【この記事の結論・要約】
- 不同意回答の後の展開は、あなたの件が「裁判所の開示命令申立てを経ているか」「裁判外の任意開示請求(テレサ書式)か」で大きく分かれます。前者では、不同意でも開示命令が発令されるケースが大半とされる一方、後者では、開示されずに終わることもあります。
- 不同意回答は「終わり」ではなく「待機期間の始まり」です。結果が出るまでの期間に、利用の全体像の整理、複数請求への備え、開示された場合の資金と方針の準備を進めておくかどうかで、その後の展開が大きく変わります。
- 不同意と回答したこと自体が、後の示談交渉で決定的に不利に働く傾向は、トレントの実務では限定的とみられます。ただし、回答書の記載内容は後の手続で証拠となり得るため、すでに提出した回答の内容の確認が重要です。事実と異なる記載をしてしまった場合は、放置せず、早めにリカバリーの相談をしてください。
はじめに
「意見照会書に『開示に同意しない』と回答して提出した。それきり何の連絡もないが、この後どうなるのか」 「不同意にすれば開示されないと思っていたが、ネットで調べると『どうせ開示される』とも書いてある。自分の回答は無意味だったのか」
意見照会書への回答を出した後の期間は、手続が見えないまま結果だけを待つ、精神的に最もつらい時間かもしれません。
そして、この「待っている間に何もしない」ことこそが、実は最ももったいない選択です。
本記事は、すでに不同意で回答を提出した方に向けて、この後の手続の流れ、届き得る書面の意味、そして結果が出るまでの期間にやるべきことを、時系列で解説します。
なお、これから回答する方向けの「そもそも拒否すべきか」「不同意理由の書き方」は、別の記事で解説しています。


不同意回答の後、手続はどう進むのか
まず、大前提を確認します。
あなたの不同意回答の後の展開は、権利者側がどのルートで開示を求めているかによって、大きく分かれます。
裁判所の開示命令申立てを経ている場合
権利者側が裁判所に発信者情報開示命令の申立てを行っているケースでは、開示するかどうかを最終的に判断するのは、プロバイダではなく裁判所です。
あなたの不同意回答とその理由は、プロバイダを通じて手続に反映されます。
プロバイダは、契約者から不同意の回答があったことを踏まえて対応し、裁判所が権利侵害の有無などを判断します。
もっとも、トレントの事案は権利侵害が立証しやすい類型であり、実務上、不同意で回答しても最終的に開示命令が発令されるケースが大半とされています。
権利侵害の明白性が否定されて申立てが退けられる例もありますが、全体から見れば多くはありません。
ただし、だからといって不同意回答が無意味だったわけではありません。
任意開示請求(テレサ書式)の場合
裁判所を介さず、権利者側がプロバイダに直接開示を求める方法(いわゆるテレサ書式による任意開示請求)もあります。
このルートでは、開示するかどうかを判断するのはプロバイダ自身です。
契約者が不同意の意思を示した場合、プロバイダは開示に応じないことが多く、開示されないまま終わることもあります。
ただし、プロバイダによっては、不同意の回答があっても自らの判断で開示する場合があるため、「任意開示だから不同意なら絶対に大丈夫」とまではいえません。
自分の件がどちらか分からない場合
届いた意見照会書に裁判所や開示命令申立てへの言及・裁判所提出書面の写しがあれば裁判所ルート、そうした記載がなければ任意開示請求の可能性がある、というのが大まかな見分け方です。
手元の書類の控えを確認しても判断がつかない場合は、プロバイダに問い合わせるか、書類一式を持って弁護士にご相談ください(意見照会書の書面の見方は、別の記事でも解説しています。)。

不同意回答の後に届き得る書面と、その意味
回答提出後にあなたのもとに届き得る書面を、時系列で整理します。
それぞれの書面は、手続がどこまで進んだかを示すサインです。
- プロバイダからの連絡・追加照会:回答内容について確認の連絡が来ることがあります。この段階では、まだ開示の判断は出ていません。
- 開示命令が発令された旨の通知:多くはありませんが、裁判所ルートの場合、開示命令の発令やそれに基づき情報を開示する(した)旨の通知がプロバイダから届くことがあります。これが届いた時点で、あなたの氏名・住所が権利者側に渡る(渡った)ことを意味します。次の連絡は、権利者側から直接届く段階に入ります。
- 権利者側代理人からの通知書:開示された情報に基づき、権利者の代理人弁護士から、損害賠償や示談に関する通知が届きます。ここからが示談交渉の本番です。
重要なのは、これらの書面がいつ届いてもおかしくない状態が、不同意回答の提出によって始まっているということです。
回答から結果までの期間は事案によって幅がありますが、数週間から数か月に及ぶことも珍しくありません。
連絡がないことは、終わったことを意味しません。
結果が出るまでの期間にやるべきこと
開示された後に慌てて動き始めるのと、開示を想定して準備を済ませておくのとでは、交渉の初動がまったく違います。
- 利用の全体像を整理する:意見照会書の対象作品以外に、いつ頃、どの程度トレントを利用していたかを整理してください。トレントの事案では、複数の作品・複数のメーカーから時間差で請求が届くことが少なくなく、今回の1件の結果を待つ間に、別の意見照会書が届く可能性もあります。
- 提出した回答書の内容を確認する:控えがあれば手元に揃え、なければ記憶を書き出しておいてください。回答書の記載は後の手続の前提となるため、そこに何を書いたかは、今後の説明の一貫性の出発点になります(4章参照)。
- 開示された場合の資金と方針を考えておく:示談となった場合の資金をどう用意するか、支払能力に不安がある場合の交渉の選択肢は何か、あらかじめ見通しを持っておくと、通知が届いてからの判断が速くなります(※C-5スポークへリンク)。
- 弁護士相談のタイミングを「開示後」まで遅らせない:開示命令の発令前であれば、手続への対応の余地や、発令を見越した準備ができます。権利者側の通知が届いてから探し始めるのではなく、待機期間のうちに相談を済ませ、通知が届いたら即座に動ける体制を作っておくことをお勧めします。
不同意と回答したことは、不利に働くのか
示談交渉への影響
「不同意にしたことで権利者を怒らせて、示談金を吊り上げられるのではないか」という不安をよく伺います。
この点、トレントの事案の権利者側は、多数の開示請求を組織的に進めている企業であることが多く、個別の不同意回答を理由に感情的・報復的な対応を取る傾向は、実務上限定的とみられます。
不同意と回答したこと自体を過度に恐れる必要はない、というのが現時点での見立てです。
ただし、これは相手方や事案によって異なり得るものであり、保証ではありません。
回答書の記載は、後の手続で証拠になり得る
むしろ注意すべきは、回答したという事実ではなく、回答に何を書いたかです。
回答書の記載内容は、その後の開示手続や損害賠償請求訴訟において、証拠として扱われる可能性があります。
たとえば「トレントを一切利用したことがない」と記載したにもかかわらず、後の交渉や訴訟で利用を認める説明をすれば、記載との矛盾があなたの説明全体の信用性を損ないます。
逆に、事実に即した記載をしていれば、それは一貫した防御の土台になります。
事実と異なる記載をしてしまった場合
不安や焦りから、事実と異なる内容(利用していたのに「一切利用していない」等)を書いて提出してしまった、というご相談もあります。
この場合、放置は禁物です。
矛盾は、時間が経ち、手続が進むほど修正が難しくなります。
どの段階で、どのような形で説明を訂正・整理するかは、事案の進行状況によって最適解が異なるため、自己判断で追加の書面を送ったり、逆に矛盾を重ねる説明をしたりする前に、必ず弁護士にご相談ください。
すでに提出した回答があることを前提に、以後の説明の一貫性を設計し直す必要があります。
開示された後の流れ
開示命令の発令などにより情報が開示されると、権利者側の代理人弁護士から、損害賠償や示談に関する通知が届きます。
ここで知っておいていただきたいのは、開示された=損害賠償が確定したわけではないということです。
開示は、権利者側があなたの氏名・住所を知ったという手続上の出来事にすぎず、支払うべき金額が確定したわけではありません。
示談金の額は、この後の交渉で決まります。
侵害の態様に照らした減額交渉、支払方法の交渉、複数請求を見込んだ総額の設計など、打てる手は開示後も残っています(示談金の相場や交渉の考え方は、別の記事で詳しく解説しています。)。

開示されずに終わった場合の注意点
任意開示請求で開示に至らなかった場合や、裁判所が申立てを認めなかった場合、「これで終わった」と考えたくなります。
しかし、直ちにそう断定することはできません。
第一に、権利者側が別のルートで改めて開示を求める可能性は、制度上残ります。
第二に、同じ時期の別の通信について、別の権利者から新たな意見照会書が届く可能性もあります。
第三に、損害賠償請求権自体は、開示の成否とは別に、時効が完成するまで存続します。
「いつまで警戒すればよいのか」は、プロバイダのログ保存期間と消滅時効の考え方から見通しを立てることになります。
事項については別の記事で解説していますので、あわせてご確認ください。

開示されなかったという結果は、ひとまずの安心材料ではありますが、利用をやめ、時効等の見通しを確認して初めて、本当の意味で区切りがつきます。
回答を出した後からでも、弁護士に依頼する意味
「回答はもう出してしまったから、弁護士に頼むタイミングを逃した」と考える方がいますが、そうではありません。
回答後の各段階に、それぞれ弁護士が果たせる役割があります。
- 発令前(待機期間):手続ルートの見極め、提出済み回答の内容確認と以後の説明の設計、複数請求・資金計画を含めた全体方針の策定。
- 開示直後:権利者側代理人への受任通知により、以後の連絡窓口を弁護士に一本化。あなたの自宅に督促が届き続ける状態を解消します。
- 示談交渉:減額・分割・複数請求の包括処理まで、事案の全体像を踏まえた交渉。
- 訴訟に至った場合:訴訟対応と、並行した和解交渉。
特に、提出済みの回答に不安がある方は、次の書面が届く前の今が、立て直しの最も良いタイミングです。
よくある質問(FAQ)
- 不同意にしたのに開示命令が出ました。回答は無意味だったのですか?
-
無意味ではありません。
裁判所ルートでは不同意でも発令に至るケースが大半とされる一方、不同意の回答と理由は手続に反映されており、事実に即した回答をしていれば、それは開示後の示談交渉や訴訟における一貫した説明の土台になります。
開示は金額の確定ではなく、交渉はここからです。 - 不同意にしたせいで、示談金が高くなりませんか?
-
トレントの事案では、不同意回答を理由に権利者側が報復的に対応する傾向は実務上限定的とみられ、過度に恐れる必要はないと考えられます。
ただし相手方や事案により異なり得るため、通知が届いた段階で交渉方針とあわせてご相談ください。 - 回答を出してから、どれくらいで結果が分かりますか?
-
事案や手続のルートによって幅があり、数週間で動きがある場合もあれば、数か月を要することもあります。
連絡がない期間が続いても、終わったと判断することはできません。この期間を、利用状況の整理や資金・方針の準備に充ててください。
- 回答書に事実と異なることを書いてしまいました。どうすればいいですか?
-
放置しないでください。
記載と矛盾する説明を後から重ねると、あなたの説明全体の信用性が損なわれます。
自己判断で追加の書面を送る前に、提出済みの内容を前提として以後の説明をどう設計するか、早急に弁護士にご相談ください。 - 開示されませんでした。もう安心ですか?
-
ひとまずの安心材料ではありますが、権利者側が別のルートで開示を求める可能性や、別の権利者から新たな照会が届く可能性は残ります。
損害賠償請求権も時効が完成するまで存続します。
ログ保存期間と時効の見通しを確認した上で、区切りを判断してください。 - 回答を出した後からでも、弁護士に依頼する意味はありますか?
-
あります。
発令前であれば提出済み回答の確認と全体方針の設計、開示後であれば窓口の一本化と示談交渉、訴訟段階であれば訴訟対応と並行和解まで、各段階で果たせる役割があります。
特に、次の書面が届く前の待機期間は、準備に使える貴重な時間です。
まとめ
不同意の回答を提出した後の時間は、ただ結果を待つ時間ではなく、次の局面に備える時間です。
裁判所ルートであれば開示に至る可能性が高いことを直視し、開示された場合の交渉の準備と、複数請求まで見据えた全体設計を、書面が届く前に済ませておく。
それが、この待機期間の正しい使い方です。
そして、提出した回答の内容に不安がある方は、手続が進む前の今が、説明を立て直せる最後の余裕のあるタイミングです。
当事務所では、不同意回答を提出済みの方からのご相談について、手続ルートの見極め、提出済み回答を踏まえた方針の設計、開示後の示談交渉・訴訟対応まで一貫して対応しています。
次の書面が届いてから慌てるのではなく、待機期間のうちに、お早めにご相談ください。
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