事情変更の原則とは?要件・効果と不動産・建設工事契約への適用を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 事情変更の原則とは、契約後に予見不可能な著しい事情変更が生じた場合に、信義則(民法1条2項)を根拠として契約の解除や改訂を認める判例法理である。明文規定はない
  2. 適用には4つの要件(①事情の著しい変更、②予見不可能性、③帰責事由がないこと、④信義則上の不当性)をすべて満たす必要があり、最高裁の適用は極めて厳格である。
  3. 不動産賃貸借では借地借家法11条・32条が事情変更の原則を具体化しており、建設工事請負契約ではスライド条項(約款26条)が同趣旨の機能を果たしている。

事情変更の原則とは——契約後の予見不可能な事情変更に対する「最後の救済手段」

事情変更の原則とは、契約が成立した後、その契約の基礎となっていた事情に、当事者が予見できなかった著しい変更が生じ、当初の契約内容をそのまま維持することが当事者間の公平を著しく損なう場合に、契約の解除または改訂を認める法理です。

この法理の根拠は、民法1条2項の信義誠実の原則(信義則)にあります。

民法1条2項

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

事情変更の原則については、民法に明文の規定はありません。
しかし、判例は古くからこの法理の存在を認めています。

重要なのは、この法理が「最後の救済手段」であるという位置づけです。
契約後に想定外の事情が生じた場合には、まず以下の救済手段が検討されます。
錯誤取消(民法95条)、詐欺取消(民法96条)、債務不履行解除(民法541条・542条)、契約不適合責任(民法562条~)。

これらの条文上の救済手段がいずれも使えない場合に、初めて事情変更の原則の適用が問題になります。

事情変更の原則の4つの要件

事情変更の原則が適用されるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
最高裁昭和29年2月12日判決は、「事情の変更が信義衡平上当事者を該契約によつて拘束することが著しく不当と認められる場合」に適用が認められるとしています。

要件①:契約の基礎となった事情に著しい変更が生じたこと

契約の前提となっていた客観的な社会的事情(経済状況、法制度、自然環境等)に著しい変更が生じたことが必要です。

ここで重要なのは、「客観的な社会的事情」の変更であることです。
当事者の個人的な事情の変更では足りません。

最判昭和29年1月28日(民集8巻1号234頁)は、家屋の売買契約において、売主が他に所有していた居住家屋を戦災で焼失し、売却した家屋が居住に必要になったという事情だけでは、事情変更の原則の適用は認められないと判断しました。
これは個人的事情の変更にすぎないためです。

著しい事情変更の例としては、戦争の勃発、大規模な自然災害、急激なインフレーション、法令の大幅な変更などが挙げられます。

要件②:事情の変更が予見不可能であったこと

当事者が契約締結時に通常の注意を払っていても、その事情の変更を予見することができなかったことが必要です。

ある程度の経済変動や市場の変化は、通常の取引において予見可能な範囲のリスクとして、契約当事者が負担すべきものと考えられています。
事情変更の原則が適用されるのは、そうした通常予見可能な範囲を超える、異常かつ急激な変動が生じた場合に限られます。

要件③:事情の変更が当事者の責めに帰すべき事由によらないこと

事情の変更が、契約当事者のいずれの責任にも帰することができない外部的な原因によって生じたことが必要です。

例えば、債務者の経営の失敗によって履行が困難になった場合は、当事者の責めに帰すべき事由による困難であるため、事情変更の原則の適用は認められません。

要件④:契約どおりの履行を強制することが信義則上著しく不当であること

上記①~③の要件を満たしたうえで、なお契約どおりの履行を強制することが、信義則に照らして著しく不当と認められることが必要です。

この要件が最も判断が難しく、裁判所の裁量が大きい部分です。
単に当事者の一方にとって不利益であるだけでは足りず、契約を維持することが当事者間の公平を「著しく」損なう場合に限られます。

事情変更の原則の効果——契約改訂と契約解除

事情変更の原則が適用された場合の効果は、契約の改訂(変更)と契約の解除の2段階で考えられています。

第一次的な効果は、契約内容の改訂です。
事情変更の原則は、正当に成立した契約をできる限り存続させつつ、変更された事情に適合するように契約内容を修正することを目指す法理です。
したがって、まず契約内容の改訂を請求し、改訂による調整を試みるのが原則です。

第二次的な効果は、契約の解除です。
改訂の請求に対して相手方が拒絶した場合など、改訂では不公平な結果を解消できない場合に初めて、契約の解除が認められます。

判例の動向——最高裁は原理を認めつつも適用には極めて慎重

事情変更の原則について理解するうえで、最も重要な事実があります。
それは、最高裁判所がこの法理の存在自体は認めているものの、実際にこの法理を適用して契約の解除や改訂を認めた例は存在しないということです。
事情変更の原則に基づく契約解除が最上級審で認められたのは、大審院時代の昭和19年判決の1件のみです。

最判昭和29年2月12日は、事情変更の原則について「事情の変更が信義衡平上当事者を該契約によつて拘束することが著しく不当と認められる場合」に適用が認められるとする一般論を判示しましたが、結論としては適用を否定しました。

最判昭和36年6月20日は、居住家屋が戦災により焼失したことを理由とする事情変更の主張を、個人的事情の変更にすぎないとして退けました。

最判平成9年7月1日(民集51巻6号2452頁)は、ゴルフ場の会員契約について、のり面の崩壊と防災措置の必要性が生じた場合に事情変更を認める方向の判断を示しましたが、学説上はこの事案が「契約の基礎の喪失」といえるかどうかについて疑問も呈されています。

このように、裁判所は事情変更の原則の適用に極めて慎重な態度をとっています。
これは、安易に事情変更を認めると、契約の拘束力(「契約は守られるべきである」という原則)が損なわれるおそれがあるためです。

2017年民法(債権法)改正で明文化が見送られた経緯

2017年の民法(債権法)改正に際して、法制審議会では事情変更の法理の明文化についても検討が行われました。

中間試案(第32)では、事情変更により契約の解除または改訂の請求を認める規定を新設することが提案されました。
具体的には、①事情の変更が予見不可能であり、かつ当事者の責めに帰すことのできない事由によること、②契約の目的を達することができず、又は当初の契約内容を維持することが衡平を著しく害すること、を要件とするものでした。

しかし、パブリックコメントの結果、明文化に対して多くの反対意見が寄せられました。
反対の主な理由は、「大きな事情の変更があれば契約を変更できるという誤ったメッセージになる」「明文規定を根拠として濫用的な主張がなされるおそれがある」「裁判所が契約の改訂を行うことへの懸念」といったものでした(法制審議会民法(債権関係)部会資料65参照)。

これらの反対意見を踏まえ、最終的に事情変更の法理の明文化は見送られました。
ただし、明文化が見送られたことは、事情変更の原則自体が否定されたことを意味するものではありません。
引き続き、信義則(民法1条2項)を根拠とする判例法理として存続しています。

参考資料:

不動産賃貸借と事情変更の原則

事情変更の原則は一般法理として明文規定がありませんが、不動産賃貸借の分野では、同原則の趣旨を法律上具体化した規定が存在します。

地代等増減請求権(借地借家法11条)

借地借家法11条は、土地の租税公課の増減、土地の価格の上昇・下落、その他の経済事情の変動、近傍類似の土地の地代等との比較により、地代等が不相当になった場合には、契約の条件にかかわらず、当事者が地代等の増減を請求できると定めています。

借賃増減請求権(借地借家法32条)

同様に、借地借家法32条は、建物の借賃が、租税公課の増減、土地建物の価格の変動、その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較により不相当になった場合に、当事者が借賃の増減を請求できると定めています。

これらの規定は、事情変更の原則を不動産賃貸借の場面で具体化したものと解されています。
強行規定であるため、契約で排除することはできません。

したがって、不動産賃貸借の場面では、地代や借賃の増減が問題になるケースでは、事情変更の原則の一般法理に頼るまでもなく、これらの条文に基づいて請求を行うことが可能です。

建設工事請負契約と事情変更の原則

建設工事は工期が長期にわたることが多く、契約締結後に資材価格や人件費が大きく変動することがあります。
この問題に対処するため、建設工事の請負契約では、事情変更の原則の趣旨を契約条項として具体化した「スライド条項」が設けられています。

建設工事における事情変更の典型場面

建設工事において事情変更が問題になる典型的な場面としては、鋼材・木材・コンクリート等の資材価格の急騰、人件費の急騰(建設業における時間外労働の上限規制等の影響を含む)、為替変動による輸入資材の価格上昇、地盤条件が設計時の想定と大きく異なっていた場合、埋蔵文化財の発見による工事の中断などが挙げられます。

スライド条項(公共工事標準請負契約約款26条)

公共工事においては、公共工事標準請負契約約款26条にスライド条項が設けられています。
通常合理的な範囲内の価格変動は契約上のリスクとして受注者が負担しますが、通常合理的な範囲を超える価格変動については、発注者と受注者が負担を分担するという考え方に基づいています。

スライド条項には3つの類型があります。

全体スライド(約款26条1項~4項)は、契約締結後12ヶ月を経過した後に、賃金水準または物価水準の変動により請負代金額が不適当となった場合に、請負代金額の変更を請求できる制度です。変動前残工事代金額の1000分の15を超える部分が変更の対象となります。

単品スライド(約款26条5項)は、特別な要因により特定の主要資材の価格に著しい変動が生じた場合に、請負代金額の変更を請求できる制度です。品目ごとの変動額が請負代金額の1%を超える場合に適用されます。2022年以降の鋼材・アスファルト等の急騰を受けて、国交省は令和4年6月の通知により単品スライド条項の運用を改定しています。

インフレスライド(約款26条6項)は、予期することのできない特別の事情により急激なインフレーションまたはデフレーションが生じた場合に、請負代金額の変更を請求できる制度です。全体スライドや単品スライドとは別に、より急激な経済変動に対応するための規定です。

民間工事における対応

民間工事においても、民間(七会)連合協定工事請負契約約款にスライド条項が設けられています。

しかし、すべての民間工事でスライド条項が契約に盛り込まれているわけではありません。
契約書にスライド条項がない場合に、事情変更の原則の一般法理に基づいて請負代金の増額を請求できるかは、前述の4要件を満たすかどうかにかかってきます。

もっとも、最高裁が事情変更の原則の適用に極めて慎重な態度をとっていることを踏まえると、スライド条項のない契約で事情変更の原則のみを根拠に代金増額を勝ち取ることは容易ではありません。
契約締結段階でスライド条項を盛り込んでおくことが、実務上最も確実な対策です。

また、建設業法19条の3は、通常必要と認められる原価に満たない金額での請負契約の締結を禁止しています。資材高騰後の追加工事や設計変更の場面で、発注者が従前の単価のまま追加費用を負担しないことは、同条に抵触する可能性があります。

よくある質問(FAQ)

コロナ禍で売上が激減しました。事情変更の原則でテナントの賃料を減額してもらえますか?

コロナ禍のような社会的危機は、事情変更の原則における「予見不可能な事情の変更」に該当しうると考えられます。
しかし、事情変更の原則の適用は極めて限定的であり、売上の減少だけでは必ずしも要件を満たしません。

不動産賃貸借の場面では、事情変更の原則の一般法理に頼るよりも、借地借家法32条の借賃増減請求権に基づく賃料減額請求を検討するのが実務上は現実的です。
まずは貸主との任意の交渉を試みることが第一歩になります。

建設資材が急騰し、当初の見積額では工事ができなくなりました。追加費用を発注者に請求できますか?

契約書にスライド条項(価格変動条項)が含まれている場合は、その条項に基づいて請負代金の増額を請求できます。

公共工事の場合は公共工事標準請負契約約款26条のスライド条項が適用されます。
民間工事でスライド条項がない場合は、発注者との再交渉が基本的な対応となります。

事情変更の原則の一般法理に基づく増額請求も理論上は可能ですが、裁判所が認めるハードルは高いため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

契約書に「いかなる事情があっても代金を変更しない」と書いてある場合でも、事情変更の原則は適用されますか?

事情変更の原則は信義則に基づく法理であるため、理論上は、契約書にこのような条項があったとしても、通常予見可能な範囲を大幅に超える異常かつ急激な事情の変更が生じた場合には、なお適用の余地があると解されています。

ただし、当事者があらかじめリスクを予見して特約を設けた場合には、そのリスクは契約上引き受けたものと評価され、事情変更の主張が認められにくくなります。

事情変更の原則を主張する場合、どのような証拠が必要ですか?

事情変更の原則を主張するためには、①契約締結時の客観的な経済状況(物価指数、為替レート、資材価格等)、②契約締結後の事情変更の程度を示す客観的データ、③事情変更が予見不可能であったことを裏づける資料(契約時の市場予測レポート等)、④契約どおりの履行がどの程度の不公平を生じさせるかの具体的な計算といった証拠が必要になります。

事情変更の原則と不可抗力条項の違いは何ですか?

不可抗力条項は、天災・戦争・疫病等の不可抗力事由が発生した場合に、債務不履行の責任を免除する契約条項です。

契約書に明記された条項であり、その効果は主に「責任の免除」(損害賠償義務の免除、履行遅滞の免責等)です。
一方、事情変更の原則は契約書の条項ではなく信義則に基づく一般法理であり、その効果は「契約内容の改訂または解除」です。

不可抗力条項がカバーしない場面で、契約の改訂や解除が必要になった場合に、事情変更の原則が補充的に機能する関係にあります。

おわりに

事情変更の原則は、契約の拘束力(「契約は守られるべきである」という原則)に対する例外的な法理であり、その適用は極めて限定的です。
最高裁がこの法理を適用して契約の解除や改訂を認めた例は存在せず、「最後の救済手段」としての位置づけが貫かれています。

しかし、近年の建設資材の急騰、為替変動、自然災害の頻発などにより、契約締結時には予見できなかった事情の変更が生じるリスクは高まっています。

実務上最も重要なのは、事情変更が生じてから法的手段を検討するのではなく、契約締結の段階で事情変更に対応するための条項(スライド条項、再交渉条項、不可抗力条項等)を盛り込んでおくことです。

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参考リンク一覧

資料名URL
法制審議会 民法(債権関係)部会https://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html
中間試案(平成25年2月26日決定)ページhttps://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900184.html
中間試案(概要付きPDF)https://www.moj.go.jp/content/000109163.pdf
部会資料65(事情変更の法理の検討)https://www.moj.go.jp/content/000115628.pdf
分科会資料8(事情変更に関する判例・裁判例)https://www.moj.go.jp/content/000104014.pdf
公共工事標準請負契約約款(国交省)https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001979924.pdf
単品スライド条項の運用に関する説明資料(国交省)https://www.mlit.go.jp/tec/content/001577470.pdf
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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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