合意書(離婚協議書)しかない場合は、いきなり差押えに進むことができなかったのです。

後述するとおり、2026年4月の改正でこの大原則に重要な例外が設けられましたが、「取り決めの形式によって取れる手段が変わる」という基本構造は、引き続き理解しておく必要があります。

不払いへの対応ステップ(いきなり差押えではない)

養育費が支払われないとき、いきなり差押えを行うとは限りません。
一般的には、以下のステップを踏んで対応します。

ステップ1:催促・連絡(内容証明郵便の活用)

まずは相手に対して支払いを求める連絡をします。
口頭やメールでの催促に応じない場合、弁護士名義の内容証明郵便を送付する方法が有効です。

内容証明郵便によって、「いつ・誰が・どのような内容の請求をしたか」が記録に残り、相手に心理的なプレッシャーを与えられます。
弁護士が代理人として送付することで、相手が事態の深刻さを認識し、任意の支払いに応じるケースも少なくありません。

ステップ2:家庭裁判所の履行勧告・履行命令

調停や審判で養育費を取り決めていた場合は、家庭裁判所に対して「履行勧告」「履行命令」を申し立てることができます。

履行勧告は、家庭裁判所が相手に対して支払いを促してくれる手続きです。
費用がかからず手軽ですが、あくまで「勧告」であり、強制力はありません。
履行命令は、相手が正当な理由なく従わない場合に過料の制裁を伴うものですが、これも直接お金を回収する手続きではありません。

これらは一定のプレッシャーにはなりますが、「断固として払わない」と決めている相手には効果が限られます。

ステップ3:強制執行(差押え)へ

任意の支払いが見込めない場合、最終的な手段が強制執行(差押え)です。相手の給与や預貯金などの財産を差し押さえ、強制的に養育費を回収します。

ただし、前述のとおり、従来はこのステップ3に進むために債務名義(公正証書・調停調書など)が必須でした。
これが、養育費回収の大きな壁となっていたのです。

2026年4月の改正民法は、まさにこの壁を一部取り払うものでした。次章で詳しく解説します。

【2026年4月改正】養育費の不払い対策はこう変わった

改正の全体像|施行日と2つの新制度

養育費の不払い対策を強化する改正民法は、2024年(令和6年)5月に成立・公布され、2026年(令和8年)4月1日に施行されました。

この改正で導入された、養育費回収に関わる新制度は主に次の2つです。

  • 法定養育費:取り決めをしていなくても、一定額の養育費を請求できる制度
  • 一般先取特権:公正証書などの債務名義がなくても、差押えができる制度

いずれも、これまで「取り決めがない」「公正証書がない」という理由で養育費を受け取れなかった方にとって、大きな転機となる制度です。順に見ていきます。

新制度1:法定養育費(取り決めがなくても月2万円を請求できる)

(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例)
第七百六十六条の三 父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく協議上の離婚をした場合には、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うものは、他の一方に対し、離婚の日から、次に掲げる日のいずれか早い日までの間、毎月末に、その子の監護に要する費用の分担として、父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額の支払を請求することができる。ただし、当該他の一方は、支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができる。
一 父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日
二 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日
三 子が成年に達した日
2 離婚の日の属する月又は前項各号に掲げる日のいずれか早い日の属する月における同項の額は、法務省令で定めるところにより日割りで計算する。
3 家庭裁判所は、第七百六十六条第二項又は第三項の規定により子の監護に要する費用の分担についての定めをし又はその定めを変更する場合には、第一項の規定による債務を負う他の一方の支払能力を考慮して、当該債務の全部若しくは一部の免除又は支払の猶予その他相当な処分を命ずることができる。

法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合でも、法律の規定によって最低限の養育費を請求できる制度です(民法766条の3)。

これまでは、離婚時に養育費の取り決めがないと、後から調停や審判で取り決めるまでの間は養育費を請求できず、「養育費ゼロの空白期間」が生じていました。
法定養育費は、この空白を埋めるために設けられた、暫定的・補充的な制度です。

ポイントは以下のとおりです。

  • 金額:子1人あたり月額2万円(子の数を乗じます)。法務省令(民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令〔令和7年法務省令第56号〕第2条第1項)で定められた額で、父母の収入は考慮されません。
  • 期間:離婚の日から、①父母が協議で養育費を取り決めた日、②養育費分担の審判が確定した日、③子が成年(18歳)に達した日、のいずれか早い日までです。
  • 性質:あくまで取り決めがされるまでの暫定額です。父母間で取り決めるべき養育費の標準額や下限額を示すものではありません。

注意点として、法定養育費はあくまで「最低限」かつ「暫定的」なものです。
子1人月額2万円は、通常の養育費の相場(算定表に基づく額)より低いことが多く、本来は離婚時に家庭の状況に応じた養育費をきちんと取り決めることが望ましいといえます。

なお、支払う側に資力がない場合の例外も定められています。
支払義務者は、「支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと」または「その支払をすることによってその生活が著しく窮迫すること」を証明したときは、法定養育費の全部または一部の支払いを拒むことができます(民法766条の3第1項ただし書)。
これは支払義務そのものを消滅させるものではなく、支払いを拒める事由(権利行使を阻止する事由)と位置づけられています。

※この法定養育費は、「離婚の時から引き続きその子の監護を主として行う」側が、相手方に対して請求できるものです。そのため、例えば、「離婚時には母親が子の監護をしていたものの、その後、父親が子の監護をするようになった」場合には、父親側は、この法定養育費による請求をすることができません。

新制度2:一般先取特権(公正証書がなくても差押えができる)

今回の改正で実務上最も大きなインパクトを持つのが、養育費債権に「一般先取特権」が付与されたことです(民法306条3号、308条の2)。

先取特権とは、特定の債権者が、他の債権者に優先して債務者の財産から弁済を受けられる権利です(民法303条)。
これは法定担保物権の一つで、当事者間の合意がなくても法律上当然に発生します。

この改正の意義は、債務名義がなくても差押えができるようになった点にあります。
従来は、強制執行認諾文言付きの公正証書や調停調書などの債務名義がなければ差押えはできませんでした。
改正後は、先取特権の存在を証する文書(父母間で作成した養育費の合意書など)があれば、債務名義がなくても、相手の財産の差押え・財産開示手続・第三者からの情報取得手続を申し立てられるようになりました。

ただし、ここには重要な限界があります。

  • 先取特権によって直接差し押さえられるのは、法務省令(民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令〔令和7年法務省令第56号〕第1条)で定める「相当な額」、すなわち子1人あたり月額8万円までです(子の数を乗じます)。
  • 合意した養育費がこの月8万円を超える場合、超過部分の回収には、従来どおり債務名義(公正証書・調停調書など)が必要です。
  • そもそも口約束だけで合意書が存在しない場合は、先取特権の存在を証する文書がないため、この手続きは使えません。

つまり、「先取特権ができたから、もう公正証書はいらない」というわけではない点に注意が必要です。

【重要】2万円と8万円は別物|2つの制度の違いを整理

ここまで読まれて、「法定養育費の2万円」と「先取特権の8万円」が混同しやすいと感じた方も多いと思います。この2つはまったく別の制度であり、金額の意味も場面も異なります。

比較項目法定養育費一般先取特権
根拠条文民法766条の3民法306条3号・308条の2
金額の意味取り決めがない場合に請求できる暫定額債務名義なしで直接差押えできる上限額
金額子1人あたり月額2万円子1人あたり月額8万円まで
使う場面養育費の取り決めをせずに離婚した場合取り決めはあるが債務名義がない場合など
必要なもの取り決めがないこと(離婚の事実)先取特権の存在を証する文書(合意書等)
適用開始施行日(2026年4月1日)以後の離婚取り決めがあれば施行後に発生する養育費

簡単にいえば、法定養育費は「取り決めがなくても、ひとまず月2万円は請求できる」という制度、先取特権は「取り決めがあれば、公正証書がなくても月8万円までは直接差押えできる」という制度です。
両者は組み合わせて機能する場面もあります(取り決めなく離婚した場合、法定養育費2万円について先取特権に基づき差押えができます)

【重要】法定養育費の請求

法定養育費にも一般先取特権が付与されることとなります(民法306条3号、308条の2)。
そのため、債権者は、公正証書や家庭裁判所の調停調書等がなくとも、民事執行の申立てをすることができます。

この際に注意しなければならないのは、この先取特権が実行できる範囲です。
通常、先取特権の実行のためには、弁済期が到来している必要があります(法定養育費の場合は毎月末が弁済期。民法766条の3第1項)。
ところが、債権者が法定養育費を請求する場合には、一部に不履行があると、確定期限が到来していないものについても先取特権を実行することができます(民事執行法193条2項、151条の2)。
つまり、養育費について一部でも未払いが発生すると、残りの支払い期間全部の差し押さえが可能になります

【一覧表】あなたのケースで使える手段は?

ご自身がどの手段を使えるかは、「養育費の取り決めをしているか」「どのような書面があるか」「いつ離婚したか」によって変わります。
代表的なケースを整理します。

※あくまで一般的な整理であり、個別の事情により結論は異なります。

あなたの状況使える主な手段
取り決めなし・2026年4月1日以後に離婚法定養育費(月2万円)の請求と、それに基づく差押えが可能
取り決めなし・2026年3月31日以前に離婚法定養育費は使えない。調停・審判で養育費を定める必要がある
私的な合意書あり・施行後に発生する分先取特権により月8万円まで債務名義なしで差押え可能。超過分は債務名義が必要
強制執行認諾文言付き公正証書あり従来どおり、合意額の全額について強制執行が可能
調停調書・審判書・確定判決あり従来どおり、定められた額の全額について強制執行が可能

ご自身がどのケースに当てはまるか判断に迷う場合は、お早めに弁護士にご相談ください。

差押え(強制執行)の手続きと対象財産

差し押さえられる財産

強制執行で差し押さえられる主な財産は、給与、預貯金、不動産、保険の解約返戻金などです。
養育費の回収では、継続的な収入である給与や、まとまった回収が期待できる預貯金が選ばれることが多いです。

給与差押えの特徴|手取りの2分の1・将来分にも継続

給与の差押えには、養育費の回収に適した特徴があります。

通常の借金などの債権では、給与の差押えは原則として手取りの4分の1までに制限されますが、養育費・婚姻費用の場合は手取りの2分の1まで差し押さえることができます

さらに、給与を差し押さえると、未払い分だけでなく、将来発生する養育費についても継続的に差押えの効力が及びます。
一度の手続きで、相手が勤務先を変えない限り、毎月の給与から養育費が直接支払われ続けることになります。

相手の勤務先・口座がわからない場合

差押えをするには、相手の勤務先や預貯金口座を把握している必要があります。
「相手の勤務先がわからない」という理由で回収を諦めていた方も少なくありませんが、現在は調査の手段があります。

裁判所を通じて行う財産開示手続や、第三者からの情報取得手続(2020年施行の改正民事執行法で整備)を利用すれば、市区町村や年金事務所から相手の勤務先情報を、金融機関から預貯金口座の情報を取得できる場合があります。
また、弁護士による弁護士会照会などで相手の所在を調査できることもあります。

手続きが1回の申立てで完結するようになった

今回の改正では、民事執行法も改正され、養育費回収の手続きが大幅に簡略化されました。

従来は、財産開示手続、第三者からの情報取得手続、差押命令の申立てを、それぞれ別々に申し立てる必要がありました。
改正後は、地方裁判所への1回の申立てで、財産開示から給与情報の取得、判明した給与の差押えまでを連続して進められるようになりました。
申立人が反対の意思を示さない限り、差押命令の申立てもしたものとみなされます(みなし申立て)。

これにより、手続きにかかる時間と手間が大きく軽減されています。

差押えの限界|「空振り」のリスク

強制執行は強力な手段ですが、万能ではありません。

差し押さえる財産がそもそも存在しない場合、手続きは「空振り」に終わります。
相手が無職で収入も預貯金もない場合、回収できるものがないのが現実です。
また、給与を差し押さえても、相手が退職してしまえば、その時点で給与からの回収は止まってしまいます。

ただし、退職金も差押えの対象になり得ますし、相手が転職した場合は、第三者からの情報取得手続で新しい勤務先を調べて再度差押えを申し立てることも可能です。
「逃げ得」を許さない仕組みは整いつつあります。

施行前に離婚した人は使えるのか?(経過措置の整理)

「もう離婚してしまったが、新しい制度は使えるのか」という点は、多くの方が気にされるところです。
施行前に離婚した場合の適用関係を整理します。

法定養育費は施行前離婚には適用されない

法定養育費は、施行日(2026年4月1日)以後に離婚した場合に限って適用されます。
2026年3月31日以前に離婚していた場合は、取り決めがなくても法定養育費を請求することはできません。

施行前に取り決めなく離婚した方が養育費を求めるには、従来どおり、家庭裁判所の調停・審判の手続きによることになります。

先取特権は「取り決めがあれば」施行後発生分に適用される

一方、先取特権については、施行前に離婚していた場合でも、養育費の取り決め(合意書等)があれば、施行後(2026年4月1日以後)に発生する養育費に限って適用される可能性があります。

すでに養育費の合意があるのに不払いが続いているケースでは、改正を機に、先取特権に基づく差押えが新たな選択肢になります。

取り決めがないまま施行前に離婚した場合

取り決めもなく、書面もないまま2026年3月31日以前に離婚した場合は、法定養育費も先取特権も直ちには使えません。
この場合は、まず家庭裁判所の調停・審判で養育費を取り決めることが出発点になります。
取り決めができれば、その後の不払いに対して強制執行が可能になります。

養育費を請求されている・差押えを受けた側(支払う側)の注意点

ここまでは主に受け取る側の視点で解説してきましたが、養育費を支払う立場の方にも、今回の改正は重要な意味を持ちます。

「取り決めをしていないから払わなくてよい」は通用しない

法定養育費は、取り決めがなくても法律上当然に発生します。
「養育費の取り決めをしていないのだから支払う義務はない」という考えは、施行後に離婚したケースでは通用しません。
取り決めがないまま放置していると、ある日突然、法定養育費に基づく差押えを受ける可能性があります。

支払いが困難な場合の対応

収入の減少などで養育費の支払いが困難になった場合、取り得る手段があります。

法定養育費については、前述のとおり、支払能力を欠く場合や支払いにより生活が著しく窮迫する場合には、その全部または一部の支払いを拒むことができます(民法766条の3第1項ただし書)。
また、家庭裁判所は、養育費に関する手続きの中で、支払義務者の支払能力を考慮して、債務の全部または一部の免除や支払いの猶予などを命じることができるとされています。

すでに取り決めた養育費についても、収入の減少などの事情変更があれば、家庭裁判所に養育費の減額を請求できる場合があります。

一方的に支払いを止めるリスク

注意すべきは、減額交渉がうまくいかないからといって、一方的に支払いを止めるのは危険だということです。

養育費を滞納すると給与を差し押さえられる可能性があり、給与差押えは将来分にも効力が及びます。
一度差し押さえられると、未払い分を完済しても、相手が申立てを取り下げない限り差押えは解除されず、毎月の給与から養育費が支払われ続けることになります。
勤務先に滞納を知られるという不利益も生じます。

また、上述したように、法定養育費は養育費の取り決めをしていなくても発生し、かつ、養育費は一部でも未払いがあると、全額について差し押さえられるリスクがあります
支払いが困難になるなどの事情が生じた場合、自己判断で止めるのではなく、早急に弁護士に相談し、法的措置を検討する必要があります。

それでも離婚時の「公正証書」が重要な理由

ここまで見てきたように、改正によって養育費の回収はしやすくなりました。
しかし、それでも離婚時に強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことの重要性は変わりません。

理由は次のとおりです。

  • 先取特権で債務名義なしに差し押さえられるのは月8万円までであり、これを超える養育費の回収には債務名義が必要です。
  • 私的な合意書だけでは、金額や内容について後から争いになるおそれがあります。公正証書であれば、その心配が小さくなります。
  • 公正証書があれば、合意した養育費の全額について、確実かつ迅速に強制執行を申し立てられます。

不払いへの最も確実な備えは、やはり離婚時にきちんと養育費を取り決め、強制執行認諾文言付きの公正証書として残しておくことです。これから離婚する方は、この点を強く意識してください。

弁護士に依頼するメリット

養育費の不払い問題を弁護士に依頼することには、次のようなメリットがあります。

  • 相手の財産・勤務先の調査:弁護士会照会や裁判所の手続きを活用し、相手の勤務先や口座を調査します。
  • 手続きの代行:内容証明の送付から強制執行の申立てまで、煩雑な手続きを代理します。
  • 交渉の窓口:相手と直接やり取りするストレスから解放されます。感情的な対立を避けつつ、回収を進められます。
  • 取り決め書面の作成サポート:これから離婚する方には、公正証書の作成を含め、不払いに強い取り決めを支援します。
  • 減額・増額交渉:支払う側・受け取る側いずれの立場でも、適正な養育費に向けた交渉を行います。

よくある質問(FAQ)

養育費の取り決めをしていません。もう請求できないのでしょうか?

2026年4月1日以降に離婚した場合は、取り決めがなくても法定養育費(子1人あたり月額2万円)を請求できます。
それ以前に離婚した場合は法定養育費は使えませんが、家庭裁判所の調停・審判で養育費を定めることは可能です。

公正証書を作っていなくても、給与を差し押さえられますか?

改正により、父母間の合意書などがあれば、先取特権に基づき子1人あたり月額8万円までは、債務名義がなくても差押えを申し立てられるようになりました。
ただし、合意額がこれを超える部分や、口約束だけで書面がない場合は、別途債務名義(公正証書・調停調書など)が必要です。

「法定養育費の2万円」と「先取特権の8万円」は何が違うのですか?

2万円は「取り決めがない場合に当然に請求できる暫定額」、8万円は「取り決めはあるが債務名義がない場合などに直接差押えできる上限額」です。制度の目的も使う場面も異なります。

詳しくは本文の比較表をご覧ください。

相手の勤務先も口座もわかりません。差押えは無理ですか?

裁判所の財産開示手続や第三者からの情報取得手続により、相手の勤務先や預貯金口座を調べられる場合があります。
改正で、給与情報の取得から差押えまでを1回の申立てで進められるようになりました。

相手が無職・財産がない場合はどうなりますか?

差し押さえる財産がなければ、その時点では「空振り」となり回収はできません。

ただし、相手の状況が変われば再度差押えを申し立てられますし、退職金や潜在的な稼働能力が問題になる場合もあります。
諦めずに調査と再申立てを検討します。

自分が支払う側です。収入が減って払えません。差押えを避けられますか?

一方的に支払いを止めると、将来分まで差し押さえられるおそれがあります。

支払能力を欠くなどの事情があれば法定養育費は支払いを拒める場合があり、取り決め済みの養育費についても、家庭裁判所に減額や支払猶予を求められる場合があります。

自己判断で止めず、早めに弁護士にご相談ください。

まとめ

2026年4月の改正民法により、養育費の不払いに対する回収手段は大きく強化されました。
取り決めがなくても請求できる法定養育費、債務名義がなくても差押えができる先取特権、そして手続きを一本化した民事執行法の改正は、いずれも養育費を受け取る側にとって心強い制度です。

もっとも、先取特権で差し押さえられるのは月8万円までであるなどの限界もあり、改正によってすべてが解決するわけではありません。
確実な回収のためには、離婚時に養育費をきちんと取り決め、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことが、依然として最も有効な備えです。

そして、不払いが始まった場合も、過去にさかのぼれる範囲や回収できる財産には限りがあるため、時間の経過は受け取る側に不利に働きます。

当事務所では、養育費の取り決めから、不払いが生じた場合の回収(強制執行)、支払う側の減額交渉まで、養育費に関するご相談に幅広く対応しています。
「取り決めをしていないが請求できるか」「相手の財産がわからない」といった段階からのご相談もお受けしていますので、お早めにご相談ください。

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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