【この記事の結論・要約】
- 好き嫌い.comは運営者情報が非公開だが、法的手続きを通じて誹謗中傷コメントの削除や投稿者の特定は可能である。
- ただし、一般的なサイトと異なり、削除請求や開示請求の前提として「運営者の特定」という追加のステップが必要になる点に注意が必要。
- IPアドレスの保存期間は限られているため、誹謗中傷を発見したら早急に証拠を保全し、弁護士に相談することが重要。
本記事の情報は一般的な法律知識の解説であり、個別事案の判断は事実関係により大きく左右されます。具体的な対応については弁護士にご相談ください。
はじめに
「好き嫌い.comに自分の誹謗中傷が書き込まれているが、運営者の情報が一切分からない。削除を求めることも、書き込んだ人を特定することもできないのではないか」
このような不安を抱えている方は少なくありません。
好き嫌い.comは匿名で投票・コメントができるサイトであり、その構造上、誹謗中傷が生まれやすい環境にあります。
そして、運営者が「好き嫌い.com運営事務局」としか名乗っておらず、氏名も住所も公開されていないという点が、被害者にとって大きな障壁になっています。
しかし、運営者情報が非公開であっても、法的手続きを通じて誹謗中傷コメントの削除や投稿者の特定は可能です。
本記事では、好き嫌い.comで誹謗中傷を受けた場合の対処法について、自分でできる対応から法的手続きまで、具体的な手順を解説します。
サイトの仕組みと誹謗中傷が生まれやすい構造
好き嫌い.comは、芸能人・スポーツ選手・政治家などの実在の著名人や、アニメ・ゲームなどの架空のキャラクターを対象に、「好き」「嫌い」を投票し、コメントを投稿できるサイトです。
サイトの基本的な仕組み
ユーザーは対象となる人物に対して、1日1回「好き」または「嫌い」のいずれかを投票できます。
投票結果はリアルタイムで集計され、好き派・嫌い派のパーセンテージとして表示されます。
投票後にはコメントの投稿が可能になり、他のユーザーのコメントに対しても「好き」「嫌い」の評価ができます。
会員登録は不要で、誰でも匿名で投票・コメントができます。
誹謗中傷が生まれやすい3つの構造的要因
第1に、匿名性です。会員登録なしで誰でも投稿でき、投稿者を追跡する仕組みが表面上は見えないため、無責任な発言が投稿されやすい環境です。
第2に、好き派と嫌い派の対立構造です。
サイトの性質上、対象人物に対してポジティブな感情を持つユーザーとネガティブな感情を持つユーザーが同じコメント欄で発言するため、対立がエスカレートし、誹謗中傷に発展しやすい構造があります。
第3に、誹謗中傷への対応状況です。
好き嫌い.comには現在、利用規約が設けられています(制定日:2024年2月1日)。
第4条(禁止事項)では「他のユーザーへの嫌がらせ、誹謗中傷または迷惑行為」が明確に禁止されており、第7条(利用制限)では規約違反の場合に投稿データの削除や利用制限を行うことができるとされています。
また、第11条(権利侵害への対応)では、権利者が削除を求められること、運営側が権利侵害の可能性があると判断した場合は事前通知なく削除できることが規定されています。
もっとも、利用規約の存在にもかかわらず、誹謗中傷コメントが十分に管理されていないとの指摘があるのが現状です。
運営者情報が非公開であることの問題
好き嫌い.comの運営者は「好き嫌い.com運営事務局」と表示されているのみで、運営者の氏名・住所・法人名は公開されていません。
連絡手段として、メールアドレスが記載されているだけです。
この点が、誹謗中傷の被害者にとって削除請求や発信者情報開示請求を行う際の大きなハードルとなっています。
好き嫌い.comの投稿が違法になるケース
好き嫌い.comに投稿されたすべてのコメントが違法になるわけではありません。
「嫌い」という感情の表明やその理由の記述は、原則として表現の自由の範囲内です。
しかし、以下のような投稿は法的責任を問われる可能性があります。
名誉毀損(刑法230条1項、民法709条)
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に成立します。
好き嫌い.comのコメント欄はインターネット上で誰でも閲覧できる状態にあるため、「公然」の要件は満たされます。
具体例としては、「〇〇は不倫している」「〇〇は違法薬物を使用している」「〇〇は過去に横領事件を起こした」のように、特定の人物について具体的な事実を摘示し、その人物の社会的評価を低下させる投稿が該当します。
摘示された事実が虚偽であるか真実であるかは、名誉毀損の成否そのものには影響しません。
ただし、真実であり、かつ公共の利害に関する事実について、もっぱら公益を図る目的で行われた場合は、違法性が阻却されることがあります(刑法230条の2第1項)。
侮辱罪(刑法231条)
事実の摘示を伴わずに、人を公然と侮辱した場合に成立します。
好き嫌い.comで頻繁に見られる「ブサイク」「消えろ」「人間のクズ」「頭がおかしい」といった人格攻撃は、具体的な事実を摘示するものではありませんが、侮辱罪に該当する可能性があります。
侮辱罪は2022年の法改正により厳罰化されており、法定刑は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料」に引き上げられています。
名誉感情侵害(民法709条)
名誉感情とは、自己に対する主観的な評価感情のことです。
社会通念上許される限度を超える侮辱的な表現により、他者の名誉感情を害した場合は、不法行為に基づく損害賠償の対象となります。
最三小判平成22年4月13日民集64巻3号758頁は、次のように判示しています。
これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得る
名誉感情侵害は、名誉毀損とは異なり、社会的評価の低下を要件としません。
下級審の裁判例では、「誰であっても名誉感情を害されることになるような看過しがたい、明確かつ程度の著しい侵害」が必要との定式化もなされています。
名誉毀損・名誉感情侵害における同定可能性の判断基準については、以下の関連記事で詳しく解説しています。

プライバシー侵害
対象人物の私生活上の事実(交際関係、住所、病歴、家族構成等)をコメント欄に暴露する行為は、プライバシーの侵害に該当する可能性があります。
「嫌い」投票自体は違法か?
「嫌い」という投票自体は、特定の人物に対する感情の表明であり、原則として違法ではありません。
ただし、投票後に投稿されるコメントが上記の名誉毀損・侮辱・名誉感情侵害・プライバシー侵害に該当する場合は、そのコメントの投稿者が法的責任を問われることになります。
好き嫌い.comの誹謗中傷を自分で削除する方法
法的手続きに入る前に、まず自分でできる対応を試みることが考えられます。
通報機能を使う
好き嫌い.comには、各コメントの上部に「通報」ボタンが設置されています。誹謗中傷にあたると思われるコメントについて、このボタンから通報することが可能です。
運営側が誹謗中傷と認めた場合は、コメントの削除や投稿禁止等の措置が取られることがあります。
ただし、通報に対する対応が十分でないとの指摘も多く、通報しても削除されないケースが少なくないのが現状です。
運営者に直接メールで削除を要請する
通報で削除されない場合、公開されているメールアドレス宛に削除要請を送ることが考えられます。
この際、単に「削除してください」と要請するだけでなく、好き嫌い.comの利用規約第4条で「誹謗中傷」が禁止事項として明記されていることを指摘したうえで、情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会(旧プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会)が公開する「侵害情報の通知書 兼 送信防止措置依頼書」の書式を利用し、どのコメントがどのような権利を侵害しているのかを具体的に記載して送付するのが効果的です。
また、情報流通プラットフォーム対処法(2025年4月1日施行の改正により、旧プロバイダ責任制限法から名称変更されています)3条は、権利侵害にあたる投稿が存在することを知りながら送信防止措置(削除等)を取らない場合、サイト運営者自身が損害賠償責任を負う可能性があることを規定しています。
利用規約第11条(権利侵害への対応)においても、権利侵害の可能性がある場合は事前通知なくコンテンツを削除できるとされています。これらの根拠を示すことで、運営者の対応を促すことができます。
ただし、この削除要請はあくまで任意のものであり、運営者が応じるかどうかは運営者の判断に委ねられます。
任意の要請で対応が得られない場合は、法的手続きに移行する必要があります。
法的手続きによる削除——裁判所への仮処分申立て
任意の削除要請で対応が得られない場合、裁判所に投稿削除の仮処分を申し立てます。
好き嫌い.com固有のハードル——運営者の特定
一般的なウェブサイトであれば、サイト上に記載された運営者(法人名・代表者名・住所)を相手方として仮処分を申し立てます。
しかし、好き嫌い.comは運営者情報が公開されていないため、まず運営者を特定するステップが必要です。
運営者を特定する方法としては、CDNサービス事業者(Cloudflare社等)に対する発信者情報開示命令の申立てにより、サーバー契約者情報を取得する方法があります。
仮処分の申立て
運営者が特定できたら、その運営者を相手方として、投稿削除の仮処分を裁判所に申し立てます。
仮処分が認められるためには、被保全権利(名誉権やプライバシー権が侵害されていること)と保全の必要性(仮処分によらなければ権利侵害の状態が継続すること)を疎明する必要があります。
仮処分決定が出された場合、運営者がこれに従い投稿を削除するのが通常です。
運営者が任意に削除しない場合は、間接強制(1日あたり一定額の支払いを命じることで削除を促す手続き)により削除を実現できます。
投稿者を特定する方法——発信者情報開示請求の手順
誹謗中傷コメントの投稿者に対して損害賠償を請求したり、刑事責任を追及したりするためには、投稿者が「誰であるか」を特定する必要があります。
そのための手続きが発信者情報開示請求です。
発信者情報開示請求の全体像
発信者情報開示請求には、従来の手続き(仮処分+本訴訟の2段階)と、令和4年(2022年)10月に創設された非訟手続(発信者情報開示命令、情報流通プラットフォーム対処法8条)の2つの方法があります。
従来の手続きは、コンテンツプロバイダ(サイト運営者)への仮処分とアクセスプロバイダ(ISP)への本訴訟を別々に行う必要がありました。
非訟手続では、この2つの手続きを1つの手続きの中でまとめて行えるようになり、開示までの期間が大幅に短縮されています。
具体的には、サイト運営者への開示命令の申立てに伴い「提供命令」(同法15条)を申し立てることで、サイト運営者が把握しているアクセスプロバイダの名称が事前に提供され、その情報をもとにアクセスプロバイダへの開示命令申立てを並行して進められます(ただし、好き嫌い.comの運営者が提供命令に対応するかは不明です。)。
これに加えて「消去禁止命令」(同法16条)を申し立てれば、ログの保存期間延長も確保できます。
好き嫌い.comの場合は、いずれの手続きにおいても、前提として運営者の特定が必要となる点が特殊です。
STEP1:好き嫌い.comの運営者の特定
まず、好き嫌い.comの運営者が誰であるかを特定します。
好き嫌い.comはCDNサービス(Cloudflare社)を利用しているため、ドメインのWhois情報からは直接の運営者情報にたどり着けない場合があります。
この場合、Cloudflare社を相手方として発信者情報開示命令等を申し立て、サーバー契約者の情報を取得する方法があります。
STEP2:運営者からIPアドレス・タイムスタンプの取得
運営者が特定できたら、その運営者に対して、誹謗中傷コメントが投稿された際のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求めます。
任意の開示請求で応じてもらえる場合もありますが、運営者が「裁判所の判断がなければ開示できない」として任意の開示に応じないケースが多いため、裁判所を通じた手続き(仮処分の申立てまたは開示命令の申立て)が必要になるのが一般的です。
STEP3:アクセスプロバイダからの契約者情報の取得
IPアドレスとタイムスタンプが開示されれば、投稿者がどのインターネット接続事業者(アクセスプロバイダ、ISP)を利用していたかが分かります。
次に、そのアクセスプロバイダに対して、当該IPアドレスを当該時刻に割り当てられていた契約者の氏名・住所・メールアドレス等の開示を求めます。
アクセスプロバイダも任意には開示に応じないのが通常であるため、発信者情報開示命令の申立てを行い、裁判所の判断によって開示を命じてもらう必要があります。
ここで特に注意すべきは、アクセスプロバイダにおけるIPアドレスの保存期間です。
通信ログの保存期間は事業者によって異なりますが、おおむね3ヶ月から6ヶ月程度とされています。
この期間を過ぎるとログが消去され、投稿者の特定が事実上不可能になります。
そのため、STEP2の手続きと並行して、アクセスプロバイダに対する通信ログ消去禁止の仮処分(または非訟手続を選択した場合は消去禁止命令、情報流通プラットフォーム対処法16条)を申し立てておくことが重要です。
STEP4:投稿者に対する法的措置
投稿者が特定できたら、以下の法的措置を検討します。
民事上の損害賠償請求として、不法行為(民法709条)に基づき、名誉毀損やプライバシー侵害によって被った精神的苦痛に対する慰謝料等の賠償を請求できます。
刑事告訴として、名誉毀損罪(刑法230条1項)や侮辱罪(刑法231条)に該当する場合は、警察に刑事告訴を行い、加害者の刑事責任を追及することが可能です。
また、訴訟に至る前に示談交渉を行い、謝罪や慰謝料の支払い、今後の誹謗中傷を行わない旨の誓約を得ることも有効な選択肢です。
よくある質問(FAQ)
- 好き嫌い.comの運営者が分からないのですが、削除請求や開示請求はできますか?
-
はい、可能です。
運営者情報が非公開であっても、CDN事業者(Cloudflare社等)に対する発信者情報開示命令を通じて運営者を特定することができます。
運営者が特定できれば、その運営者を相手方として削除請求や開示請求の手続きに進むことができます。手続きが通常よりも複雑になるため、弁護士へ依頼した方が良いでしょう。
- 好き嫌い.comの「嫌い」投票だけで名誉毀損になりますか?
-
「嫌い」という投票自体は、特定の人物に対する感情の表明であり、原則として名誉毀損には該当しません。
名誉毀損が成立するためには「事実の摘示」が必要です(刑法230条1項)。
ただし、投票後に投稿されたコメントの内容が名誉毀損や侮辱に該当する場合は、そのコメントの投稿者が法的責任を問われることになります。 - 好き嫌い.comのコメントに「いいね」を押しただけでも開示請求されますか?
-
「いいね」(好き・嫌いの評価)を押しただけでは、原則として開示請求の対象にはなりません。
開示請求の対象となるのは、権利侵害にあたるコメントを投稿した発信者です。
- 好き嫌い.comの誹謗中傷で慰謝料はいくらもらえますか?
-
慰謝料の金額は、投稿の内容、被害の程度、投稿の回数、被害者の社会的地位等によって異なります。
インターネット上の誹謗中傷事案では、軽微な侮辱で10万円~30万円程度、典型的な名誉毀損で30万円~100万円程度、重大かつ拡散性の高い事案では100万円以上が認容された事例もあります。
なお、投稿者の特定にかかった弁護士費用(調査費用)の一部を、損害賠償として投稿者に請求できる場合があります。
おわりに
好き嫌い.comは、匿名で投稿でき、誹謗中傷が生まれやすい構造を持つサイトです。
利用規約では誹謗中傷が禁止されていますが、実態として十分に管理が行き届いていないとの指摘もあります。
しかし、匿名であることは「法的責任を免れること」を意味しません。
運営者情報が非公開であっても、法的手続きを通じて運営者を特定し、投稿の削除や投稿者の特定を行うことは可能です。
最も重要なのはスピードです。
IPアドレスの保存期間(おおむね3~6ヶ月)を過ぎてしまうと、投稿者の特定が事実上不可能になります。
好き嫌い.comで誹謗中傷を発見した場合は、まずスクリーンショット等で証拠を保全し、できるだけ早く弁護士に相談してください。
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