【この記事の結論・要約】
- 転職サイトの口コミが名誉権やプライバシー権を侵害する場合、民事上の削除請求が可能です(人格権に基づく差止請求)。 ただし、「給料が低い」「残業が多い」等の主観的感想や、真実である事実の指摘は削除が難しい傾向にあります。
- 転職会議は口コミの任意削除に極めて消極的であり、裁判手続き(削除仮処分)が必要になるケースが大半です。
- 投稿者を特定し損害賠償請求を行うには、ログ保存期間(約3~6ヶ月)内の迅速な対応が不可欠です。 悪質な口コミを発見したら、速やかに弁護士に相談してください。
はじめに
「転職会議」や「OpenWork」は、求職者にとって企業の内部事情を知るための主要な情報源です。
「企業名」で検索すると検索結果の上位にこれらのサイトが表示されることもあるため、掲載されたネガティブな口コミは、企業の採用活動やブランドイメージに直接的な悪影響を及ぼします。
しかし、これらのサイトは「求職者への情報提供」を重視する運営方針をとっており、企業側からの任意の削除依頼には容易に応じない傾向があります。
特に転職会議は、裁判手続きを経ない削除に応じる割合が極めて低いことが知られています。
本稿では、転職会議やOpenWorkの悪質な口コミ被害に悩む企業の担当者様・経営者様に向けて、削除が認められる法的な基準、サイトごとの削除依頼の方法、裁判所を通じた削除手続きと費用の目安、投稿者特定の手順について解説します。
転職サイトの口コミが企業に与える影響
転職会議やOpenWorkは会員数が数百万人に及ぶ巨大プラットフォームであり、検索結果の上位に表示されることが多いため、求職者はほぼ確実にこれらの口コミを目にします。
投稿者の多くは、会社に不満を持って退職した元従業員や、選考に落ちた求職者です。
そのため、内容は主観的かつ批判的なものになりやすく、時には私怨による虚偽の事実や過剰な表現が含まれます。
社内の人間しか知り得ない情報が含まれていると、閲覧者はその内容を「真実」として受け取りやすく、被害が拡大する傾向にあります。
削除が認められる「権利侵害」の基準
サイト側に削除を求めるためには、単に「批判的で不快だ」という理由だけでは不十分です。
法律上の「権利侵害」に該当すること、または各サイトの「ガイドライン違反」に該当することを主張する必要があります。
名誉毀損(名誉権侵害)
転職口コミサイトの削除請求で最も一般的な法的根拠です。
名誉毀損とは、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為です(民法709条・710条、刑法230条1項)。
法人(企業)も名誉毀損の主体として保護されます。
転職口コミサイトにおける名誉毀損の成否を判断するうえで、特に重要なのが「事実の摘示」と「意見・論評」の区別です。
- 事実の摘示にあたる例: 「残業代が一切支払われていない」「社長が会社の資金を私的に流用している」など。これらは具体的な事実を摘示しており、内容が虚偽であれば名誉毀損が成立し得ます。
- 意見・論評にとどまる例: 「給料が低いと感じた」「社風が自分には合わなかった」など。これらは投稿者の主観的な感想・評価であり、名誉毀損の「事実の摘示」にはあたりにくいです。
真実性の抗弁(刑法230条の2第1項)
名誉毀損に該当する口コミであっても、その内容が①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的で投稿され、③摘示された事実が真実であることの証明があった場合は、違法性が阻却されます(刑法230条の2第1項)。
転職口コミサイトの投稿は、求職者の企業選択に資するという点で「公共の利害に関する事実」「公益を図る目的」が認められやすい側面があります。
そのため、企業側が口コミの内容が虚偽であることを立証できるかが、削除の成否を分ける最大のポイントとなります。
プライバシー侵害
役員ではない一般従業員の氏名や、個人の私生活に関する情報が書き込まれている場合、プライバシー侵害として削除対象となります。
プライバシー侵害が認められるためには、一般に、①私生活上の事実又は事実と受け取られるおそれのある事柄であること、②一般人の感受性を基準として公開を欲しない事柄であること、③一般の人にまだ知られていない事柄であること、が必要とされています(東京地判昭和39年9月28日「宴のあと」事件参照)。
「〇〇部長」などの役職名であっても、文脈から個人が特定でき、私生活上の事実や受忍限度を超える中傷がなされている場合は削除される可能性があります。
各サイトのガイドライン違反
法律上の権利侵害に加え、各サイト独自のガイドライン違反も削除根拠となります。
- 転職会議(口コミ投稿ガイドライン): 個人を特定できる情報、誹謗中傷を意図した投稿、伝聞や憶測による投稿、乱暴な言葉遣い等を禁止しています。
- OpenWork: 事実と異なる内容、個人を特定する情報、誹謗中傷等を禁止しています。
削除が難しい口コミの典型例
以下のような口コミは、権利侵害やガイドライン違反にあたらず、削除が認められにくい傾向にあります。
- 主観的な感想・評価: 「給料が低い」「残業が多い」「やりがいを感じなかった」「上司と合わなかった」
- 真実である事実の指摘: 実際に残業代が支払われていない場合の「残業代が出ない」等
- 抽象的な不満: 「ブラック企業だと思う」「おすすめしない」等の漠然とした評価
これらは不快であっても、投稿者の表現の自由の範囲内と判断されやすく、削除を強制することは困難です。
サイト別・削除依頼フォームからの申請方法
まずは、各サイトが用意している削除依頼フォームを通じて削除を申請します。
ただし、後述のとおり、特に転職会議はフォームからの申請で削除される可能性は低く、法的手続きが必要になるケースが大半です。
転職会議の削除依頼
転職会議の削除手続きは以下のとおりです。
- ホームページ下部にある「ヘルプ」を開き、チャットボットから「問い合わせフォーム」のリンクを出してもらいます。
- 「問い合わせフォーム」に必要事項を入力し、送信防止措置依頼書のウェブフォームのURLを送ってもらいます。
- ウェブフォームのURLにアクセスし、必要事項や「侵害された権利」などを記入し、送信ボタンを押します。
- ページを印刷し、証拠とともに、メールに添付して送信します。
注意点
- 転職会議は口コミの任意削除に極めて消極的です。 裁判手続きを経ないで削除に応じる割合は非常に低く、フォーム申請だけで削除されることはほぼ期待できないのが実情です。削除された場合も、口コミ全体が削除されるのではなく、該当箇所がアスタリスク(*)表示に変わるという対応にとどまる場合が多いです。
OpenWorkの削除依頼
OpenWorkは、問い合わせフォームから削除依頼を受け付けています。
- 「お問合せ 掲載情報の削除依頼」ページ(https://www.openwork.jp/contact5.php)にアクセスします。
- 中央部にある「申請方法」に従い、送信防止措置依頼書その他の書類を揃えて、記載されているメールアドレスに添付して送信します。
OpenWorkは転職会議と比較すると、ガイドライン違反が明確な投稿については任意での対応に応じる場合もありますが、法的な権利侵害の主張が弱い場合は削除されないことが多いです。
フォーム申請の限界
これらのフォームからの申請は、コストがかからない反面、成功率は高くありません。
特に転職会議については、フォーム申請で削除されることはほぼ期待できないのが実情です。
フォーム申請が却下された場合、次章以降の法的手続きを検討する必要があります。
削除されない場合の「弁護士による削除請求」
フォームからの申請が却下された場合、弁護士による法的手続きへ移行します。
送信防止措置請求(情報流通プラットフォーム対処法)
弁護士名義で、サイト運営会社(株式会社リブセンス、オープンワーク株式会社など)に対し、「送信防止措置依頼書」を内容証明郵便などで送付します。
法的な権利侵害を詳細に説明する書面を送ることで、運営側が違法性を再考し、任意での削除に応じる場合があります。
裁判所を通じた「削除仮処分」
任意の削除に応じない場合、裁判所に対して「削除仮処分命令」を申し立てます。
これは通常の訴訟(裁判)よりも迅速な手続きで、裁判官が「記事は違法である」と認定すれば、サイト運営会社に対して削除を命じる決定を出します。
国内のサイト運営会社であれば、裁判所の決定には原則として従うため、仮処分が認められれば、削除される可能性は高いといえます。
- 期間:申立てから1〜2ヶ月程度。
- 担保金:手続きに際し、法務局に担保金(30万〜50万円程度)を供託する必要があります(手続き終了後に返還されます)。
投稿者を特定する「発信者情報開示請求」
「削除するだけでは同様の投稿が繰り返されるおそれがある」「損害賠償を請求したい」という場合、投稿者を特定する手続きを行います。
ステップ1:サイト運営者へのIPアドレス等の開示請求
転職会議やOpenWorkに対し、投稿時の「IPアドレス」と「タイムスタンプ」の開示を求めます。
これらのサイトは、投稿者の氏名や住所、電話番号などの情報を有している可能性もあるため、発信者情報開示命令(情報流通プラットフォーム対処法5条)の手続きを用います。
ステップ2:通信事業者(プロバイダ)への契約者情報開示請求
IPアドレスから判明した通信事業者(携帯キャリアやISP)に対し、発信者情報開示命令の申し立てを行い、その時間に接続していた契約者の氏名・住所などの開示を求めます。
ログ保存期間のタイムリミット
通信事業者がアクセスログを保存している期間は、一般的に約3ヶ月~6ヶ月程度です。
口コミが投稿されてから時間が経過している場合、ログが消去されており、技術的に特定が不可能となるリスクがあります。
被害を発見した際は、直ちに弁護士へ相談し、手続きに着手する必要があります。
特定後の責任追及と企業防衛
投稿者が特定された場合、以下の対応を検討します。
民事上の損害賠償請求
特定した投稿者に対し、以下の損害賠償を請求します。
- 慰謝料:名誉毀損による無形損害。
- 営業損害:売上減少や採用コストの増大など(立証のハードルは高いです)。
- 調査費用:特定に要した弁護士費用の一部。
刑事告訴
内容が悪質な場合、警察に刑事告訴を行い、処罰を求めます。
- 名誉毀損罪(刑法230条1項): 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合。3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条): 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した場合。3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
転職口コミサイトにおいては、「この会社は倒産寸前」「資金繰りが破綻している」等の虚偽の経済的情報を投稿する行為が信用毀損罪にあたる可能性があります。
名誉毀損罪とは異なり、信用毀損罪は企業の経済的信用の毀損を問題とするものです。
社内処分と再発防止
投稿者が在職中の従業員であった場合、就業規則に基づき懲戒処分を検討します。
また、入社時や退職時に「秘密保持誓約書(NDA)」を取り交わす、SNS利用に関するガイドラインを策定するなど、再発防止に向けた社内体制の整備も重要です。
費用・期間の目安(※新規セクション)
転職口コミサイトの口コミ削除・投稿者特定にかかる費用と期間の一般的な目安は以下のとおりです。
なお、具体的な金額は事案の内容や難易度によって異なります。
フォームからの削除申請
- 費用: 無料(自社で対応する場合)
- 期間: 申請から回答まで数週間程度
弁護士による任意交渉(テレサ書式等)
- 費用: 弁護士費用として着手金+報酬金(事務所による)
- 期間: 送付から削除まで2週間~1ヶ月程度
裁判所を通じた削除仮処分
- 費用: 弁護士費用(着手金+報酬金)に加え、法務局への担保金(30万~50万円程度)の供託が必要。担保金は手続き終了後に返還されます。
- 期間: 申立てから決定まで1~2ヶ月程度
発信者情報開示請求
- 費用: 弁護士費用(着手金+報酬金)に加え、法務局への担保金(10万円程度)の供託が必要なケースも。
- 期間: ステップ1(サイトへの開示請求)+ステップ2(プロバイダへの開示請求)で合計半年~1年程度
※弊所の弁護士費用については、以下のページをご参照ください。

企業が弁護士に依頼するメリット
企業の評判に関わる問題は、スピードと正確性が命です。
弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
法的構成の組み立て
どの記述がどの権利を侵害しているかを法的に構成し、裁判所を説得する書面を作成します。
また、どのような証拠を準備する必要があるのかなどについてもアドバイスをすることが可能です。
スピード対応
仮処分や開示請求は、手続きの遅れが致命的になります。
弁護士はタイムリミットを意識し、適切なスケジュールで手続きを進めます。
経営判断へのアドバイス
削除や特定などの法的手続きを行うことのメリットやデメリットの提示、費用対効果は見合うかなど、企業のレピュテーションリスク(評判リスク)を考慮した総合的なアドバイスを提供します。
よくある質問(FAQ)
- 転職会議の口コミは削除できますか?
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口コミの内容が名誉権を侵害する場合(名誉毀損にあたる場合)、人格権に基づく差止請求として削除を求めることが可能です。
ただし、転職会議は口コミの任意削除に極めて消極的であり、裁判手続きを経ない削除に応じる割合は非常に低いため、裁判所を通じた削除仮処分が必要になるケースが大半です。 - 削除できない口コミの典型例は何ですか?
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「給料が低い」「残業が多い」「やりがいを感じなかった」等の主観的感想や、真実である事実の指摘は、権利侵害にあたらず、削除が認められにくい傾向にあります。
また、「ブラック企業だと思う」等の漠然とした評価も、名誉毀損の「事実の摘示」にはあたりにくく、削除は困難です。 - 削除にかかる費用と期間はどのくらいですか?
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フォームからの削除申請は無料ですが、成功率は低いです。
裁判所を通じた削除仮処分の場合、弁護士費用に加え、担保金(30万~50万円程度、手続き終了後に返還)が必要で、申立てから決定まで1~2ヶ月程度かかります。
投稿者の特定まで行う場合は、合計で半年~1年程度を要します。 - 投稿者を特定することはできますか?
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発信者情報開示請求により、匿名の投稿者を特定できる可能性があります。
ただし、通信事業者のログ保存期間(約3~6ヶ月)を過ぎると特定が技術的に不可能になるため、悪質な口コミを発見したら速やかに弁護士に相談することが重要です。 - 口コミへの返信は効果がありますか?
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権利侵害にあたらず法的に削除できない口コミについては、企業からの丁寧な返信が有効な対策となる場合もあります。
口コミを閲覧する求職者に対し、企業が真摯に課題と向き合っている姿勢を示すことで、ネガティブな印象を軽減する効果が期待できます。
おわりに
転職会議やOpenWorkのネガティブな口コミは、企業の採用力やブランドイメージを大きく損なう要因となります。
「匿名だから仕方がない」「退職者の愚痴だ」と放置せず、法的に対処可能なものについては、削除や特定といった毅然とした措置を講じることが、企業を守るために重要です。
特に、投稿者の特定には時間制限があります。
悪質な書き込みを発見された企業の担当者様は、早期の段階で、企業法務やインターネット問題に精通した弁護士にご相談ください。
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