【この記事の結論・要約】
- 著作権侵害に対しては、「削除請求(差止請求)」や「損害賠償請求」に加え、「刑事告訴」による処罰を求めることが可能です。
- 匿名の投稿者であっても、「発信者情報開示請求」の手続きを行うことで氏名・住所を特定することができます 。
- 投稿内容次第では、肖像権侵害や名誉毀損の責任も併せて問うことも可能です。
はじめに
デジタルコンテンツの流通が加速する現代において、クリエイターが心血を注いだ著作物が無断で転載・加工される事案が後を絶ちません。
特にAI技術の進歩は、専門的な知識を持たない者でも容易に高度な画像編集を可能にし、それが「創作」ではなく「侵害」のツールとして悪用されるケースが急増しています。
本稿では、著作権侵害に遭った場合の法的対応について解説します。
第1章 著作権侵害の基本要件と判断基準
1-1. 「著作物」の定義と創作性
法的な救済を求める前提として、対象となるコンテンツが「著作物」である必要があります。
著作権法第2条第1項第1号では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
ここで最も重要なのが「創作的表現」という要素です。
- 創作性: 他人の模倣ではなく、著作者独自の個性が現れていることを指します。プロの芸術家である必要はなく、素人のスナップ写真であっても、構図やシャッターチャンスの選択に個性が認められれば著作物となります 。
- アイデアと表現の区別: 著作権法は「具体的な表現」を保護し、その根底にある「アイデア」は保護しません。例えば、「美少女が海辺に立っている」という構図のアイデア自体を独占することはできませんが、その構図を具体的に描いたイラストや写真は保護の対象となります。
1-2. 侵害成立の要件:依拠性・類似性・正当な権限の欠如
裁判において著作権侵害を立証するためには、以下の要件を満たしていることを示す必要があります。
- 依拠性: 侵害者が、既存の著作物を見て、それを元に作成したこと。インターネット上に公開されている画像は、誰もがアクセス可能な状態にあるため、依拠性が認められやすい傾向にあります。
- 類似性: 二つの表現が、表現上の本質的な特徴において共通していること(「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか否か」最判平成18年6月28日民集55巻4号837頁)。単に雰囲気が似ているだけでは不十分で、具体的な描写や細部が重なっている必要があります。
- 正当な権限の欠如: 著作者からの許諾(ライセンス)を得ておらず、かつ、法で定められた例外規定(引用など)にも該当しないこと。
1-3. 著作者人格権(同一性保持権)の重要性
著作権(財産権)とは別に、著作者には「著作者人格権」が認められています。
特に重要なのが「同一性保持権」です。
著作者は、自分の著作物の内容や題号を、意に反して改変されない権利を有しています。
例えば、SNSに投稿した写真に対し、AIなどを用いて一部を消去したり、水着姿に変えたりする加工を施す行為は、たとえ「AIによる自動生成」という体裁をとっていても、著作者人格権(同一性保持権)の侵害を構成する可能性が高いといえます。
これは、作品の魂とも言える表現の本質を著作者の意図に反してねじ曲げる行為だからです。
第2章 削除請求(差止請求)の法的手続き
著作権等の侵害があった場合、または侵害される可能性がある場合、削除請求(差止請求)をすることが可能です(著作権法112条1項)。
(差止請求権)
第百十二条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
これには任意の手続きから裁判所を用いた強制的な手続きなどがあります。
2-1. プラットフォーム内通報制度の活用と限界
YouTube、X、Instagramなどの主要なプラットフォームには、情報流通プラットフォーム対処法に基づく独自の権利侵害報告フォームが用意されています。
- メリット: 弁護士を通じずとも個人で即座に申請でき、明らかな無断転載であれば数日以内に削除されることが多い点です。
- 留意点: プラットフォーム側の独自判断に依存するため、複雑な事案(引用の成否が争われるケースなど)では「侵害ではない」と判断され、削除を拒否されることも少なくありません。
ただし、あくまでも各プラットフォームの判断による削除のため、適切に対応されない可能性があります。
また、情報流通プラットフォーム対処法により「大規模特定電気通信役務提供者」と指定されたプラットフォームは、権利侵害の報告フォームを用意する義務がありますが、それ以外のプラットフォームやブログ・掲示板には、権利侵害を報告するシステムが存在しない場合もあります。
2-2. 情報流通プラットフォーム対処法に基づく「送信防止措置」
プラットフォームが任意に応じない場合や、個人のブログ・掲示板などで侵害が行われている場合は、情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)に基づき、運営者やサーバー管理者へ「送信防止措置依頼書」を送付します。
- 照会手続き: 削除依頼を受けたプロバイダは、投稿者(発信者)に対し「削除して良いか」の意見照会を行います。
- 7日間のルール: 発信者が削除に反対しても、プロバイダが権利侵害を確信した場合、または発信者からの回答が7日以内にない場合は、プロバイダは削除を行っても発信者に対して賠償責任を負わないとされています。
- 実務のポイント: 書面には「権利侵害の根拠(元データとの比較など)」を法的に構成して記載する必要があります。
2-3. 裁判所による「削除の仮処分」
プロバイダが任意での削除に応じない場合には、「仮処分」手続き用いて削除をします。
これは通常の訴訟(本案)に先立ち、裁判所が暫定的な命令を出す手続きです。
- 迅速性: 通常の裁判が1年以上かかることもあるのに対し、仮処分は通常1〜2ヶ月程度で決定が出されます。
- 執行力: 裁判所の命令が出れば、ほとんどのプロバイダは即座に削除に応じます。
- 担保金: 仮処分を申し立てる際、裁判所に一定の担保金(30万〜50万円程度が一般的)を預ける必要がありますが、これは事件解決後に返還されます。
第3章 発信者情報開示請求の手続き
著作権等の侵害があった場合、削除請求だけでなく、損害賠償請求や著作権侵害による刑事告訴が可能です。
ただし、損害賠償を行うためには、まず、匿名の投稿者が「どこの誰であるか」を特定しなければなりません。
刑事告訴を行う場合も、投稿者がどこの誰かがわからない場合には警察は告訴を受理してくれない場合があります。
3-1. 発信者情報開示命令
以前は、SNS運営者へのIPアドレス開示請求と、携帯キャリアへの住所氏名開示請求という2つの裁判が必要でしたが、法改正により「発信者情報開示命令」という一体的な手続きが新設されました。
- 非訟手続きの導入: 訴訟よりも柔軟かつ迅速な「非訟手続き」として扱われます。
- ワンストップ化: 裁判所がSNS運営者に対し、投稿者が利用した通信事業者の情報を開示させ、そのままスムーズに次の開示命令へ繋げることが可能になりました。これにより、特定までの期間が大幅に短縮されています。
3-2. 開示が認められるための「権利侵害の明白性」
開示請求は、憲法が保障する「通信の秘密」を侵害する手続きでもあるため、法律で定められた要件を満たす必要があります。
- 明白性の要件: 著作権侵害があることが「明らか」である必要があります。単に似ているだけではなく、第1章で述べた「依拠性」と「類似性」を証拠によって立証しなければなりません。
- 正当な理由: 「損害賠償請求を行う」「謝罪を求める」「刑事告訴の準備をする」といった目的が必要です。単なる私的な報復目的では認められません。
3-3. ログ保存期間の重要性
開示請求において最大の敵は「時間」です。
- ログの保存期間: 多くのプロバイダは、通信記録(アクセスログ)を3〜6ヶ月程度で削除します。この期間を過ぎると、たとえ裁判で勝っても「データが存在しない」ため、特定は不可能になります。
- ログ保存要請: 裁判手続きと並行して、プロバイダに対して「ログを消さないでほしい」という通知を送るか、裁判所から「消去禁止の仮処分」または「消去禁止命令」を出してもらう必要があります。
- 迅速な着手の必要性: 侵害を発見してから数ヶ月放置してしまうと、特定できる確率は劇的に低下します。削除請求と開示請求は同時に、かつすぐに着手するのが鉄則です。
第4章 損害賠償請求
加害者が特定された後、民事上の責任追及として損害賠償請求(民法第709条)を行います。
著作権侵害における損害額の算定は困難を極めることが多いため、著作権法第114条には損害額の推定規定が置かれています。
4-1. 損害額の算定方法(著作権法第114条)
裁判実務では、以下のいずれかの基準を用いて損害額を算出します。
- 114条1項(利益喪失型): 本来ならば著作者が販売できたはずの数量に、1単位あたりの利益を乗じた額です。
- 114条2項(利益譲渡型): 侵害者がその侵害行為によって得た利益の額を、著作者の損害額とみなします。
- 114条3項(ライセンス料相当型): その著作物の利用に対して受けるべき「使用料相当額」を損害として請求します。
4-2. 調査費用の請求
加害者を特定するために要した発信者情報開示請求の費用(弁護士費用や実費)についても、相当因果関係が認められる範囲で損害として加害者に転嫁できる可能性があります 。
4-3. 著作者人格権侵害に対する慰謝料
上述したように、著作者には、著作者人格権が認められています。
著作者人格権の侵害を主張する場合、侵害の内容等に応じた「慰謝料」を請求することも可能です。
第5章 刑事上の責任追及と告訴の手続き
著作権侵害には、著作権法による罰則が定められています。
そのため、刑事告訴をすることも可能です。
5-1. 著作権法違反の罰則
著作権(財産権)を侵害した者は、10年以下の拘禁刑(懲役)若しくは1,000万円以下の罰金に処せられます(著作権法119条1項)。
著作者人格権を侵害した者に対しても、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金という刑罰が設定されています(著作権法119条2項1号)。
5-2. 刑事告訴の流れ
著作権侵害や名誉毀損は「親告罪」であるため、被害者による告訴がなければ公訴を提起できません(著作権法123条1項)。
そのため、刑事罰を求める場合には、刑事告訴をする必要があります。
- 告訴状の作成: 侵害の事実を特定し、処罰を求める意思を明確にした書面を作成します。
- 証拠の提出: 著作物の原本、侵害された箇所の対照表、加害者特定資料などを警察に提出します 。
- 受理と捜査: 警察が告訴状を受理すると、強制捜査(家宅捜索や端末の差し押さえ)に発展する場合があります。
第6章 被害に遭った際に行うべき初期対応と相談フロー
著作権侵害の解決は、初動の「証拠の質」で決まります。削除請求や開示請求を行う前に、以下のステップを進めてください。。
6-1. 証拠保全
単なる画面キャプチャではなく、有効な証拠を残す必要があります 。
- URLの記録: SNSや掲示板等への投稿の場合、投稿の画像だけでなく、URLもわかる形で保存する必要があります。
- アカウント情報の記録: ユーザー名、ID、プロフィール画面も保存しておきます。
- タイムスタンプ: 可能であれば、証拠を撮影した日時が客観的に証明できる方法(時刻表示を含めたキャプチャ等)を用います。
6-2. 弁護士への相談
著作権侵害に適切に対応するためには、弁護士への依頼が不可欠です。
時間が経つと侵害者を特定できない可能性が高まるため、早急に弁護士に相談しましょう。
おわりに
自身の著作物が著作権侵害に遭った場合、早急に対応が必要です。
もし現在、著作権侵害の被害に遭い、どのように対処すべきか迷われているのであれば、一人で抱え込まずにまずはご相談ください。
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