子どもがトレントを使っていた|親が負う責任と開示請求への対応を弁護士が解説

目次

【この記事の結論・要約】

  1. 中学生・高校生くらいの子どもには通常「責任能力」があり、賠償責任を負うのは子ども本人です。ただし、未成年者は単独で示談できないため、交渉の実務は親権者であるあなたが当事者として進めることになります。
  2. 子どもがおおむね12〜13歳程度に満たず責任能力がない場合には、監督義務者である親が賠償責任を負います(民法714条)。子どもが18歳以上(成人)の場合、親は法的責任を負いませんが、回線契約者として書類の受け手になる立場は変わりません。
  3. 刑事面では、20歳未満の子どもは少年事件の枠組み(家庭裁判所・非公開の審判)で扱われ、成人のような「前科」はつきません。もっとも、実務の最優先は示談による民事解決で刑事事件化そのものを防ぐことです。子どもを責める前に、まず事実の全体像を把握することが第一歩です。

はじめに

「プロバイダから意見照会書という書類が届いた。心当たりがなく子どもに聞いたら、高校生の息子がトレントでアニメをダウンロードしていた」 「大学生の娘が、実家の回線でAVをダウンロードしていたらしい。親として何をすべきなのか」

自宅のインターネット回線は親名義で契約されていることがほとんどですから、子どもがトレント(BitTorrent)を利用して著作権侵害をした場合、「発信者情報開示に係る意見照会書」は親であるあなたのもとに届きます。

このとき、親は子どもの行為について賠償責任を負うのでしょうか。示談は誰が行うのでしょうか。子どもは逮捕されたり、前科がついたりするのでしょうか。学校や進路への影響はないのでしょうか。

本記事では、子どもがトレントを利用していた場合に親が直面する問題を、未成年の場合と成人(18歳以上)の場合に分けて、弁護士が解説します。

なお、契約者と利用者が異なる場合の対応の全体像(配偶者など家族一般のケース)は別の記事で解説しています。

あわせて読みたい
家族がトレントを使っていた|契約者に届いた意見照会書への対応を弁護士が解説 【この記事の結論・要約】 損害賠償責任を負うのは、原則として実際にトレントを利用した家族本人であり、回線の契約者であるというだけで当然に支払義務を負うわけでは...

なぜ親のあなたに意見照会書が届いたのか

著作権者側の監視システムが特定できるのは、対象ファイルを送受信していた「IPアドレス」と「日時」までです。
そのIPアドレスを誰が使っていたのかを知っているのはプロバイダだけであり、プロバイダが把握しているのは「回線契約者」の氏名・住所です。

そのため、子どもが自宅のWi-Fi等でトレントを利用していれば、意見照会書は実際に利用した子どもではなく、契約者である親のもとに届きます
これは手続上の必然であって、「親が侵害者と断定された」という意味ではありません。

一方で、注意すべき点があります。
実際の利用者が子どもであっても、プロバイダが保有している契約者(親)の氏名・住所は、裁判手続を経て開示の対象となり得ます。
つまり、「利用したのは子どもだから、親には関係がない」とはならないのです。
この、責任の所在と開示される情報のねじれについては、別の記事で詳しく解説しています。

あわせて読みたい
家族がトレントを使っていた|契約者に届いた意見照会書への対応を弁護士が解説 【この記事の結論・要約】 損害賠償責任を負うのは、原則として実際にトレントを利用した家族本人であり、回線の契約者であるというだけで当然に支払義務を負うわけでは...

親は賠償責任を負うのか|責任能力による分岐

未成年の子どもの行為について親が賠償責任を負うかは、子どもに「責任能力」があるかどうかで分かれます。
責任能力とは、自分の行為が法律上の責任を生じさせることを認識できる能力のことで、裁判例上、おおむね12〜13歳程度が目安とされています。

子どもに責任能力がある場合(中学生・高校生など)

トレントを使いこなせる年齢の子どもは、通常、中学生以上かと思われます。
この場合、子どもには責任能力が認められるのが一般的であり、損害賠償責任を負うのは子ども本人です(民法709条)。

このとき、親が法律上当然に責任を負うわけではありません。
親自身が賠償責任を負うのは、親の監督義務違反と損害との間に因果関係が認められるような例外的な場合に限られます
普通に子育てをしてきた家庭で、子どもが親に隠れてトレントを利用していたようなケースであれば、親固有の賠償責任が認められる場面は多くないといえます

子どもに責任能力がない場合(小学生など)

子どもがおおむね12〜13歳程度に満たず、責任能力が認められない場合には、子ども本人は賠償責任を負いません(民法712条)
その代わり、監督義務者である親権者が賠償責任を負います(民法714条)。

監督義務を怠らなかったことを親の側で立証できれば免責されますが、この立証のハードルは高く、実際上、免責が認められることは容易ではありません。

【実務の現実】どちらの場合でも、対応の中心は親になる

もっとも、法律上の責任の所在がどちらであっても、実務上の対応の中心が親になることは変わりません。

未成年者は、親権者(法定代理人)の関与なしに、示談という法律行為を単独で有効に行うことができないからです。
著作権者側との示談交渉は、親権者であるあなたが子どもを代理し、または同意を与える形で進めることになります。
示談金についても、収入のない子どもに代わって親が支払う解決が一般的です。

つまり、「責任を負うのは子ども」という法的な整理と、「交渉し、支払うのは親」という実務は、両立します。
だからこそ親は、支払う必要のない請求と、支払うべき適正な金額を、正確に見極める必要があるのです。

18歳以上(成人)の子どもの場合

成年年齢の引き下げ(2022年4月)により、18歳以上の子どもは法律上「成人」です。
大学生や社会人の子どもが実家の回線でトレントを利用していた場合、未成年のケースとは法律関係が異なります。

親は法的責任を負わない

成人した子どもの不法行為について、親が賠償責任を負うことはありません。
監督義務者責任(民法714条)は未成年者を前提とした制度であり、成人した子どもには適用されないためです。
賠償責任を負うのは、子ども本人だけです。

それでも、契約者である親は無関係ではいられない

ただし、法的責任がないことと、手続に巻き込まれないことは別です。

意見照会書は契約者である親宛てに届きますし、回答をしないまま放置すれば、裁判手続を経て親の氏名・住所が開示され、著作権者側からの通知や訴状も、まず親宛てに届くことになります。
「成人した子どもの問題だから」と親が書類を放置することは、事態を悪化させるだけです。
書類が届いた段階で、子ども本人に事実を確認し、対応の主体を子どもに引き継ぐ必要があります。

示談の当事者は子ども本人|親の支援はあくまで任意

成人した子どもの場合、示談の当事者は子ども本人です。
弁護士への依頼も、原則として本人が行います。

親が示談金や弁護士費用を援助するかどうかは、法的義務ではなく、あくまで家庭内の判断です。
学生で支払能力がない場合には、分割払いの交渉や、親の援助を前提とした解決の設計など、現実的な着地点を検討することになります(支払能力に不安がある場合の考え方は、別の記事で詳しく解説します。)。

あわせて読みたい
トレントの示談金が払えない|学生・無職でも取れる現実的な解決方法を弁護士が解説 【この記事の結論・要約】 「払えないから」と無視するのが最悪の選択です。放置すれば訴訟で金額が確定し、法定利率による遅延損害金が加算され続け、将来の収入(就職...

意見照会書への回答|「家族・同居人用」の回答書式がある場合も

意見照会書への回答は、通常2週間程度の期限内に行う必要があります。

プロバイダによっては、回答書の書式として、契約者本人用のほかに「加入者の家族・同居人用」の書式が用意されていることがあります。
実際の利用者が子どもである場合、こうした書式の利用も含めて、誰の名義で、どのような内容を回答するかを検討することになります。
回答書の記載内容は、提出前に弁護士に相談することを強くお勧めします。

なお、開示に同意するか否かの判断枠組みそのものは、別の記事で詳しく解説しています(※意見照会書コラムへリンク)。

あわせて読みたい
意見照会書が届いたら|無視・拒否は危険?正しい対処法を解説 はじめに ある日突然、「発信者情報開示に係る意見照会書」という書面が、プロバイダから届くことがあります。これは、あなたが過去にインターネット上で行った投稿(書...

子どもに刑事責任・前科のリスクはあるか

親にとって最大の不安は、「子どもが逮捕されるのではないか」「前科がついて将来に響くのではないか」という点でしょう。

20歳未満は少年事件の枠組みで扱われる

仮に刑事事件となった場合でも、20歳未満の子どもは少年法の適用を受けます。
事件は家庭裁判所に送致され、審判は非公開で行われます。科されるのは刑罰ではなく保護処分が原則であり、成人の裁判のような「前科」はつきません。
なお、18歳・19歳は「特定少年」として、引き続き少年法の対象です。

実務の最優先は、刑事事件化そのものを防ぐこと

もっとも、「少年事件だから大ごとにならない」と楽観するのは誤りです。
捜査の対象となれば、子ども本人にも家庭にも大きな負担がかかります。

トレントの事案では、著作権者側との示談を成立させ、刑事告訴に至らせないことが実務上の最優先です。
民事の示談の中で刑事上の問題も含めて解決する道筋を確保できれば、少年事件の枠組みを心配する事態そのものを回避できます。
だからこそ、意見照会書が届いた初期段階での対応が重要になります。

学校・進路への影響という不安にどう向き合うか

「学校に知られて退学になるのではないか」「受験や就職に影響するのではないか」という不安も、親御さんから多く寄せられます。

民事の示談交渉は、当事者間(実務上は双方の弁護士間)で行われる手続であり、学校に通知される仕組みはありません。
示談で解決する限り、学校や進路に影響が及ぶ場面は、通常想定されません。

むしろ発覚のリスクを高めるのは、放置です。
回答期限を徒過し、開示から訴訟へと進めば、訴状の送達など、問題が家庭の外に広がる契機が増えていきます。
子どもの将来を守るという観点からも、早期に民事で解決を図ることが合理的です。

親として今すぐやるべきこと・やってはいけないこと

意見照会書が届いたら、次の順序で対応してください。

  1. 事実確認は、責めずに聞く:頭ごなしに叱ると、子どもは事実を隠します。正確な事実が分からなければ、正しい方針は立てられません。「怒らないから正直に教えてほしい」という姿勢で、意見照会書に記載された対象ファイル名・通信日時を示しながら確認してください。
  2. トレントの利用を直ちに止めさせる:利用が続けば、新たな侵害と新たな請求が積み重なります。なお、パソコン内のデータやソフトの取扱いは、その後の対応にも関わるため、削除等を自己判断で進める前に弁護士にご相談ください。
  3. 利用の全体像を把握する:対象とされた作品以外のダウンロードの有無、利用期間・頻度を確認します。トレントの事案では、複数の作品・複数のメーカーから別々に請求が届くことが少なくないため、目の前の1通だけでなく、今後の請求の可能性を織り込んで方針を立てる必要があります。
  4. 回答期限を確認し、早めに弁護士に相談する:期限(通常2週間程度)内の対応が原則ですが、弁護士からプロバイダに期限の延長を要請できる場合もあります。

やってはいけないのは、子ども任せにすることと、放置することです。
未成年の子どもに回答書の作成や交渉を委ねるのは現実的でなく、かといって親が書類を握りつぶして放置すれば、開示・訴訟へと進み、選択肢は狭まる一方です。
家庭内で事実を共有し、親子で方針を決めて対応することが、結局は最も早く、負担の少ない解決につながります。

子どものトレント事案を弁護士に依頼するメリット

  • 窓口の一本化:著作権者側との連絡・書類のやり取りを弁護士が引き受け、親子が直接対応する負担をなくします。
  • 子どもの情報の出し方の設計:子どもの氏名等をどの段階でどこまで伝えるかを、賠償・刑事双方のリスクを踏まえて判断します。
  • 適正額での解決:責任の所在(子ども本人か、親か)を法的に整理した上で、過大な請求には根拠をもって減額を求めます。
  • 刑事事件化の防止:示談の中で刑事上の問題も含めた解決を図り、少年事件・捜査への発展を防ぎます。
  • 親子間のクッション役:事実確認や方針決定の場面で、第三者である弁護士が間に入ることで、感情的な対立を避け、家庭内の話し合いを前に進めやすくなります。

よくある質問(FAQ)

子どもがやったことなのに、親が賠償金を支払わなければならないのですか?

法律上の賠償責任を負うのは、責任能力のある子ども(おおむね12〜13歳程度以上)であれば子ども本人です。
親が当然に責任を負うわけではありません。

ただし、未成年者は単独で示談できないため、交渉は親権者が進め、支払いも親が引き受ける解決が一般的です。
責任能力のない年齢の子どもの場合は、監督義務者である親が賠償責任を負います。

回答書に子どもの名前を書くべきですか?

慎重な判断が必要です。

利用者を特定する情報の出し方は、その後の損害賠償請求の相手方や刑事上の問題に直結します。
プロバイダによっては家族・同居人用の回答書式が用意されていることもありますが、誰の名義で何を記載するかは、事案全体を踏まえて判断すべきですので、提出前に弁護士にご相談ください。

子どもは逮捕されますか?前科はつきますか?

トレントの事案で直ちに逮捕に至ることは通常想定されませんが、刑事告訴されるリスクはゼロではありません。
仮に刑事事件となっても、20歳未満であれば少年事件として非公開の審判で扱われ、成人のような前科はつきません。

もっとも、実務の最優先は、示談によって刑事事件化そのものを防ぐことです。

学校に連絡はいきますか?内申や受験に影響しますか?

民事の示談交渉が学校に通知される仕組みはなく、示談で解決する限り、学校や進路への影響は通常想定されません。
むしろ、放置して訴訟に発展する方が、問題が家庭の外に広がるリスクを高めます。

示談金は誰の名義で支払うのですか?

未成年の子どもの場合、示談は親権者が子どもを代理し、または同意を与える形で行い、支払いは親が引き受けるのが一般的です。
18歳以上の成人した子どもの場合は、示談の当事者も支払義務者も子ども本人であり、親の援助はあくまで任意の判断となります。

18歳以上の大学生の子どもの場合、親は何もしなくてよいのですか?

親が法的な賠償責任を負うことはありません。

ただし、回線契約者である親のもとに書類は届き続けますし、放置すれば親の氏名・住所が開示され、訴状も親宛てに届き得ます。
書類が届いた段階で子ども本人に事実を確認し、本人を主体とする対応に速やかに切り替えることが必要です。

まとめ

子どもがトレントを使っていた場合、「賠償責任を負うのは誰か」は子どもの年齢(責任能力の有無、成人かどうか)によって変わりますが、意見照会書の受け手として初動の対応を担うのが親であることは変わりません。

そして、子どもの将来を左右するのは、責任論そのものよりも初動です。
事実を責めずに確認し、利用を止めさせ、全体像を把握した上で、期限内に適切な回答をする。
この流れを親子で共有できれば、刑事事件化や学校への影響を心配する事態のほとんどは、民事の示談によって回避できます。

当事務所では、お子様のトレント利用に関する開示請求について、意見照会書への回答から、お子様の情報の取扱いの設計、著作権者側との示談交渉、刑事事件化の防止まで一貫して対応しています。
お子様の年齢や事情に応じた進め方をご提案しますので、回答書を提出する前に、お早めにご相談ください。

トレントに関するご相談はこちらから

弊所の弁護士へのご相談等はこちらから

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。東京弁護士会所属 登録番号60427
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

目次