AIで生成された「自分の画像」がネットで公開されている場合等の対処法(肖像権・パブリシティ権)

目次

はじめに

「SNSを見ていたら、自分と瓜二つの顔をしたアイドルのような画像が投稿されていた。AIで生成したと書かれているが、どう見ても自分の顔だ…」 「悪質な掲示板で、自分の顔写真が卑猥な画像に加工され、『AIで生成した』という注釈付きで拡散されている…」

生成AI技術の急速な発展は、誰もが容易に、そして極めてリアルな人物画像を創り出せる世界を実現しました。
しかしその裏側で、自らの容貌が知らないうちにAIによって生成され、同意なくインターネット上に公開・拡散されるという、これまで想定されてこなかった事態が現実のものとなっています。

見ず知らずの第三者によって、自分の顔が勝手に創り出され、弄ばれ、時には嘲笑や誹謗中傷の的になる。
その精神的苦痛は計り知れません。

本稿では、このようなAIによる容貌の無断生成・公開という、新たなデジタル時代の権利侵害に対し、誰にどのような責任を問えるのか、そして被害を回復するための具体的な法的対応策について、解説します。

「肖像権」とは

まず、この問題で最も重要な法的権利である、「肖像権」について理解しましょう。

1. 肖像権の法的根拠

「肖像権」という言葉は、実は法律の条文に明確に規定されているわけではありません。
しかし、最高裁判所の判例を通じて、日本国憲法第13条が保障する「個人の尊厳」や「幸福追求権」に由来する、人格権の一部として発展してきた法的権利です。

日本国憲法第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

この条文を根拠に、裁判所は「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影され、又はその撮影された肖像を公表されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を有する」としており、これが肖像権の基礎となっています。

2.肖像権の2つの側面

肖像権は、その性質から大きく2つの側面に分けられます。

  • ① 人格権としての肖像権(プライバシー権的側面) これは、すべての人に認められる権利であり、「みだりに自己の容貌を創作・公表されない権利」です。本稿で問題となるケースのほとんどは、この人格権としての肖像権の侵害が中心となります。 判例上、この権利の侵害が認められるか否かは、被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかから判断されます(最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁)。
  • ② 財産権としての肖像権(パブリシティ権) こちらは、主に著名人(芸能人、スポーツ選手など)に認められる権利です。著名人の氏名や肖像は、それ自体が顧客を惹きつける力(顧客誘引力)を持ち、経済的な価値を有します。この経済的価値を、本人の許可なく商業的に利用されない権利が「パブリシティ権」です。

3.AIによって「生成」された画像にも肖像権は及ぶのか?

肖像権に関する従来の議論は、主に「撮影された写真」を念頭に置いたものでした。
では、カメラで撮影されたものではなく、AIによってゼロから「生成」された画像についてはどう考えればよいのでしょうか。

写真撮影と生成AIによる画像出力では、大きくプロセスが異なります。
写真撮影の場合、被撮影者の肖像がそのまま写真という形(あるいはデータ)として保存されます。
しかし、生成AIの場合、以下のようなプロセスを経て画像が出力されることになります。

開発・学習段階

  • 「学習用データセット」の構築:大量の人物肖像(学習用データ)を用意し、学習用データセットを構築する。
  • 基盤モデル作成に向けた事前学習:学習用データセットを用いて、プログラムに学習をさせる。
  • 「追加学習用データセット」の構築:学習済みの基盤モデルに対して、追加学習させるためのデータセットを構築する。
  • 既存の学習済みモデルに対する追加的な学習:性能や精度を最適化するため、学習済みモデルに対して、追加の学習をさせる。

生成・利用段階

学習を終えたAIを、一般のユーザーが実際に利用する段階。
ユーザーが「プロンプト」と呼ばれる指示をAIに与え、AIがその指示に基づいて新たなコンテンツ(AI生成物)を出力する。
この際に、「Image to Image」機能(既存の画像を元にAIがテキストプロンプトの指示に従って新しい画像を生成する機能)により、人の写真等が使用される場合もある。

このように、生成AIは、「開発・学習段階」で基盤モデルが構築され、「生成・利用段階」において、実際に画像等を出力します。
そのため、これまで肖像権の問題とされてきた事案とは状況が大きく異なり、生成AIによる肖像権侵害の問題について、(執筆時点において私が調査する範囲では)判例等はまだありません。
しかし、これまで蓄積されてきた判例等から、生成AIによる肖像権侵害が認められる要件について検討している論文1があるため、こちらを参考に考えてみましょう。

論文によると、以下の事情を総合的に考慮して判断すべきとされています。

  • 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性
  • 実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)
  • 利用行為の態様
  • 侵害者の主観的要素
  • 元データの撮影行為の違法性
  • 打消し表示(の有無)

実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の同一性

AIで生成された肖像が、実在の人物の容貌と同一と評価できるかという点です 。
これがなければ人格的利益の侵害はあり得ないため、権利侵害が成立しない「必須要素」とされます。

実在の人物の容ぼうと生成された人物肖像の結びつき(関連性)

AIによる肖像生成に、実在の人物の肖像が利用されたかという「結びつき」の問題です 。
データセットの内容(元データに用いられた人物の人数など)や学習方法を総合的に考慮し、その結びつきの程度が判断されます 。

利用行為の態様

生成された肖像がどのように利用されたかという点です 。
アダルト目的での利用や、名誉毀損的な状況で利用する場合には、権利侵害と判断される可能性が高まります 。

侵害者の主観的要素

権利侵害が成立するためには、行為者の故意または過失が必要となる「必須要素」です 。
特に過失の有無が重要で、関連性が高い、あるいは名誉毀損的な利用をする場合には、生成された肖像とデータセットを照合する義務が生じ、これを怠ると過失があるとされることがあります 。

元データの撮影行為の違法性

学習データに含まれる元写真の撮影が違法であったかという点です 。
AIによる生成では元写真の一部しか利用されず、多数のデータに「希釈」されるため、権利侵害への寄与度はかなり弱く、重要性の低い要素とされます 。

打消し表示(の有無)

「AIで生成された画像であり、実在の人物とは結びつきがない」といった表示の有無です 。
受け手の誤解を防ぐ意味はありますが、他の要素によって違法性が肯定される場合に、それを覆すほどの効果はなく、付随的な要素と位置づけられています 。

法的責任は誰にあるのか(法的請求の相手方)

AIによる肖像権侵害が発生した場合、誰に対して、どのような責任を追及できるのでしょうか。関係者は大きく3者に分けられます。

1. 第一の責任者:AI利用者(生成・投稿者)

まず、直接的かつ第一義的な責任を負うのは、AIに指示(プロンプト)を与えて画像を生成させ、それをSNSなどのインターネット上に公開(投稿)した「AI利用者」です。

  • 不法行為責任: AI利用者の行為は、肖像権という人格権を違法に侵害する「不法行為」(民法第709条)に該当します。これにより、AI利用者に対して、以下のような請求が可能となります。
    • 差止請求: これ以上、画像を公開・拡散させないための掲載の差止めと、画像の削除を求めることができます。
    • 損害賠償請求: 受けた精神的苦痛に対する慰謝料や、弁護士費用などの損害の賠償を請求できます。

2. 第二の責任者:プラットフォーム事業者

画像が投稿されたX(旧Twitter)やInstagram、匿名掲示板などのプラットフォーム運営事業者も、一定の条件下で責任を負う可能性があります。

  • 削除義務: プラットフォーム事業者は、「プロバイダ責任制限法」に基づき、権利侵害の通知を受けたにもかかわらず、正当な理由なく削除等の対応を怠った場合、それによって拡大した損害について賠償責任を負うことがあります。多くの場合、プラットフォームが用意している権利侵害の申告フォームを通じて削除を要請することが、被害回復への最も迅速な第一歩となります。
  • 発信者情報の開示義務: 後述するように、匿名の投稿者を特定するため、プラットフォーム事業者は裁判所の命令に基づき、投稿者の通信記録(IPアドレスなど)を開示する義務を負います。

3. AI開発・提供事業者の責任の可能性

AIそのものを開発した事業者や、AIサービスを提供している事業者の責任を問うことは、現時点では法的なハードルが非常に高いと言えます。
しかし、将来的に以下のような極端なケースでは、その責任が認められる可能性もゼロではありません。

  • 特定の個人の容貌を生成することに特化した、悪意のあるAIを開発・提供した場合。
  • 自社のサービス上で、特定の個人の肖像権侵害が多発していることを認識しながら、著名人の氏名をプロンプトとして使用できないようにするフィルタリング措置など、技術的に可能な対策を全く講じなかった場合。

このような場合、AI事業者は、侵害行為を容易にし、助長した者として、AI利用者と共同で不法行為責任を負うと判断される余地があります。

肖像権侵害以外の法的請求の可能性

AIによる容貌の無断利用は、肖像権侵害だけでなく、その使われ方によっては、他の権利侵害を同時に引き起こすことがあります。

  • 名誉毀損(民法第709条・刑法第230条): 自身の容貌が、社会的評価を低下させるような文脈で使用された場合、名誉毀損が成立する可能性があります。
    (例)顔写真を用いて、あたかも犯罪者であるかのような画像を生成し、「指名手配」などと記載して公開する。
    (例)顔と、卑猥な画像を合成し、あたかも自身がそのような行為に及んでいるかのように見せかける(ディープフェイクポルノなど)。
    名誉毀損は、民事上の損害賠償請求の対象となるだけでなく、刑事罰の対象ともなる重大な犯罪です。
  • 著作権侵害(著作権法): これは少し特殊なケースですが、AIがあなたの容貌を生成する際に、あなたが権利を持つ、あるいはプロのカメラマンが撮影した「著作物」としての写真を無断で学習・利用し、その写真の創作的な表現が色濃く残った画像が生成された場合、あなたの肖像権とは別に、写真の「著作権」の侵害が成立する可能性があります。あなたが被写体であるだけでなく、その写真の著作権者(自撮りなど)である場合は、著作権侵害を根拠に法的措置を検討することも一つの選択肢となります。

発見から解決までの具体的なアクションプラン

では、実際に自身の容貌と酷似したAI生成画像を発見した場合、どのような手順で行動すればよいのでしょうか。

【STEP1】証拠の保全

何よりも先に、証拠を保全してください。
これがなければ、後の全ての法的手続きが困難になります。

  • スクリーンショットの撮影:
    • 問題の画像だけでなく、それが掲載されているウェブページのURL全体が写るように撮影します。
    • 投稿者のアカウント名、投稿日時などが分かる部分も必ず含めます。
  • URLの保存: ウェブページのURLをコピーして、テキストファイルなどに保存します。
  • その他情報の記録: 画像が生成されたAIサービスの名称や、使用されたプロンプトなどが記載されている場合は、それらも全て記録します。

【STEP2】プラットフォームへの削除請求

多くの場合、これが最も迅速に被害の拡大を防ぐ手段です。
X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、各種掲示板など、主要なプラットフォームには、プライバシー権や肖像権の侵害を理由とする削除申請フォームが用意されています。
ガイドラインに従って申請すれば、数日から数週間で画像が削除される可能性があります。

申請フォームからの申請で削除されない場合、仮処分手続等を用いて削除請求を行います。

【STEP3】発信者情報開示請求(投稿者の特定)

投稿者が匿名で、直接の交渉や損害賠償請求を行いたい場合には、投稿者を特定するための法的手続きに進みます。
これは「情報プラットフォーム対処法」に基づく手続きで、一般的に以下の2段階で進められます。

  1. コンテンツプロバイダ(サイト運営者)への開示請求: まず、裁判所を通じてサイト運営者に対し、投稿者のIPアドレスタイムスタンプの開示を命じるよう求めます。
  2. アクセスプロバイダ(回線事業者)への開示請求: 開示されたIPアドレスから、投稿者が利用した携帯キャリアやインターネット回線事業者(アクセスプロバイダ)を特定します。次に、そのアクセスプロバイダに対し、裁判所を通じて、当該日時にそのIPアドレスを使用していた契約者の氏名・住所・連絡先を開示するよう命じる裁判手続をします。

この手続きは専門性が高いため、弁護士へ依頼した方が良いでしょう。

【STEP4】示談交渉

投稿者の身元が判明すれば、弁護士を通じて、改めて画像の完全な削除、謝罪、そして精神的苦痛に対する慰謝料の支払いなどを求める示談交渉を開始します。
この段階で、双方が合意に至れば、裁判をせずに問題を解決することができます。

【STEP5】訴訟提起

示談交渉が決裂した場合、あるいは相手方が一切の交渉に応じない場合は、地方裁判所に差止請求および損害賠償請求訴訟を提起します。
公開の法廷で、あなたの権利が侵害されたことを主張・立証し、裁判官による公正な判決を求めることになります。

おわりに

AI技術の進化は、私たちの社会に大きな便益をもたらす一方で、個人の尊厳を踏みにじるような、新たな形の人権侵害を生み出す危険性もはらんでいます。
もし自身の写真等が悪用されている場合、すぐに弁護士等にご相談される方が良いでしょう。

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脚注

  1. 柿沼太一「AI技術を利用して自動生成した人物肖像の利用による権利侵害」神戸大学博士論文(https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/D1007977/D1007977.pdf↩︎

参考文献

1.文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf

2.柿沼太一「AI技術を利用して自動生成した人物肖像の利用による権利侵害」神戸大学博士論文(https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/D1007977/D1007977.pdf

3.松尾剛行「生成AIの法律実務」(弘文堂・2025年)

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この記事を書いた人

髙田法律事務所の弁護士。
インターネットの誹謗中傷や離婚、債権回収、刑事事件やその他、様々な事件の解決に携わっている。
最新のビジネスや法改正等についても日々研究を重ねている。

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